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私と音楽 第15回 篠原由香利が語るTHEE MICHELLE GUN ELEPHANT

4年以上前2019年08月23日 8:05

各界の著名人に“愛してやまないアーティスト”について話を聞くこの連載。15回目は篠原風鈴本舗の4代目で江戸風鈴職人の篠原由香利がTHEE MICHELLE GUN ELEPHANTについて語った。

衝撃的なフレーズで虜に

THEE MICHELLE GUN ELEPHANTと出会ったのは、私が高校生のときでした。1997年頃の「TK MUSIC CLAMP」(フジテレビ系列)だと思うんですが、SMAPの中居(正広)くんが司会の音楽番組でミッシェルが「世界の終わり」を演奏しているのを観て、カッコいいバンドがいるなと思って。それを学校の友達に話したら、その子が私より先にミッシェルにハマッてしまいCDを買ってきたんです。「これも聴いたほうがいいよ!」っていろいろと貸してくれて、聴いていくうちにズブズブと夢中になっていきました。学校ではほかのアーティストが好きな子たちとよく雑誌の切り抜き交換をしていましたね。そういうこともあって、みんなの中で“私=ミッシェル”という印象ができあがったみたいで。卒業文集の「この人と言えば」というコーナーには「篠原と言えばTHEE MICHELLE GUN ELEPHANT」と書かれていましたね(笑)。

好きになってからは音源をさかのぼって聴いていき、新しいものが出ればすぐに買うという感じでずっと聴き続けているので、どの曲が特別とか、自分を変えた曲を挙げるとかじゃなく、本当に“私の鼓動はミッシェルのビートでできている”と思っていました。でも強いて1曲挙げるとするなら、1stアルバム「cult grass stars」に収録された「いじけるなベイベー」。「何も期待するなベイベー」という歌詞があるんですけど、期待するのって別に悪いことじゃないじゃないし、がんばったら未来に期待をするのは普通じゃないですか。当時はまだ高校生で、将来への希望を抱いているときに「期待するな」って歌っているのを聴いて、ビックリしたんですよ。ある程度年齢を重ねてくると、人生には思い通りにならないこともあるし、期待しないほうがいいと思うこともあるとは思うんですけど、当時はそんなことわからなくて相当ショッキングなフレーズでした。それでも私の中ではその衝撃が「カッコいい」という感情にまで昇っていったんですよね。

2ndアルバム「High Time」に収録された「笑うしかない」もすごくカッコいいです。途中で転調するところがまたいいんですよ。あとは4thアルバム「GEAR BLUES」収録の「キラー・ビーチ」はメロディがすごくいいので、ぜひ聴いてほしい楽曲ですね。ミッシェルって激しくて歌詞もめちゃくちゃでそこがカッコいいみたいなイメージが強いと思うんですけど、実はそういう部分だけでなく、かなりしっかり考えられているところもあるということがよく出た楽曲だと思います。

「手拍子すんな」に興奮

初めて行ったライブは1997年だったと思います。私は当時高校の軽音部に入っていたので、先輩のライブは観たことがあったんですけど、プロのライブを観たのはミッシェルが初めてでした。生で観れるというだけでもうだいぶ興奮してたんですけど、「カルチャー」ですごい盛り上がってみんな手拍子して。そこでチバさんが観客に向かって「手拍子すんな!」と言ったのを聞いたときは、それまでそういうことがあるとは聞いていたんですけど、「本当に言ってくれた!」ってすごく興奮しましたね。こちらがよかれと思ってやっていることに対しても“それは自分たちの美学じゃない”と感じたとき、それをはっきり言えるのがカッコいいですよね。

そのあと学園祭でのライブも観たんですけど、チバさんが歌詞を間違えてて。それもラジオとかで「チバはよく歌詞を間違える」という話を聞いていたので「本当に間違えた!」と興奮しちゃいました(笑)。あと、ミッシェルはウィルコ・ジョンソンが好きだと言っていたので私も聴くようになって、1人でウィルコ・ジョンソンのライブを観に行ったことがあって。2列目くらいに立っていたのでステージがよく見えて、見覚えのあるアンプがあるなとか思いながら待っていたら、アベフトシ(G)がステージに出て来て演奏し始めたんですよ。私、「キャーッ!」って言っちゃったんですけど……普段は驚いてもそんな声なんて出ないのに、そのときは思わず金切り声みたいなものを上げてしまって。そんなことは人生でその1度きりでしたね(笑)。

忘れられないライブというと、やっぱり「LAST HEAVEN TOUR」ライブですね。実は私、ミッシェルが解散する頃は少し離れてしまっていて、ラストライブも観に行くつもりはなかったんですよ。でも高校時代の友達から急に行けなくなった人がいるからと誘われて、見納めだと思って観に行ったんです。そうしたら、もうそれがめっちゃくちゃカッコよくて。「エレクトリック・サーカス」を演奏しているとき、アベフトシがいつもの感じと違ったんですよ。なんと言えばいいか……難しいんですけど、なんとも言い表せない表情で。それを見て、「やっぱり解散がいやなんだろうな」と私も胸がグッとなりました。

でも、ライブとしてはものすごくカッコよくて。ミッシェルは「世界の終わり」という曲でデビューしたんですけど、解散ライブなのに全然その曲をやらなくて、とうとう本編が全部終わって、本当に最後の最後のアンコールにこの「世界の終わり」を持ってきて。本能でやっているのに、そういう演出もちゃんとしてくれる人たちなんだよなあと思いましたし、こんなに最後までカッコいいのがミッシェルなんだよなと改めて感動しました。終わったあと、友達と「こんなにカッコいいもの観せられたら何も言えないよね」と黙り込んだくらいにカッコよかった。

ミッシェルになりたい

ミッシェルの魅力を聞かれても、それは「理屈じゃない」と言うしかないんです。とにかくミッシェルって文句なしにカッコいいんですよ。クハラカズユキのドラムとウエノコウジのベースというリズム隊ががっちりあって、その上にアベフトシのギターがグワーッと乗って、チバユウスケのあの声が入ってくるっていう、その全部がただただ完璧だったと思うんです。そういう意味で、“好きとかカッコいいと感じることに理由なんていらない”ということを教えてくれたのがミッシェル。“カッコよかったらそれでいいでだろ?”っていうミッシェルの潔いあの感じに、私も影響を受けたような気がしますね。

私は風鈴を作るうえで、風鈴としてはおかしいのかもしれない絵柄でも、「見た人がカッコいいと思えばいいじゃん」と思って作っているんですよ。私の風鈴を見た人が、理屈じゃなくただ「欲しい!」と思ってくれるような、そういうものを作れたらそれでいいんです。実際に、仕事を始めてからは髑髏柄の風鈴を作ったり、歌舞伎をモチーフにしつつ登場人物を猫で表現したりと、わりと好き勝手にやらせてもらっています(笑)。

大学時代には革ジャンやモッズスーツを着てましたね。大学1年の夏休みにバイトをみっちりやって革ジャンとDr.Martensとモッズスーツを買いました。チバユウスケが通ってるという噂のお店まで行って(笑)。革ジャンは今でも夏以外はだいたい着ていて、今着ているのは2代目です。甲本ヒロト(ザ・クロマニヨンズ)は夏でも着るらしいですけどね(笑)。モッズスーツは成人式にも着て行きました。ひどく反対されたんですけど、「これが私にとっての正装だ」って反対を押し切って。周りは振袖を着ているのに、1人モッズスーツにヒョウ柄のシャツ、Dr.Martensを履いて参加しました。こんなふうに身なりから何から真似しようと思ったバンドはミッシェルだけです。「チバユウスケがカッコいい」とか「アベフトシがカッコいい」じゃなくて、もう「ミッシェルになりたい!」っていう気持ちだったんですよ。そういうバンドは最初で最後だと思います。

ミッシェルって、ファッション的にもすごくオシャレでしたよね。当時はライブTシャツというと、だいたいは前面にバンド名がドンと入って、背中にライブの日程が入って……という感じでしたけど、彼らは普段も着られるカッコいいものをデザインしてくれて。なので、私は気にせず普段着として毎日のようにライブTを着ていました。チバユウスケがはめていたガネーシャの指輪を探して、でもものすごく高くて買えないから代わりに携帯にガネーシャのストラップを付けて(笑)。TRIADのロゴまでも好きで、カッティングシートをその形に切って鏡に貼ったり、クハラカズユキの出身地、北海道北見市名産品のハッカ油スプレーを買ったり(笑)。彼らの出身校とされる明治学院大学も受験したし、とにかくミッシェルに影響されまくっていました。

何度もカッコよさに気付く

そういえば、半年くらい前に高校時代の友達と飲んだとき、「やっぱミッシェル最高!」と盛り上がってしまって、酔っぱらって夫に1stアルバムの楽曲を全曲解説するというメールを送ったんですけど、全部スルーされました(笑)。

やっぱりアベフトシは亡くなってしまったというのもあって、その存在は大きいなと思います。アベフトシというとギターを頭上にかざす“鬼神社”のイメージも強いと思いますしそれもいいんですけど、何より彼のカッティングはカッコよかったですよね。彼のあのギターがもう聴けないというのは、すごく残念です。アベフトシの死を知ったときは悲しいというのと同時に「二度とミッシェルの再結成はないんだ」という決定打を押された感じがしたのを覚えています。もともと美学として再結成はしそうもない人たちでしたけどね。ほかの3人はそれぞれいろんな活動をしているので、聴いたりライブに行ったりもしてますけど……でもやっぱり当たり前ですけど、どれもあのミッシェルとは全然違うものなんですよね。それがもう聴けないんだと思うとやっぱり寂しいです。

最近でもオークションとかで昔のグッズを見付けると買ってしまうし、今聴いてもどの曲もカッコいいし、全然熱が冷めないんです。カッコいいバンドはいっぱいいるから「最近のバンドは……」みたいなことは思ってないしほかのバンドも聴きますよ。でもミッシェルを聴くと、「あれ? やっぱりミッシェルってカッコいいな」と何度でも新鮮に気付くんです。1stを聴くと「カッコいいな、2nd聴こう」ってなって、2ndを聴いたら「あれ、これもカッコいいな。3rd聴こう」ってなる、その繰り返し(笑)。なので、これからカッコいいバンドはたくさん出てくると思うんですけど、それでもミッシェルはずっと聴き続けるんだろうなと思います。

篠原由香利

1981年東京都生まれの江戸風鈴職人。大学卒業後、父である篠原裕氏に師事し、現在は東京都江戸川区にある「篠原風鈴本舗」の4代目を務める。これまで「伝統的工芸品チャレンジ大賞」奨励賞、「第30回江戸川伝統工芸展」教育委員会賞を受賞するなど、洗練されたデザインが高く評価されている。

取材・文 / 高橋裕美 撮影 / 阪本勇

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