エンジニアが明かすあのサウンドの正体 第14回 ECD、RHYMESTER、PUNPEE、長谷川白紙らを手がけるillicit tsuboiの仕事術(後編)

エンジニアが明かすあのサウンドの正体 第14回 ECD、RHYMESTER、PUNPEE、長谷川白紙らを手がけるillicit tsuboiの仕事術(後編)

illicit tsuboi

誰よりもアーティストの近くで音と向き合い、アーティストの表現したいことを理解し、それを実現しているサウンドエンジニア。そんな音のプロフェッショナルに同業者の中村公輔が話を聞くこの連載。illicit tsuboiの前編ではエンジニアとしてのスタイルなどについて語ってもらったが、後編ではPUNPEE、ECD、ホフディラン、SUPER STUPID、RHYMESTER、KEIJU(KANDYTOWN)、踊Foot Works、CHEHONの作品のサウンドメイクに関する話をお届けする。

PUNPEEは完璧主義者

──それでは具体的なアルバム制作の話をお聞きしたいと思います。PUNPEEさんの1stアルバム「MODERN TIMES」(2017年リリース)のエンジニアを担当されていますよね。

彼は自分の目指すポイントがしっかりあって、それを的確に伝えるのがうまい。やってほしいことを言語化できるんですよ。このアルバムはミックスの修正を10往復くらいしましたね。彼もエンジニアリングをやるので、「もう自分でやったほうがいいんじゃない?」って思うんですけど、やっぱり違うんですよね。1つひとつの過程も見ていきたいみたいで。

──ヒップホップをやっているとヒップホップっぽいミックスのバランスにしたくなりそうな気がするんですが、「Hero」のバランスはものすごくテクノですよね。

そうなんですよ。最初はドラムがガンガン出ていたんですけど、彼は「この音を立たせるためにそれ以外を引っ込める」という考え方で。打ち込みだったらキックとスネアが同レベルでいるのが基本ですけど、場面場面で音量を変えて生感を出してく。打ち込みで一定っていうのがあんま好きじゃないんですよね。自分の詞がちゃんと聞こえて、音も聴きたいところは聞こえて、ゴーストノートもあって揺らいだグルーヴを刻む。あのバランス感覚はすごいし、完璧主義者なので付いていくのが大変ですね。

──加山雄三さんの楽曲をヒップホップアーティストが再構築したアルバム「加山雄三の世界」(2017年リリース)にPUNPEEさんも参加しましたが、「お嫁においで 2015」のドラムはパーツパーツで切って作っていったんでしょうか? オープンハットが多いけどクリーミーな感じでペタっとしていて、普通にやったらああいう音にならないですよね。

そうですね。彼はPro Toolsを自分でいじれるので、自分でエディットして返してくるんですよ。それが一見オーセンティックなことしかしてないんですけど、裏に乗ってるゴーストがいたりいなかったりしてメチャメチャになっていて、「なんでこれとこれを足したらこれになるんだ?」みたいな。マルチトラックを見ても僕もわからない、不思議な世界が広がっているという。あの曲はずっと聴けるものにしたいと本人が言っていて、アナログのMTRで一度録音してからPro Toolsに戻したんですけど、そういう温度感も含めてディスカッションしながら作りました。ちょっと変わったミックスになってますよね。加山雄三さんも「変だよなあ」と言ってました(笑)。

レコード会社の人がひっくり返る

──同じく「加山雄三の世界」の収録曲である「君といつまでも(together forever mix)」はECDさんが参加した楽曲ですが、こちらもビートにビットクラッシャーがかかった変わったサウンドになっています。

あれはDJ Mitsu The Beats(GAGLE)くんがトラックを作っていて、僕はそこまで手を加えてないです。この曲はECDさんの体調がかなり悪くなっていたときに録っていて、ボーカルのバランスがちょっと普通じゃない感じがあるんですよね。でもそれが逆にいいので、それを生かすにはどうしたらいいかを考えてミックスしました。

──まとめるところと、まとめないところを分けてミックスしている気がしました。サンプリング素材を組み合わせたときのような質感差を残しているというか。これはどういう考えでやったんでしょうか?

自分の中のバランスが人と違うだけで、あまり意識したことはないですね。あとはアナログでミックスしているというのもあって、バラツキが出ているのかもしれないです。この曲に関してはストリングスとボーカルは雄三さんのもともとのマルチトラックを使っていて、その時代の音源ってダイナミクスが今と全然違うんですよね。昔のマテリアルは音がめちゃくちゃいいので。

──例えばこの曲だと、普通のバランスエンジニアだとドラムとストリングスの質感を、同じセッションで録音したかのように地続きにまとめていくと思うんですよ。このミックスには「そうはしないぞ」という強い意思を感じました。

ああ、確かに。それは普段生録りしていてもそうなんですよ。だからレコード会社やアレンジャーとモメることもあるんですけど。セッションマンをたくさん呼んで録っていてもこっちはサンプリング素材の1つとしてしか見ないので、レコード会社の人がひっくり返るっていう。「歪んでるけどどういうことだ!? 一生懸命呼んだのに。けっこう高いんだよ!」「いやー、わかってるんですけどねえ」みたいな。酷いときはカルテットを2回録音したあとに、それを全部打ち消すかのようにサンプラーに入れてモノラルにして、フィルターまでかけたりしてましたから(笑)。昔のピンポン録音(※空きトラックが足りないときに、複数のトラックを1trにミックスしてダビングして、空きを作る手法)に影響を受けてる部分もありますね。ちゃんと作って壊すみたいな。

中村宗一郎さんに「ディアンジェロみたいに」って言ったの僕です

──ホフディランの「欲望」などは生で録音していますが、やはりそういう手法を使っているんでしょうか?

ホフのときがまさにその実験の数々をやっていました。彼らは完全なビートルズフリークで、あのサウンドに近付けることを前提でやっていて。「欲望」とは別の曲ですけど、録音した全部のトラックを、20台のギターアンプを並べて出して、真ん中に1本だけマイクを立ててモノラルで録音するとか。The Beatlesがやっていた手法を片っぱしから試してみて、やっては駄目、やっては駄目みたいな試行錯誤をして。そこでクラシックなマイクやヘッドアンプを使うとどういう音になるかを実地で学ばせてもらいましたね。

──生録りだとSUPER STUPIDの「WHAT A HELL'S GOING ON?」はサウンドプロダクションがメロコアっぽい音で、これを同じ人がやっているのかと驚いたんですが。

そうそう、実はAIR JAM世代の人もわりとやっているんです。僕がECDさんのバックとかキエるマキュウでステージに出る側の人間だった頃に、現場で一緒だった人たちの作品をミックスしてました。メロコアバンドのミックスはステージで鳴っている音の要素からインスピレーションを受けることが多いですね。バンドが鳴らす音の臨場感が頭に入っていたので、それを再現する感じです。ECDさんとかまさにそうですけど、ハードコアもヒップホップも、どっちも自分のテリトリーとしてガンガン足を突っ込んでいく人ってけっこういるんですよね。最近だとGEZANもそんな感じですよね。

──ツボイさんはヒップホップのイメージが強かったので、カメレオン的というか、まるで方向性が違う音を作っていてびっくりしました。

もともとの引き出しがそれだけある状態でスタートしているので、僕の中では単なる一部なんですよ。ロック、ジャズ、プログレがほぼメインで、そのあとにヒップホップって感じ。なのでエンジニア的な観点で言うとマイクで録音するのが大前提。ディアンジェロとかが出てきて生音とヒップホップの要素を融合できるってなって、僕もそうしていった感じで。TSUTCHIE(SHAKKAZOMBIE)くんとか藤井洋平くんとかも、まさにそういう感じでミックスしてるんですよね。そう言えばこの連載の中村宗一郎さんの回で、「『ディアンジェロみたいな音にマスタリングして』って言われたけど、そんな音を作れるんだったら俺は今ブルックリンでエンジニアやってるよ」って話があったじゃないですか? あれ、藤井洋平くんのアルバムで、僕が彼にそう言ってマスタリングを依頼したんですよ。中村さんが「俺、そんなのできないよ!」って言うから、「できるでしょ? できる、できる」って返したら最高なものが上がってきたから、「やっぱできるんじゃん!」って(笑)。あの人、ほんと面白いですよね。最高です。

RHYMESTERは僕がどれだけ無茶をできるかにかかってる

──RHYMESTERについても聞かせてください。

僕が初期の段階にコンテストに出ていたって話をしましたけど、彼らはそこにGALAXYっていうサークルで出ていて、その頃から知っているんですよ。彼らは完全にヒップホップに振り切っていて、僕はそうじゃない時期があったので付かず離れずって感じだったんですけど、最近また一緒にやるようになって。彼らはもう年齢も価値観も一緒なので、完全に任せてもらってます。僕がどれだけ無茶をできるかにかかってるって言われてます。

──「It's A New Day」(2013年リリースの「ダーティーサイエンス」収録曲)はタイム感がいびつというか、リズムのヨレが激しいドラムですが、これはエンジニア側でエディットしていますか?

もともとそうなっていたので、僕はエディットしていないですね。むしろ、普段はそのリズムのヨレを聴かせるためにボーカルの位置関係をものすごくシビアにエディットで追い込むことが多いです。僕の中ではエディット8割、ミックス2割なので。直すためのエディットではなくて、よく聴かせるためのエディットですね。ボーカルを一字一句切り刻んで、音量もコンプとかリミッターで調整するんじゃなくて、手動で全部やっています。ただ、Mummy-Dはタイム感に命をかけている男なので、この曲はエディットはしてないです。最初からバッチリなので、言うことないです。

──MCが複数人いるときに、それを流れで聴かせるのはけっこう難しいことだと思いますが、どう対処していますか?

エンジニアの血が騒いじゃうのか自然とバランスを取りたがっちゃうので、なるべく個性を生かしつつ、バラバラでよしとできるように心がけています。「ここから先はマスタリングの人にお願いします」みたいな(笑)。最近マスタリングをSterling Sound(※ニューヨークにあるマスタリングスタジオ)とかに頼むことが多くて、むしろ不完全な状態にしておいたほうが伸びしろがあるんですよ。長谷川白紙くんとかはそんな感じでやっていて、「マジックを起こす余地を残すには、8割くらいにしておいたほうがいいよ。それで最後にマスタリングで仕上げてもらうほうがいいから」って言って、「エアにに」(2019年リリース)ができたんですよ。

踊Foot Worksは職人気質

──KEIJU(KANDYTOWN)の「get paid」では声の質感が刻々と変わっていくのを感じたのですが。

おお! よくわかりましたね。あれは情景を変えたかったので、コンプレッサーをUREI 1176の青、黒、銀と3台使って(※UREI 1176は年代によってパネルデザインや音質が違う)、3本のちょっと質感の違うトラックを作って、それをモーフィングするようにミックスしていったんですよね。起承転結だとありきたりなので、それを逆にして“結転承”ときて最後に“起”が来るようなイメージで。誰もわからないだろうなと思ってやっていたから、指摘されてびっくりしました。もとの素材がちょっと物足りないと思ったときに、マテリアルを変えずにドラマ性を持たせる手法の1つですね。

──踊Foot Worksの「GOKOH feat. オカモトレイジ」でも、場面転換のときにギミックを入れてつないだり、ドラムの音色が急にステレオになったりしていますよね。

あれは僕のアイデアも半分ありつつ、最初からメンバーの希望でもあったんですよね。彼らも僕と同じで引き出しがいっぱいあって、それを1つの曲にしていくタイプなんですよね。

──踊Foot Worksは作風のバリエーションが多いから1枚のアルバムにまとめるのが大変だと思うのですが。

僕もそう思っていたんですけど、一貫したポリシーがあるので、わりと質感も最初からまとまっていてやりやすかったです。ヒップホップのボトムとか骨格の作り方に対する憧れがありつつ作風としてはエモい感じで、それを曲ごとにどういうさじ加減で成立させるかを考えていった感じですね。違う手法を使ったりしていても、欲しい音が一貫してあって、彼らはそのバランスが取れているんですよね。もうちょっと破茶滅茶やっても面白いと思うんですけど、職人気質なんですね。

興味を持った人は連絡ください

──CHEHONの「韻波句徒」はレゲエなのに低音がなくてびっくりしました。

実は僕、レゲエもけっこうやっていて、ダブのミックスも日常茶飯事なんですよね。これは大阪のリディムメーカーの人が作っているんですけど、ちょっと変わった音を作っていて、それをそのまま出していますね。昔はヒップホップとレゲエは全然違うリズムだったんですけど、今は接近して来ていて、そんな中で面白いセンスでやっている人ですね。ベースは低音のないシンベみたいな感じで、おもちゃみたいな音ですけど、あれでマスタリングはトム・コイン(※A Tribe Called QuestやDe la Soulの作品や、ディアンジェロ「Voodoo」などを手がけたマスタリングエンジニア)ですからね。おかげさまで、あの曲はいっときアンセムになっていて、どこでもかかっていましたね。

──いろいろなジャンルを手がけていますが、どのジャンルからも依頼されるための秘訣はありますか? また、自分はどこの人かという帰属意識はないんでしょうか?

無茶苦茶やってみて、それを許してくれるアーティストなりレコード会社がいればラッキーって感じでやっていますね。これは全然ダメですねって言われることもあるんですけど、それに恐れをなさないたくましい精神力でやってるという。それも外部じゃなくて、このスタジオでギリギリまでミックスできるからやれている部分なんですけど。もう今日上がってないと出せないっていう締め切りのギリギリまでやってたりしますからね。帰属意識については自分でも定義付けられない感じはありますね。僕のスタンスを面白がってくれる人から、たまに「ソロアルバムを作ってください」って依頼がくることがあるんですよ。ただ、僕が構想を話すと「面白いけど無理でしょうね」って言ってみんな離れていくという(笑)。

──どんな構想なんでしょう?

よくモノマネ番組で歌ってる途中で背後から本人登場ってあるじゃないですか? ああいう感じで、サンプリングなのに途中から本人演奏に差し代わるのをやりたいんですよね。あとは、“エンジニアバトル” みたいな感じで、基本同じマテリアルなんだけど、途中でエンジニアが4人スイッチするというのもやりたくて。ほかにもアイデアはいろいろあるので、もしこの記事を読んで興味を持った人は連絡ください(笑)。

The Anticipation Illicit Tsuboi

1970年生まれのエンジニア、プロデューサー、DJ、レコードコレクター。ロックおよびヒップホップ系サウンドエンジニア、サウンドクリエイターとして活躍する傍ら、ステージで観客をアジテートしたり、ターンテーブルを破壊したり火を付けたり、度の過ぎたヴァイナル愛によってレア盤を割ってしまったりと強烈なパフォーマンスを行うことでも知られている。長年にわたってアンダーグラウンドからオーバーグラウンド、表方から裏方まで多面的に活躍を続けている。

中村公輔

1999年にNeinaのメンバーとしてドイツMile Plateauxよりデビュー。自身のソロプロジェクト・KangarooPawのアルバム制作をきっかけに宅録をするようになる。2013年にはthe HIATUSのツアーにマニピュレーターとして参加。エンジニアとして携わったアーティストは入江陽、折坂悠太、Taiko Super Kicks、TAMTAM、ツチヤニボンド、本日休演、ルルルルズなど。音楽ライターとしても活動しており、著作に「名盤レコーディングから読み解くロックのウラ教科書」がある。

取材・文 / 中村公輔 撮影 / cherry chill will.

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