ライブハウスができるまで 第1回 雇われ店長からオーナーへ

ライブハウスができるまで 第1回 雇われ店長からオーナーへ

2020年4月に、東京・下北沢の街に新たなライブハウス / クラブLIVE HAUS(リヴハウス)がオープンする(参照:下北沢に新たなライブハウス「LIVE HAUS」4月オープン)。現在、防音工事が始まったばかりの店内は、コンクリートも剥き出しの状態。音響機器の導入はもちろん、出演者のブッキングもこれからだ。

この店の代表は下北沢THREEの元店長・スガナミユウと、Organ barの元店長・宮川大仏の2人が務める。スガナミについては、これまで音楽ナタリーでもその独自性の高いライブハウスの運営方法を不定期連載で触れてきた(参照:小さなライブハウスの挑戦)。

スガナミから編集部に独立して店を出すことを伝える連絡が入ったのは、2019年10月のこと。その頃にはすでにプロジェクトが具体的に走り出し、2月のオープンに向けて、会社の立ち上げや物件の選定が済んでいると伝えられていた。そのプロジェクトの内容は、たくさんの人々と共に地下街を作るという壮大なもの。当時スガナミはその企画書を持って、資金調達に奔走していた。

しかし12月に状況が一転、決まりかけていた物件の契約が破談に。それを機に、予定していたプロジェクトは大きな方向転換を余儀なくされた。そしてこのたび、改めて下北沢に150人収容のLIVE HAUSをオープンさせることが決まった。

スガナミはなぜ独立し、いかにしてLIVE HAUSを作られたのか。そして今後いかなる店を築き上げるのか。音楽ナタリーでは、オープンまでを数回の記事でドキュメントしていくことにした。

雇われ店長の葛藤

THREEの店長に就任してからの約4年間、いわゆるチケットノルマ制の廃止や入場無料イベントの定期開催など、一般的なライブハウスの運営方針とは真逆の方法論で出演者と来場者の双方から信頼を高めてきたスガナミ。着実に自身の色を店に反映させていく中で、独立を意識し始めたのは2018年のことだそうだ。

「以前『ライブハウスやクラブの最盛期は5年、なぜなら街や音楽は移り変わっていくから』という話を聞いたことがあって、そのときは『その時期を過ぎてからが勝負だろう』と思っていたんです。でも自分が店長として作り上げたTHREEもまた、ここ何年かがピークだった気がしていて。雇われている立場でやれることはすべてやり尽くした感じもあったし、これ以上の責任を自分に与えないと、モチベーションを維持できないと考えていました」

チケットノルマ制の廃止など、正攻法とは真逆の施策を打ち出してきたスガナミだが、そういった手法は売り上げや収益面を見ると効率的ではないのも事実。そんな“雇われ店長”としての葛藤を抱える中、当時の上司の言葉が独立を後押ししてくれた。

「店の運営についてのミーティングの席で、上司が『このライン以上に好きなことをしたいのなら、自分で一からやったほうがいい』と言ってくれたんです。これまで『何かおかしい』と思うたびに、店の外にも内にも問題提起をしてきたけれど、会社には会社の事情があるし、自分と同じように守りたいものや、やりたいことがあるんだということがわかってハッとしたというか……会社に守られていたのは自分だったんだと気付かされました。それで独立して、やりたいことの精度を上げたいと思ったんです。あのときの上司の言葉にはとても感謝しています」

独立のテーマ

スガナミの“やりたいこと”とは、THREEで打ち出してきたような出演者や来場者に向けた改革だけではなく、ライブハウスで働くスタッフたちの雇用環境の改善までを視野に入れているそうだ。賃金面や働き方などについて理想を追うとなると、自身が店のオーナー、つまり雇用者にならなければできないこともある。それも独立を決めた理由だ。

「もちろん、しっかりとした雇用条件で運営しているところもあるのですが、まだまだ業界全体が胸を張ってホワイトだとは言えない状況だと思うんですよね。ライブハウスやクラブが好きでこの業種に就いた人が好きな仕事を続けながら、家族を養ったり、社会的にしっかりとした職業だと認められるような環境を作りたい。そのためには自分が直接雇用する側になって、内側の改革も実行したいと思ったんです。一緒に人生を歩んでいく仲間に対して、どれだけいい景色を見せられるのかチャレンジする、それが独立を目指した一番のテーマです」

クラウドファンディング開始、目標は1000万円

そうは言うものの、もちろんライブハウスの立ち上げは容易なことではない。しかも会社の経営は、理想のみでは成立しないことも事実。大きな音を出せる物件を確保する必要があるし、防音工事や音響機器の購入も必須。他業種と比べても、自ずと開業資金は高額になっていく。スガナミが立ち上げるLIVE HAUSの場合は、開業資金として5000万円が必要で、金融機関からの融資では足りない部分を補うべく、2月25日にCAMPFIREでクラウドファンディングをスタートさせた。

「大きな資本の後ろ盾がない僕らにとって“音が出せる場所を作る”というのは、背筋が凍るほどハイリスクなことだと思い知らされました。ライブハウスを立ち上げるにあたって、防音工事と音響設備の導入はマスト。街と共存するためにも近隣住民や周辺のお店から理解を得ることが大切で、そのためにも防音はとても大事なんです。近隣トラブルは箱が潰れる大きな要因の1つですから。それと今の時代、音量や音響にこだわらなければライブ自体はどこでもできる。でもわざわざお金を払って箱でイベントをやるのって、音のよさを求めているからだと思うんです。その意味でも、やはり音響にはこだわりたいんです。

LIVE HAUSは、店のWebサイトで示したステートメントの通り、相場よりもかなり安い料金設定でレンタルをすることにしています。あのステートメントを公開した際、『安い理由は音響が弱いからでは?』といった懸念の声も上がりましたが、僕らはその不安を払拭できるような機材を備えるつもり。そのためにCAMPFIREで1000万円募ります。ただ箱を作るだけなら今の資金でも問題ないのですが、満足のいく設備にすることが重要。この記事を読んで興味を持っていただけたら、ぜひCAMPFIREのページも覗いてもらえるとうれしいです」

ライブハウス / クラブという場所の引力

内装工事の打ち合わせや資金調達など、LIVE HAUSのオープンに向けて忙しない日々を送るスガナミ。彼に、独立するとしても、ライブハウス以外の選択肢はなかったのかと尋ねたところ、こんな答えが返ってきた。

「人が集まれる場所ってすごく大事だと思っていて、例えば去年、TRHEEでは台風の直後にチャリティを目的としたイベントを企画しました。お客さんも音楽を楽しみながら、気持ちよく募金に参加していただけていたと思う。そういうときに音楽の力というか、音楽が共にあることのよさを感じるし、こんなスピード感で人を集めることができるのって、場所があることの強みなんですよね。あとは単純に、アーティストが時間をかけて作った作品を見たり聴いたりするのが好きなんです。万人受けはしないかもしれないけど、濃い100人に刺さる音楽は確実にあるし、その価値に差はないと思います。そういったアーティストの活動の後押しをしたいという気持ちは強いですね」

THREEを離れて

そういうわけで、スガナミは2019年12月にTHREEを辞めた。それから約2カ月、独立を決断したことについて一切の後悔はない。ただ、辞めたからこその気付きはある。

「退職して3日後に気付いたことがあって、THREEでは自分から会いに行かなくても会いたい人が来てくれた。毎日誰かしらが顔を出してくれたり、イベントをやってくれていたんだなって。それはとても特別で幸せなことだったんだなと感じました。今、店の準備期間中で自分が会いにいく立場になって、友達がどこかでパーティをやっていると救われます。自分もそこへ遊びにいけば友達に会える、音楽を楽しめる。大人になって毎日友達に会えるなんて奇跡じゃないですか。すごくぜいたくな仕事だとあらためて実感しています」

記事公開日現在、オープンすることこそ決まってはいるものの、内装や防音の工事など、目の前にはやらなければならないことが山積みの状態だ。

「いざ独立に向けて動き出してみると、『ライブハウスやクラブが1つの街に集中する理由』とか『ホワイトだブラックだということで簡単に切り分けることができないこの業種の特殊性』とか、いろいろわかってきますね(笑)」

次回以降は頓挫したプロジェクトや物件探し、資金調達についてなどを詳しく聞いていく。

スガナミユウ

自身のバンドGORO GOLOでボーカリストを務める傍ら、レコードディレクターやイベントの企画などを行い2014年より東京のライブハウス下北沢THREEに在籍。2016年に店長に就任すると、チケットノルマ制の廃止、入場無料イベントの定期開催など独自運営方針で店を切り盛りしていく。2019年12月末をもってTHREEを退職。現在は自身が発起人の1人であるライブハウス / クラブ・LIVE HAUSのオープンに向けて準備に勤しんでいる。

取材・文 / 下原研二 撮影 / 斎藤大嗣

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