映像で音楽を奏でる人々 第15回 あれこれ決めずにノリで撮りたいSpikey John

映像で音楽を奏でる人々 第15回 あれこれ決めずにノリで撮りたいSpikey John

Spikey John

ミュージックビデオの監督など、あらゆる形で音楽に関わる映像作家たちに注目するこの連載。今回登場するのは、2017年にJP THE WAVY「Cho Wavy De Gomenne Remix feat. SALU」のMVで脚光を浴び、気鋭のラッパーたちの勢いあふれる映像を次々と生み出してきたSpikey Johnだ。1996年生まれの彼が、映像監督として日本のヒップホップシーンで名を馳せるまでの過程をたどりつつ、昨年大きな注目を集めた舐達麻やMall BoyzのMVなどの制作エピソードを聞いた。

岡山から東京に出たかった

小さい頃、映像には全然興味なかったです。「スター・ウォーズ」を観て「ライトセーバーがかっけー」とか思った記憶があるくらいで、ほかに特に影響を受けた映像とかもありません。映像を撮り始めたのは、すごく校則のゆるい高校に入って、学校をサボるようになってからですね。暇だから一緒にサボってる友達を地元の岡山の河川敷で戦わせて、その映像に「スター・ウォーズ」とか「ロード・オブ・ザ・リング」とかの音楽を付けて笑う、みたいなことをしてたんですよ。それが仕事になるとは全然思ってなかったんですけど、スマートフォンのアプリで映像の編集の仕方を覚えて、そこからアプリをグレードアップさせつつ、どんどん映像のクオリティを上げていきました。

それで高校卒業後はデジハリ(デジタルハリウッド大学)に入って。でも、それも本気で映像を学びたいというのではなく、岡山から東京に出たいというのが動機でした。俺はナズの「Illmatic」(1994年発売のアルバム)を聴いてヒップホップに目覚めたんですけど、ちょうどその頃、「Illmatic」の20周年を記念したドキュメンタリー映画「Nas / タイム・イズ・イルマティック」が公開されるタイミングでもあったんですよね。だけど岡山では公開されるわけもなく……とにかく東京に行きたいから「映像の仕事に就きたい」って親を説得しました。

そうして通い始めた大学もすぐに行かなくなっちゃって、友達としばらくフラフラしてたんですけど、親に「あんたどうすんの?」って言われて、さすがに何かやらないとヤバいと思って始めたのがMVの撮影でした。LUMIX DMC-GH3っていう一眼レフを買って。当時はミュージシャンとのつながりはまったくなかったので、SNSで見つけた人に声をかけました。同じ岡山出身で専門学校に通いながらラップしてる同い年の人で、その子はもうラップを辞めてるんですけど、そのビデオがけっこうバズるというか、関係者の目にとまったみたいで。それからRude-αから連絡が来たり、ちょっとずつ仕事につながっていきました。地元の友達にはその頃の映像と今の映像でほとんど変わってないねって言われるんですよね。素人とプロの映像の違いが当時から感覚的にわかっていたので、こうすればプロっぽくなるという直感に従って制作していました。

深く考えずに作ったMVが大ヒット

kiLLaのメンバーをはじめ、東京のシーンで活躍している最前線のラッパーと本格的につながったのは、BAD HOPのマネージャーのレンくん(村越廉一)とインスタで知り合って、アシスタントをやり始めたのがきっかけです。kiLLaのYDIZZYとは一緒に海外を回ることもあって、全部が絵になる人たちとずっと一緒にいたことで感覚が磨かれた部分はあるかもしれない。この頃に自分がつながった人はみんな成功してるし、いい流れに乗れたのかなと思いますね。
その後、一時期仕事が全然ないときもあったんですけど、その頃に紹介されたのがJP THE WAVYでした。彼の「Cho Wavy De Gomenne」の映像を撮ったら、SALUくんから「この曲のリミックスを作りたいから、JP THE WAVYとつないでくれないか」って連絡があって。それでAwichさんのMVの撮影にSALUくんとJP THE WAVYを呼んだんです。
それからリミックスができたら、今度はその曲のMVも作ることになり。ノリで渋谷に集まってカメラ1台で撮ったら、その映像の再生回数がめっちゃ伸びて。この作品がきっかけで加藤ミリヤさんからもオファーがあったりと大きな反響があったんですけど、本気でいろいろ考えて作ったわけでもなかったので驚きましたね。
渋谷って撮影しにくいんですけど、このMVの影響もあって渋谷で撮影することが多くなりました。だから、かなりロケハンの蓄積はあります。渋谷なら「このアングルから光が来る」とかすぐわかりますね。でも撮影以外では全然行かないです。

リアルを生かしたい

俺は演者の人に細かく指示せず、その場のノリとかバイブスで撮ることが多いんです。それって、作られてないリアルを切り取った作品が好きだからなんですよね。どういう環境で生きてきて、どういう仲間とつるんできたかっていうリアルを映像にしたい。リアルな作品にするためには雰囲気だけ伝えて演者に任せたほうがいいし、そのほうが画としても間違いないものが撮れると思うんです。去年撮った舐達麻のビデオもとにかく自然な姿を引き出す感じで、ほとんど指示はしないで進めました。場所を指定して「たくさんカッコいい人連れてきてください」って伝えたくらいですね。こだわったのは編集です。素材自体がめちゃめちゃカッコいいから全部使いたくなっちゃうんですけど、使いすぎると逆に生きなくなるから、あえて使わなかったり。舐達麻は自分たちのフッドである熊谷についてや、そこでの日々を歌っているので、MVでは埼玉で生活している舐達麻と東京で活動している舐達麻の両面を映しつつ、最後にドローンで撮影したシーンを入れて、東京から熊谷に帰っていくというストーリーを描いています。
舐達麻と並んで去年ヒットしたMall Boyzの「Higher」(2018年末リリースの「Mall Tape」収録曲)なんですけど、実はこの曲のビデオを撮らない可能性もあったんですよ。TohjiからはSpotifyで人気があるこの曲とApple Musicで人気がある「fuck it up」(「Mall Tape」収録曲)のどっちのMVを撮ったらいいかって相談されていて。絶対「Higher」でしょって即答しました。

それで最初は凝ったMVを作ろうと思ったんですけど、ストレートに曲のパワーとマッチするような迫力のある映像を目指して、モッシュのシーンと雪山で車を爆走させるシーンを2日間かけて撮影しました。東京ビッグサイトで撮影しているのは、曲を聴いて感じた近未来のイメージを作るためです。ストーリーもない映像ですけど、一番自分っぽい映像だなと思います。カメラが前に突っ込むタイミングでさりげなくズームを入れたくらいで、ほかはエフェクトもかけていないです。とにかくカット割りにこだわって、カッコいい画を生かしました。
屋上でモッシュしてるシーンは、東京の外れのTohjiの家で撮ったものなんですけど、大学の後輩のドローンオペレーターにDJI Inspireっていうデカいドローンを飛ばしてもらったら、通報されてめっちゃ警察が来ちゃって。わりと屋上が低い家で、下からは飛行物体を崇めてる宗教団体みたいに見えたらしいんですよね(笑)。刑事まで来ちゃって、向こうの本気を感じましたね。でも後輩がドローンの許可証をバーンって見せたら帰ってくれて。うるさいから飛行範囲を狭めてくれってことにはなりましたけど……やっぱ警察が来るとアガりますよね。みんなもテンション上がって。仲間たちの「イェーイ!」っていうリアルな盛り上がりが撮れたと思います。

柔軟さや即興力が武器

撮り始めの頃は企画書も作らず、何も考えずにストリートで撮影して、途中で「今回どういうビデオになるんですか?」って聞かれたら、その場で考えて適当に説明するみたいなことをずっとしてたんですよね。企画書を書くようになったのは、日高くん(SKY-HI)と出会ってからかな。打ち合わせで企画書を求められたので、文字が3行しか書いてないようなものをエクセルで作って出したんですよ。普通だったら怒るところを「いいじゃん、お前」って可愛がってくれて。まあ日高くんだから許されたんですよね。それからは企画書も作るようにしてるんですけど、今思えば何も考えずに撮っていた頃の経験で、現場のノリを生かすための柔軟さや即興力が磨かれたんじゃないかなと思います。
秋葉原で撮影したkZmの「Wolves feat. 5lack(Prod. Chaki Zulu)」も即興を生かした作品です。せっかく秋葉原なのでオタクの人に出てもらいたかったんですけど、ツテもないので、たまたま見かけたおそろいのバッグを持った3人組に声をかけたり、撮影の帰りに見かけた派手なデコレーション車にも出てもらったりしたんですよ。このMVはチャキ(Chaki Zulu)さんの提案で秋葉原で撮ることになりました。もともと渋谷で撮ろうと思ってたんですけど「5lackがアニメのキャラの前にいるのとか絶対面白いじゃん。逆のことやろうぜ」って。これに限らずチャキさんはいろいろ提案してくれることが多くて、けっこう影響を受けたかもしれないです。
Awichさんの「NEBUTA feat. kZm(Prod. Sam Tiba)」は事前にいろいろ考えてたんですけど、ロケ地が青森ということもあって、全然思い通りにいかなかったんですよね。10時間かけて青森に着いたら、ロケハンしようと思ってた場所まで3時間かかることがわかって。結局フリースタイルで全部やっちゃって当初の予定とはまったく違うものになったんですけど、前日に青森でライブをしていたAwichさんが声をかけてくれた現地の人たちが出演したり、協力してくれたこともあって、いい作品になりました。

頭に浮かんだことを共有したい

最初の頃は大学の友達を連れて撮ってたんですけど、今はSeiya(Uehara)とか、りるはにとか、LIL SPOOKY BOYS とか、合計7人くらいのチームでやってます。カメラマンのSeiyaは、レンくんと会う前に1年くらいつるんでいたラッパーのAmaterasから紹介されて。その後、半年くらいSeiyaが俺の家に住んでいたので、同棲して一緒に編集したり、写真を撮ったり、カメラ店に行ったりみたいな生活をしてました。りるはにはマネジメントとかをやってくれてる子で、もともとモデルだから演者もできるんですよ。映像がちょっと寂しいなと思ったら出てもらったり、モブを集めてもらったりもしてます。LIL SPOOKY BOYSはエフェクトを任せている大学の後輩です。技術は俺より全然あるんですけど、学生だからやりすぎちゃう部分があるので、教えながら仕事を振ってます。

自分に課題があるとしたら、頭の中で思い描いたことをチームにちゃんと伝えることですね。俺だけしかわかってないようなことがけっこうあって。Answer to Remember「RUN feat. KID FRESINO」のMVは、曲を聴いてあの通りの映像が頭の中に浮かんだんですけど、企画書に落とし込めないし、うまく説明ができなかったんです。でもSeiyaだけは「わかるわかる!」って言ってくれて。彼に撮ってきてもらった素材を編集して作っていきました。このビデオはうまくできたなと思うんですけど、もうちょっとしっかりイメージを共有できるようにしていきたいと思っています。
最近MVを撮らせてもらったシンガーの藤井風は、「RUN」のMVを観て声をかけてくれたらしいです。俺の1個下で同じ岡山出身なんですけど「やばいがな」みたいな岡山弁で褒めてくれて。最初の打ち合わせでは俺の企画を「あー、違う!」って否定するし、ちょっと戸惑ったんですけどね。でも打ち合わせを進めていくうちに彼の人としてのヤバさ、素晴らしさがわかってきて。彼の考え方や歌詞のイメージをしっかり聞いて企画を作り直しました。
このMVは後半で電車が走ってくるのと同時に朝日が顔を出すシーンがあって。現場でイメージを伝えたら、みんな「どう撮るんだよ」って困ってたんですけど、10回以上撮り直して奇跡的なタイミングが切り取れたなと思います。あと彼が着ているジャケットは、現場で決まったんですよね。もともと違う衣装が用意されてたのに、打ち合わせで俺が着ていたジャケットを見て彼とマネージャーが「これだよ!」って盛り上がって。藤井風も俺と同じで目の前で起きたことを拾いたいタイプだと思いました。最初はうるさいアーティストだなと思ったんですけど、もう今は普通に彼のファンですね。イケメンだし。
振り返ってみると、将来のことをじっくり考えたことって今までなかったですね。親に言われてちょっと焦ったりもしたけど、MVの撮影を始めて流れができたら、あとは目の前のことやるのに必死すぎて何も考える余裕もなく……気付いたら数年経ってた感じです。まあ無駄なことはしなかったなと思います。

ただ俺は別に映像作家を目指して生きてきたわけでもないんですよね。今はたまたま映像が自分を表現する手段になってるけど、音楽でもいいし。今の俺から映像を取ったら普通の人間なんですけど、人間としての価値をもっと高めて、肩書きにとらわれずに仕事をしていきたいと思ってます。

Spikey Johnが影響を受けた映像作品

パラサイト 半地下の家族

俺はほとんど映画を観ないんですけど、たまたま観て衝撃を受けました。無駄なカットが全然ないなと思って。もっとすごい映画を知らないだけかもしれないんですけど、映画に興味が湧きました。

ナルコス

この作品の影響で「麻薬王になりたい」って言ってた時期があります。子供が仮面ライダーに憧れるノリで。「麻薬で稼いだ金で機材買おう」とか言ってましたね。

取材・文 / 三浦良純 撮影 / 梅原渉

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