佐々木敦と南波一海によるアイドルをテーマにしたインタビュー連載「聴くなら聞かねば!」。前回に引き続き、BiS、BiSHらWACK所属グループのサウンドプロデューサーである松隈ケンタ(Buzz72+)をゲストに迎えたトークの中編をお届け。自身の驚くべき作曲テクニックや並々ならぬメロディへのこだわり、歌唱力が開花したアユニ・D(BiSH、PEDRO)、MAHO EMPiRE(EMPiRE)とのエピソードなどについて、松隈から話を聞いた。
構成 / 瀬下裕理 撮影 / 田中和宏 イラスト / ナカG
水曜と木曜に考えたメロディしか使わない
佐々木敦 松隈さんは毎回ベストを尽くして曲を作られると思うんですが、作り終えてみて自分が傑作だと思った曲が実際に採用されるか、世間的にヒットするかという問題もあると思うんです。そういうことを考えながら音楽を作り続けていく中で、ご自身の作曲家としてのモチベーションをどうやって保ち続けているんですか?
松隈ケンタ 確かに、どうしているんだろう(笑)。でも僕はやっぱりプロフェッショナルでありたいと思ってやっているのが大きいかもしれないです。音楽に限らず、陶芸家や画家、もちろんビジネスマンの方にも、それぞれプロの定義があると思うんですが、僕が思うプロは仕事がつながって途切れないことなんですよね。引退するまでずっと需要があるのがプロだと思う。オファーをくれた人が「この曲カッコいい」と言ってくれたらいいし、使ってもらえることが最大のモチベーション。そのために全力で曲作りをしているので。言い方は悪いかもしれないですけど、曲が売れなかったら俺を選んだ人のせいだと思うし(笑)。よく作曲家のせいにされがちですけど。
南波一海 売り上げってプロモーションの仕方とか、そのときの世の流れなどにも複雑に関わってきますしね。一概に曲のせいとは言えない。
松隈 そうそう。なのに、最近は1つのアーティストで作曲家をコロコロ変えたりすることも多いじゃないですか。僕はビジネスマンとしてそういうやり方はセンスがないと思っています。曲が売れなかったからって、すべてを作家のせいにするのは違うんじゃないかなって。それに、そういう考え方の人に自分がいいと思っている曲を預けるのは怖いなと。
佐々木 ある意味、曲を殺されてしまうかもしれない。
松隈 そういうことです。自分の曲を大切にしてくれる人に預けたい。だから自分も信頼できる若手にしか仕事は振らないし、がんばってくれたヤツにはちゃんと金が回ってくるようなシステムを構築したい。努力がちゃんと評価される環境を作りたいんです。
佐々木 長くやっていくという意味では、それが一番賢明な方法かもしれないですね。
松隈 ここだけ切り取られると偉そうに聞こえるかもしれないけど、例えばプロの料理人だったら、目の前に運ばれてきた料理を見てプロが作ったかどうかわかるじゃないですか。それと同じことがどんなジャンルにも言えると思っていて。ひと目でプロの仕事を見分けられるのが本物のプロなんですよ。僕はメロディを聴いたときに、プロが作ったものかどうかすぐにわかるし、それがわかるようになった瞬間から仕事に対する意識も変わったと思います。曲がどれだけ売れていても、たまたま運よく売れちゃったなという人と、中身が伴っている人との見分けがつくというか。アレンジとなると話は別ですけど、メロディに関してはある種のコツ、プロのメロディの音符の置き方みたいなものがあると思っています。そこは僕が育てている若手作家たちにも、なかなか言葉では伝えづらい部分ではあるんですが。
佐々木 いつも曲を作られるとき、メロディはどんなふうに考えているんですか? 練りに練って考えるのか、突然パッと降ってくるような感じなのか。
松隈 まず急に降ってくるということは絶対にないですね。「作るぞ!」という意識でやっています。具体的に言うと、今は毎週水曜と木曜に作曲の日を設けていて、その日に作ると決めているんですよ。なのでもし月曜日にメロディが浮かんできたとしても捨てます。作ろうと思ったときに頭の中にあると邪魔くさいから(笑)。基本的には水曜と木曜に考えたものしか使わないです。
佐々木 なるほど、そうなんですね。
松隈 かといって、こねくり回して考えるというのとも違っていて。イメージとしては、とりあえず冷蔵庫を開けてみる感じですね。どんな野菜が入っているか、どんなスープがあるか。で、パッと目に付いたもので今日の晩飯を作ろう、という感覚です。
10秒間のAメロは5秒で完成します
南波 でも自分の中のロジックが固まってくると、ちょっと味変したいと思ったりすることはないですか?
松隈 メロディが降ってくるタイプの人は、自分のセンスで自分の好きな感じのメロディをもとに曲を作っているんですよね。だから南波さんの言うように、同じような味になることが多いはず。でも僕の場合はそういうアプローチではなくて、まず1つ、キーワードやメロディの中で一番いいと思える部分を作るんです。で、そこに向かっていく物語としてメロディを作っていく。毎回キーとなるものを意識的に変えるようにしていて。ゴールを前とは違うところに設定すれば、自ずとそこに向かうルートも違うものになってくるという。
南波 なるほど。
松隈 芸人さんでいえばオチをまず決めて、そこまでの道筋を組み立てていく感じです。
佐々木 オチはつまり、サビみたいな部分ですか?
松隈 サビの頭か最後ですね。僕はよくサビの終わりの部分のメロディを最初に考えるんですよ。だから僕の曲って、サビの入り口はわりと地味なことが多くて。「オーケストラ」(2016年9月に発表されたBiSHの代表曲)も、サビ終わりに向けてだんだん盛り上がっていくじゃないですか。
佐々木・南波 確かに。
松隈 普通はみんな、「イッツ マイ ラーイフ!」(Bon Jovi「It's My Life」)とか「ロージアッ!」(LUNA SEA「ROSIER」)とか、そういう歌いたくなるようなサビ頭を最初に考えることが多いと思うんですけど。僕は最初から勢いよく突っ走ってしまうと、サビが終わるまで一辺倒になってしまう気がして。入口を固定すると出口も決まってしまうけど、やっぱりサビは気持ちよく終わらせたいから。先に後ろのパートを固めて、頭を変えていくんです。なので極論を言えば、Aメロはなんでもいいというか。ちなみに10秒間のAメロは5秒で完成します。5秒のメロディを作ってコピーすれば10秒になるので(笑)。
南波 実際のメロの長さよりも、メロを作っている時間のほうが短いってあり得るんですかね? すごいなあ。
松隈 これだけ曲を作っていたら、そういうときもありますよね。思いついたらコピー、大体2回繰り返せばフレーズのベースができる。まあ今のはかなり極端な話ですけど、例えばAメロのメロディを頭の中で考えたら、実際に歌ってみるんです。で、そのあとパソコンに打ち込んで、もう1回、コードに合わせてなんとなく歌ってみる。そうすると微妙に異なるメロディが2テイクできるので、それを聴き比べてみて、どちらかいいほうを上書きするんです。そのあとさらにもう1回歌ってみて、「あれ、最初に録ったやつのほうがいいな」「でも終わり方の何音符かは上書きしたバージョンのほうがいい」とか考えて、最終的に合体させる。これでもうAメロができます。
南波 さも簡単に言いますけど。
佐々木 絶対に他人には真似できないですよね。
松隈 自分としてはキャベツを切っているくらいの感じです(笑)。前菜のサラダよりもメインディッシュを一生懸命作りたいから、サクッといけるものはサクッっといきたい。あとは、そのくらいの温度感で作ったほうが、自分でも意外な仕上がりになったりするんですよね。
大森靖子さんのメロディセンスはプロ
佐々木 自分がプレイヤーでもあるような作曲家の人って、どちらかというと金太郎飴のような作品を作れる人のほうが強い、という考え方もあると思うんです。その人らしさ、みたいな。でも松隈さんはいろんなバリエーションがあるほうがいいという考え方なんですかね?
松隈 そうですね。アレンジもメロディも同じ人が作り続けていると、どうしても楽曲がマンネリ化しやすいと思うんです。その点、WACK仕事に関して言うと、曲作りの根幹をなす詞とメロディを渡辺(淳之介)くんと僕とで作っているので、その座組みがバリエーションを生んでいるというのもあるかもしれないです。南波さんはご存知かもしれませんが、僕はもともとヘヴィロックってそんなに好きじゃなくて、U2みたいなチンタラしたロックが好きで(笑)。だから自分のバンドでメタルの曲を作るのは嫌なんですけど、アイドルにメタルやパンクみたいな曲をやってもらうのは面白いかもと。だから徹底的にメタルを研究してみようかなとか、そういう考えもありました。
佐々木 ロックバンドとしてはやりづらいけど、アイドルに表現してもらうなら、ということですね。遊び心も発揮しやすいし、「今度はこのジャンルを攻めてみよう」と楽曲の幅も広がっていく。
南波 WACKはアレンジャーだけじゃなくて、マスタリングする人でも楽曲を色分けしているのが面白いですよね。グループによってアレンジやマスタリングの色を細かく変えていくことで音楽の聴かせ方にも幅を出せるんだなと。
松隈 作った曲が採用された瞬間から、その曲に対して客観的になっているのかもしれません。作曲者から音楽プロデューサーの視点に変わるというか。BiSHやBiSの曲は、僕が作っていないものもあるんですけど、結局はサウンドプロデューサーとして携わっているので、誰が作った曲という意識はあんまりないんですよね。作曲者が誰であっても、「この曲をいかに輝かせるか」という発想に変わる。歌入れの際に僕が細かくボーカルディレクションをしていると誤解されがちなんですけど、僕としてはメンバーから出てくるいいものを拾っていく感覚なんですね。癖のある歌い方をさせていると思われているみたいですけど、まったく逆で。「僕が決めたメロディをしっかり歌ってくれ」と伝えているだけなんです。そしてこの点に関してはめちゃくちゃ厳しいです。
佐々木 そうなんですね。
松隈 僕の中では作曲家の作ったメロディが絶対に正解なので。レコーディングしていると、彼女たちが書いた歌詞の文字数が多すぎるとか、逆に足りないみたいな話が出てきて、普通のサウンドプロデューサーだったら歌詞を聴こえやすくするためにメロディを変えたり、彼女たちが間違えて歌ったとしても、それをOKにしちゃうんですけど、僕はそれが嫌なんです。メロディは変えないでほしいし、渡辺くんが書いてきた歌詞も変えたくない。ここがわりとWACKの斬新なところで、普通は作詞家や歌い手が符割りを決めることが多いと思うけど、それは絶対にNGで。
南波 渡辺さんも同じ認識なんですか?
松隈 渡辺くんは「松隈さんに任せる。どう歌ってもいいよ」という感じなんですけど、一応ボーカルのガイドは彼が作っていて。で、そこに作曲家からしたらあり得ない歌割りを作ってくるんです(笑)。普通、喉が締まる「イ」という発音で、すごく高い音を伸ばすことなんてないんですよ。「ア」とか「オ」ならわかるけど、渡辺くんは構わずやってくる。普通のチームだったら歌詞を書き替えたほうがいいとか話し合うんでしょうけど、僕らはそうしないんですよ。だって作詞家さんがそうしたいんだから。で、「発音として『イー』だと弱いから『ウィー』と歌いなさない」と指導するわけです。本当はメロディが重要だし大事なところの歌い方は「ウィー」にしてほしくないし、変なのって思っています(笑)。でもまあ、アイドルだからいいかみたいな。結果へんてこりんな面白いものができている感じがしていいかなと。
佐々木 サウンドプロデューサーとして全体を把握しつつ、メロディだけは守るという。
松隈 そこだけ守れば自由にやっていいよ、という感じですね。こういうことをすべてわかったうえで歌える人がいたら最強のボーカルだなと思うんですけど、正直今、アイナ・ジ・エンド(BiSH)を含めてWACKの中でそこまで理解できている歌手はいないです。ただ、最近BiSとZOCがコラボすることになって、ZOCの曲を僕と渡辺くんで作って(参照:BiSとZOC、プロデューサーを交換したスプリットシングル発売&ツアー開催)。大森靖子さん(ZOC)とレコーディングをしたんですけど、大森さんは指示を出さなくてもそれをわかってくれていましたね。やっぱり彼女のメロディセンスはプロだなと。
佐々木 なるほど。
松隈 大森さんはプロデューサーでもあるから、最初はプロデューサー同士で僕とぶつかったりもするかなと思ったんですけど、まったくそんなことはなく。あまり言葉を交わさずともお互いを理解して、プロとしてコミュニケーションを取ったという感じでした。プロ同士は語らないみたいな(笑)。
南波 メロディに関して言うと、WACKの楽曲に影響を受けたんだろうなというアイドルグループや作家も多いですよね。でもやっぱり本家には到底かなわないというか、雰囲気ではどうこうできるものじゃないなと思っています。
松隈 実際、「WACKを尊敬してます。曲を聴いてください」と言って音源を渡されることもあるんですけど、「どこが?」という感じなんですよ(笑)。「全然違うな。どうせならもうちょっとパクったらいいのに」とは感じますね。
南波 パクれないんですよね、結局は。
佐々木 強固なロジックや絶対に譲れないという線引きがある人の作るものは真似ができない。
松隈 やっぱり自分の思う通りにやらせてもらえる環境を作れたのが一番デカいかもしれないです。渡辺くんにも早い段階から、「特に音楽にはこだわりたい」と話していたし、彼もそれを尊重してくれたので。普通だったら、レコーディングの場でも作詞家さんやアーティスト本人の意志が少しずつ出てきて、結局そこそこのものができあがることが多いんですが、僕はそれが一番つまらないと思うんです。よく「WACKの曲はアイドルの歌い方じゃないよね」と言われるんですが、実際録ってみると、いわゆるアイドルっぽい歌いまわしをする子もいる。そこで、メロディのよさが崩れちゃうなと感じて、歌い方を変えてもらうことはあります。アイドルの歌い方が嫌いというわけではなくて、メロディが崩壊してしまう歌い方が嫌なだけで。
布袋寅泰の歌マネで才能が開花したアユニ・D
佐々木 WACKには多くのアイドルが所属していて、かつ新しい人たちもどんどん入ってくるじゃないですか。その中で歌える / 歌えないとか、いろんなタイプの子が存在すると思うんです。YouTubeを拝見していると、松隈さんはそれぞれの資質や可能性を考えたうえで育てていくというスタンスを取っているように感じるんですが、1人ひとりバラバラな歌のうまさや個性に対して、どのように対応しているんですか?
松隈 美容師さんが「どうやったらこの子を少しでもかわいくできるか」と考えるのと同じ発想ですかね。髪を切るなり染めるなりエクステ付けるなり、なんらかの方法でこの子の個性を生かしてあげたいなというのが前提にあります。曲も歌詞も、自分と渡辺くんが作ったんだから最高なわけだし(笑)、あとはメロディの上でその子をどう輝かせるか、というのが重要で。まずはしっかりと音と歌詞をハメさえすれば作品になる。で、プラスアルファとしてメンバーからはみ出てきた個性も見逃さないようにしてますね。レコーディングで間違えて歌った部分とかも、たとえメロディが違っていたとしてもよかったら使ったりすることもあるんです。
佐々木 そうなんですね。
松隈 あとはレコーディング中、何気なく話しているときに、ポロッと「私このBメロ好きなんだよね」とこぼしていたら、気付いていないフリをしながらも、「じゃあその子はBメロをいっぱい録って、なんとかしてここを使ってあげよう」みたいなこともあります。そういう部分で1人ひとりをやる気にさせたり、それぞれの自信につなげてあげたいなと。歌のうまさより、自信のほうが大事だと思うんですよね。自分の歌に自信を持っているかどうかが。
佐々木 アイドルってダンスにおいてもそうですけど、パフォーマンスのクオリティがどうという話にもよくなるじゃないですか。でも本当に重要なのは、がんばった甲斐が自分の気持ちにどうつながるか、自分が納得できるかどうかですよね。自分としてはがんばったけど周りの人に響かなかったら、モチベーションも下がってしまう。歌についても1人の人が何年も練習を重ねていたら、当然変化も出てくるわけで。松隈さんはその過程を大切にされていると感じました。一方でメンバーそれぞれにいろいろな個性があるから、かなり繊細な作業なんじゃないかなと。
松隈 そこは僕がうまいというわけではなく、単純に僕が彼女たちをずっと見させてもらえてるのが大きいですね。自分の歌に自信がなさそうな子には、「今は歌えなくても、次のアルバムで1曲サビを歌えるようになればいいじゃん」と話したり長い目で見ていますね。レコーディング中、「お前、今、音痴だったぞ」って言うと、だいたいみんな笑ってごまかそうとするんですけど、「次のアルバムで必ずチャンスをあげるから、それまでに歌を勉強しな」とか「こういう部分でがんばってもアイナには勝てないから。もっとこういう部分を伸ばせ」と言葉でちゃんと伝えるようにしています。
佐々木 自分だけの武器を探せということですよね。
松隈 そうです。例えば「世間的にはBメロはあんまり聞いてもらえないかもしれないけど、俺や渡辺くんが見てるから、世間の目は気にせず、Bメロの女王を目指せ」とか。そう伝えるとちゃんと練習してきて、自信を持ってBメロを歌えるようになったりとかもしますね。
南波 アユニ・Dさん(BiSH、PEDRO)に、布袋寅泰さんのライブDVDを渡して、「歌を真似してみて」とおっしゃったんですよね。そしたら答えが見つかったというか、ボーカリストとして開花していったという。
松隈 アユニは答えを見つけましたね(笑)。最初の頃はアニメ声というか、かわいらしいけどアイドルっぽいわけでもなく、なんの変哲もないひ弱な声だったので。どうやったら生かしてあげられるか悩んだ子ですね。
南波 ちょっとしたきっかけを与えて才能を開花させるって、まさにプロのディレクションですよね。
佐々木 僕はEMPiREがすごく好きなんですけど、歌い方に悩んでいたMAHO EMPiREに松隈さんが「Charaの歌い方を真似してみろ」とアドバイスを送ったら、今の歌唱スタイルになって、いきなり輝きだしたというエピソードも好きで。
松隈 MAHOも開花しましたね。最初の頃は「ちゃんと歌えない」と泣いてたんで、本当によかったです。でも、みんなにそうやってアドバイスしますけど、ちゃんと真に受けて練習する子と、「あんまり知らないです」で終わっちゃう子もいるし、試すけどハマらないって子もいます。
南波 ハマらないパターンもあるんですね。
松隈 いっぱいあります。僕は「誰々の真似してみよう」って、ほぼ直感で言っているので(笑)。でもアユニの場合は、布袋さんのDVDで開花して。たぶんうちのスクール用に参考資料として置いてあったものだと思うんですが、そのときスタジオにいたアユニに「お前にこれやるよ」ってDVDをあげたんですよ。「お前に足りないのは“デンッ!”って感じだ」「布袋さんぐらいバシバシ歌え」と(笑)。布袋さんもギタリストであり作曲家だから、音符に対してしっかりと歌われる方ですし、それがうまくハマったんでしょうね。
佐々木 そのアドバイスを受け止めたアユニさんもすごいですね。
松隈 次の日から見違えるように変わりましたよ。変化がバシバシ伝わってきた。
佐々木 覚醒したんですね。
松隈 はい。そこからは音符がどの位置にあるとか、あの子が一番僕の言っていることを理解してくれるようになりましたね。そうだ、さっきは誰も理解できてないって言いましたけど、その中でもアユニは理解しているかもしれないですね。PEDROとして自分で楽器を演奏するようにもなったし。
南波 ベーシストなんて、それこそ縦軸が重要ですもんね。
松隈 そうですね。だから彼女はけっこうリズムの取り方なんかはマスターしているかも。
佐々木 布袋さんきっかけだったのが本当に驚きですが。
松隈 僕は高校の化学科出身なんですけど、「コポコポしているフラスコにとりあえず何かをぶっこんでみたら爆発するかな?」みたいな感覚です(笑)。実験が成功するときもあれば失敗するときもある。うまくいった実験結果を伸ばしていく感じですね。
南波 松隈さん、化学科だったんですね。それは知らなかった。
佐々木 それがプロデュースワークにも影響を与えているとは。
松隈 文字通り化学変化が起きていますね(笑)。
<次回に続く>
松隈ケンタ(Buzz72+)
1979年生まれの音楽プロデューサー / 音楽制作集団・スクランブルズの代表。地元福岡から自身がギターを担当するロックバンド・Buzz72+を率いて上京し、2005 年にavex traxよりメジャーデビューを果たす。2007年にバンドが事実上解散状態に突入して以降、楽曲提供やサウンドプロデューズの活動を開始。これまでにBiS、BiSH、EMPiRE、豆柴の大群らWACK所属グループや、中川翔子、柴咲コウ、Kis-My-Ft2らのサウンドプロデュースを担当しており、現在は2020年に再結成したBuzz72+のメンバーとしても活動しながら、日本経済大学の特命教授として同大学の福岡キャンパスで教鞭を執る。
佐々木敦
1964年生まれの作家 / 音楽レーベル・HEADZ主宰。文学、音楽、演劇、映画ほか、さまざまなジャンルについて批評活動を行う。「ニッポンの音楽」「未知との遭遇」「アートートロジー」「私は小説である」「この映画を視ているのは誰か?」など著書多数。2020年4月に創刊された文学ムック「ことばと」の編集長を務める。2020年3月に「新潮 2020年4月号」にて初の小説「半睡」を発表。同年8月に78編の批評文を収録した「批評王 終わりなき思考のレッスン」(工作舎)、11月に文芸誌「群像」での連載を書籍化した「それを小説と呼ぶ」(講談社)が刊行された。
南波一海
1978年生まれの音楽ライター。アイドル専門音楽レーベル・PENGUIN DISC主宰。近年はアイドルをはじめとするアーティストへのインタビューを多く行い、その数は年間100本を越える。タワーレコードのストリーミングメディア「タワレコTV」のアイドル紹介番組「南波一海のアイドル三十六房」でナビゲーターを務めるほか、さまざまなメディアで活躍している。「ハロー!プロジェクトの全曲から集めちゃいました! Vol.1 アイドル三十六房編」や「JAPAN IDOL FILE」シリーズなど、コンピレーションCDも監修。