土岐麻子の「大人の沼」 ~私たちがハマるK-POP~ Vol.11 土岐麻子が観た、NCT 127ドームツアー

土岐麻子の「大人の沼」 ~私たちがハマるK-POP~ Vol.11 土岐麻子が観た、NCT 127ドームツアー

「NCT 127 2ND TOUR ‘NEO CITY:JAPAN - THE LINK’」を鑑賞する土岐麻子。

シンガー土岐麻子が中心となり、毎回さまざまな角度からK-POPの魅力を掘り下げている本連載。今回は土岐による、NCT 127の日本ドームツアー「NCT 127 2ND TOUR ‘NEO CITY:JAPAN - THE LINK’」の体験記をお届けする。

コロナ禍に「英雄; Kick It」「Sticker」といったヒット曲を放ち、世界的にその人気が高まっているNCT 127、通称イリチル。土岐も自身のライブで彼らの曲をカバーするなど、以前から注目していたボーイズグループだ。今回の「大人の沼」では、NCT 127が東名阪のドームで行ったツアーのうち、5月22日の愛知・バンテリンドーム ナゴヤ公演を鑑賞した土岐がライブの模様をレポート。圧倒的なパフォーマンスや芸術的なステージ演出など、魅力にあふれたコンサートを、アーティストならではの目線で熱量たっぷりに執筆してもらった。

文・絵 / 土岐麻子

公演前夜、シズニとの食事会

コンサート前夜、私はシズニたちと名古屋の居酒屋にいた。

シズニというのはNCTファンの呼称である。その日私と一緒にテーブルを囲んでいたのは、この連載のVol.3にも登場してくれたMICAさん、そして会社員Mさんと大学生Sさん。それぞれテヨン&ジョンウ、ドヨン、テヨン&ユウタを推している。年齢や雰囲気も多様な3人は、NCT 127の現場やSNSで知り合ったという。

最初のドリンクが運ばれてきて乾杯をしたあと、おもむろにMさんがバッグから何かを取り出した。手のひらほどの大きさの四角い缶。開けるとそこには、かわいくデコられたトレカや小さなぬいぐるみたち……それらを美しい手つきで料理の前に並べ、すっとスマホを構えた。……これがあの、トレカ飯か!

トレカ飯の写真は見たことがあるが、そのメイキングを見るのは初めてだった。よく見ると私の公式グッズ、ひよこのぬいぐるみまで混ぜてもらっているではないか。なんというお気遣い。恒例の光景なのか、ほかの2人は慣れた様子でニコニコ眺めている。

20時頃。20代とは思えぬ落ち着きのあるキャラクターのSさんが、なんの脈絡もなく突然ワッと叫んだ。そしてアワアワと取り乱しながらスマホをチェックし始める。夏のイベント、「SMTOWN LIVE 2022」のチケット当落の報せが来る時間になったらしい。それをきっかけに2人もスマホを前にして、全員がパスワードや通信状況と格闘する30分間が過ぎた。

2日間当選したMICAさんが2日間落選したSさんに「じゃあどっちか1日私の枠あげる」とサラッと声をかけたりして、あっという間に全員の予定は均衡になり、テーブルに平和が戻った。

美しき助け合い。

年齢も職業もバラバラの人たちが、シズニとして心をひとつにする、愛にあふれた食事会だった。

そちらにもあちらにもグリーン

開場から3時間ほど前、とあるビルの化粧品店でレジに並んでいると、列のところどころにネオングリーン(もしくはイエローグリーン)の服や小物が見えることに気付いた。目がおかしくなったかと疑ったが、同行したMさんから、それがシズニの目印なのだと教えてもらった。

そうするとそちらにもあちらにもグリーンが浮き上がって見えてきて、会場から7km離れているその街の人波の中に潜む、たくさんのシズニたちを確認することができた。とくに挨拶を交わすこともないが、すれ違うと温かい気持ちになるものだ。

「推しは誰?」と聞かれたら……

会場に着くとそこはもう、やっぱりグリーン一色だった。男性もわりといるし、老若男女、おしゃれな人ばかりである。“草鈍器”という物騒な俗称で呼ばれるペンライトだって、名前が怖いだけでよく見たらアーティスティックなデザインだ。

ところで私は今回、メインボーカルであるテイル氏の歌をとても楽しみにしていた。しかし彼は来日後の隔離期間中にコロナの陽性反応が出てしまい、名古屋公演をお休みするというニュースが入ったばかりだ。

「イリチルで推しは誰?」と出会ったシズニに聞かれるたび「つい目が行くのはマーク、でもジェヒョンもいいし、ジャニさんのセンスも好きかも……」と、的を射ない回答になってしまうのが悩みだったが、テイルの歌声にも相当傾いていた。

最推しグループであるモネク(MONSTA X)とブルピン(BLACKPINK)に次ぎ、彼らの動画はこれまでわりと大量に観てきたつもりだが、NCT 127の場合は観れば観るほどに全員が好きになって推しが決まらなかった。でも生でパフォーマンスを観ることできっとわかるだろうと思っていたので、「テイル欠場」というのは私にはショックな知らせだった。

私たちの席は2階席の真ん中からやや上手寄り。

メインステージの後ろには巨大なスクリーン、それを中心に据えて両脇に大きさの違うモニターが3つずつ並んでいる。

ふと、アリーナの後方から拍手が起こる。何事かと下の様子をうかがうと、今回のステージの総合演出を担当している、仲宗根梨乃さんがアリーナのご自身の席に向かっているところだった。梨乃さんはこの連載にも登場してくれたが、私も胸が熱くなって拍手を送った。

シズニにはNCT 127の曲やダンス、そしてコンセプトといった芸術性を重視しリスペクトしている人が多い印象だ。すべてのクオリティが高いから当然のこととも思うし、だからこそチーム全体へのリスペクトが強いのだろう。

尖ったスタイルを見せつけるスタート

ドームが暗転すると、ずっと来日を待ち望んできたシズニたちの魂の叫びが一斉に轟いた気がした。私も「むむむむむ」という声にならない声が出てしまう。

SEがかかると客席は一面の草鈍器の海原。それは天井席までうねる、ネオングリーンのグラデーション! なんという美しさ。壮観!!

ここから巨大なスクリーンを存分に生かしたゾクゾクするような演出が始まる。

なお、使い始めたらキリがないから、ここからは「最高」「かっこいい」「美しい」「かわいい」という単語を使わずにレポを書いていきたいと思う。加えて、レポートらしく敬称略で失礼する。

意味深な巨大な時計が映し出され、舞台の突き当たりだと思っていたスクリーンが割れて左右に分かれていく。グリーンディスプレイ的な膨大な文字列が広がるサイバー空間は宇宙のようにも見えて、とんでもない奥行き感だ。その空間には幾何学的なデザインの9つのゴンドラが横一直線に並んでいて、……って、いる! そこに! メンバーが! 1人ずつ乗ってるー!!ではないか。

隣にいるMICAさんも「うわぁ、本物だ、いる、うわ、うわあ、ホントにホントに……」と、めっちゃヲタクになっている。

ゴンドラが着地すると、開始の合図が鳴り響く。MICAさんが私に「中華鍋の音がぁぁあ!」とささやいた。銅鑼の音であったが、この際もう中華鍋だっていい。

そうして始まったのは「英雄; Kick It」。ボボボボパウパウ、ボボボボパウパウ、ボボボボパウパ……とあのイントロが鳴り響く中、突然ボボボボパウパウを遮る勢いで「ズパパパパパ!」と無数の爆竹が爆ぜた。そして火炎。

ちなみにボボボボパウパウの説明が足らずに申し訳ないが、ボボボボパウパウとしか書きようがないので、気になる方はぜひ楽曲を聴いて確認していただきたい。

さっそくひどいレポになりそうで不安であるが、HR/HM的なハードなギターリフをモチーフとしたトラップサウンドと言えばよいのだろうか。とにかく特別な世界観の楽曲なのだ。聴いて。

スクリーンにはオリエンタルなネオン看板が並び、都市のセットが浮かび上がった。

私の彼らの第一印象は、アイドルグループらしからぬ、ポップさから遠い尖ったサウンドをものにしているグループ、というものだったから、そのスタイルを見せつけられるような攻めたスタートに感動した。

そんな激しい演出と、ひさしぶりの生ライブに高揚するシズニ。その真ん中にいても彼らは浮き立つことなく、集中力を切らさない。完璧なパフォーマンスをひさしぶりの再会の挨拶としたその姿は、まさに英雄……。

テイルの声も音源の中に組み込まれていて、不在でも歌が聴けて安心。

ミニマルなヒップホップの「Lemonade」へ続いたあとは、ステージの一部がせり上がって「gimme gimme」へ。こちらは日本初披露となる日本語の楽曲である。ステージがそのまま傾斜して、神秘的でスリリングなムードに。白い衣装がキャンバスとなり照明に染まって、もう全瞬間がアート。ネオンブルーのバックカラーにネオンピンク、というハイコントラストな影絵が印象的だった。

ユウタの穏やかな声に誘われ、脳裏に浮かんだ壺

曲が終わるとステージが元の高さに着陸して、初のMCタイムがやってきた。

グループによってはプロンプター(演者を補助するモニター機器)を見ながら予定調和の完璧なトークをすることもあるし、日本語が達者なメンバーが多いと軌道から外れてやりたい放題なトークになることもある。この日の彼らはどちらなんだろうと思っていると、

「水飲んでいいですか?」

「あつい」

「いやまださむい」

と、いきなり飾らない日本語が飛び交い、

「こんにちは?」「こんばんは?」

と、冒頭の挨拶で迷う場面も。

めちゃ自然体である。時計を見ると16時半……いや確かにこれは難しい時間帯!

そのままフリースタイルのトークが続くかと思えば、プロンプターに釘付けになりながらコメントを読み上げたり、通訳さんが翻訳しやすいように丁寧に区切って韓国語を話したり、

「やっとかめ日本に来ました!」

と方言をぶちかましてきたり、いろんなスタイルが入り混じる。ちなみにドヨンはこの日、「やっとかめ(ひさしぶりに)」を体感であと4回ぐらい使った。

ジョンウは愛嬌たっぷり。

ジャニは想像以上に顔が小さくて脚が長くて規格外。

マークはどの瞬間も、正直さが表れているまなざし。

唯一の日本人メンバーであるユウタは、この演目のテーマとなっている「LINK」について丁寧な言葉で説明してくれて頼もしい。この声の穏やかさと優しさはなんだろう、このまま上手く誘導されたら私はわりと簡単になんらかの契約書に印鑑を押すのではないか。冒頭で「まださむい」(たぶん涼しいと言いたかったのではないかと思う)と言ったテヨンのフワフワさにジワジワきながらも、私はユウタの契約書に捺印した想像上の壺の値段を計算していた。

そしてヘチャンの「シズニ들(ドゥル=たち)、どうでしたか?」という愛すべきチャンポン言葉もナチュラルに飛び出した。

序盤からトロッコで会場全体へ

ほのぼのしたトークで会場を和ませたあとは、「Elevator(127F)」。ファンキーで甘いボーカルによく合う、カラフルでファンシーなエレベーターの映像が流れる。

そしてこの日初めてとなるトロッコに乗り込み、ハーモニーが流麗かつ軽快なR&Bナンバー「우산 (Love Song)」が始まる。우산は傘という意味なので、5人と3人で左右に分かれたメンバーたちは傘を差しながらアリーナ席の後方まで進む。

そこは私たちの席の目の前で、肉眼でも表情が認識できた。ということは、ここまでの道のりで多くの2階席、そしてアリーナ外周の席のシズニも、肉眼で彼らの表情を観たのだろう。序盤からいきなりドームの隅々まで楽しませる、という演出のはからいが伝わってきて感動する。

トロッコは屋上付きメゾネット物件の作りになっていて、下の階には小さいソファや服がかかったラックなどがあり、本物の部屋のよう。凝ってる。屋上で日本オリジナル曲「First Love」を披露したあと、テヨン、ジャニ、ユウタ、ジェヒョンを残し、ほかのメンバーたちは階下の部屋に入ってシャーッとカーテンを閉めてしまった。

上記の4人による「Run Back 2 U」が始まる。ルキズ(SMルーキーズ。SM ENTERTAINMENTの練習生チーム)時代の曲だが、成熟したパフォーマンスである。

残りのメンバーはカーテンの中でステイホームだが、どんな話をしてるんだろうかと気になりもする。

このあたりから私は楽しさにのめり込んで、「もう現実に戻れないんじゃないか」と思い始め、気が付いたら屋上にはヘチャン1人が立っていた。「LOVE SIGN」。テイルとの共作のこの曲は本来2人で歌う演出だが、この日は映像モニターにテイルの姿(ソウル公演時の映像。ドラマチックで神々しい!)が映し出され、時空を超えた感動的なデュエットを聴かせてくれた。カーテンの閉まった部屋の上で、1人で踊るヘチャンには孤独感はなく、自信に満ちた頼もしいパフォーマンスだった。

次の「Highway to Heaven」になると階下のカーテンが開き、メンバー各自、おこもり終了!

よく見るとラックにかかっていた黒ラメのジャケット(さっきまで小道具だと思っていたもの)を着ているではないか。心憎い演出! 広大さを感じさせる清涼なポップナンバーであるこの曲ではへチャンのハイトーンがドームに響き、しみじみとその声の一芸を感じた。

エレクトロサウンドな「Breakfast」になると、突然MICAさんの草鈍器が複雑な動きを見せる。やばい、ソレ聞いてない! なになに!

そんなこんなで彼らはメインステージに帰って行く。ご出勤おつかれさまでした!

10曲目にしてすでに晴れ晴れとした表情、自然な笑顔が増えている。そして「またネーー」という声を残しながら、高速で奈落(ステージの真下のスペース)に下がっていった。

ステージにシャワールーム!? 4万人が集中したソロコーナー

大きな猫がメンバーたちと戯れるほのぼの映像「neow 127 SPECIAL DAY」が流れたあとは、ソロコーナーへ。

リッチな黒コートで登場し、ストイックなラップを見せつけてくるマークのソロ「Vibration」。さっきまでのどの曲よりも生歌のマイクのバランスが上がり、彼の安定感のあるラップスキルがダイレクトに伝わってきた。ときどきちょっと逸脱するような、繊細で不安定な雰囲気もいい。

テヨンが月の中に浮かび、神々しいパフォーマンスをした「Moonlight」。スモークさえも完全に自分のものにする。よっ、スモーク上手! そして黒ハットの扱いも一流。このこのー、黒ハット上手!と思ったら、今度はハットを脱いで風を受ける。風もキマってる。風上手でもあるのか!!

再びマークが登場し、2人での「The Himalayas」。途中でアドリブなのか、ラップに日本語を挟むテヨン。気が利いている。

ジョンウは「Lipstick」で激しく妖しいダンスを披露。ピンスポを浴びて、膝立ちウェーブからの床演技、の流れが流麗で印象的だった。シズニの集中力も高まり、気付いたら会場全体が大人のムードに。

そしてそのまま「Focus」へ。途中MICAさんが私に「ジャニさんの18禁始まります」と耳打ちして教えてくれた通り、ジャニのパフォーマンスパートへ切り替わる。彼が入ったのはガラス張りのシャワールームブース。ブースまるごとを小道具にするかのような、大胆なダンスパフォーマンス。セクシーさにハラハラして、固唾を呑むとはこのことだ。4万人が一瞬でたった1人にマウントを取られてしまったこの感じ……。

シャワーブースのクライマックスでキャーッと(目を覆った指の隙間をカエル並みに開きながら)心で叫んだ瞬間、ブースのガラスがフッと曇り、間髪を容れずにジェヒョンの「Lost」が始まった。都会のマンションかホテルの一室といった雰囲気の中、チルくベッドに座るジェヒョン。シティボーイすぎる。ブラックミュージックエッセンスのある良バラード。自作曲だそう。

全員でのスムースなバラード「The Rainy Night」を挟み、ジャズ感のあるピアノアレンジによる「Back 2 U (AM01:27)」へ。

続いてドヨンがソロで歌った「The Reason Why It's Favorite」は感情を豊かに歌い上げるK-POPらしいバラードで、ミュージカルの舞台に立つ彼を想像した。さすがメインボーカル、生歌とは思えない完成度の高さだ。透明な声は儚くも力強くもなり、悲劇の独白的な歌詞を際立たせる。表情からも目が離せない。

そしてこの曲のリプライズ元となったドラマチックなダンスナンバー「Favorite(Vampire)」へつながる。コーラスの最後に着地する「フフェオプシベーイベー(後悔ないように、Baby)」というところのフレーズが好きだ。メンバーそれぞれのフェイクが秀逸。

そのあとのMCでは、ソロコーナーを終えたメンバーを中心に自由にトークが展開していった。

「The Reason Why It's Favorite」を日本語で歌えないかというテヨンの無茶ぶりに応え“サランヘ”を“愛してる”に変えて歌ってあげるドヨン。メンバー同士でウケてて楽しそう。

テヨンは「Moonlight」について「僕があなたたちを考えて作りました。なんか、美しい、ムーンライト、あなたたち、愛してる!」と、感覚的な日本語で臨場感のあるコメントをくれた。

同じアーティストとして驚いた最後の1曲

その後は「Love On The Floor」。一度生で観たかった、あの山型に折れるステージの装置が登場。急傾斜を滑り下りて寝そべり、また後ろ向きに駆け上がり。それをゆっくり回転しながら見せる。梨乃さんによる画期的な演出と、それを昇華するメンバーによる、セクシーなパフォーマンスだ。

テヨンの振り付けで客席をいっそう煽る「Bring The Noise」。この曲はコード感を排除したリズムとベース中心のトラックで、ラップとメロディパートで構成される。

そしてMCで「1人で日本から韓国へ来たときの苦悩を思い出しながら、新しい自分に飛び立つような覚悟の曲」として紹介されたユウタのソロ曲「Butterfly」へ。歌い上げる姿には彼のロックルーツを感じた。ラストの、捲り上がったシャツからの蝶のタトゥーをアップにしたカメラワークが素晴らしかった。

その後メンバーそれぞれがラフなデニムスタイルのリンクコーデで登場し、全員での「Paradise」「Love Me Now」と明るい開放感のある曲が続く。

「Chica Bom Bom」はトロッコ上だったのでドヨン、マーク、ヘチャンを至近距離で観ることができたが、後半の曲で、しかもトロッコ上であっても、1つひとつの動きを流さずに踊る彼ら。キレキレ。そして疲れもまったく見せない。本当に全力なボーイズたちである。

そんな彼らは、次の日本の新曲「Colors」の冒頭で仰向けに。そうそう、そのまま休んでーと思うも、歌い始めて8小節ほどでムクリと起き上がる。インタールードでまた仰向けボーイズになったものの、やっぱり8小節で起きるボーイズ。タフネス。

「TOUCH」ではあの綱引き的なダンスを20mの距離で見られてアガった。

メンバーのブラックミュージックセンスが発揮された「Pilot」、マークのドライブ感のあるラップが印象的だった「Cherry Bomb」と続き「皆さん、これは、最後の曲です!」との宣言から放たれたのは「Sticker」。この選曲には驚いた。

だって、いい意味であの人を食ったような素っ頓狂な笛のリフから始まり、複雑な構成で展開される、コラージュ感満載のスリリングなチューンですよ。そう思いつつ、私はこの事実にこの日一番胸が高鳴った。演者の本能としては、さっきの開放感のままそのムードを拡張して熱くなって終わりたくなるものだ。なのに再び公演スタート時のような、冷静さと集中力が必要な曲に自ら引き戻すとは。なんともすさまじい。フィーリングのコントロール的には過酷なはずだ。

しかし最後の曲であっても、表情もダンスも的確に見せるメンバー。彼らは表現のコントロールが抜群なグループなのだ、と思い知ったところで本編が終わった。

実感した“LINK”の意味

アンコールでは「멀리 떨어져서도 여러분들이 내 마음 속에 있습니다.」というメンバーの言葉が印象的だった。「遠く離れていても、皆さんは僕の心の中にいます」という意味だ。まだコールができなかったこの名古屋公演時、どう応援する?という戸惑いがシズニの中にありそうだと感じたが、パフォーマンスと拍手、そして見えないけれど絶対的なものでつながっていく心。これが“LINK”ということかと、あの冒頭のユウタの説明を実感を持って理解した。

歌ったのは、横一列のスタンドマイクで披露した「Dreams Come True」、日本の新曲「Sunny Road」。後者は有名な魔法の呪文のラップから始まる、明るいポップナンバー。長い長いランウェイを、メンバーを追い抜きながら駆け抜けるテヨンの姿はどこか青春的で印象に残った。一方でジョンウの走り方も印象に残る。砂浜で「ちょっと待って~」な女子のそれ!

この日最後となったMCでは、メンバーはまずテイルの不在に触れ、「今はこの場にいないけど、もっと元気な姿を見せられるはずだ」と言ってファンを安心させた。

そして、メンバーたちをリアルに感じられるような言葉が続く。

「シズニを、同窓会で会った古い友達のように感じる」と韓国語で語ったジェヒョン。長い空白期間をも一瞬で埋めるような、信頼の歴史があるということだろう。また彼が「(名古屋での長い隔離期間を経たうえで)今日、公演をしながら生きているという実感があった。そんな実感をくれてありがとうございます」と話すと会場が沸いた。

「ドームに連れて来てくれた皆にありがとうと言いたいです。いつかここでできなくなったとしても、皆がいたらどこでも歌って踊れるなと思った」と清々しく話すユウタ。「健康で会いに来てくれてありがとう」とシズニの体を気遣い、「実は少しうまくいかなかったところもあったけど」と正直に話す真面目なマークは「夢であったドームツアーを叶えられてうれしい」と語った。

「ナゴワ~、あ、名古屋~! 最高~!」と呼びかけ、「僕たちはこの日のためにたくさん練習してきました。NCT 127、カッコいいじゃないですか? かわいいじゃないですか?」とフワフワしながらも日本語で話すテヨン。

「隔離期間を入れて名古屋で8日目を過ごしているが、7回ひつまぶしを食べました」と韓国語で告白したヘチャン。驚くシズニにすかさずメンバーたちから「ヘチャンだけ!」と日本語で声が上がる。

「めちゃんこやっとかめ日本に来ました」と言うドヨン。彼は最後まで粘り強く、やっとかめ話法をこだわり抜いてみせた。

「ご覧のスポンサーの提供でお送りします」とアナウンサーばりの日本語芸を披露するジョンウ。

「メンバー全員幸せだったと思います。幸せを分かち合えるこのような機会を与えてもらえてうれしい」とジャニ。

最後の曲は、さわやかなポップナンバー「Promise You」。

リラックスしたフリーなパフォーマンスで、全員の生歌のバランスが上がり、よく聞こえて人間味を感じられた。

「またね기다려(待ってて)」

という声を残し、彼らはゴンドラに再び乗って上空に帰って行った。

マイクを使わずに「ありがとう」と叫ぶテヨンの声。草鈍器をフリフリしたり拍手で応えるシズニ。

その後私とMICAさんはほかのシズニたちと合流し、駅に向かう長い陸橋や薄暗い住宅地の路地を歩きながら、感想を言い合った。

推しは決まったかと聞かれたが、実のところ今日の公演を観てさらにわからなくなった。ジャニ、テヨン、ユウタ、ドヨン、ジェヒョン、ジョンウ、マーク、ヘチャン……全員が素晴らしくて特別だったから。そしてやはり、テイルの生パフォーマンスを観るまでは決められないという気持ちも。

遠くないうちに、また絶対に足を運ぼうと決意した。

幸せな時間をありがとう、素晴らしいチームNCT 127、そして美しいシズニ들!!

土岐麻子

1976年東京生まれのシンガー。1997年にCymbalsのリードボーカルとしてデビュー。2004年の解散後よりソロ活動をスタートさせる。本人がCMに出演したユニクロCMソング「How Beautiful」(2009年)や、資生堂「エリクシール シュペリエル」のCMソング「Gift ~あなたはマドンナ~」(2011年)などで話題を集める。最新作は2021年11月にリリースしたオリジナルアルバム「Twilight」。CM音楽やアーティスト作品へのゲスト参加、ナレーション、TV・ラジオ番組のナビゲーターなど、“声のスペシャリスト”として活動。またさまざまなアーティストへの詞提供や、エッセイやコラム執筆など、文筆家としても活躍している。K-POPでの最推しはMONSTA XのジュホンとBLACKPINKのジェニ。

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※記事初出時、誤りがあったため、一部本文を変更しました。

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