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佐々木敦、アイドルにハマる 第3回 努力は決して無ではない

4年近く前2020年04月16日 12:04

HEADZ主宰者・佐々木敦が、ここ最近急激にハマっているというアイドルについて語るロングインタビューの第3回。努力がないがしろにされがちな現代社会にアイドルが与える希望や、かつては侮蔑の存在ですらあったというドルヲタに対する気付きなど、今回も佐々木が怒涛のテンションで語る。

メカニズムをわかったうえで感動できるのが重要

──歌唱という点でいうと、佐々木さんが何度も言及している、ゆるめるモ!はまた少し違う視点で聴いてるんじゃないですか?

ゆるめるモ!に関しては、とにかく初期の名曲「逃げろ!!」がめちゃくちゃ好きで。日本社会って特にある時期からやたらと「逃げちゃダメだ!!」ってメッセージが発されるようになったじゃない。それ以前に浅田彰の「逃走論」的な、経済的繁栄を背景にした余裕しゃくしゃくの“逃走”が顕揚されてたことの反動だと思うんだけど。でもゆるめるモ!は、はっきりと「苦しかったら逃げていい」と歌ったわけで、本当にいい歌詞だなと思って、初めて聴いたときはすごく感動した。だからゆるめるモ!は、まず楽曲というか小林愛の作詞に感動したんだよね。で、ライブ動画を観たんだけど、マジで歌えてないなと思ってしまった。

──初期のライブはそれこそゆるくて。

その後、あのちゃんの人気が出過ぎて、俺はグループの誰かに人気が集中したりするのが好きじゃないから、それでちょっと離れちゃったんだよね。ゆるめるモ!は楽曲の幾つかはいいと思う。でも、楽曲の幾つかがいいっていうレベルで好きなアイドルならいっぱいいるんだよね。ただ……単に人気が出たり注目されればいいとはやっぱり俺は思っていないし、人気が出る出ないとか、売れる売れないだけを重要視するんだったら、そもそもHEADZなんてやってないよ(笑)というのがあるんだけど、やっぱりそのあたりの明暗って、あるじゃない。

──アイドルの場合は仕組み的にどうしても売れないといけないというのはありますよね。バンドやシンガーソングライターだったら、もしメーカーや事務所が離れたとしても、自分たちでなんとかできたりするんですけど。

俺はアイドルネッサンスがすごく好きだったけど、なんで解散したかというと、たぶん結局はマネタイズができなかったからじゃん。

──解散時、「状況を大きく打開し、ブレイクスルーさせることが出来ませんでした」という発表がありました。

当然そういうことは、あらざるを得ないよね。僕も大人だし、ずっと音楽業界にかかわってきたから、なんらかの商売的なメカニズムが透けて見えることはもちろんある。それをわかったうえで、それでもなおかつ感動できるかどうかが重要なんだよね。そういう意味では、幾つもの「騙されないぞ」フィルターを通り抜けて、俺の感動ポイントまでやってくるアイドルが、こんなにいたんだっていう驚きはある(笑)。

──実はたくさんいたという。

アイドルは「努力が報われる仕事」

あと歌の話でいえば、いわゆるAKB / 坂道系の人たちって、基本ユニゾンじゃない。もちろんユニゾンで歌うことのよさもあるよ。例えば嵐は男の子たちがユニゾンで歌うことのよさがすごく生かせてるグループだと思う。アイドルを歌唱面で見たときに、やり方として大きく分かれるのは、やっぱり歌割りとユニゾンの違いだよね。つんく♂という人が考え出した、歌割りとかダンスのフォーメーション、あとどんどんメンバーが入れ替わっていくシステムは本当に画期的で、1つの発明だと思う。あまりにも人気の集中するメンバーがいると、その人が辞めてしまうことが大事件になる。なんで大事件になるかというと、もちろんファンも動揺するし、身も蓋もなく言えば今後の収益が減るからだよね。だから解散とか誰かが辞めるとかになると、そのときの瞬間最大風速で、とにかく儲けられるだけ儲けておこうみたいな感じになってしまう。それが俺はすごく嫌なんだよ。でもハロプロって、辞めることに対してかなり自由な感じがするんだよね。誰かが所属グループとは別の道や、アイドルとは別のことをしたくなったら、もちろん一定のプロセスは踏む必要があるけど、基本辞めてもいいっていう。露骨に引き留められるようなことがあんまりなさそう。で、なんでそうなってるかというと、人材が豊富にいるから。

──昇格を待ちながら日々研鑽しているハロプロ研修生がいますね。

誰かが辞めたとしても補充をして、そのことによって新陳代謝が起きていくのは、すごく健康的なこと。どんどんメンバーが替わっていくことも、会社としての対処の仕方がとてもいいと思う。アップフロント偉いなって(笑)。そういう人材のシステムと歌割りみたいなことは全部関係あると思うんだよね。1人ひとりに対して、どれだけちゃんと自分の存在価値を本人が感じられるようにしてあげられるか、という。メンバー間であまりにもデコボコができちゃうと、「私は結局添え物なのね」とか「〇〇ちゃんを輝かせるために私はいるんだ」とか思っちゃいがちだし、事実としてそうなっちゃったりするじゃん。そこをどうやったら回避できるのかっていうのは、すごく重要な問題で。

──そこのケアは本当に難しいんだろうなというのはどこを見ていても思います。

歌がうまい下手というのはもちろん、かわいい、かわいくないというのもそうで。美少女コンテストをやったら上位に来るような人ばかり集めてるグループは僕は嫌なんだよ。そうじゃなくて、ルックスに自信がなくてもアイドルになりたい子だっていっぱいいるわけで、それはすごくいい意味で自己実現への純粋な欲望で、段々アイドルブームがそっち方向に展開していったのは、本当にいいことだと思う。その半面、わりと簡単にアイドルをやれちゃうってことのよくない点もあるとは思うよ。だってロクに努力しなくてもなれちゃったりするから、ちょっとイヤなことがあっただけで辞めちゃったりするわけじゃん。

──確かに。

でも、本気でアイドルになりたくてなった子は、何年間かでものすごく魅力的になるんだよね。それはルックスうんぬんだけじゃなくて、もっと総合的な輝き。そうするとファンが増えていって、結果的にその子の中に自信が生まれるわけじゃない。自己承認欲求って、実は他者からの承認欲求なわけだけど、でも本当はやっぱり「自分で自分を認めてあげられる」のが目標だと思う。誰か忘れたけど、ハロプロのメンバーがインタビューで、「アイドルってなんだと思います?」って聞かれて、「努力が報われる仕事です」と答えてた。努力した本人がそう言えるのって素晴らしいなと思った。努力が報われる仕事って今、本当にないじゃない。僕は日本って“努力”というものがすごくないがしろにされがちな社会になってると思う。恋愛とかでもさ、よく言われることだけど、昔の「101回目のプロポーズ」の「僕は死にましぇん!」みたいなのって、今同じことをやったら完全にストーカーでアウトなわけじゃない。

──それはそうだと思います(笑)。

ちょっと前に居酒屋でメシ食ってたら槇原敬之の昔の曲が流れてきて、なんて曲かはわからないんだけど、「例え君が振り向いてくれなくても、最後まで僕は君のそばにいるよ」みたいな内容の歌詞だったの。これって今だと超ヤバい奴にされちゃうわけじゃん(笑)。ぱっと聴いたらヤバいんだけど、要するに歌ってることは「君に好きになってもらえるように僕は努力を続けたい」ってことなの。別に「ずっとお前に付きまとい続けるぞ」って意味じゃない。だけど、今はああいう歌詞ってすぐさまアウトだよね。で、俺はそれって、つまり努力しても無意味という裏返しのメッセージだと思うわけ。答えというか評価が最初から決まっていて、そこから逆転しようとしてもしょせんは無駄、みたいな。これは恋愛だけじゃなく、社会的 / 経済的な階層もそうだと思うんだけど、貧富や社会的地位があらかじめ固定されていて、もはや動かしがたい。で、そのことについて、みんな若干のあきらめみたいなものがある。“持てる者”は初めからいろいろなものを持っていて、“持たざる者”は持たされてないから持つことができない。“持たざる者”は“持てる者”を目指すのではなくて、ただ羨望や嫉妬することしかできない。だから努力するだけ無駄と考えるほうが相対的にクレバーに見えてしまう。

大河ドラマを観てるような気持ち

──映画「パラサイト 半地下の家族」でそういうくだりがありましたよね。計画を立ててもうまくいかないからノープランがいい、みたいな。

今の日本で努力や才覚だけで上に行くのは本当に難しい。ゼロ年代にホリエモンとかがそういう志向を標榜したことがあったけど、日本人のメンタリティって、どういうわけか、ああいう成り上がり者を嫌う場合が多くて、なのに最初から金や権力を持ってる人は崇めへつらったりする。今の日本社会には、努力や研鑽を敬遠する空気が根強くあると思う。でも、「そんなことない、努力すれば何かしら報われることがある」っていう希望を与えてくれるのも今のアイドルシーンのいいところだと思う。これは子供にも夢を与えてると思うよ。それこそモーニング娘。なんて「小学2年生のときにモーニング娘。を好きになって、いつか入りたいと思ってました」みたいな子が5年後とかに本当にメンバーになったりしてるわけじゃん。

──ハロプロに影響を受けてアイドルになった人は本当に大勢います。ハロプロのメンバーに限らず。

それってすごい感動的なことだよね。だからこっちは今や、膨大に登場人物がいる、ヒロインも山ほどいる、長い長い時間にわたる大河ドラマを観てるような気持ちになってるわけ。全部YouTube経由だけど(笑)。

アイドルの活動は部活だと思えばいい

──でも、こうして話を聞いてると、さすがにアイドルを好きになりすぎている気もします(笑)。大森望さん的な段階までいく可能性が。

大森さんは現場に足繁く行ってる。でも僕は全然行かないから。そういえば去年「TOKYO IDOL FESTIVAL」のレポートをしませんかっていうオファーが来たんだよ。あれはどこから来た話だったかな。

──音楽ナタリーですね(笑)。

そうだったのか(笑)。確か南波くんが、「編集部からそういうオファーが行くと思います」って連絡をくれたんだよね。あのときに俺は初めてそんなイベントがあることを知ったの。あれだけの規模で同時多発的にすごい数のアイドルが出てるんだと驚いた。タイムテーブルを見て仰天しちゃった。これを南波くんは全部観てるのかと。

──全部は観てないです(笑)。普通のフェスは転換の時間があるのに、アイドルはオケがあればライブをやれちゃうんで、終わったらすぐに次のアイドルが出てきてひっきりなしなんですよ。だからああいうタイムテーブルが組める。

結局、レポートは断って、TIFにも行かなかったんだけど、決して行きたくないわけではなかったんだよ。というか俺の場合、すごくよくあることなんだけど、行ったら絶対ハマってしまうと思ったんだよね。

──あはははは!(笑)

俺は自分で自分にシールドを掛けておかないと、かなりなんでも受け入れちゃうから。拒絶とか嫌悪する力が弱いというか、他人の影響がインストールされやすいし。すごく昔、テクノが流行り始めた頃に「何がテクノだよ!」とか思ってたのに、実際クラブに行ってみたら、気付いたときには踊ってたからね(笑)。そうなってしまいかねないので、仕事の合間にYouTubeを観てるぐらいがちょうどいいんじゃないかな。アイドルだけじゃなくて、とにかく最近はYouTubeを観てる。いわゆる人気YouTuberとかは全然観ないんだけど、お笑い芸人と犬の動画もかなり観る。とにかく犬が好きすぎて、死ぬほどワンコ動画も観てる。

──面白すぎる(笑)。普通に超定番のコンテンツじゃないですか!

YouTubeを観てると、ついついコメント欄も読んでしまう。例えば女性芸人のコメント欄を見ると、どれだけ面白いネタをやってても、コメントは「かわいい」ばっかりなんだよね。Aマッソとか、せっかく面白いネタをやってるのにさ。「そういうのってどうなのかな」とか思いつつ、とにかくコメントを見ちゃう。僕、Amazonのカスタマーレビューも超よく読んでるからね。それであるとき、アンジュルムの動画を観てたら、船木結が辞めることに対して、「運営はこんな才能がある子を取り逃がしたことを反省しなきゃいけない」みたいなコメントを見つけた。この子はアイドル界に必要だからとか、このグループに必須だから、って思うファンの考え方もわかるけど、俺は全然そういうふうに考えないタイプなんだよね。もちろんそういうファンだって、そのアイドルへの愛やこだわりからそう言ってるのだろうけど、意識として半分運営側というか“仕掛ける側”になってしまってるというか。で、それがともすればある種のアイドルファンが陥ってしまいがちな“上から目線”とつながってるような感じもあって。そういう感性が、辞めたくてもなかなか辞められないという人気メンバーゆえの悲劇を呼んでるという気もする。だから、アイドルの活動は“部活”だと思えばいいんだよ。それこそ、アンジュルムのメンバーが、わちゃわちゃしてるのを見ると、これって要するに女子高の部活だよなって思う。まあ部活よりも年齢差があるんだけど。部活って、絶対に先輩が引退していくわけじゃん。でもその代わりに新入生が入ってくる。アンジュルムならアンジュルム、Juice=JuiceだったらJuice=Juiceっていう部活の中に、いろんな子が出入りしていく様子を定点観測していけばいい。俺はそういうふうに勝手に思ってる。今は10代の前半にデビューして10代のうちに引退とか、めっちゃあるじゃん。

──進学のタイミングで、とか。

進学が多いと思うんだけど、その子の人生全部を考えたら、アイドルとして活動していた時間って、すごく貴重な思い出だよね。アイドルを卒業して大学や専門学校に行ってさ、普通に就職して結婚したとしても、10代のある時期、自分は武道館の舞台に立っていたんだ、っていうものすごい記憶を持つ人が今どんどん生まれてるわけで。それってすごくいいことだと思う。その人自身にとっても、例え誰にも言わなかったとしても、その後の人生で困難や苦境に見舞われたとき、どれほどの力になるか。

──しかし、YouTubeのコメント欄からでも話が広がりますね(笑)。

アイドルを好きな気持ちこそが“尊い”

俺はドルヲタ的なメンタリティに対してもかねてから思うところはあったわけ。一番マズいのは疑似恋愛的な感覚だよね。疑似恋愛的な錯覚を醸し出すような仕掛けをある種のアイドルグループはやっちゃったわけじゃん。俺はそれもすごく嫌だった。でも、それはアイドルが悪いわけじゃない。ファンの中にはタチの悪い人もいる。だけど、そういうことをビジネスモデルとしてこしらえた大人が一番悪いという気持ちがあった。こと音楽業界において、いわばパンドラの箱を開いてしまったと俺は思ってた。だから、そういう見え見えの罠にハマってしまう一部のアイドルファン、それこそ買ったCDの枚数を自慢するようなドルオタのことを以前の俺はかなり侮蔑していた。でもここ最近になって、そういうのとは全然違う、いいなと思えるファンがたくさんいることがわかってきたんだよね。

──というと?

最近のアイドルファンって、よく“尊い”って言うじゃない。あれって、要するに“好き”を超えてるっていう意味だよね。単に“推し”とか“萌え”とかじゃないんだと。“尊い”=“リスペクト”だよね。最初に“尊い”っていう表現を目にしたときは、「なんかキモイな」って気持ちになった。でも、いろんなグループがいて、辞めていくメンバーに対しても温かい声を掛けるファンがすごく多かったりとか、そういうのを見てるとだんだん、ああ、“尊い”っていうのは、アイドルが尊いだけじゃなくて、ファンがそのアイドルを好きな気持ちこそが“尊い”んだと、俺は思うようになったわけ。

──それはすごい視点。

まったくの他人のことを、そんなふうに尊重する気持ちになれるのは、すごくいいこと。俺がドルヲタに対して感じる嫌な面は、上から目線みたいなことなんだよね。女性蔑視みたいな。よくK-POPと日本のアイドルの違いみたいなことで、K-POPは徹底的に育て上げるからデビューした時点で完成してる、でも日本は努力とか伸びしろを見せる文化だとかって言うじゃない。でもそれにもいい面と悪い面がある。いい面は、さっきも言ったように努力すれば報われるかもしれないということ。悪い面は「キミ、がんばってるね、引き続きがんばりたまえ」とか言いたがるファンが出てくること。人の努力に対して上からいい子いい子するような感じが俺は好きじゃない。それってやっぱりファンの中に変な欲望があると思ってしまう。でもそうじゃなく、本当に純粋な努力とか、あんなふうにしか歌えなかった子が今こんなに歌えるみたいなことを喜ぶのは素敵なことだと思う。だって、なんで喜ぶのかというと、ずっと応援してきたからなわけじゃない。それって本当に“尊い”ことだと思う。しかも女性のヲタだっているわけだから。そういうことを考えると、知らなかったとはいえ、あまりにもアイドルを一面的に見ていたなと思って反省する日々です。

──佐々木さんがファンダムとかアイドルの物語みたいなものをこんなふうに肯定する日が来るとは思わなかったですよ。

いや、アイドルに限らず、基本的にファンダム的なものは今でも嫌なんだよ。でも1人ひとりのファンの気持ちを考えると、そういう中に真実があることは否めない。アイドルのドラマ性みたいなものに関してもそうで、結局、誰かがシナリオを書いてるようなものは、こっちにだってわかるわけじゃない。ドラマは書くものではなくて生まれるものだから。あからさまに見え見えなドラマに踊らされているのを見ると、そういうことさえわからない人たちを金ズルにしてるあこぎなビジネスだと思っちゃう。自分はそういうものとは関係したくないなという気持ちになるけれど、そうじゃないものもちゃんとあるということが、ここにきてようやくわかってきた。やっと気付けました、もっと前に気付いていたらよかったのにな、という気持ちです(笑)。

ふと気付いたらAKBも好きになってる可能性がある

──それこそ、「ASAYAN」でモーニング娘。と鈴木亜美をチャートで競わせていたこととか、当時本人たちはすごくつらかったと思うんですけど、それをもっと露骨にしてエンタテインメントとして見せたのがAKBの総選挙でしたよね。競わせることの緊張感を最大限に高めてエンタテインメントに昇華するという。

本人たちじゃなくてファンに競わせたっていうのが秋元康の発明だよね。つまり人気投票にしちゃった。ある時期からアイドルグループの人数が増えていくという傾向が高まっていって、それはまずAKBによって一気に膨張するわけだけど、そういった傾向は以前からあった。ある意味、美少女ゲームに似てると思う。美少女ゲーム知らないけど(笑)。美少女ゲームって女の子がたくさん出てきて、どんなユーザーでも自分の好みに合う子が1人は見つかるようになってるんだよね? それはマンガもそうで、マンガもある頃から女性のメインキャラが複数いるようになってきた。これは一種のハーレムみたいな考え方だし、多様なニーズに応えるということだよね。今わざとビジネスくさい観点で語ってるけれども、これは否めないことだと思う。そこに対する批判的な気持ちも僕にはかなりあったんだよね。だからモーニング娘。やアイドルグループのメンバーが増えたり減ったりすることにも正直疑問があった。でも今ではメンバーの増減にはいい面があることがよくわかった。だから、今はこうしてAKB的なものに対してあれこれ物申してるけど、単に俺が思い込んでるだけっていう可能性もけっこうある(笑)。

──よく見れば好きなところを発見するかもしれない(笑)。

ふと気付いたらAKBや坂道系も好きになってる可能性がなくはない。だから自分でも怖いんだよ、受け入れ態勢がすごくて(笑)。どこかで止めないと。だって今日も南波くん、さっきからずっと引いてるもんね(笑)。

──佐々木さんの勢いがすごすぎてびっくりしてます(笑)。アイドルブームの波に乗ってハロプロが盛り返していったのは、ユニゾンの歌やリップシンクのパフォーマンスへのカウンターみたいな面もあったと思うんですよ。メディア露出が減ってもパフォーマンスを磨き続けていて、いざブームが到来したときに、「生歌でここまでできるんだ!」っていう発見から注目が集まったところが大いにあると思っていて。

そうそう。口パク、生歌問題もある。まあ俺は状況次第では口パクでも別にいいんだけど。でも、それこそハロプロの人たちって、あんなに激しく踊りながら生歌でやってるわけで、どういう肺活量をしてるんだろうって気持ちになるよね。あれは、やっぱりとんでもない努力をしてないとできない。才能だけに固定しちゃうと人間って最初から選別されちゃうけど、努力とか「こうなりたい」っていう気持ちが結果を出すっていうことを見せられるのは、単純にすごくいいことだと思う。

かえでぃーの加入動画を何度観たことか

──例えばモーニング娘'20の加賀楓さんは本当に努力で夢をつかんだ人だと思うんです。研修生歴が4年と長く、同期や後輩がどんどんデビューしてく中でもがんばり続けた苦労人じゃないですか。派手なタイプではないかもしれないけど、ハロプロには努力を評価する土壌があり、そこで結果を残した。だから加賀さんがモーニング娘。に入ったときは、みんなが泣いたし。

そう! 俺、かえでぃー加入の瞬間の動画を何度観たことか。

──何度も観たんですね(笑)。

マジで何回も観ましたよ。「人間関係No way way」では最後、加賀楓がセンターに立つんだよね。工藤遥が卒業してからは、加賀楓がショートカットということで短髪補充みたいなことになった。ショートってやっぱり目立つじゃん。だから、「1人だけショートの子がいるな」とは思ってたけど、当時は名前も全然知らなくて。「人間関係~」のMVを観たとき、またコメント欄の話で恐縮ですけど(笑)、かえでぃーがセンターに立ったことに感動してるファンがいっぱいいたわけ。「やっと、かえでぃーが認められた!」とか。で、こんなふうに思われている子なのかと思って検索したら、加入の瞬間の動画が出てきて。

──そこからまた、さかのぼって。

そう。そしたら、かえでぃーが新メンバーとして部屋に入ってきた瞬間に牧野真莉愛が驚きとうれしさで泣き崩れるシーンがあって。2人は研修生で一緒だったから。「ずっと待ってた」って言って。その後、かえでぃーは、ニコニコ笑ってる横山玲奈の横にいって、泣きそうになりながら自己紹介してた。あの動画を何度観たことか(※動画の36分50秒付近)。

──もう歌とか曲が関係ない(笑)。

あれはかえでぃーがおばあちゃんになっても自分で観れる動画だよ。「50年前、私はあんなにうれしかったんだ」って。そんなこと俺たちにはないじゃん、当たり前だけど(笑)。しかも加賀楓は加入後に歌も踊りも、さらにどんどんうまくなってるよね。彼女は女の子にも人気が出るタイプだから、今までモーニング娘。にいなかったタイプ。今のモーニング娘。って、あまりにもメンバーのバリエーションが豊富で、普通だったら絶対に成立しないような感じじゃん。でも、それはさっき話したような、男性目線の多様なニーズに応えるというのとは全然違う。言ってしまえば偶然だよね。誰かが辞めて誰かが補充されて、ということを繰り返していたら、いつの間にかああなってたという。

──誰がいつ辞めるかなんて、わからないですもんね。

そうそう。これはユニゾン問題とも関係があって、ダンスもそうなんだけど、全員に同じ振りをそろって見せられると、「おお!」って思う。でもそれってマスゲームだよね。見た目も年齢も相当に違う人たちが、同時にいろいろ動いていて、なのに全体を見ると、ある統一感を持ってるみたいなものが俺は好きなわけ。今のモーニング娘。は完全にそうじゃん。アンジュルムの「46億年LOVE」の振りって、普通だったら左右をそろえるところを故意にバラしてるんだよね、あれも同じ。こういうことを考え出すと、語れば語るほどハロプロとほかのアイドルとの違いみたいな話になってしまう。だから「最近アイドルにハマってるそうですが、乃木坂とか日向坂とかはどうですか?」みたいなことを聞かれるのが一番怖い(笑)。申し訳ないけど、今のところ全然興味がないから。

俺は大人の仕掛けに踊らされてるのかもしれない

あ! もう1つ言いたかったのが、俺、神宿は前からけっこうチェックしてるんだよね。

──曲が毎回いいんですよね。

Wiennersの玉屋2060%を始め、優秀なソングライターが楽曲を手がけてて、名曲が多い。UUUM所属ってのもユニークだよね。ようやく売れ始めてるのか、こないだ渋谷のセンター街でベスト盤が流れてて、めっちゃびっくりした。

──だから一概に、容姿が整った子を集めましたみたいなグループはつまらないという見方もすべきではないと思うんですよね。

確かに。神宿はメンバー全員、相当なレベルでかわいいよね。しかも、ちゃんと歌もうまい。だから結局、ルックスはある意味では全然問題じゃないというか、かわいい子はかわいいだろうし、多少かわいくない子だってアリということでしかない。ただ、かわいい女の子たちを大人が選んできて、「ほら、全員かわいいでしょ。好きでしょ?」みたいにする感じが嫌なの。そりゃ俺だって、そういうグループを見たら「おいおい、かわいいな」とは思うよ。けど、それってあまりに当たり前のことだし、見たまんまだから想像力が入る隙間がないよね。俺はYouTubeを観ながら勝手にいろいろと、その人なり、そのグループなりの余白を想像で脳内補完して感動してるから、そういうことができないぐらいすべてが与えられちゃってると、自分には入っていけない感じがしてしまう。そういう意味でもハロプロはすごいなと思う。「こんなことになってたのか!」って叫ぶぐらい驚きの現状だなと(笑)。以前「モーニング娘。は何度でも黄金期がやってくる」みたいなコピーがあったけど、あれって本当だなと思って。

──もう、めちゃ純粋(笑)。

大人の仕掛けが好きじゃないとか言いつつ、実は大人の仕掛けに踊らされてるだけなのかもしれない。でも、むしろ今は踊りたい(笑)。

佐々木敦

1964年生まれの作家 / 音楽レーベルHEADZ主宰。文学、音楽、演劇、映画ほか、さまざまなジャンルについて批評活動を行う。「ニッポンの音楽」「未知との遭遇」「アートートロジー」「私は小説である」「この映画を視ているのは誰か?」など著書多数。文学ムック「ことばと」編集長。2020年3月に「新潮 4月号」にて初の小説「半睡」を発表した。

南波一海

1978年生まれの音楽ライター。アイドル専門音楽レーベル「PENGUIN DISC」主宰。近年はアイドルをはじめとするアーティストへのインタビューを多く行ない、その数は年間100本を越える。タワーレコードのストリーミングメディア「タワレコTV」のアイドル紹介番組「南波一海のアイドル三十六房」でナビゲーターを務めるほか、さまざまなメディアで活躍している。「ハロー!プロジェクトの全曲から集めちゃいました! Vol.1 アイドル三十六房編」や「JAPAN IDOL FILE」シリーズなど、コンピレーションCDも監修。

取材・文 / 南波一海 インタビュー撮影 / 臼杵成晃 イラスト / ナカG

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