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西寺郷太のPOP FOCUS 第13回 X JAPAN「UNFINISHED」

3年以上前2020年10月08日 9:04

西寺郷太が日本のポピュラーミュージックの名曲を毎回1曲選び、アーティスト目線でソングライティングやアレンジについて解説する連載「西寺郷太のPOP FOCUS」。NONA REEVESのフロントマンであり、音楽プロデューサーとしても活躍しながら、80年代音楽の伝承者として多数のメディアに出演する西寺が私論も展開しつつ、愛するポップソングを紹介する。

第13回では西寺が高校時代に衝撃を受けたというX JAPANの「UNFINISHED」にフォーカス。1996年の「DAHLIA」以来、オリジナルアルバムのリリースはないものの、今も熱狂的な人気を誇るX JAPANの魅力を掘り下げていく。

文 / 西寺郷太(NONA REEVES) イラスト / しまおまほ

洋楽オタクも夢中に

「X JAPANの全オリジナルアルバムを買って、学生時代には相当聴き込んでいた」と言うと、イメージと違うと驚かれることが多いんですが、1973年生まれの僕はいわゆる「第2次ベビーブーマー」「団塊ジュニア」と呼ばれたバンドブーム直撃世代。ちょうど僕のバンドNONA REEVESが彼らと同じワーナーミュージック・ジャパン(X JAPANは厳密に言えばアトランティック)と契約した1997年、Toshlさんの脱退を引き金としてX JAPANは解散を発表。大晦日に東京ドームでラストライブ、そのあと出演した「第48回NHK紅白歌合戦」が最後のステージとなりました。僕らはその秋にメジャーデビューしたので、社内に前年1996年11月発売の「DAHLIA」のポスターが貼られているのを見て、X JAPANと大きく言えば同じレーベルなんだなあ、と感慨深かったのを覚えています。ただ、よく考えてみると、僕が最初にインディーズでCDを出したのは、1996年12月なんで、そこから24年もの月日が経とうとしているんですが、X JAPANのオリジナルアルバムはあれから1枚も出ていないし、今に至るまで結局4枚しか彼らのオリジナルアルバムは存在しないわけです。その間に僕は何枚出しているのかとある意味悲しくもなります(笑)。彼らは通常では考えられないほど寡作なバンドで。それでいてバラードも高速ナンバーも代表的なシングルばかり。解散後の1998年5月2日、ソロアーティストとして、hide with Spread Beaverを率いて大活躍されていたhideさんが急逝。紆余曲折の末、2007年にX JAPANは再結成を果たし、いくつかの新曲を発表しながらバンドは巨大な人気を誇ったまま続いています。

X JAPAN(当初のバンド名はX)の特徴は、何よりも個々の楽曲がタイムレスでハイクオリティなこと。もちろんいわゆる“ヴィジュアル系”などと呼ばれたその後のブームの牽引者でもあるので、派手なパフォーマンスや見た目に話題が集中するのは否めないんですが、ともかく純粋に“曲”がいい。シンプルでタフで、そして特に亡くなられた初期ベーシストのTAIJIさんや、ギタリストのhideさん在籍時はさまざまなベクトルでの立体的アレンジの巧妙さも圧倒的で。そもそもメンバーたちの発想がかなり“ストレートに洋楽的”なんですよね。クラシック、アメリカンハードロック、アバンギャルドな実験性など、あらゆるアイデアが集約されていて。好きな曲は多いですが、特に好きなのは89年リリースのメジャーデビューアルバム「BLUE BLOOD」に収録されている「UNFINISHED」でしょうか。インディーズ時代のアルバム「Vanishing Vision」の収録曲「UN-FINISHED…」の完成形。ザラついたToshlさんのボーカルとYOSHIKIさんのピアノから始まり、YOSHIKIさんの多重録音によるドラムフィルインからTAIJIさんのメロディアスなベース、hideさんとPATAさんのツインギターが組み合わさってくる快感。ストリングスも必要最小限で音数も少なくギターやベースも「ここぞ」と言うタイミングでしか鳴らない。そして通常のこのタイプのバラードに比べてドラムのミックスが大きい(笑)。イントロからアウトロまで完璧に練り上げられた、この「UNFINISHED」を聴いて、当時“洋楽オタク”の高校1年生だった僕も夢中に。周囲の仲間、クラスメイトのほとんどがXファンになっていたんで、一緒に会話できるのもうれしくて。

ユーモアあふれるキャラクター

数あるバンドの中で彼らが飛び抜けていたのは、各メンバーのある種マンガ的なキャラクターの濃さ。X JAPANのデビュー当時世界で一番勢いのあったロックバンド、Guns N' Rosesにも同じ印象を持つんですが、メンバーそれぞれのファッションや方向性の違いを打ち出すことで個性がくっきり分かれていましたよね。特に僕はToshlさんのフロントマンとしての力がほかのバンドとの差だなと感じていて。パワーがあってパンチがある素晴らしいボーカルの持ち主で、かつある種コメディアン的なエンタテイナーとしての魅力もある人。僕がToshlさんってさすがだなあと感じたのが、X JAPANが再結成を果たした東京ドームでのライブでした。Toshlさんが洗脳騒動から復活したタイミングで、お客さんも「大丈夫かな?」とピリピリした空気感があったんですけど、イントロが始まって「お前らー!」ってToshlさんはいきなり大きい声を出したもんだから、「らー」が裏返って変な感じになっちゃって(笑)。すかさず「声が裏返ってしまいましたー!」と叫んだんですよ。そしたら会場中が大爆笑でスイッチが入って。例えば、つまづいてコケたとか失敗したときにそのことをツッコミづらいほどクールな雰囲気の人っているじゃないですか。X JAPANが単純なハードロック、“ヴィジュアル系バンド”という枠に留まらなかったのは、Toshlさんを含むメンバーのユーモアセンスがポイントなのかなあ、と。カッコよくも面白くも両面から人を惹きつけられるボーカル、フロントマンってすごく少ないので尊敬しています。Toshlさんは歌声だけでも超越した存在ですが。

世界の人々を虜にする純粋なパワー

バンドの場合、作詞曲を担当するのはボーカリストというパターンが多いんですが、X JAPANにはそれがあてはまらなくて。彼らの楽曲の多くは詞曲共にドラマーのYOSHIKIさんが手がけています。僕はYOSHIKIさんが書いた「Forever Love」が大好きで。シングルだと、8分44秒。これが「長いかな?」って普通は思うんですが、聴き始めると異様に心地よくて。歌詞の内容もメロディもシンプルでこれまでのYOSHIKIさんが書かれてきた世界観と同じような言葉が繰り返されるんですが、いつも曲の最後のほうで「終わらんといて」ってなるんですよ(笑)。毎回、引き込まれてポップソングが3分とか5分って誰が決めたんだとまで思っちゃう。たぶんチューニングとか録音の響きなども時間をかけてベストな状態を追求してるからでしょうね。最初、リリースされたときは「またバラード?」とも思ったんですが、時間が経つと何もかも関係なくなって。ジョン・レノンの「Imagine」とか、マイケル・ジャクソンの「Heal the World」、Oasisの「Don't Look Back in Anger」のような世界的なクラシックのレベルに到達したとんでもない名曲だなと思います。そのうえで、最強のToshlさんとYOSHIKIさんに加え、hideさんという日本音楽史に名を刻む指折りの天才がX JAPANの音楽面、ビジュアル面を支えていたわけですからすさまじすぎて、こんなバンドが存在した、今も存在すること自体奇跡だと思ってます。それにしても早く96年の「DAHLIA」以来のオリジナルアルバムは出すべきだとは思いますが……(笑)。

YOSHIKIさんを中心にX JAPANの楽曲には耐久性があって、濃さと重みと深みがある。少しJ-POP的でスペイシーな「Rusty Nail」も、「WEEK END」も、hideさん作詞作曲の陽気なポップロック「Joker」も最高。ある種歌舞伎のような、1曲聴くと映画や舞台を鑑賞したような満足感を覚える「Silent Jealousy」も圧倒的。そして脱退され若くして亡くなられたベーシストTAIJIさんが作曲、Toshlさん作詞の「Voiceless Screaming」も大好きです。TAIJIさんのアコースティックギターがまた素晴らしくて。世界各国には多くのX JAPANマニアがいるそうですが、それは言葉や国籍を越えて熱狂させる音楽の純粋な力があるからだと思います。ともかく、たくさんの曲が溜まっているそうですから、一刻も早くアルバムをリリースしてほしいですね。ポップミュージックの歴史上あまりにも1つの作品にこだわりすぎて煮詰めすぎると、内容的にもうまくいかない結果になることも多いのですが、X JAPANの新作がそうならないことを祈ってます。

西寺郷太(ニシデラゴウタ)

1973年生まれ、NONA REEVESのボーカリストとして活躍する一方、他アーティストのプロデュースや楽曲提供も多数行っている。7月には2ndソロアルバム「Funkvision」をリリースした。文筆家としても活躍し、著書は「新しい『マイケル・ジャクソン』の教科書」「ウィ・アー・ザ・ワールドの呪い」「プリンス論」「伝わるノートマジック」「始めるノートメソッド」など。近年では1980年代音楽の伝承者としてテレビやラジオ番組などさまざまなメディアに出演している。

しまおまほ

1978年東京生まれの作家、イラストレーター。多摩美術大学在学中の1997年にマンガ「女子高生ゴリコ」で作家デビューを果たす。以降「タビリオン」「ぼんやり小町」「しまおまほのひとりオリーブ調査隊」「まほちゃんの家」「漫画真帆ちゃん」「ガールフレンド」「スーベニア」といった著作を発表。イベントやラジオ番組にも多数出演している。父は写真家の島尾伸三、母は写真家の潮田登久子、祖父は小説家の島尾敏雄。

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