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犬山紙子&劔樹人がファン目線で考える“アイドルのセカンドキャリア”|アイドルに休みと学びの時間を

「アイドルのセカンドキャリアを考える 最終回」ビジュアル
2か月前2024年01月25日 7:04

元バニラビーンズのレナをナビゲーターに迎え、引退後に異なる仕事に就いて新たな人生を送る“元アイドル”たちに、その後のセカンドキャリアについて話を聞く連載「アイドルのセカンドキャリアを考える」。これまで元SKE48の柴田阿弥、元アイドルカレッジ / MELiSSAの佐藤春奈、元風男塾(腐男塾)の“よきゅーん”こと乾曜子、元アイドリング!!!の遠藤舞、元フィロソフィーのダンスの十束おとはに登場してもらい、それぞれの立場から現役時代の葛藤やセカンドキャリアの歩み方、現在の仕事のやりがいを聞いてきた。

最終回となる今回は、これまでとは角度を変えてファンの立場から“アイドルのセカンドキャリア”について考える。ゲストはハロー!プロジェクトの大ファンとしても知られており女性の生き方についてのコラムも執筆する犬山紙子と、犬山のパートナーであり、同じくハロー!プロジェクト好きでその推し活の日々を描いたコミックエッセイ「あの頃。男子かしまし物語」が映画化された劔樹人。ファンの立場だからこそ見える、アイドルを取り巻く環境と課題について3人に語ってもらった。

取材 / レナ 文 / 下原研二 撮影 / 小財美香子

アイドルを持続可能なものに

レナ 私はバニラビーンズとして11年間活動していたんですけど、解散が決まってからセカンドキャリアにすごく悩んだタイプで。自分の人生なので今は開き直ってますけど、周りにはまだ現役で「そろそろ卒業が見えてきてどうしよう?」と悩んでいる子もいるんですね。私はアイドルは推してくれるファンの方がいるからこそ活動ができると思っていて、今回はお二人にファンの視点から「アイドルが1人の女性として将来をどう見据えればいいか」をお伺いできればと思っています。

劔樹人 僕が今一番のポイントだと思っているのが「セカンドキャリアという感覚をどうなくしていくか」ということなんです。社会に流れる「アイドルは若い時代にしかできない」という空気が一番の問題だと思うんですよ。その風潮は女性アイドルだと特に強いから、アイドル自体をどう持続可能なものにしていくかが課題だと感じています。

犬山紙子 確かに男性アイドルの場合、40代、50代と年齢を重ねても現役で活躍されている方も多いもんね。柏木由紀さんが32歳でAKB48を卒業することが話題になっていましたけど、32歳ってまだまだギャルで成長過程。年齢を重ねるよさは、当たり前だけど女性にもあるわけで、女性もいくつになってもアイドル活動はできるはずなんです。ファンには「若い子じゃなきゃダメ」という人もいるかもしれないけれど、「推しを同じグループでずっと見ていたい」という人もいるはず。多様な在り方があるとよいですよね。つるちゃん(劔樹人の愛称)の言う通り、まずは持続可能な形をどう作っていくかが大事だと思いますね。

レナ 私はアイドル時代、将来の人生プランを考えることはファンへの裏切りなんじゃないか?と思っていたんです。ファンの方と同じ夢を見ている、というのがアイドルとしての正しい活動フォーマットだと信じていて……。だから11年間の活動を振り返ると「アイドルを辞めたら何をしよう?」と想像したことがなくて、「一生このグループで活動しよう」と考えていました。その結果、解散が決まってから悩むことになったんですけど。ファンの立場からすると、アイドルが卒業後の人生を考えるのって裏切られた気持ちになるものですか?

 昔、久住小春さんがモーニング娘。を足がかりに次のステップに進みたいという主旨の発言をしてファンの反感を買ったことがありましたよね。当時は僕もモヤモヤしたけど、時間が経つと考え方も変わってきて、今は「しょうがないよな」と思うんです。ファンに伝わる形で発言したのはよくなかったかもしれないけど、実際今のアイドルを取り巻く状況を考えると、将来を意識ながら活動しないといけないわけで。

犬山 私はアイドルが好きで応援していますけど、同時にいち女性としても見ているんですね。私は転職の経験があるし、違う仕事をしてみたくなることもある。当然、その自由性はアイドルにも担保されるべきものだと思うんです。今、「ファンを裏切ってないか?」と思うレナさんの真面目な気持ちを受け取って感動していて……。そこまでファンのことを思って活動している子たちがいるんだから、変わるべきはファンや社会のほうですよ。アイドルを続けたい子は続けられて、ほかの仕事に興味があればチャレンジできるような環境が必要だと思います。

 うんうん。それで考えるとNegiccoのファンからの受け入れられ方はすごいですよね。メンバーが歳を重ねて結婚や出産をすることを、ファンが受け入れているから持続可能性がある。

犬山 私もNegiccoさんのことを思い出してた。本当にいい活動の仕方をしているよね。アイドルは歌や踊りのスキルを磨くことも大切だけど、人間は生きていたら成長してできることも増えていく。トーク力があったり、特定のジャンルに詳しかったりする子は、そういった別軸の活動を並行してもいいと思うんです。日本だと女性が成長すること、年齢を重ねることがすごくネガティブに捉えられてる気がしていて。アイドルの子たちも自分が20歳で周りが10代なら「私はおばさんだから」と先回りして自虐しなきゃいけない間違った空気がありますよね。もちろん、ファンがアイドルに疑似恋愛することをなくすべきだとは思わないけど、それだけの存在として消費してしまうと、女の子は若い頃にしかアイドルをできないことになってしまう。若さや恋愛ではない魅力の部分を、きちんとマネタイズできる方法を模索したいです。

相談できる存在の重要性

レナ 2010年代のアイドルシーンを振り返ると、テレビになかなか出られないけど、アイドルには簡単になれるという時代だったと思うんです。ライブの本数は多いからアイドルファンの方にはそこそこ認知されて、「オリコン◯位に入りました」という肩書きだけが残ったグループの女の子たちがたくさんいるんですよ。でも、さっきも話したようにアイドル以外の選択肢を考えるのは裏切りのような気がして、今セカンドキャリアで悩んでいるという。

犬山 アイドルのセカンドキャリアについて考えたときに、アイドル活動と学業の両立の難しさがあると思うんです。若い頃から仕事をすることで、高校や大学を卒業して就職活動をするといういわゆる“一般のルート”から外れた道を歩まされる可能性が高くなるわけですから。そうなったときに事務所でも、そのほかでもセカンドキャリアを一緒に考えてくれる、相談できるような相手は必要だと思います。

 今はそういったサポートをしている事務所もあると思うけど、まだまだ数は少なそうだよね。

レナ 私は誰にも相談できなかったタイプなんですけど、大学生や社会人にはそういった窓口はあるんですか?

犬山 もちろん大学でも相談できるし、社会人には転職エージェントがありますからね。だからこそアイドルにもそういった窓口は必要。相談することで「ファンを裏切る行為かもしれない」と感じるかもしれないけど、その子の人生がかかっているわけですから。相談することで、ファンにどう寄り添った発信ができるかだったり、両立の可能性もないかだったりも考えられますし。

 そこはファンがある程度寛容になっていかなきゃダメですよね。

犬山 うん。その子の将来にまで口を出していいのは一生推したファンだけだと思う。

レナ ちなみに理想のセカンドキャリアを送っているなと思うアイドルはいますか?

犬山 あやちょ(和田彩花)のセカンドキャリアの歩み方がすごくいいなと思います。彼女は「学びたい」と思って学び、そしてフランスに留学しましたよね。やりたいことにすごく素直に向き合っているし、あそこまで自分の思想を語れるのもすごい。今の彼女からは「売れているほうがいい」という世間一般の感覚からとてもいい距離を取れているように見えます。その生き方にものすごく憧れますね。

 僕はあやちょと音楽をやってますけど、彼女はハロプロ時代には詞を書いてなかったんですよ。それでもずっと自分の中で積もり続けていたものがあって、「詞を書いてみたら」と伝えたらあふれるように言葉が出てきて15曲くらいあっという間にできちゃった。だから興味があることには1回挑戦してみるのも大事かなと思います。

レナはどうやってセカンドキャリアを歩み始めた?

レナ 私の世代のアイドルは自分も含め、ちょっと歌える、ちょっと踊れる、ちょっとしゃべれる、という器用貧乏なタイプが多かったと思うんです。もちろん芸能界の第一線で活躍している人もいますけど、それは本当にひと握りなわけで。

犬山 でも、それってすごいことですよ。全然貧乏じゃない器用だと思います。芸能界ってバランス型の人が売れていると思うんです。もちろん突出したタレント性を持っている方が最前線に立っているかもしれないけど、いろんな場面で重宝されるのはバランス型のタイプだと思う。

ナタリースタッフ それで言うとレナさんもボートレース多摩川のMCとして日々お忙しくされていて、しっかりとセカンドキャリアを歩まれているように感じます。将来について悩んでいたレナさんがボートレースのお仕事に出会った経緯はなんだったんですか?

レナ もともとバニラビーンズとして、ボートレース多摩川さんが2011年にスタートさせたアイドルフェスのナビゲーターを担当していたんです。解散を発表したタイミングでボートレース多摩川さんから「MCをやってみませんか?」と声をかけていただいて。そのアイドルフェスにはいろんなグループが出演していたから「どうして私なんだろう?」という思いもありました。でも、私はショッピングモールであるとか自分たちのことを初めて観る人たちの前でライブをするのが好きだったんですよ。ボートレース場も遊びに来ているお客さんが得体の知らないアイドルのライブを観るみたいな状況になっていて(笑)。きっとその当時のがんばっていた姿を見てオファーしてくださったと思うので、引き受けることにしました。

 そうやってMCのお話がくるってことはトーク力があるということだし、T-Palette Records(※2011年に設立されたタワーレコードのアイドル専門レーベル)時代から踏んできた場数が今のお仕事に生きているということですよね。

レナ 10代の子と仕事をしていると、20代前半でも現場によっては自分たちが最年長ということもあって。いつの間にか「バニビ姉さん」と言われる場面が増えてきたんです。違和感はありつつも、その状況を受け入れないといけないタイミングがデビューして1、2年で来ちゃったんですよね。そうやって現場ごとに空気を読んで、瞬時に立ち位置を変えてやっていくうちにトーク力が身に付いたのかもしれませんね。

Negiccoに見る、愛され続けるアイドル像

レナ T-Paletteの立ち上げ時に、Negiccoさんとバニラビーンズの2組がデビューしたんですよ。Negiccoさんのほうが芸歴は長いんですけど、そこでもやっぱり私たちのほうがお姉さんに見られて(笑)。Negiccoさんが売れて今も活動している要因として、いつまで経っても初々しいんですよね。本当にそこが真似できないというか。

犬山 わかるわかる。ほんわかしてるもんね(笑)。

 Negiccoは活動拠点を地元の新潟に置いたことで、東京の大量消費のサイクルにさらされなかったのはよかったですよね。

犬山 ファン層も幅広い印象があります。恋愛感情を持って応援する人もいれば、孫娘を見るように応援している人もいるのかもしれない。

レナ 今はアイドルに限らず地方に拠点を置くアーティストも多いですから、そう考えるとNegicco姉さんはその先駆け的存在ですよね。アイドルシーンの中で戦っていかないといけないんですけど、“すり減らす”と“戦う”は全然違うから、自分たちは時代に合っていない売り方をしていたのかなと思います。

 うーん、あの時代はアイドルの数が多かったというのもあると思う。グループ数に対して、席の数が圧倒的に足りてなかったですから。

犬山 私は60年代のファッションの自由な空気感が好きなんです。それまでのウエストを絞って足を隠すといった保守的なファッションから、ミニスカートを女性たちが自分たちのものにした時代。バニラビーンズが登場したときはすごく素敵なコンセプトの子たちだなと思っていました。

レナ ありがとうございます。コンセプトやステージパフォーマンスは作り込まれていたと思うんですけど、MCになると「なんでこんなに距離が近いんだろう?」みたいなチグハグ感がファンの方にあったのかもしれないです(笑)。

 当時は“神秘のベールに包まれたアイドル”的な売り方は難しかったですからね。

レナ そうですよね。2010年代からアイドルがテレビの中の存在から、ライブハウスに行けば会える身近な存在になった。私たちはその状況に慣れて、どこかでアイドル活動をこなしてしまっていたのかもしれないです。その中でNegicco姉さんがいつまでも初々しさを持ち続けているのがすごくて。Negiccoさんのように愛され続けているグループと、愛されたけど終わってしまったグループの違いってなんだろうと考えることがあります。

 僕はその答えはD.I.Y.にあるんじゃないかなと思っているんです。

犬山 どういうこと?

 レナさんもフリーになって今は忙しく活躍しているわけじゃないですか。だから自分でどれだけできるか、その現状に合わせた所属先を選ぶことを含めてのD.I.Y.の感覚が必要だと思う。大資本の事務所なら仕事はあるけどバーターのようなものしかないとか、小さい個人事務所なら仕事の量は少ないかもしれないけど自分が好きなことをやれるとか、その時々で自分の立ち位置を把握する感覚は大事かなと思いますね。ただ小さい頃から同じ事務所で活動していると、そこがなかなか見えづらかったりすると思うけど。

広い視野を持って

レナ アイドルって自分がどう画面に映っているかを考えるのはすごく上手なんですよ。ただ女性としての生き方はすごく不器用と言いますか。それはアイドルに限らずすべての女性に当てはまるんでしょうか。

犬山 もちろん多様だとは思いますよ。才能ってたぶん、好きなことに自然と打ち込んですごい集中力を発揮するということだと思うんです。でも芸能の世界だと特殊にはなりますよね。芸能の世界でしか得られない力もあるだろうし、そこから派生する仕事もあるとは思うんだけども、やっぱり私はもう少し学びの機会が保障されていてほしい。

 うん、結局そこに行き着くよね。

レナ 具体的にどんなことを学ぶ機会があればいいと思います?

犬山 それは学校での勉強もそうだし、「このことについて知りたい」とか「これをやってる時間が好き」とか微弱な“好き”から始めてもいいと思うんです。アイドル活動を通して得てきたものの中で得意なことを伸ばす方向もありだと思うんですけど、もっと可能性を広げてみてもいいんじゃないかな。たぶんアイドルが普段触れ合うのは事務所の方や雑誌社の方とか芸能ジャンルの人たちじゃないですか。もっと違う職種の大人たちと触れ合ってみると、刺激になって可能性が広がると思う。これは親目線の意見になるんですけど、実際にその仕事をしている人に会ったことがあるかないかで将来の夢に設定する際の解像度が全然違うんですよ。アイドルの子たちはそこが芸能に一本化されてしまっている感じがする。

 だからこそファンも「アイドル活動に打ち込んでいてほしい」という気持ちをもう少しマイルドにするべきだよね。アイドル本人はファンの思いに縛られて「アイドル活動以外のことに興味を持つと、応援してくれるファンが離れちゃう」と心配になると思うから。そうすると自然と将来を見る視野は狭くなる。僕としては完全に引退されるよりも、休み休みでいいから何かしらの活動を続けてもらえるほうがありがたいんですよ。レナさんの周りにいる今人生の岐路を迎えているアイドルたちも、ファンの方々は何かしらの活動を続けてほしいと思っている人が多いと思います。

しっかりと休めて学べる環境作りを

レナ 私がすごくうらやましいなと思ったのがBiSHの解散だったんですよ。どういう経緯かはわからないけど、メンバーそれぞれが得意なこと、やってみたい道に進むというのをグループに所属しながら実現することができた。しっかりと事務所と会話をして卒業する姿に「これこれ!」と思ったんです。

 BiSHの場合、モモコさん(モモコグミカンパニー)が小説を書いたり、アユニ・DさんがPEDROとして活動したりということをグループ所属時からやっていたのはよかったですよね。グループに所属しながらその先のことをやり始めるのがすごく大事だと思います。元アンジュルムの竹内朱莉さんがグループを卒業する前に、書道の個展を開催していたんですね。これが仮にグループを卒業してから始めるのだとスタートダッシュが違いますから。やっぱりグループ在籍中に自分の人生の筋道をつけておくのは大事だと思いました。BiSHはまさにその成功例ですよね。

犬山 私はつるちゃんのその話、けっこう厳しいことを言ってると思う。もちろんグループ活動をしながら新しいことに挑戦することも大切だけど、それも時間と休みがないと無理じゃない? まずはそこの解決が先だと思う。セカンドキャリアを具体的に考える前に、アイドルがちゃんと休めて学べる環境を確保しなきゃ。

 確かにそうだね。その環境を作るためにファンも事務所も考え方を変えなきゃいけない。

犬山 レナさんはバニラビーンズ時代も忙しかったでしょう?

レナ まったく身動き取れなかったですね。自分たちのグループは利益を出せていなかったので、当然お給料もなかなか上がらなくて。休みの日にアルバイトをして、売れてもいないのに1カ月休みがないこともありました(笑)。今思うと自分もその状況に甘えていたのかもしれないけど。

犬山 いやいやいや、甘えじゃないですよ! これは周りやファンが声を上げるべきことだと思います。アイドルに「自分たちで声を上げろ」というのは責任を押し付けすぎだし、周りが言わないと何も変わらない。

レナ 私は声を上げられなかった側なので、もしファンの方からそう言っていただけるとうれしいですね。

 今はアイドルの恋愛スキャンダルについてとやかく言うのは時代遅れという声もありますよね。でも、実際にそういう報道があると人気が落ちたり、結果的に収入が減ってしまうという現実もある。事務所も社会の流れで少しずつ変わってきているとは思うけどビジネスの部分もあるから、希望としてはまずはユーザー、ファンの側から意識が変わってほしいという気持ちはあります。

レナ ファンの中には「俺が育ててやってる」という考え方の人もいますけど、そのあたりの意識は変化してきているんですかね?

 もちろん変わってきてるとは思いますよ。ただ、変化のスピードは遅いですよね。

犬山 女性アイドルに同性のファンがつき出したのはいい流れですよね。それによって同じ女性として、人として見て「おかしいよね」という視点がファンの中により生まれてくるんじゃないかな。

「推しの人生を丸ごと応援したい」という気持ち

レナ 例えばアイドルが結婚して家族を持つ、ということが当たり前になればアーティストとしての息は長くなるわけじゃないですか。それってファンの方にも返ってくることですよね。

犬山 うんうん。新しい潮流を作っていけたらいいですよね。私もこんな偉そうにインタビューに応えるだけじゃなくて、SNSでもなんでも発信していかなきゃいけない。ハッシュタグ「推しを休ませろ」を付けて(笑)。

レナ それも1つの応援の形ですね(笑)。

犬山 その結果アイドルが自分の“好き”を見つける時間につながれば、セカンドキャリアにも生かすことができる。ファンの「推しの人生を丸ごと応援したい」という気持ちが大事なのかなと思います。

レナ 趣味や家庭が充実していればアイドル活動にもいい影響が出てきそう。アイドル活動だけ、となると逃げ場がなくなって心も疲れてくるだろうし。

犬山 例えば趣味で園芸を始めたら楽しくなって、将来園芸の仕事につながったりしたらいいですよね。売れる、売れないはもちろん捉われてしまうものだとは思うけれど、それよりも自分がしっくりくる働き方をするのが一番大切だと思う。

もっと寛容になれる可能性はある

 コロナ禍以降、表舞台に出る人が多少休みやすくなった感じってありませんか?

レナ 確かに、以前よりは「体調が悪いです」と正直に言える空気はありますよね。

 ファンも演者の不調を受け入れるようになったというか。「なら仕方ない」と気付けたということは、もっと寛容になれる可能性があるということ。そうやってファンや社会、環境が変われば、アイドル側も気持ちに余裕ができて、自分に本当に必要なものや立ち位置が見つけやすくなるんじゃないかな。

犬山 アイドルはずっと見られ続けて、いろんなことを言われて本当にすごい職業ですよ。ライブもたくさんあるから体調管理も必要ですし、メンタルにかかる負荷は想像できないくらいだと思う。

 個人的にはアイドルは音楽をやってる人たちなので、グループ卒業後も音楽を続ける人が増えてほしいんですよ。

犬山 それは私も、ファンとしてそう願ってしまう。

レナ 作詞作曲ができたり楽器を弾けたり、自給自足みたいなことがアイドルに必要ですよね。チェキ以外のお金の生み方を確保するといいますか。楽曲ができあがるまでのプロセスを理解して、どこかの工程を自分でやれたらアイドルの息も長くなるでしょうし。

 うん。そっちのほうが楽しくなると思う。

レナ ただ、グループに所属していると1人でステージに立つ自信がない子もいると思うんです。私がまさにそれで、今でもたまに歌のオファーをいただくんですけどすべて断っていて。「2人が1人になっただけじゃないか」と思われるかもしれないけど、私はセンターには立ったことがないから1人で歌う自信がないんです。

 そういう理由もあるんですね。でも小さい頃から音楽に触れているわけですから、もっと気楽にトライしてもいいんじゃないかなと思いますけどね。

日々の活動の積み重ねを自信に

犬山 先ほどのレナさんのお話を聞いて、もしかしたらグループに所属するアイドルの子たちは「お前1人じゃどうにもならない」という変な呪いをかけられているのかなと感じました。

レナ それはあるかもしれないです。私は事務所の社長に「お前は1人じゃ何もできないから2人組なんだよ」と言われ続けていたんです。それは「もっとメンバーの力を借りなさい」という意味だったと思うんですけど、当時の私には「自分は半人前なんだ」という考えしか残らなくて。

 そう思っているアイドルは多そうですよね。大きなグループに所属していると自然にそういう考え方になっちゃうと思う。

犬山 特性だけを評価され続けると自己効力感は育たないと思うんです。自分はアイドルという属性や肩書きがあるから評価されているのであって、アイドルを辞めたらなんの価値もなくなってしまう、と思わされている風潮はおかしい。私はお仕事でいろんなアイドルの方に会う機会があるんですけど、本当に素敵でトークもうまくてすごい能力に満ちあふれている子たちなのに、なんでこんなに自虐したり自信がなかったりするんだろうと不思議だったんですよ。レナさんのお話を聞いて腑に落ちました。本当にもったいない……。レナさんのように言語化してくれている人がいるから、その言葉が若い子に届くといいな。

 自己肯定感を高めるということも大切なテーマですよね。ただ、悪い意味で言うと自己肯定感が低い人のほうが使う側はやりやすい。一般企業でも「お前はこの会社を辞めてやっていけるのか?」というプレッシャーのかけ方をしているところもあるでしょうから。だからこそ何回も言うけどファンの側から変わっていくべきなんですよ。

犬山 私はレナさんのような言語化能力がある人に「あなたはここが素晴らしいんだよ!」と教えてあげる活動をしてほしい(笑)。

レナ (笑)。私は自己肯定感がとても低いんですけど、11年間の活動で積み重ねてきたものがあるから自己評価は高いんですよ。ちゃんと歩んできたという自信がちゃんとついているので、それだけで今のところは仕事ができていて。

犬山 おお! まさにそれだと思います。年齢を重ねるとアイドルとしての価値がなくなるとか、そういった価値観に対して「いや、私はこれだけできるようになりましたけど?」と言える。これこそが解ですよね。それだけ魅力的になっているし、やれることも増えているんだから、もっといろんな仕事もできるしっていう。

アイドルがセカンドキャリアを考えるために

レナ 今回お二人とお話して、アイドルの立場からだとなかなか発信できないようなことを言っていただけてうれしかったです。さまざまな経験をしているお二人から人生を歩むうえでのアドバイスは何かありますか?

 僕は就職などを理由に何度かバンドを辞めているんですが、結局また音楽の道に戻ってきて、今となっては売れたくて続けている感覚はないんですよ。バンドが好きなんですよね。アイドルも「これは仕事だから」とか「食べていくためにやらなきゃいけない」と言う感覚と関係なく、自分が好きだからやっているという環境を作れるといいかもしれないですね。

レナ その考え方に至ったのは、ご結婚されたことも大きい?

 そうですね。自分は家族で支え合っているから、今の環境で音楽ができています。音楽という他人から評価される表現をやってはいるけど、その評価が続けたり辞めたりする理由にはならないです。

レナ 犬山さんはいかがですか?

犬山 アイドルには当てはまらないアドバイスになってしまうんですけど、私が自分の人生をいい感じに送るために大切にしていることがあって。まずスケジュール帳に休みの日を書いていくんです。

レナ 休みのスケジュールから書き込む?

犬山 そう。仕事もプライベートも無視して、1週間のうち「ここは絶対に休むぞ」という日を確保するんです。そこに仕事が入ってきたら、休みのリスケをする。私の場合そうしないと体やメンタルが潰れるというのが30代前半でわかったので、同じことができる人は参考にしてほしい。それをやらないと人って永遠に働き続けてしまうので。あとは信頼できる友達を作ること。

レナ それは男女関係なく?

犬山 どちらでもいいと思います。私の場合は女友達なんですけど、「これを言ったらさすがに私のことを嫌いになるよね」くらいの自分の醜い部分もさらけ出せる相手。それに傾聴できるようになることも大切です。友達の話に茶々を入れずに最後まで聞いて、なおかつ変なアドバイスや駆け引きはしない。「大好きだよ」という気持ちを惜しみなく毎回伝えて、お互いにその関係を構築できると強いと思うんですよ。つるちゃんは夫ですけど信頼できる友達でもあって、そんな存在がいると生きていける。セカンドキャリアに悩んだときに、まずは相談できる人がいることが一番大事だと思うんです。そういう人に巡り会って、自分をさらけ出して、人の話を傾聴できたらいいなって。これは子供たちにも伝えたいことで、そんな関係性の人がいたら一生幸せになれると思います。

レナ 私のアイドル時代を振り返ると相談できる相手はいなかったですね。友達も少なかったですし。

犬山 忙しくて友達を作る時間がないですもんね。もし難しかったらプロのカウンセラーさんに頼ってもいいと思います。それも「ちょっとしんどい」くらいでもいいから、メンタルがやられる前に相談に行く。まずは孤立しないことが大切だと思います。

レナ では最後に、アイドルが理想のセカンドキャリアを歩んでいくために、当人や社会へメッセージがあればお願いします。

 自分もファンという立場なので、悪い風潮はファンから変えていきたいです。時代の流れに合わせて少しずつ状況もいい方向に変わっていくなら、自分自身もそうなっていきたいなと思います。あとはさっきも言いましたけど、もう少し音楽をやりたいって人が増えてもいいんじゃないかと(笑)。音楽は自由な表現なので、自分には無理だと思わずに気楽にトライしてみるといいと思います。

犬山 セカンドキャリアがうまくいきそうにないと悩んでいる人がいたとしたら、それは社会にそう思わされているだけ。「グループを背負っていない私に価値なんてあるんだろうか?」と思わされている状態なので、まずはそんなことはないということ、自分にはいろんな魅力があるってことを思い出してほしいです。あとはファンの方は一緒に声を上げて、アイドルたちが休みと学びの時間を作れるようにしましょう。とにかく自己責任だと思わないでほしいな。悩みごとは1人で抱えないで、つらくなったらレナさんに相談しましょう!(笑)

レナの取材後記

いよいよ最終回となりました。
最後にお二人とお話しをさせていただけて本当にうれしかったです。
アイドルをやっていたことも、1人の女性としても救われた気がしました。

私はグループが解散し、事務所を移籍して、
お仕事がなくなり正直、この業界から引退を考えていました。
自分の実力のなさを感じたり、「自分はもうこの業界に必要とされていないのではないか?」と思ったりもしました。
でも、家族の支えや、そして何よりもグループ時代の仕事への姿勢を見ていてくれた方がいたことに救われて。だから今、恵まれた環境でお仕事をさせていただけています。
この場を借りてお礼を言わせていただきたいです。
ありがとうございます!!!

こんな不器用な私でも見てくれている方がいることが本当にうれしいです。
犬山さんのお言葉を胸に“いい感じに生きる”を実践していきたい!
本当これに尽きると思います!!
この連載を通してたくさんの方々にお話を聞いてきましたが、皆さんいい感じに生きていてすごくカッコよかったです!!
これを読んでくれてるあなたも自分が思う“いい感じに生きる”を試してほしいです!
またどこかで会える日を楽しみにしています!
アデュー!
ありがとうございました。

犬山紙子(イヌヤマカミコ)

1981年12月28日生まれ、大阪府出身。エッセイスト。2011年、女友達の恋愛模様をイラストとエッセイで描いたブログ本を出版しデビューを果たす。近年の著書に「私、子ども欲しいかもしれない。」「アドバイスかと思ったら呪いだった。」「すべての夫婦には問題があり、すべての問題には解決策がある」がある。現在はテレビ、ラジオ、Webなど多方面で活動している。
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劔樹人(ツルギミキト)

1979年生まれのベーシスト / マンガ家。狼の墓場プロダクション所属。大学在学中より音楽活動を開始し、2009年より神聖かまってちゃん、撃鉄、アカシックなどのマネジメント、プロデュースを手がける。現在はあらかじめ決められた恋人たちへ、LOLOETなどのバンドでベーシストとして活動中。著作に「今日も妻のくつ下は、片方ない。 妻のほうが稼ぐので僕が主夫になりました」「高校生のブルース」「怪のリディム」など。2021年2月に自伝的コミックエッセイ「あの頃。男子かしまし物語」が松坂桃李主演の映画「あの頃。」として実写化された。
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レナ

2007年にデビューした女性アイドルユニット・バニラビーンズの元メンバー。バニラビーンズはスウェディッシュポップを意識したサウンドとレトロなビジュアルで渋谷系ファンなどから高評価を得る一方で「ガラス張りトラック生活」などの風変わりな活動でも注目を浴びた。2018年9月にラストシングル「going my way」をリリースし、10月のライブをもって解散。バニラビーンズ解散後は、トークスキルを生かしてMC・タレント業をメインに活躍しており、“多摩川のおんな”としてボートレース多摩川の選手インタビュー、生配信の番組進行を担当している。
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