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堂島孝平が嫉妬したアーティスト|自分とはケタの違う才能を感じた

堂島孝平
2か月前2024年02月20日 9:02

第一線で活躍するアーティストに、思わず嫉妬するほど衝撃を受けた人物やバンドについて話を聞くこの連載。今回は、1995年のメジャーデビュー以来長きにわたりソロアーティストとして活躍を続けながら、他アーティストとの共同制作も積極的に行っている堂島孝平に登場してもらった。アーティスト活動のみならず、KinKi Kidsやアンジュルムなどへの楽曲提供でも高い評価を受ける彼は、果たして他アーティストをどんな目線で見つめているのだろうか。

取材・文・撮影 / ナカニシキュウ

自分にないものばかりを持っている人

いきなり企画の趣旨を根底から覆すようなことを言いますけど、僕は嫉妬というものをしたことがほぼないんですよね(笑)。もちろん「あの人すごいな」とか「自分にはマネできないな」と思うことはあるけど、それが嫉妬という感覚にあまり結びつかなくて。なのでちょっと置き換えてと言いますか、「今の自分には無理だけど、こういう人に1回なってみたいな」と思うような人を選んでみました。

まずは、坂本真綾さんですね。音楽というフィールドだけにとどまらない方ですけど、10年ほど前から音楽の分野でたびたびご一緒させてもらっていて。どんな場面でも全部が“坂本真綾”なんですよ。僕は彼女を言葉の人、思考の人だとまず思っていて……ものを見るときの角度や、その事象と自分との距離感、それを人に過不足なく伝えることができる。彼女が書く歌詞にもそれは表れていて、作詞家としての俯瞰した視点と自分が主役として歌う視点、その両方のバランスを取って言葉に落とし込むことができる人なんですよね。選択肢をいろいろ持っている自由さが彼女にはあって、そこが本当にすごいなと思います。めちゃくちゃ憧れてる感じはありますね。

それと、これいつも言い忘れちゃうんですけど、声がいいんですよ。めっちゃ当たり前のことなんですけど(笑)、最近観たコンサートでもそれを痛感しました。しかも、あれだけ声がよくて表現力に長けている人なのに、言葉を発さずに佇んでいるだけでも絵になるというのがめちゃくちゃ恐ろしいところで。色彩豊かに明るくポップというよりは、ずっと青い炎が燃えている幻想的な美しさみたいなものがあって、だけどMCや立ち振る舞いには人間味も感じられる。彼女の立っているその一点を見ていればショーのすべてが伝わるみたいな……僕はじっとしていられないんで(笑)、全然タイプが違うんですよね。自分にないものばかりを持っている人だなあと思っています。

真綾さんご本人にこういうことを言っても、信じてもらえないんですよ(笑)。「またまたー」みたいな感じで、あまり真正面からは受け止めてくれない。そういうシニカルな面があるところもまた魅力ですね。

もう完全にアートじゃないですか

それから、藤井隆さん。藤井さんもミュージシャンという括りにはとどまらない人ですけども、もともと僕はコメディアンとしての藤井さんが中高生くらいのときから大好きだったんですね。のちにお仕事でご一緒させてもらうようになって、めちゃくちゃ勉強させてもらってます。やっぱり同じ板の上に立ったときのエネルギーにものすごく感化されるところがあって……ライブの見せ方として便宜上グイグイ行くんじゃなくて、藤井さんの場合は本当に表現したいものが根本にあってのグイグイなんですよ。形式的になんとなくライブをやってるわけじゃなくて、ほとばしるものが常にある。それが本当に素敵だなあと。

特にすごいなと思うのは、藤井さんが一番ノリノリで楽しんでいる瞬間って、お客さんがついて行けなくて戸惑っているときなんですよね(笑)。そんなの、もう完全にアートじゃないですか。デザインじゃないんですよ。やっている音楽はあれだけポップなのに、見やすさ、わかりやすさだけを求めるタイプじゃないっていう。しかも藤井さんって、プロデューサーとしての才覚も優れている方ですよね。めちゃくちゃ俯瞰で見れているはずの人が、いざ演者としてステージに上がると衝動でそれをぶち破ってしまう。僕にもそういうところはあるんですけど、藤井さんは僕の1.5倍くらいはあるんじゃないかな(笑)。収集つかなくなることが本当にあるから、そういうところにもすごく憧れるんですよね。

ここまで話して今気が付きましたけど、真綾さんにしても藤井さんにしても、基本的にマルチに活躍されている方に僕はシンパシーを感じるのかもしれないです。シンパシーというか、畏敬の念というか。ある種、ホームを持たずにアウェーでの戦いをずっとしてきている人たちですよね。そういう人じゃないとたどり着けない境地みたいなものがあると思うし、「自分もそういうふうになりたい」という憧れが根っこにあるんでしょうね。

新しい形のスター

そういう意味では、オーイシマサヨシくんも同じですね。彼の場合は音楽とお芝居ということではなく、同じ音楽というカテゴリーの中で「オーイシマサヨシ」と「大石昌良」という表記を使い分けている。そして自分が歌うときと楽曲提供者としての顔と……2人格っていうんですかね。作り手としても演者としても2人格あって、あれって僕にはできないと思うんです。特に僕は彼がSound Scheduleをやっていた頃から知っているので、元来ゴリゴリのロックミュージシャンなのを知ってるんですよ。その彼がアニメの界隈でギターを持たずにバックトラックを流して歌うことには相当な覚悟が必要だったろうし、実際に葛藤があったと本人も言っていました。だけどそこにちゃんと新しさを見出してやっていったというのが、本当にカッコいいなと。

もともとの大石昌良としての姿を一方ではキープしつつ、求められて作る楽曲を好きになってくれた人たちに向けてオーイシマサヨシという実像を新たに作り上げたわけじゃないですか。これはもう大発明だと思うし、新しい形のスター、ヒーローだと思うんですよ。いろんな人が「これをやりたかったな」と思ってできなかったようなあり方を成立させて活躍しているわけですから。自分に対しての理由付けをちゃんとしてるのが本当に偉いなと思って……「偉い」というと上から言ってるみたいになっちゃいますけど、1人でやるのって本当に理由付けの部分が一番大変なんで。すごく刺激をもらっていますね。

僕も楽曲提供をやりますけど、彼のように人格を使い分けるというよりは、もっと両輪のタイプというか。作家業をやれているのはシンガーソングライターとして活動してきた結果だと思ってるし、作家仕事で得たものが自分の音楽に生かされたりもしているので。昔はめっちゃ分けてたんですけど……例えばKinKi Kidsに曲を書き始めた初期の頃は二枚目路線を意識した歌を書いても、「これは自分ではやれないな」という感じにどんどんセパレートしていったんですけど、今は全然なくなりましたね。自分の中で整合性を取る技術が上がったということかもしれないんですけど、素直に自分がいいと思う曲をやればいいのかな、みたいな。

人が書いた曲を自分の歌として浸透させる能力

余談ですけど、そのKinKi Kidsに関しては……嫉妬という感覚ではないんでしょうけど「歌う人が違えば、自分の曲でもチャート1位になるのか!」という、それまで感じたことのない気持ちにはなりましたね。実は最初に提供した曲って、KinKi用に作ったわけじゃなかったんですよ。あくまで自分でやるつもりで作っていたものの中からまだ世に出していなかった何曲かがKinKiチームの手に渡って、そのまま楽曲提供という道を歩むことになった。だけど、それをKinKiが歌ったらめちゃくちゃ世に知られたわけじゃないですか。そこですごく思ったのが、あの2人の“人が書いた曲を自分の歌として成立させる才能”がすごいってことなんです。それは自作自演が前提のシンガーソングライターにはなかなかない感覚で、ちょっと自分とはケタの違う才能を感じましたね。

付け足すと、真綾さんも藤井さんもそれがやれる人なんですよ。オーイシくんもそうかもしれないけど、人からもらった曲を自分の歌として世の中に浸透させる能力に、それこそ嫉妬するのかもしれないです。ポップスのあり方、ショービジネスのあり方としてすごく美しいというか……僕なんて、一昨年出した19枚目のアルバム(「FIT」)で初めて人に作詞してもらったくらいなんで(笑)。「その人自身が作っていなくても、その人が歌えばその人の歌になる」っていうのは、やっぱりすごい才能だなと思いますね。

それで思い出しましたけど……これはもう本当に余談ですよ(笑)。僕は堺正章さんが小さい頃から大好きで、あるときお仕事でご一緒したときに2人で話せる時間があったんですね。「ここだ!」と思って、思い切って「LPを持ってきたので、よかったらサインいただけませんか?」とお願いしてみたんです。そしたら、なんと堺さんはそのアルバムのことを全然ピンときていなくて(笑)。「ひとりぼっちのマチャアキ」っていう、ザ・スパイダーズ解散後に堺さんがソロとして最初に出したオリジナルアルバムですよ? 1曲目が「さらば恋人」ですよ? こっちは覚えてないわけがないと思うじゃないですか。

そのことにものすごい衝撃を受けて、もう目からウロコが落ちましたよね。きっと堺さんはみんなが求める堺正章をずっと演じてきたんだなって。自分ではないところから発生している、というあり方からしか生まれない美しさってあるんだなあと。本人の思い入れの強さと、相手に伝わる強さは必ずしも比例しないというか。僕もその域に少しでも近付けるように、今後は自分が考えないような、人から求められることもやっていきたいです(笑)。すごく難しいんですけどね。

堂島孝平

1976年2月22日大阪府生まれのシンガーソングライター。1995年2月にシングル「俺はどこへ行く」でメジャーデビューを果たす。1997年には7thシングル「葛飾ラプソディー」がアニメ「こちら葛飾区亀有公園前派出所」のテーマソングに起用され全国区で注目を集めた。ソングライターとしての評価も高く、KinKi Kids、藤井フミヤ、山下智久、Sexy Zone、PUFFY、THE COLLECTORS、藤井隆、Negicco、アンジュルムなど数多くのアーティストへの楽曲提供やサウンドプロデュースでも手腕を発揮している。2024年2月22日に48歳の誕生日を迎え、翌日2月23日に東京・LIQUIDROOMにてバースデーイベント「堂島孝平生誕フェス -2024-」を開催する。
堂島孝平 Official Website
堂島孝平 (@Dojima_Kohei) / X
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堂島孝平 - YouTube

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