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愛する楽器 第14回 ASA-CHANGが作ったタブラボンゴ

4年以上前2019年09月28日 10:06

アーティストがお気に入りの楽器を紹介する本企画。第14回はASA-CHANGに、自らが生み出したタブラボンゴについて語ってもらった。

自分で作った新しい楽器

タブラボンゴは僕が考えた創作楽器の1つです。インドの打楽器であるタブラは、U-zhaanがポップな存在にしましたけど、以前は“めんどくさい楽器”“マニアックな楽器”だと思って僕自身とっつきにくさを感じていたんです。日本でいうと鼓みたいなもので、楽器界のシーラカンスみたいというか、とてもセンシティブなものだという呪縛があったんです。ちゃんとやるには本場で弟子入りしなきゃいけない、とかね。でも、音や持ってる雰囲気の魅力はあった。だったら自分でタブラをポップにしていこうと。僕は我流というか亜流みたいなものがしっくりくるんです。だから、“タブラに似てるけど存在しないもの”を作っちゃって、自分のほうにタブラのリズムや音色を引き寄せたいなと思ったんです。

思いついたのはけっこう前で、僕がまだ東京スカパラダイスオーケストラをやっていた頃(1985~1993年に在籍)。スカパラ時代にインドネシアのジャカルタに演奏旅行に行ったとき、ちょうど似たような楽器があったんです。それはダンドゥットという音楽に使われる楽器でしたけど、名前はタブラボンゴのタの字もなかった。太鼓のことはどれもクンダンっていうんですよ。これもクンダンだし、あれもクンダン。ケチプンともいうらしいんですけど、タブラボンゴはケチプンでもないし、インドネシアで買ってきたものを改良して自分で作った新しい楽器なので、結局、正式名称はタブラボンゴなんです。

ボンゴの要素だけだと、ちょっと音がスパイシーじゃないんですよね(笑)。タブラボンゴは“ポコポコポコポコ”だけじゃなく“ドゥーンドゥーン”っていう、ちょっとエスニックな音色が出せる楽器だと思っています。あとは、太鼓の中にマイクを入れて、アンプに直結して音が出せるというのも素敵なことです。一般的な民族楽器だと音が小さくて、バンドで爆音を出してたらマイクでも音が拾えないことも往々にしてあるんですよ。それに本物のタブラは倍音が際立っていてそれが美しさにもなってるんですけど、アンサンブルするときに音がほかの楽器とぶつかりやすい要素でもあるんです。大人数のときは周りにちょっと音の隙間を作ってあげないと、うまく存在できない。でも、これならクラブに持っていってEDMの中で叩いても面白い。ちょっと乱暴な現場に持って行きやすいんですよ。そういう面でも、画期的発明だと僕は信じてこのままタブラボンゴを推し続けたいと思ってます。

手の届く範疇で“マイ楽器”を

最初にジャカルタで買ったのは、ぶった切った下水パイプのようなボディにやっと皮を張ってできていたおみやげ品みたいなものでした。それにもアジアの屋台的なかわいさはあったんですけどね。実際、それを自分で改造したらとてもいい音になったんで、レコーディングにも使ったし、UAやCHARAのツアーとかでも使ってました。タブラボンゴという名前で呼び始めたのもその頃でした。

自分で作るにあたっての試行錯誤はめちゃくちゃありました。うちのガレージを工房にして、アシスタントを雇って、みんなで木を削り出して作って。このサイズになったのは、最初にインドネシアで買ったモデルがいいと思い込んでいた部分もあります。自分で作るときも何度も思考錯誤したけど、結局このサイズに落ち着きましたね。大きければ低音が出るというものでもないということもわかってきたし。この弾くと高い音が出る小さなパーツ、元のモデルでは金属だったんですね。でも、「これは柔らかいプラスチックのほうが跳ね返りがいいし、手も痛くないぞ」と改良しました。あとは、動物の皮だという点でも個体差があって、音色もそれぞれ少しづつ違います。

実は前に、某大手メーカーが興味を持って量産モデルを開発しようとしてくれたことがあったんです。でもいろんな理由があって、残念ながら白紙になってしまって。だったら、やっぱり自分の手の届く範疇でワークショップ的な形で広めていくのがいいんじゃないかと奮起した、というのも僕がタブラボンゴにのめり込んだ理由としてあるんです。何より“マイ楽器”を自分で作れるって面白いじゃないですか。

楽器ができない人にも

僕の心の師匠であるパーカッションの大先輩、仙波清彦さん(はにわオールスターズ)も面白がってくれて。タブラボンゴを思いついたとき、最初に言いに行ったのも仙波さんでした。そのうち「ASA-CHANGのタブラボンゴって面白いから、ボディにペインティングしてるやつを分けてくれない?」って。今は僕の工房で作ったタブラボンゴをそのまま使ってくれてます。本当の意味での“太鼓の達人”といえる方にも認めてもらえたのはうれしいですよね。仙波さんは「ボンゴタブラ」と言ったりもしてたんですが(笑)、僕が「タブラじゃなくて形がボンゴなんだから、やっぱりタブラボンゴなんじゃないですか?」って言ったり(笑)。やっぱり、タブラボンゴみたいな楽器って「本場にない楽器じゃん」って片付けてワクワクしない人と、だからこそワクワクする人に分かれるなと思うんです。

タブラボンゴはとっつきやすくて、なんにも楽器の覚えがない人でも面白がってくれるんですよ。「ウクレレって簡単かと思ってたけど難しかった」「楽器って一生弾けないかも」みたいな思いにとらわれてる人でもこれならできます。実は叩く動作はあんまりしてないんですよ。左手をパソコンのマウスを持つように、皮の上を転がすような感覚なんです。そうすると右手の指はテンキーを打つ感覚ですよね。いわゆる“叩く”ことをしない面白さがあるんです。叩いて音を出すんじゃなく、皮から持ち上げて音を引き抜いてる感じなんです。自分の手の形や指先でコントロールする感じなので、そのコツさえわかればけっこう誰でもできます。

どんどん変化していっていい

ワークショップは全国各地でやってるんですけど、どの土地で教えた人も、やって1年くらい経つとうまくコントロールできるようになって、音が出せるようになると各地で盛り上がっていくんです。今だと仙台のチームはすごいですね。自分たちでもイベントにするのが上手で、「ARABAKI ROCK FES」のワークショップルームにも「タブラボンゴ仙台チーム」として僕がいなくても出てる。それと大阪チームが“関西ならではのひねり”というか、変なネタを入れ込んだりしてて面白い。福島、熊本、北陸のチームもがんばってますね。

僕も皆さんと一緒にやりたいんですけど、各地にそんなに頻繁には行けない。でもそれが逆に、皆さんが独自の動きをしてくれるという面白みにもなっているんです。“〇〇流”とか“〇〇派閥”とかじゃなく、みんなが勝手にやってる感じがある。そもそもタブラボンゴだって僕が発明してから数十年間くらいの蓄積しかなくて、バイオリンみたいな歴史の古い楽器とは違うわけですし、どんどん変化していっていいと思います。

もっとブレイクしていいはず

「ASA-CHANGは最近タブラボンゴにのめり込んでるよね」と思われているのは感じますね。そもそも僕はスカパラもそうなんですが、自分で思いついていろんなものを始めちゃう性質だと思ってるんです。だけど、スカパラに比べてタブラボンゴはいまいちまだ報われてない。もっとブレイクしてもいいんじゃないかと思うと、各地でワークショップをやったり、自分でTシャツを作ったりするくらいに気持ちが入っちゃうんです。

タブラボンゴはサイズも小さくて、圧倒的に運びやすいです(笑)。カバン1つに収まりますし、ドラムとは違って家の中でも練習できますしね。小さな楽器なんで、青空の下も楽しいですけど、部屋の中でも楽しめると思います。カラオケボックスに行ってマイクとつないで、音楽を鳴らしながら練習してもいい。そっちは爆音OKですから。まだまだタブラボンゴを知らない人たちもたくさんいますけど、大ブレイクさせたい気持ちもありますし、「ASA-CHANGだけのタブラボンゴ」と言われなくなって、ただのタブラボンゴになる時代が来たらいいなと思ってます。

愛器はたくさんありますが、「これじゃないと演奏できない」というようなメインは作らないようにしています。ちょっと放置しておきたい距離感。「ちきしょう、触ってあげないぞ」みたいな(笑)。プレイヤーと楽器って仲良くなりすぎると、あんまり共鳴しない気がする。夫婦と同じで、距離を取ってたほうがいい(笑)。見上げてすがっちゃうような感じではなく、あくまで対等に見ておく。そんな感じが僕とタブラボンゴの関係なんです。

ASA-CHANG

20代前半は、ファッション誌「CUTiE」「Olive」、小泉今日子らのヘアメイクアーティストとして活躍。同時に東京スカパラダイスオーケストラを創始。脱退後、ASA-CHANG&巡礼を始動。インド・アジア系打楽器から玩具類、ガラクタ、シンセ音などを散りばめる独特のスタイルを確立する一方、作曲家・アレンジャーとしても活躍。また2015 年よりNHK E テレ「ムジカ・ピッコリーノ」にレギュラー出演。体当たりな演技と演奏が好評を博している。

取材・文 / 松永良平 撮影 / 阪本勇

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