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店長たちに聞くライブハウスの魅力 第17回 奈良NEVER LAND

4年以上前2019年11月28日 9:04

全国のライブハウスの店長の話を通して、それぞれの店の特徴や“ライブハウスへ行くこと”の魅力を伝える本連載。第17回は奈良・奈良NEVER LANDの現オーナー兼店長の岩城吉映氏と現副店長の向井真吾氏にご登場いただき、2人に設立の経緯や思い入れのあるアーティスト、今後の働き方などについて聞いた。

奈良に自由なライブハウスを

岩城吉映 NEVER LANDを作る前に、E♭音楽スタジオというリハーサルスタジオを作ったんです。ライブハウスを作ろうと思ったのは、スタジオを使ってくれたお客さんの言葉がきっかけ。営業を始めて1年くらい経った頃はちょうどバンドブームが落ち着いてはいたんですけど、「奈良で自由に演奏できる場所を作ってもらえへんやろか」と要望を受けたんです。バンドブームの最中はいろいろな問題が起こって、奈良県内の公共会館はロックバンドお断りという形をとっているところが多かったんです。老舗のライブハウスも1軒ありましたが、そこはジャンルに制限がありました。僕がハードロック上がりな人間だからかスタジオのお客さんもロックを演奏している人が多くて、そういう人たちに向けたライブハウスを作ろうと。それでよさそうな物件を探して、ノウハウとかはわからんまま設立したんです。それが1996年ですね。名前は「ピーターパン」に登場する“ネバーランド”から。お客さんの提案で、あまり深くは考えてはないです(笑)。でも“ランド”と付く名前にしたいとは思っていて。名古屋のElectricLadyLandっていい名前ですよね……先を越されました(笑)。

向井真吾 2007年頃に今の場所に移転したんですけど、僕はその後すぐにアルバイトスタッフとして働き始めました。最初は受付や照明をやっていたのですが、ある日ブッキングマネージャーが病気で倒れてしまって。しょうがなく制作の業務をやり始めました。正直なところ、最初はめっちゃ嫌でした(笑)。

岩城 店を移転させたのは近隣テナントの問題でした。当時は元気のいいバンドが多かったんです。ライブ中、お客さんがずっとジャンプやモッシュしているような感じで。うちは2階に入っていて、階下に振動などが伝わり問題になってしまって、移転を決めたんです。あとは300人キャパだったんですけど、この規模だと人が入る日は入るけど、入らん日は全然あかん。ガランとしたフロアでは、僕も演者もお客さんもキツイですよね。田舎のライブハウスの難しさなのかなと思います。ただ逆に、当初は意図していなかったメジャーアーティストさんのライブがどんどん入るようになったんです。桑田佳祐さんとか、忌野清志郎さんにも来てもらったこともあるんですよ。単純にキャパがちょうどよかったんだと思いますけど。移転する際は、前の場所で学んだ問題点をできる限り解消できるように心がけました。楽屋が欲しいとか、搬入導線はこうしてほしいとか、メジャーアーティストさんからの要望もわかってきたので。そういったハード面の課題は8、9割はクリアできたかなと思います。例えば、今の店では楽屋が2部屋あるんですよ。前の建物のときに、メンバーとスタッフの楽屋は分けないといけないと痛いほどわかったので。キャパは少し小さくなりましたけどね。

向井 キャパの設定って難しいですよね。そもそも痩せている人とふくよかな人の1人って違う。主観かもしれませんが、例えばメロコアキッズには細身で軽装の方が多くて、わりとたくさん入るんですよね。逆にEARTHSHAKERさんとか、客層が上の年代のバンドはあまり詰めないようにしています。ジャンルによっては「これは250人入らんぞ」というくらい、体が大きい人が集まる日があるんですよ。なのでイベンターにはキャパは230人と伝えています。

若者が減った町

向井 ブッキングに関しては、今は自分を含めて2人体制でやっています。ビジュアル系は少ないかもしれないですが、ジャンルは偏っていないですね。そのときどきで流行りはありますが、いいもんはいいと思っています。

岩城 僕は移転前からブッキングはあまりしていなくて、PAをやりながら店全体を見ている感じ。昔はブッカーは1人体制でしたけど、最近はとても1人では間に合わない。インディーズもメジャーもDJもダンサーも関係なく、幅広くやっていかないと。ローカル都市はそもそもマーケットサイズが小さいので、ジャンルを絞って色を出すということがやりにくいんですよね。ある程度間口を広げないと経営が成り立たない。高校の軽音楽部の発表会とか、結婚式の2次会とかも受けますし。それでも1カ月全部の予定は埋まらないですね。

向井 特に平日の予定を埋めるのは大変。“ただライブをやるだけ”になってしまっても意味ないですからね。でも「お客さんが来たいイベントってどんなんやろう」と考えると、結局平日にやるのが難しくなってしまって。でももう1人のブッキングスタッフが、間口を広げるためにバンド界隈じゃないところまで営業に行ってくれているんですよ。箱主催のイベントだけでは限界があるので、このスペースを使ってくれる人をブッキングするという考え方で動いています。

岩城 例えば、アーティストがツアーのときに平日にうちに来たいと言ってくれても、僕らが受け入れられないこともあります。対バン相手としてあてがう地元バンドにボリュームがなかったり、ジャンルがまったく違ったりして。インディーズシーンはなかなか厳しいですよね。若い子自体が減ってきていますし……奈良県内の高校もどんどん減っているんですよ。このあたりはCD屋もほとんど全滅したし、楽器屋さんも1件だけ。そんな中でどう営業していくのかが、僕らの課題ですね。

向井 そういえば今年は高校の卒業ライブが1件もなかったですね。例年3、4件はあったんですけど。毎年やってくれていた学校に連絡したら「バンドがいなさすぎてできません」と言われてしまって。

岩城 2000年頃の3月とかすごかったんですけどね。朝やって夜やってという日が1週間くらい続いた。今日はあっちの高校の現役、今日はそっちの高校のOB、みたいな感じで。

向井 3月だけは公演数が30本超える、みたいなときありましたよね。

付き合いの長い岡崎体育

向井 思い入れのある地元アーティストは、岡崎体育、LOSTAGE、Age Factory、ARSKNかな。岡崎体育は20歳くらいのときから出てくれていて、ことあるごとに取材の話を僕に振ってくれたりして、気付けば長い付き合いになっていますね。一応恩義みたいなのを感じてくれているのかな(参照:岡崎体育の公式Twitterアカウント)

岩城 岡崎くんは大学生の頃からよくうちに出演してくれてましたよね。毎回出るたびにライブスタイルを変えていて、試行錯誤していた印象です。あと五味(岳久 / LOSTAGE)くんは高校のときからうちのスタジオに来てくれていました。五味くん、その頃はドラムボーカリストだったんですよ。THE ORAL CIGARETTESもバンド名は違ったけど高校生のときはうちのスタジオ使ってくれていたし。最近だと注目している地元アーティストはARSKNかな。

向井 面白いですよね。あまりバンドとつるんでなくて、ラッパーやトラックメーカーと対バンしていたりするんです。イベントをやるときにも、古着屋を呼んだりしていて。自分のやっていることを、音楽としてというよりはカルチャーとして発信したいと思っているみたいです。

次期店長

岩城 僕はオーナー兼店長ですが、今は世代交代の時期に入っているんです。実は僕の息子がLOSTAGEのドラマー(岩城智和)で。

向井 彼が次期店長なんですよ。

岩城 少し前までは息子にスタジオのほうを任せていたんですけど、今年の春くらいから店長見習い的な感じでNEVERLANDに来てもらって、逆に僕がスタジオのほうに行っているんです。スタジオもライブハウスも、総括して事業継承していければなと思っていて。

向井 なので今は自分が彼と「ライブハウスのほうはこんな感じです」とやりとりしていて。

岩城 引き継ぎ期間、バトンタッチ期間というか……うまくいけばいいなと思っています。本人のやる気があっても周りの人間が支持していかないと成り立たない商売なので。

キッチンカーが来るライブハウス

向井 フードはうち主体としては出してないんですけど、料理人の方にタコスとフォーを提供してもらってうちの店内で販売したり、ハンバーガーとカレーを出しているキッチンカーに来てもらったりすることはあります。「土日はけっこういろんなイベントに呼ばれて忙しいけど、平日は暇や」って言うから、「じゃあ来て来て」というやりとりから始まって。お客さん的にもクオリティの高いごはんが食べられるとうれしいと思いますしね。都会やったら駐車スペースがないところが多いし、普通は出店料をもらって来てもらうことになると思うんですよね。まあホントは出店料、欲しいは欲しいですけど(笑)。フードを外注しているライブハウスってほかにあまりないんじゃないかなと思います。

岩城 スペースだけはあるので、空間活用ですね。建物裏にスタッフ用の駐車場があるので、ツアーバンドのスタッフからは「駐車場代かからへん!」と好評です(笑)。

音響設備と柔軟性

岩城 とにかく今は、商売の間口を広げようとしています。設備なども日々増強していて。メジャーのアーティストさんはほぼ100%専属のPAさんと一緒に来ます。そのPAさんの求める機材のクオリティがあるでしょうから、満足して帰っていただけるように努力している最中です。機材もどんどん進化しますから、音響設備の充実という点では終わりがなさそうです。

向井 あとはライブハウスに来たことがない人に伝えたいこととして、お酒を飲むにしても家で1人で飲むのと外で1人で飲むのとは全然違いますよね。狭いバーとかで飲めば周りの人と仲良くなることもある。それと一緒で、ライブハウスは知らない人とでも共通のものを見て仲良くなれる場所だと思います。細かいところまで音が聴けるし。

岩城 確かに音がスマホで聴くのとは全然違うので、そこを楽しんでもらえたらありがたいですね。

向井 漠然とですが、よそのお店より面白いライブハウスやと思っています。柔軟性があるところとか。演者やお客さんから「こうしたらええんちゃう?」「こうしてほしい」と言われたらちゃんと向き合ってできる限り対応するようにして、よりよいライブハウスを日々目指しています。

店舗情報

住所:〒630-8001 奈良市法華寺町122-1
アクセス:新大宮駅から徒歩7分
営業時間:公演により異なる
定休日:なし
ロッカー:あり(公演によりクロークあり)
駐車場:なし
再入場:公演により異なる
キャパシティ:230人
ドリンク代:600円
フリーWi-Fi:なし
貸切:あり

取材・文 / 酒匂里奈(音楽ナタリー編集部) 撮影 / 河上良

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