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愛する楽器 第23回 Yuko Uesu(んoon)の愛用ハープ

3年以上前2020年06月30日 9:02

アーティストがお気に入りの楽器を紹介するこの連載。第23回は、んoonで活動するハープ奏者のYuko Uesuを迎え、愛用するハープへの愛着や出会いのエピソード、憧れのハーピストの話題、大きな楽器であるがゆえの苦労話、バンドのアンサンブルの中でハープを生かす工夫などについて話してもらった。

取材・文 / 松永良平 撮影 / 阪本勇

「チェロとハープ、どっちがいい?」

ハープとの出会いは5歳のときです。その頃、私は周りの人よりも成長が早くて背が高くて、大きな楽器をやらせたらいいんじゃないかということで、「チェロとハープ、どっちがいい?」と母に聞かれたんです。私は「チェロ」って答えたんですけど、なぜかハープを習うことになりました(笑)。母の知り合いがハーピストだったんです。その方にハープを譲っていただいて、始めました。背が大きかったとはいえ、いきなり本物のペダルハープだと足元にあるレバーから足が離れてしまうので、最初はアイリッシュハープ(※ペダルハープより小型で軽量かつペダル不要なハープ)でした。ペダルハープが47弦なのに対して、アイリッシュハープは30弦くらいなんです。それで練習をして、1年ほど経って足がペダルに届くようになったので、大きなハープに移りました。

ハープのペダルはコードを変えるためというか、弦のテンションを変えるために使います。ピアノのペダルは3個で、ミュートやサステインのために使うんですけど、ハープの場合それは全部指と手で弦を触ってやるんです。ハープのペダルは、ド~シ分の7個のペダルが付いていて、フラット、ナチュラル、シャープの3段階を踏み込んで調整するという……めんどくさい楽器です(笑)。でも、基本的には触ったら音が出る楽器なので、難しさは感じなかったですね。ただ手が小さかったので、たくさんの和音を出すには手を開かなくてはいけなくて、そういう苦労はありましたけど。

ハープを凍らせ、煮て、燃やす奏者に魅了された

小さい頃は主にクラシックのハーピストのCDを手本にしてたんですけど、15歳のときにビョークの音楽と出会って、彼女と一緒にやっているジーナ・パーキンス(フリーインプロ、ジャズ系ハープ奏者)にすごく憧れるようになりました。そこから私は“ノイズ系ハープ”業界に引き込まれていったんです(笑)。やっぱりジーナ・パーキンスの影響は大きかった。ハープでまったく聴いたことのない音を鳴らしてましたし、自分でもハープを作っちゃうし、めちゃくちゃカッコいいなと思いました。ジーナを聴いてから、アリス・コルトレーン(ピアノ、オルガン、ハープ奏者)やドロシー・アシュビー(ジャズハープ奏者)を聴いて「うまいなあ」と思ってコピーしたりもしてました。The Cinematic Orchestraとも一緒に演奏しているロードリ・デイビーズ(即興系ハープ奏者)というハーピストが、ハープを凍らせたり、煮たり、燃やしたりしてることにも魅了されましたね。ロードリ・デイビーズには実際に会いに行ったこともあります。

ハープは型にはまらず、もっといろいろな奏法ができる楽器なんです。たくさん弦が張られていて、響きもほかの弦楽器とは違うし、ペダルをガコンと踏むだけでも変な音が出る。「ちゃんと弾くだけじゃなくてもっと違う表現の方向性はないのかな?」と思ったときに、いろんな音楽を聴くようになりました。私もジーナの存在を知る前から、自分のハープをネジで弾いてみたり、横に倒してみたり、エレクトリック用のスチール弦に変えてE-BOWを使って鳴らしてみたり、そういう実験をしてました。なので「あ、同じことを考えてる人が世界にはいるんだな」とわかってすごくうれしかった(笑)。20歳のときにはノイズバンドを組んで、実際に私もそういう演奏をしてました。ノイズバンドでは小さいハープを改造して使ったり、ハープの支柱にスピーカーをくくり付けて、そこからノイズを出したりしてましたね。そのバンドではんoonのベーシストのSekijima(Naoto Sekijima)さんが一緒だったときもありました。

ライブハウスでハープを鳴らすことの難しさ

んoonに入ってからは「弾かない」ということを覚えました(笑)。バンド内の役割というのはそれぞれ決めてないんですが、曲によってハープの役割はぐるぐる変化しています。シンセサイザーのような役割をすることもあるし、少しベースを出すこともあるし、リズムを担うときもある。グリッサンドとかのいわゆる“ハープらしさ”のある演奏も少しやりますけど、んoonでは全然求められていないんです。むしろそこは迂回したほうがいいという方向でやってます。

ライブハウスでハープを弾くにあたって、最初はとにかくハウリングとの戦いでした。その調整だけでバンドのサウンドチェックの時間を全部使っちゃうくらい大変だったんですけど、今はいいピックアップといいプリアンプに巡り会えたし、いつもお世話になっているツバメスタジオの君島結さんにPAに入ってもらうことが多いので、安心して演奏できるようになってきました。ピックアップはずっとギター用のものを使っていたんですが、最近はSCHERTLERというブランドのハープ用のピックアップを使ってます。共鳴板に練りケシで貼り付けて使うんです(笑)。そこに貼るのが正解なのかわからないんですけど、今のところの正解としてやってます。

おばあちゃんハープなんです

今、私が家で弾いているこのハープはかなり老朽化していて、いつかはメンテナンスに出さないとなと思っているところです。調律師さんからも「これ以上、外には出すな」と言われてしまったので、今はライブのときは専門の楽器屋さんにお願いして借りています。ライブに持ち出していた頃は、横に倒して毛布に包んで車に積み込んでました。専用のケースもあるんですけど、ケースだけで30~40kgくらいあるので、持ち運ぶのは1人じゃ無理ですね。

ハープは寿命が30年くらいと言われているんです。古いほどいい音が鳴るバイオリンはすごくうらやましい。ハープは金属と木の組み合わせだし、何トンという力で上下を弦で引っ張り合っているので、長持ちという意味では構造的にそもそも無理があるんです。限界がきたら共鳴板も張り替えないといけないし、この子も共鳴板が割れてきちゃってるので心配なところがいろいろ。ちょっと病気がちの“おばあちゃんハープ”ですね。

日本にいらっしゃる数少ないハープの技師さんの方に見ていただいたんですが、素材のメイプルがもう日本にないらしいんです。直してもらうとしても「ちゃんとまたきれいな音が出るか保証ができない」と言われちゃって。LYON & HEALYというシカゴにあるメーカーのハープなので、そこに1回送って見てもらって、1年くらいかけて直してもらうという感じになるのかな。ロードリ・デイビーズは17世紀のハープをバンバン燃やしちゃうんですよ。燃えるときに弦が弾ける音とか、共鳴板が割れる音をインスタレーションに使ったりしていて。「だって(ハープは)寿命があるから」と言ってました(笑)。確かに古いハープは観賞用でしかないということなんですけどね。小さい頃からずっと一緒に暮らしてきましたから、私にはこの子を燃やす勇気はないです(笑)。

ハープと機械を組み合わせてみたい

いつか自分でハープをカスタムするとしたら、ずっと考えてることがあるんです。レバーハープというのがあるんですよ。レバーハープって、弦がドレミファソラシでクロマチックに張られているのは普通のハープと同じなんですけど、1本1本につながっているレバーを操作しても弦のテンションが半音しか上げ下げできないんです。だから出せるコードの種類に限界があるので、触るポイントをオートで機械的にやってくれる付属のマシンがあったらいいなって。ペダルハープはペダルシステムということもあってとても重くなってしまうんですけど、そこをセパレートしてレバーハープにも装着できる仕組みがあったら、持ち運びも楽ですよね。ひょっとしたら特許が取れるんじゃないかな(笑)。フィジカルに弦の押さえを自動でやってくれる部分的マシン。まだ世界でこれをやってる人はいないですから。すごくいいなと思うので、一緒に開発してくれるメーカーさんを募集してます(笑)。

んoon(フーン)プロフィール

2014年結成。JC(Vo)、Naoto Sekijima(B)、Yuko Uesu(Harp)、Kensaku Egashira(Key)で活動中。バンド名は感嘆、無関心を表現する日本語の「ふーん」に由来する。“直感と思いやり”をコンセプトに、さまざまなジャンルの要素を取り入れつつも枠にとらわれない楽曲を生み出している。2020年4月にNHK Eテレの教育番組「ミミクリーズ」でオンエアされたトクマルシューゴ作曲の「みずのうた」で編曲および演奏を担当。またtoeが発起人を務めるライブハウス支援プロジェクト「MUSIC UNITES AGAINST COVID-19」に楽曲「Amber(Summer ver.)」で参加している。

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