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TuneCore Japan「著作権管理サービス」にインディーズアーティストから称賛の嵐

水口瑛介
1年以上前2022年10月27日 9:04

9月末、TuneCore Japanが、著作権管理事業者(JASRAC)を通して収益を受け取る管理業務をアーティストやソングライターなどに代わって行う「著作権管理サービス」を開始することを発表。インディペンデントな活動を行うアーティストたちから「一番欲しかったサービス」「革命的」「まさに神」など賛辞の声が挙がっている。このサービスのいったい何が画期的なのか。音楽家のために無料法律相談サービスを提供している団体・Law and Theoryの代表を務める水口瑛介弁護士に解説してもらった。

取材・文 / 丸澤嘉明 撮影 / グレート・ザ・歌舞伎町

著作権と原盤権とは何か

──TuneCore Japanが著作権管理サービスを始めましたが、「そもそも著作権とは?」という大前提から教えていただけますか?

著作権は、英語ではコピーライトと言われる通り、簡単に言うと楽曲をコピーする権利ですね。ここで言うコピーとは、楽曲データを複製する場合に限らず、楽曲を演奏したり、弾き語ったり、広い意味でのコピーを含みます。TuneCoreの著作権管理サービスの理解の前提として、2つの権利について知っておく必要があります。まず1つがこの著作権。そしてもう1つは原盤権というものです。

──こちらの図で描かれてる部分ですね。

原盤権は音源に関する権利で、なんらかの形で固定化した音源を利用する権利のことです。著作権法的には「レコード製作者の権利」というのが正式名称ですが、音楽業界では原盤権と呼ばれています。既存の楽曲を弾き語りしても音源そのものは使ってないので原盤権を使用することにはなりません。つまり、その曲の著作権しか使わないということですね。他方で、DJをするときは楽曲だけでなく音源そのものも使用するので、著作権と原盤権の両方を使うことになります。このように著作権と原盤権は異なる権利ということになります。そのうえで、それぞれ誰がその権利を持っているのかを考えるということになりますね。

──作詞した人と作曲した人。

はい、著作権は作詞・作曲した人のもとに発生します。一方の原盤権は、原盤を作る際にお金を出した人のもとに発生すると考えられています。昔はレコーディングするのにたくさんのお金が必要だったので、レコード会社が費用を払って原盤権を持つことが主流でした。ですが今は時代が変わり、アーティストが自分の機材を用いてDTMで楽曲を作った場合など、アーティスト自身が原盤権を持つパターンもあります。

──原盤権を持っているアーティストは、TuneCoreのようなデジタルディストリビューションサービスを使って楽曲を配信し、その収益を得られるという構図ですね。

そうですね。これまでTuneCoreを利用して受け取れるお金というのは、サブスクとダウンロード販売の収益のうち原盤権使用料に相当する部分だけだったんです。著作権使用料に相当する部分を受け取ることはできませんでした。アーティスト自身がJASRACに登録すれば、JASRAC経由で著作権使用料を受け取ることができるんですけど、それがいろいろな意味で簡単ではないので今回のサービスが生まれた。そういう流れかなと思います。

著作権収益が発生するケース

──どういうケースで著作権使用料を得られるのか、具体的な話も伺えますでしょうか。

著作権は総称でして、音楽に関して細かく言うと録音権、演奏権、公衆送信権などから構成されています。録音権とは楽曲を録音して固定化する権利のことですね。CDやレコードに録音して販売を行う場合には、原盤権だけでなくこの著作権のうち録音権についても許諾が必要、つまり著作権使用料の支払いが必要ということになります。次に演奏権は人前で演奏する権利のことですね。ライブハウスで楽曲をコピーする場合にはもちろんのこと、クラブで楽曲の音源を流す場合にも原盤権とは別に演奏権について問題になります。公衆送信権は、サブスクやダウンロードなどインターネットを用いて配信を行う場合に関するものですね。このように楽曲を利用する場合には、利用者が著作権使用料を支払う必要があるのですが、これをアーティストが直接徴収するのは不可能なので、JASRACなどの著作権管理団体に代わりに徴収してもらい、アーティストはそこから分配を受けるということになります。

JASRAC登録のハードル

──先ほどちょっとお話に出ましたが、個人でもJASRACに登録すれば著作権収入を受け取ることはできるんですよね?

できますが、“超えようと思えば超えられたハードル”と“超えられなかったハードル”があります。超えられたハードルは手間ですね。JASRACに申込書を請求して戸籍謄本や印鑑登録証明書などの必要書類を用意し、それらを郵送する作業が必要で、できる人にとってはなんの苦労もなくできることではありますけど、事務作業が著しく苦手なアーティストにとってはこれだけでもかなりのハードルになっているのではないでしょうか。著作権管理サービスを利用すれば簡単ですし、全部オンラインで完結するのでまったく手間がかからない。超えられなかったハードルは利用実績ですね。過去に楽曲を使われたことある人しかJASRACには登録してもらえないので、実績のない人は実績ができるまでは超えられないハードルになっています。著作権管理サービスでは利用実績がなくても登録できるとのことですので、このハードルがなくなることになりますね。

──利用実績がなくても登録できるのはうれしいですね。特に創作活動を始めたばかりのアーティストは利用実績は当然ないでしょうし。

あとはもう1つ、JASRACを利用した場合にはクライアントワークとの関係で問題があって。

──どういうことでしょう?

JASRACに登録をすると、自分の過去の曲とこれから作る未来の曲も全部の著作権をJASRACに信託する、言い換えると著作権がJASRACに移転することになります。著作権が自分の手元にないわけですから、例えばゲームやアニメ用に楽曲を制作してほしい、そして二次利用などもしたいから楽曲の著作権を買い取らせてほしいというオファーがあっても受けるのが難しいんですよ。でも著作権管理サービスなら楽曲ごとに著作権の信託をするか否かを判断できることになるので、その問題もクリアできることになりそうです。

TuneCoreの著作権管理サービスの何が革命的なのか

──個人でJASRACに登録するのはなかなか難しいということがよくわかりました。音楽業界には音楽出版社という著作権の管理会社があって、そこを介してJASRACに管理してもらうケースも多いと思うんですが、その点はいかがでしょうか?

著作権管理サービスの一番の意義は選択肢が増えたことだと思うんですよね。個人でJASRACに登録するのは簡単ではないから音楽出版社に著作権を譲渡して管理してもらうパターンが今までは主流でした。プロモーションをしてもらえるという大きなメリットはありますけど、デメリットもあって、音楽出版社に支払う分配率が高いということですね。

──収益の50%が一般的と言われています。TuneCoreの手数料率は15%なので、50%と比べると雲泥の差ですよね。

音楽業界の人からすると当たり前なのかもしれないですけど、私は業界外の人間なので初めて聞いたときにびっくりしたんですよね。自分が作った曲なのに収益の50%も取られてしまうんだと……。もちろん多くの音楽出版社はその数字に見合うことをやってくれるんだと思います。楽曲をプロモーションしてくれて、自分で管理するよりいっぱい使われて、それでより多くの使用料が入ってくれば50%を分配したとしても十分なメリットがありますから。ただ、私たちのところに「50%も取られているけど、何もしてもらってません」という相談がくるのも事実なんですよね。角が立つかもしれないですけど、そういう音楽出版社も中にはあるようですね。

──プロモーションを行ってもらう必要があるかという観点が重要になるということでしょうか。

そう思います。音楽出版社とアーティストが契約するときはMPA(一般社団法人日本音楽出版社協会 / Music Publishers Association of Japan)という団体の著作権契約書を使うことが多いのですが、その第1条には著作権を譲渡する目的として「著作物の利用開発を図るため」と書いてあります。利用開発というのはプロモーションのことですね。一方で著作権管理サービスの規約には利用開発を行う旨の項目はありません。つまり、TuneCoreとしてプロモーションはしませんと。そこは明確になっているところですね。今はSNSを使って自分でプロモーションするのが上手なアーティストもたくさんいますし、そういうアーティストは第三者にプロモーションしてもらうことは不要なのかもしれません。音楽出版社に預けてプロモーションしてもらうのか、アーティスト自身でこれを行っていくのか、どちらが合っているかをきちんと考える必要があると思いますね。アーティストが著作権管理をDIYでやるという選択肢が増えたことが一番の革命的なところだと思います。あとは、アーティスト本人だけでなく小規模なレーベルにとっても有用ではないでしょうか。著作権まで手が回っておらず著作権使用料が未回収のままになっているレーベルもあると聞きます。著作権管理サービスを使えば、音楽出版社機能を持つことができますよね。

──例えば昔メジャーレーベルに所属していて今はインディペンデントで活動しているアーティストが、新しく作った曲の著作権管理をTuneCoreに委託するケースも想定としてはありえますか?

音楽出版社との契約が切れて著作権が自分に戻ってきたタイミングで著作権管理サービスを利用して、その後は自分で管理していくということも考えられると思います。

著作権管理サービスのメリット

──ほかに水口さんから見てこのサービスが画期的だと思った点はありますか?

契約期間ですね。音楽出版社に権利を譲渡して管理してもらう場合、契約期間が基本的に10年になっていることが多いです。ひと昔前は著作権が存続している間、つまりアーティストからすれば一生続く契約になっていることも多かったようです。なので音楽出版社との関係性が悪くなってもずっと付き合わなければいけなかったんです。私が以前相談を受けたケースで言うと、とあるメジャーアーティストの方がもうメジャーとの契約は切れているけど、過去の売れた楽曲は今でもカラオケで歌われていますと。でも著作権が存続する限り続くという条件で著作権を譲渡しているので、ずっと手数料50%を取られ続けていて納得がいかないというものでした。今は10年が多いらしいんですけど、TuneCoreは1年なんですよね。嫌ならすぐに止められるので、そういう意味で自由度が非常に高い。

──TuneCoreからすると出て行かれるリスクが高いわけで、アーティスト目線の良心的な条件ですね。

あとスプリット機能は便利だと思いますね。事前に登録しておけば権利者以外にも自動でお金を振り分けられます。例えばマネジメントの方に3割渡したいとか、エンジニアに1割渡したいとか。スプリット機能はもともと原盤権に関する収益を分配するために実装されているので、そこと一元管理できます。すでにTuneCoreを使っている人にとっては非常に便利だと思いますね。

──著作権を持っていない人にも収益がいくように設定できるわけですね。

インディペンデントなアーティストの場合、ときどきあるようですね。例えばエンジニアの方に原盤権や著作権から生じる収益の何%を渡しますっていう合意をするとか。もし曲がヒットすればエンジニアの方の収入にもなるわけで、モチベーションが上がりそうですよね。

著作権管理サービスのデメリット

デメリットとしては、著作権使用料の徴収範囲が国内のみで、国外に対応していない点ですね。JASRACに直接著作権を預けた場合、例えばアメリカで使われたらアメリカの著作権管理団体にお金が払われ、そこからJASRACを経由して日本の著作権者に分配されるので徴収できるんですけど、TuneCoreを経由するとできないようなんですよね。なので自分の曲が海外で使われることが多いとか、海外マーケットを視野に入れている場合は現状デメリットになるのかなと(※1)。

──そうしたデメリットもあるとはいえ、インディペンデントな活動をしているアーティストの中にはJASRACへの登録は面倒だし音楽出版社もどこに相談すればいいのかよくわからなくて、作った曲の著作権に関して放置していた人も多いと思います。今回のサービスにより今まで眠っていた楽曲が資産となってお金を生むと考えると、音楽業界全体の活性化につながる気がします。

金額的なインパクトが大きいかというと、原盤権の収益と比べるとそこまで大きくはないのかもしれません。ただ、TuneCoreが著作権管理サービスでターゲットにしているのって、現状では著作権による収益をまったく受け取ってない、または存在に気が付いていないアーティストたちだと思うんですよ。今現在ゼロなので、それが月に多少なりともお金が入ってくるというのはプラスしかない話だと思いますね。

※1. TuneCore Japanに確認したところ、今後著作権の徴収範囲を海外に広げることは検討しているとのこと。

水口瑛介

音楽、スポーツ、ファッション、インターネットなどエンタテインメント・クリエイティブ分野を中心としたリーガルサービスを提供するアーティファクト法律事務所の代表弁護士。音楽家のために無料法律相談サービスを提供する団体「Law and Theory」の代表も務める。
アーティファクト法律事務所
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水口瑛介 | Artifact Law Office (@eisukewater) / Twitter