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アーティストの音楽履歴書 第20回 345(凛として時雨)のルーツをたどる

4年以上前2020年05月04日 3:01

アーティストの音楽遍歴を紐解くことで、音楽を探求することの面白さや、アーティストの新たな魅力を浮き彫りにするこの企画。今回は凛として時雨の345(Vo, B)のルーツに迫った。

小さい頃から楽器が好き

もともと家にオルガンがあって、小さい頃に遊びで触っていました。しばらくしてピアノを習い始めるのですが、始めたのは母親が洋裁教室を家でやっていて、それを習いに来ていたピアノの先生に「オルガン弾いてるから、ピアノ習います?」と言われたのがきっかけです。ピアノは中学2年生まで習っていて、曲を弾くのは楽しかったんですけど、練習曲とかはあまり上達しなかったですね(笑)。ピアノもそうだし、管楽器、弦楽器でもなんにでも興味があったんです。だからほかの楽器を演奏したいなと思って、中学では3年間かなり真面目に吹奏楽部でサックスをやってました。朝練も出てたし、肺活量を上げるために走ったり、腹筋したり。吹奏楽部でみんなと一緒に演奏するのが楽しかったので、作曲したいと思うことはなかったですね。

家では母親がCarpentersとか洋楽を聴いたり歌ったりしてた記憶がありますけど、そんなに音楽のあふれる家庭という感じではなかったです。小学生のときは兄がチャゲアス(CHAGE and ASKA)とかB'zを聴いていたので、それを横で聴いていたくらい。初めて買ったCDはPUFFYの「アジアの純真」(1996年)ですけど、あの頃ってテレビでよく流れてましたよね。PUFFYはTシャツにジーンズみたいなスタイルも好きで、曲もずっと聴いてました。ほかに聴いていたのは流行ってるJ-POPがほとんどでスピッツ、ジュディマリ(JUDY AND MARY)とか。あと小室哲哉さん世代なのでglobeとか小室ファミリーの曲もたくさん聴いてました。

コピバンライブをした高校3年の文化祭

高校に進学して吹奏楽部がなかったので、サックスができるかなという理由でジャズ研究部に入ったんですよ。私は中学でアルトサックスを吹いてたんですけど、「バリトンサックスをやってくれ」と言われて。でもあんまり楽しくなかったのでジャズ研は辞めました(笑)。で、ほかの楽器をやりたいと思って手にしたのがギターでした。私にとってサックスはみんなでやるものだったけど、ギターは家で弾ける楽器の中では一番手に取りやすかったので。最初はアコギを買って、弾き語り系のコード譜が載ってる「GO!GO! GUITAR」とか音楽雑誌を買って練習していました。その頃はアコギとエレキの違いをあんまり考えてなかったんですけど、途中から「あ、エレキギターかも!」と思い、3万円くらいの安いエレキギターを買って、小さなアンプにつないでちゃんと弾き始めたんです。

高校生になったくらいでスペシャ(スペースシャワーTV)を観るようになって、いろんな音楽を聴くようになったんです。GO!GO!7188とかを聴きながら1人でコピーしていて、高2になってから友達と遊び半分でコピーバンドを組みました。ギターはコードを押さえられるくらいで、カッコよくソロとかを弾けるわけでもなかったので、ギターボーカルをやることになって。高3で文化祭に出るにあたって、顧問ではないですけど面倒を見てくれる先生がいて、その先生が場所を用意してくれて、練習は確か学校の食堂の2階あたりでしていたような。文化祭ではジュディマリ、CHARAさん、aikoさん、椎名林檎さんの曲とかを演奏してました。当時の自分を思い返すとちょっと恥ずかしいですね(笑)。

凛として時雨結成と同時にベースボーカルへ

高校の終わりにTKと出会うんですよ。お互いGO!GO!7188が好きで知り合って、大学に入った頃はTKと、私の高校時代の友達と4人でコピーバンドをやってました。私はギターボーカル、TKは歌わずギターだけでしたね。コピーバンドはそんなに長くやってたわけではなくて、オリジナル曲を作り始めてしばらくしたらベースとドラムが就職とかで辞めたんですよね。で、私とTKは4年制の大学で引き続き学生だったので、「まだバンドやろっか」という話になって凛として時雨を結成したんです。そこで初めて私はベースボーカルになるんですけど、それは単純に新しくベースとドラムを見つけるよりドラマー1人を探すほうが早く活動を始められるからという理由で。あと私がそんなにギターを弾けなかったこともあって、「ベースの弦は4本だから」って……よくある話です(笑)。

結成した当時は先のことなんて何も思い描いてなかったですね、ただバンドをやりたいというだけで。今も同じで、目の前にあることを追いかけて曲を作って、ライブをやる。それだけです。プロになれるとは思ってなかったというか、確固たる自信みたいな気持ちは恐れ多くて持てなかったです。時雨でTKが最初に作った曲が「鮮やかな殺人」なんですけど、前身バンドのときに作ってた曲もいい意味で変なアレンジというか、独特だなと思う部分はありました。結成当初の曲作りはスタジオに入って、TKがギターを弾いてくれて、やり取りをしながら作っていくことが多かったです。そのときからTKの頭の中には「こういうふうに弾いてほしい、叩いてほしい」というイメージが明確にあって、それをバンドで具現化していくという形でした。

初めてのベース課題曲は「鮮やかな殺人」

ベースは時雨で初めて触りました。結成当初の写真に写ってるベースはFENDER JAPANのMustangで、時雨を始めるにあたって買ったものです。Mustangは見た目も好きだし、ショートスケールで弾きやすいかなと思って使ってたんですけど、使っていくうちに自分の中で、時雨で出す理想の音ができてきて、次にYAMAHAのSBVってモデルを使っていました。あのベースはTKがネットか何かで見つけてきてくれたんですよ(笑)。

TKにベースを教わって、最初の課題は「鮮やかな殺人」を弾くことでした。なので「憧れのベーシストは?」と聞かれることがあるんですけど、いないんです(笑)。でも時雨で活動していた初期の頃、椎名林檎さんの曲を家で1人、コピーしてました。亀田(誠治)さんのプレイは弾いていてちゃんとベースらしいフレーズになってるんだけど、メロディアスなところもあってすごく楽しい。とてもいい練習になったなって思います。ベースでコピーバンドをやったことはないし、時雨の曲しか演奏してないから、手癖というか決まったことしか弾けてないみたいな部分が初期の頃あったと思うんですけど、「こういう奏法もあるんだ」と知れたのは亀田さんのおかげですね。

TKと中野くんは昔から変わってない

時雨を結成したのが2002年9月で、たぶん11月の終わりくらいにデモテープを持っていったのが池袋の手刀(チョップ)です。当時まだオープンしたばかりだった記憶があります。そしたらすぐにブッキングしてくれて、12月に初ライブをしました。初ライブのことはほとんど覚えてないんですけど、なぜか私の家にそのときのビデオテープがあるんですよ。ラベルにTKの手書きで「凛として時雨 初ライブ 池袋手刀」って書いてあるのが。いつかDVDにダビングしておかないといけないですね(笑)。当時は「鮮やかな殺人」「TK in the 夕景」をやって、あとなんだろう……たぶん4曲くらいやったと思います。結成してからしばらくの間、私はずっとドラムのほうを向いて演奏してて、正面を向いてなかったんですよね。ステージで内にこもってる感じでした(笑)。

そこからライブがどんどん決まっていったので、一気に活動的になれた感じはしました。2004年に中野くんが加入してくれてすぐツアーに出たんですけど、その頃は1年間に100本くらいライブをしてたと思います。ツアーブッキングは手刀のスタッフさんが組んで、一緒に回ってくれました。当時からライブ告知は私がしてたので、MCは今とあんまり変わってないかもしれない(笑)。

中野くんと出会った頃は別のバンドでドラムを叩いてたんですけど、第一印象はまさに「めちゃくちゃ手数の多いドラム!」でした。まさか一緒に演奏することになろうとはそのときはまったく想像していませんでした。あの頃から中野くんは中野くんですね(笑)。TKも中野くんも昔から変わってないです。ライブに関しては対バンしてた頃から毎回、持ってる力をステージで出し切ってました。中野くんのプレイに刺激されることもあったし、TKの楽曲でごくごく自然にああいう激しめな感じになったというか(笑)。TKと中野くんがどう思ってたかはわからないですけど、当時は「対バンに負けない」みたいな気持ちが私には多少ありましたね(笑)。持ち時間30分でどれだけそこにいる人たちを魅了できるか、時雨を伝えられるかは大切にしてました。

憧れのアーティストに見る共通項

日頃聴く音楽は、リハの音源とか自分のやってる曲が一番多いんですよね。家で聴きながら練習することも多いので。あまり最近の音楽を掘り下げられてないなと反省しているところです(笑)。でもti-ti.uuで一緒にやってる、なるけ(しんご)くんが「これいいよ」って教えてくれたり、唐突にLINEで動画とかを送ってくれたりするんですよね。この前一緒にラジオに出演したときに紹介してた冥丁(めいてい)さんという方の曲もよかったですね。私が触れてなかった音楽を教えてくれるので、発見があって面白いです。あとApple Musicで曲を流してることもありますけど、誰のどの曲かわからないままになってることも多くて(笑)。気になったのはスクショするようにしてます。

でも自分の音楽遍歴を思い返すと基本的には女性ボーカルの曲が好きなのかな。中島みゆきさんと小谷美紗子さんは昔からずっと好き。お二人とも1曲の中にドラマを感じるし、聞き手の状況に応じたシーンが浮かんでくるような……脳裏に焼き付くような歌詞が素敵です。それこそ「悪女」の歌い出しが「マリコの部屋へ 電話をかけて」って鮮烈で、普通の曲ではあまり見ない歌詞の表現で。子供の頃から素晴らしいなと感じてましたし、楽曲の持つ力みたいな音や言葉を最大限に引き出してる方々だと思います。

バンドをやっていてよかった

時雨のほかに最近はti-ti.uuでも活動してるんですけど、このユニットは私がアコギを買ったことをなるけくんに話したら「スタジオ入ろうよ」と誘ってくれたのがきっかけで始まりました。なるけくんは当時もらんというバンドにいて、手刀でライブをやっていた頃によく対バンしてた仲で。ti-ti.uuは、なるけくんが1小節くらいのギターリフを作ってきて、そこから2人でセッションして曲を作っています。時雨とはジャンルも違えば、弾く楽器も歌い方も違うのでまったく別物として楽しんでます。

音楽、バンドをやっててよかったです。こうして取材を受けていても思うのが、私はこれまで音楽、バンドでしか人とコミュニケーションを取ってきてなかったんだなって。最近の状況の中でもわかったことなんですけど、私、普段めったに人とコミュニケーションを取らないので。バンドをやってなかったらこんなにいろいろ経験できてなかっただろうし、音楽を介していろんな人に出会えてよかったと思います。

345(ミヨコ)

凛として時雨のベースボーカル担当。2002年に地元・埼玉でTKと凛として時雨を結成し、2005年に自主レーベル「中野Records」よりアルバム「#4」をリリース。2008年12月にシングル「moment A rhythm」でメジャーデビューを果たした。凛として時雨での活動と併行し、2012年にはMO'SOME TONEBENDERのkazuhiro momo(Vo, G)、L'Arc-en-Cielのyukihiro(Dr)と共にgeek sleep sheepを結成。近年ではなるけしんごと共にti-ti.uuでも活動しており、2020年3月に3曲入り音源「letter」を発表した。

取材・文 / 田中和宏

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