アーティストとファンのコミュニケーションの形を、SNSの観点から探るこの連載。第2回ではNovelbrightの竹中雄大(Vo)と圭吾(B)にインタビューを実施した。
今年8月にユニバーサル ミュージックからメジャーデビューし、来年7月には大阪・大阪城ホールでのワンマンライブが決まっているNovelbright。勢いに乗っている彼らだが、1年ほど前までは路上でのライブ活動を行っていた。バンドの運命を大きく変えたのが、とあるツイートだ。果たして彼らはどういう狙いでそのツイートをしたのか、また“SNSネイティブ”の2人にとってSNSはどういう存在なのか。リアルな声を聞いた。
取材・文 / レジー 撮影 / 小原泰広
NovelbrightがTikTokのイメージを変えた
──今回のインタビューのテーマは「アーティストとSNS」なんですが、複数のSNSを駆使して支持を広げているNovelbrightの今の状況を「令和の売れ方」と紹介するメディアも多いですね。
圭吾 はい。「令和の売れ方」、実は最初に言ったのは僕なんですよ。
竹中雄大 本人自らね(笑)。
圭吾 「めざましテレビ」(フジテレビ系)の取材で言ったんですけど、事前に言おうと思って準備していたんです。ちょうどいい質問が来たので「令和の売れ方ですね」って言ったら、スタッフさんが「それ欲しかった!」という感じの顔をしたのを覚えています(笑)。
雄大 今ではCDショップとかでも「令和の売れ方」って紹介していただいたりして。
圭吾 うれしいよね。「令和の売れ方」はもともと自分で言ったキャッチフレーズではありますが、SNSの力を最大限利用しながらバンド活動をしているという点では新しいことをやっていると思います。バンドマンでTikTokのアカウントをちゃんと運用し始めたのも(竹中)雄大は相当早かったと思うし。
雄大 僕がTikTokで発信をし始めたのは2019年の5月頃なんですけど、音楽好きの人たちからすると当時と今ではTikTokのイメージは違ったと思います。
──確かに、いつの間にか「TikTok=ヒット曲が生まれる場所」みたいになりましたけど、少し前までそういうイメージはそこまで強くなかったですよね。
雄大 YouTubeのコメント欄を見ていても、最近は「この曲にTikTokで出会えてよかった」みたいなコメントがあるんですけど、ちょっと前までは「この曲、いいんだけどTikTokで流行ってるのかよ」みたいな意見が普通にありましたし。
圭吾 いろいろな形で発信をしている中で、そういう時代の変化みたいなものへのアンテナは常に立てておきたいと思っています。
SNS、使わないのは損
──NovelbrightのSNS活用が注目されたきっかけとして、圭吾さんがバンドの路上ライブを“メンバーではないふりをして”投稿したというエピソードは外せないと思います。大きなバズを呼んだあのツイートですが、それもそういった“アンテナ”からのインプットによって生まれたものなんでしょうか?
圭吾 Twitterを見ていて、「面白いマンガを描きました!」って本人が言うよりも、それを読んだ誰かが「このマンガ面白いwww」という形で紹介したほうが拡散されるんだなと前から思っていて、そういう“他人目線の発信”を音楽でやってみたらどうなるんだろう、と考えた結果があのツイートです。ただ、正直あんなにバズるとは思ってなかったですけど(笑)。
雄大 あれはバンドとして何か考えてやった、というよりは路上ライブ中に圭吾が勝手にツイートしたんですよね。初めて大阪で路上ライブをやった日、片付けている最中にスマホを見たら、「あれ、何か圭吾がツイートしてる」「なぜかけっこう伸びてる」って気付いて、それが翌日になったら1万いいねとかになってて。うまくSNSで話題になればいろんな人に知ってもらえるという手応えを感じたし、自分にとっても「歌が聴かれれば評価してもらえるんだ」という自信につながりました。
──なるほど。圭吾さんから音楽以外の領域を観察した結果としてというお話がありましたが、圭吾さんはバンド活動のほかにアパレルブランドの代表としても活動されてますよね。そちらでの取り組みがNovelbrightでのSNS発信につながってもいますか?
圭吾 めちゃめちゃつながってますね。まったく知名度がない状況でアパレルブランドを始めたんですけど、モデル写真もデザインもSNSで公開して、プレゼントキャンペーンを企画して……ってやっていたら、それが実際に売上に跳ね返ってくる経験をしたことがあるんです。SNSの力をリアルに体感していたので、それをバンド活動でも生かすことができるだろうなと初めから思っていました。
──圭吾さんがNovelbrightに加入したのが2019年1月ですが、それ以降のバンドのSNS運用については、圭吾さんが主体的に引っ張りながらそういったアイデアを注入している感じなんですかね。
圭吾 基本はチームでやっているんですけど、発案するのは僕が多いかもしれないですね。それをみんなで肉付けするイメージです。
──ちなみに、別のインタビュー記事で圭吾さんが「バンド活動の中でSNSを活用することに関してデメリットはまったくない」と発言されていたのを読みました。今日のインタビューで改めて確認しておきたいのですが、この認識は今も変わっていないですか?
圭吾 はい。まったく変わってないです。使わないのは損ですね。
SNS、振り回されて当然。むしろ……
──例えばTwitterで言えば、Novelbrightとしてのバンドアカウントがあり、そしてメンバーそれぞれのアカウントもありという形になっていますが、バンド公式と個人アカウントの線引きのようなものはあるんでしょうか?
圭吾 バンドのオフィシャルでは基本的な情報をちゃんと伝えてそれが伸びるように工夫するというのがあったうえで、個人アカウントは“バンドにさらにハマってもらうための場所”と位置付けています。もちろん、バンドとしても個人としてもほったらかしにしない、というのはどちらも同じです。
──メンバーの皆さんは5人共ナチュラルにSNS投稿をするタイプですか? それとも普段はあまり投稿しない人がいて、サボらないように誰かがプレッシャーをかけているとか?
雄大 みんな日常的に発信するタイプですね。
圭吾 やっぱりSNS世代なのかな。そこは特に負担を感じたりはせずみんなやっていると思います。
雄大 SNSのアカウントをフォローするときって、「わくわくできるか」がけっこう大事だと思うんですよ。だからそういう“わくわく感”をどう演出するか、というのはよく考えますね。大きい情報を出すにしても、事前にSNS上を賑やかしておくにはどうしたらいいか、とか。あとは公式のアカウントも決して機械がやっているわけではないので、人間味が大事ですよね。そういう意味で、SHARPの公式アカウントとかは面白いと思って見てます。
圭吾 SHARPのTwitterは面白いよね。
──「SNS世代」という話がありましたけど、もちろん個人差があるものの、SNSとの向き合い方って世代によって異なる部分がだいぶ大きいと思うんですよね。そういう意味で、SNSに関して「同世代だからこそ感覚が通じる」、もしくは「世代が違うから話が通じない」と感じることはありますか?
圭吾 ジェネレーションギャップを感じることはありますね、正直(笑)。ほかのバンドを見ていたり、バンドに限らず会社とかでも「もっとこういう発信をしたらいいのに」と思うことはあります。ただ、SNSの使い方はあくまでもスタイルの話なので、何がいいとか悪いとかそういうことではないとは思ってます。
──SNSを使いこなしているNovelbrightの皆さんですが、逆に“SNSに振り回される”感覚を持つことはないですか? 過去にはそういう部分でのハレーションが起こってSNSをやめてしまったアーティストもいるわけですが。
圭吾 振り回される……どうだろうな、少なくとも僕らはSNSありきで活動しているので。そういう意味では、振り回されて当然というか(笑)。
雄大 長くやっているバンドでも基本はみんな公式アカウントを持っていますし、SNSがより必要不可欠な時代にはなってきていますよね。
圭吾 むしろ、「振り回されない」というのは「SNSの大きなムーブメントの外側にいる」ことになると思うので、そうなったら生き残れない、という気持ちのほうが強いです。
「有名人だから何を言ってもいい」を変えたい
──SNSを活用するうえで避けて通れないのがエゴサーチだと思うんですけど、皆さんはエゴサーチしてネガティブなものが引っ掛かったとき、メンタルの持っていき方はどうされてますか?
圭吾 最初はやっぱり傷つきましたね。でも、傷つきすぎて何も傷つかなくなったというか(笑)。もう慣れたというか、みんな通る道なんじゃないですかね。
雄大 どんなことに対しても何かにつけて文句を言う人っているじゃないですか。そういう人は気にしないようにしてます。
圭吾 最近は「こういうアイコンで、こういうプロフィールの人は俺らのこと嫌いなんやな」って見方ですね。
雄大 そうなんや(笑)。
圭吾 今はもうそういう感じでしか見てない。だから、むしろ音楽を作るうえで参考になる情報を得られているんじゃないかなと思ってます。
──そこまでいくと最強ですね(笑)。
圭吾 スルースキル、これからの時代さらに大事になると思います(笑)。ただ、真っ当な批判から誹謗中傷に近いレベルのものまでSNS上にきつい言葉はいろいろありますけど、そういうのをかわすことのできる人とできない人がいますよね。それは有名人でも同じなのに、SNS上には「有名人だから何を言ってもいい」みたいな空気があるなとはいつも感じていて。そういうのは自分でも変えていきたいと思っています。
──ちょうど先日「テラスハウス」の木村花さんの件があった際に、圭吾さんはまさに今おっしゃっていただいたこととリンクする内容のツイートをされていましたね。
圭吾 はい。ああいうときに「急にSNSの使い方の話をするのはどうなの?」という意見もあるのはわかるんですけど、僕としてはああいうときだからこそ注目されている人が発言することで今までのよくない常識に対して問題提起ができると思ったので。ファンの方からネガティブな反応はあまりなかったと思うんですけど、何かしら伝わっていればうれしいです。
「バズ」を狙って起こすのは無理
──Novelbrightは8月に「Sunny drop」でメジャーデビューしたばかりですが、楽曲制作の過程では「SNSでバズるか」みたいなことを意識しているんですか?
雄大 基本的には自分たちがやりたい、自分たちにとって気持ちいいものを作るというのが最優先ですけど、「こういう形でバズったらいいな」ということを考えたりもします。例えば、「Sunny drop」に関しては、普段は使わないような高い音をサビで使っていて。
圭吾 今までで一番高い音ですね。
雄大 あれも歌っていて気持ちのいい流れを感覚で作ってはいるんですけど、メジャー1発目で話題になってほしいって思いも込めて、「いったれ!」と思ってああいうメロディになりました。カラオケで歌うのは難しいかもしれないけど……。
圭吾 むしろ「カラオケで歌えないでしょ、これ」ってバズってほしいなと(笑)。
──「Sunny drop」のサビのファルセットについては、ただ高いだけじゃなくて手前とのギャップ、音程の跳躍があるので確かに歌うのが難しそうですね。
雄大 そうですね。Aメロはわりと抑えめのメロディですし、「この音程の幅が難しい!」「チャレンジしてみたい!」って話題になってほしいですね。
圭吾 ただ、他人のふりをしたツイートが想像以上にバズったって話もそうなんですけど、「狙ってバズを起こせるか」っていうと必ずしもそうではないんですよね。意識はしているんですけど、じゃあ「何がバズるか」を文章に書けと言われたら絶対書けないです。
雄大 TikTokで一気に話題になる曲も、明確な理由はないと思うんですよね。何年も前の曲が急に人気になったりするし。だから、TikTokで流行る曲を狙って作ることはたぶんできないと思うんですよ。例えば僕らの「Walking with you」という曲はTikTokだと学生がリレーで走っている動画にたくさん使われているんですけど、別にあれは僕らが「リレー動画に使ってね」と言ったわけじゃないのに、今ではなぜか定番になっていて。
圭吾 いつの間にか「リレーの動画と言えば『Walking with you』」みたいになっているのかなと思うんですけど、そういうふうに僕らの予期しないところで勝手に話題になっていくのがSNSの面白さなんじゃないかなと思います。
雄大 もちろん「こうやってバズってほしい!」って考えてSNSに投稿したりもしますけど、思わぬ形で話題になったものを気を付けて見るようにもしていますね。
SNSは自分たちを広める手段
──そうやって「バズるもの」「バズらないもの」を観察していく中で、自分たちのクリエイティビティがその物差しに引っ張られてしまうことはないですか? 要は「やりたいこと」より「バズりそうなこと」を優先してしまうというか。
雄大 それはないです。やりたいことが大前提で、それをどうやって広げるかを一生懸命考えている、ということでしかないので。
圭吾 バンドとしての芯はあくまでもぶらさずに、というのは5人の間でも共有されています。
──現状、Novelbrightの「やりたいこと」「芯」というのを言語化するとどういったものになりますか?
雄大 「王道」ですね。変化球ではない、いつの時代も戦えるキャッチーなメロディラインの音楽。
圭吾 そうだね。Novelbrightとして流行り廃りのない音楽をやりたいと思っています。
雄大 いいこと言ってくれた。それです(笑)。
Novelbrightは体験共有型バンド
──「王道」というのは、先日TwitterやInstagram、YouTubeで公開されていた「一問一答」でお二人が「5年後の目標」として共に答えていた「日本を代表するバンド」といったお話ともつながりますね。そしてそういった存在を目指していく中で皆さんはSNSを積極的に活用されているわけですが、NovelbrightのSNSとの向き合い方を見ると、ファンの方を巻き込むというか、自分たちの“共犯者”になってもらおうというメッセージを打ち出しているように見受けられます。
雄大 まさにそうですね。例えば「みんなで配信のチャートを上げよう!」みたいなことをこっちから発信して、それで実際に順位が上がったら、協力してくれたファンの人たちも喜んでくれて……っていう形で、みんなで一丸となって出した成果を分かち合えるんですよね。これはSNSを介してファンの皆さんとつながってるからこそなんじゃないかなと。
圭吾 僕らは“体験共有型のバンド”なんですよね。お客さんが「自分の周りの人にもNovelbrightを知ってもらいたい」って気持ちでアップしてくれた路上ライブの動画が伸びたこともそうですけど、「私たちが一緒になってNovelbrightを押し上げていくんだ」と考えてくれてるファンの方が多いんです。
──なるほど。そのあたりの距離感と言いますか、ファンの方の「私たちが売ってあげた」という気持ちを盛り上げすぎる怖さみたいなものを感じたりはしないですか? ファンからの“期待”が“過剰な要求”に変わってしまう危険性というか。
圭吾 うーん、ファンの方たちのおかげでNovelbrightの存在が広まっているのは事実ですからね。ファンのみんながいないと自分たちはバンドとして成功できないので、それに関しては感謝の気持ちしかないです。
──お話を聞いていると、バンドの5人がいて、その周りのファンの方々まで含めてNovelbrightだっていうイメージが浮かびます。みんなでNovelbrightという存在を形作っているというか。
圭吾 ホントそんな感じですね。
雄大 SNSがあることによってファンの人からの意見をダイレクトにもらえるし、逆に自分たちもファンの人に直接発信できるので、これからも先もそうやってつながりながらファンのみんなと一緒に大きくなっていきたいという気持ちが強いです。
──「一緒に」というのがポイントですね。
雄大 さっき言った「分かち合う」とか、圭吾が言った「体験の共有」の話ともつながるんですけど、SNSのいいところとして「夢が叶ったときにそれをみんなで一緒に喜べる」ということがあると思うんです。この前「今年Mステ出たい…」ってツイートをしたらファンのみんなが実際に番組にリクエストをしたりしてくれたんですけど、もし本当に出演が決まったらみんなほんまに喜んでくれると思うんですよ(※取材は8月中旬に実施。その後9月4日放送回に出演した)。だからこれからも自分の夢は積極的に発信していきたいし、バンドメンバーだけじゃなくてファンの人たちとも一緒に夢に向かって進んでいきたいと思います。
リリース情報
メジャーデビューデジタルシングル「Sunny drop」配信中
https://Novelbright.lnk.to/Sunnydrop
Novelbright プロフィール
大阪出身の5人組ロックバンド。2013年にオリジナルメンバーで結成され、2019年1月に現体制となる。同年7月に行った「崖っぷちどチクショー路上ライブTOUR」がSNSで拡散され、その名を全国へと広める。2020年5月に初の全国流通アルバム「WONDERLAND」をリリース。同年8月に「Sunny drop」でユニバーサル ミュージックよりメジャーデビューを果たした。2021年7月には大阪・大阪城ホールでワンマンライブを開催することが決定している。なおボーカルの竹中雄大は口笛の世界大会で2度の優勝経験がある。
