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さらば青春のZepp Tokyo

2年以上前2022年01月01日 3:06

東京都江東区のライブハウス、Zepp Tokyoが本日2022年1月1日をもって営業を終了する。1999年3月にオープンしたZepp Tokyoでは、約22年に渡っておよそ6000公演が行われ、約1300万人が来場。ラスト3日間は、2021年12月29日にイベント制作会社・ライブマスターズの10周年に合わせたコラボイベント「Livemasters Inc. 10th Anniversary presents “GT-Z 2021"」、30日に大阪のインディーズレーベル・THE NINTH APOLLO主催の「THE NINTH APOLLO presents "1つの目標として存在してくれたZepp Tokyoにて"」、そして昨日12月31日にELLEGARDENとBRAHMANによる対バンが行われた。この記事では、これまでに音楽ナタリーに掲載してきたZepp Tokyoでのライブレポートをピックアップして紹介。本稿をきっかけにそれぞれのZepp Tokyoでのライブの思い出を振り返ってみてほしい。

文・構成 / 丸澤嘉明

お互いにぶつかり、認め合って生まれる対バンのドラマ

1999年3月20日のTRICERATOPSによるこけら落とし公演以来、同時期にデビューしたGRAPEVINEやDragon Ashをはじめ、THE BACK HORN、BUMP OF CHICKEN、9mm Parabellum Bullet 、THE BAWDIES、KEYTALK、Saucy Dog、マカロニえんぴつ、米津玄師、MIYAVIといったさまざまなロックバンドやソロアーティストが熱演を繰り広げてきたZepp Tokyo。その有終の美を飾ったのは、ELLEGARDENとBRAHMANによる対バンライブだった。対バン公演では、時にお互いのバンドのプライドがぶつかり合い、時にリスペクトの思いがあふれ、ワンマンライブにはない狂騒や一体感が生み出されていく。クリープハイプはUNISON SQUARE GARDENを迎えた公演で「今日はどうしても勝ちたいです。勝ちにいきます」と宣言し、RADWIMPSは米津玄師のことを「同志であり、ライバル」と称えた。また長年さまざまな因縁がささやかれてきた氣志團とDJ OZMAの対バンでは、先攻を務めたDJ OZMAが「この勝負、DJ OZMAがいただいたぜ! 氣志團、特にフロントマンの2人はこのあとなんにもできないぜ、絶対なぜか足腰がフラフラなはずだ!」と挑発。SCANDALはCHAIとの競演で「やっぱりガールズバンドは最高!」と笑顔を見せ、私立恵比寿中学とNegiccoのジョイントライブではKaedeが「好きがあふれてどうしようもない」とエビ中への高まる愛を告白するなど、ピースフルなムードで会場を満たした。

一見すると接点がなさそうな組み合わせでも、新たな出会いが化学反応を起こして大成功を収めることもある。SPECIAL OTHERSとPerfumeという異色競演ではお互いの曲を披露し合い、[Alexandros]×ORANGE RANGE×キュウソネコカミによるスリーマンライブでは、川上洋平が「あまり接点がない3バンドだったんですけど、フタを開けてみたらけっこう共通点があって。バカ騒ぎがとにかく好きな人たちの集まりでした。それが客席に伝わって、成功しましたね」と振り返る。でんぱ組.incとFear, and Loathing in Las Vegasの対バンではラスベガスのライブをペンライトが照らし、「こんなライブは今日しかできない!」とメンバーのテンションを引き上げた。また音楽レーベル・unBORDEが開催するXmasパーティでも、神聖かまってちゃん、きゃりーぱみゅぱみゅ、tofubeatsらジャンルの異なるアーティストたちがお祭り騒ぎを繰り広げた。

対バンライブではコラボパフォーマンスも大きな見どころの1つだ。スチャダラパーとチャットモンチーによる “スチャットモンチー”が「シャングリラ」をパフォーマンスしたかと思えば、銀杏BOYZとYUKIは「駆け抜けて性春」で共演。「駆け抜けて性春」のCD音源では女性ボーカルパートをYUKIが担当しているが、ライブでも聴くことができたファンには忘れられない思い出になったに違いない。KANA-BOONはASIAN KUNG-FU GENERATIONを招いたメジャーデビュー5周年企画で、高校時代によくカバーしていたという「君という花」を後藤正文とともに演奏して「夢が叶いました!」と喜びを爆発させた。またRADWIMPSもMr.Childrenと「車の中でかくれてキスをしよう」「有心論」を笑顔で歌い、曲が終わると野田洋次郎と桜井和寿は熱い抱擁を交わした。

仲間やファンとともにアニバーサリーを祝福

Zepp Tokyo営業終了3日前の2021年12月29日にはイベント制作会社・ライブマスターズの10周年とのコラボイベント「Livemasters Inc. 10th Anniversary presents “GT-Z 2021"」が行われたが、Zepp Tokyoはさまざまなアーティストのアニバーサリーイベントを祝福する舞台となってきた。SUGIZO(LUNA SEA、X JAPAN)のソロデビュー20周年公演ではToshl(X JAPAN)、RYUICHI(LUNA SEA)、清春(黒夢、sads)が駆けつけ、中村一義のデビュー20周年記念イベントではサニーデイ・サービス、SPECIAL OTHERS、小谷美紗子が、m-floのメジャーデビュー20周年を記念ライブにはCrystal Kay、MINMI、melody.ら縁のあるアーティストがゲスト出演して花を添えた。平井堅がデビュー20周年記念ライブで「これからも大好きな歌を続けていく」と決意を新たにしたほか、忘れらんねえよ、SAKANAMONといったバンドも10周年を迎えられた喜びをこの舞台でファンと分かち合った。

Zeppでライブすることは1つのマイルストーン

2021年12月30日開催のTHE NINTH APOLLO主催イベントのタイトルが「THE NINTH APOLLO presents "1つの目標として存在してくれたZepp Tokyoにて"」だったことからもわかるように、収容人数2709人というZepp Tokyoでライブをすることはアーティストにとって1つのマイルストーンであった。Base Ball BearはNUMBER GIRLの解散直前のライブで初めてZepp Tokyoを訪れ、ライブ後に会場に隣接する観覧車に乗って「俺もいつかここでライブやるぞー!!」と叫んだという。でんぱ組.incは2013年に行われたワンマンライブの際に満員のフロアを見渡して「1年前には考えられなかった念願のZepp Tokyoのステージ」と目を輝かせ、ceroも2015年の「Obscure Ride」リリースツアーで「いよいよceroもZepp Tokyoでやることになりました、ありがとう!」と感慨深げに語った。2015年の時点でフリーライブにも関わらず会場を満員にできず「Zepp Tokyo! 絶対、満員にして戻ってくるからな!」とリベンジを誓ったBiSHはその2年後、3回目の「TOKYO BiSH SHiNE」でついに目標を達成。そのライブでアイナ・ジ・エンドは「これまでは『赤字イベントに来てね』なんて自虐的に言ってたけどほんとは悔しかった」と回顧している。

Zepp Tokyoを満員にできるようになったアーティストは、次のライブ開催地としてホール会場やアリーナ会場を目指すことが多い。その過程で、ミュージシャンにとっての聖地・日本武道館でのライブが視野に入ってくる。だからだろうか、Zepp Tokyoのライブにて日本武道館公演の開催決定が発表されるケースがままある。BLUE ENCOUNTは涙ながらに「俺は、この場所を守り続けるために音楽を作り続けようと思った。もっといい景色見に行こうな。連れていくよ」と言って武道館公演を発表。あいみょんも目を潤ませながら「2018年はいろんなことがありすぎたので、来年はみんなに感謝を返したいです」と話し、日本武道館での弾き語りワンマン開催をファンに伝えた。またSHISHAMOやSUPER BEAVERもZeppで武道館公演開催の喜びをファンと噛み締めた。かと思えば怒髪天は「武道館より全然よかった! うまくできたとかそういうんじゃない。全員に、ちゃんと渡した!」と言って、結成30周年にして初めて行った日本武道館公演よりも翌年のZepp Tokyoでのライブに手応えを感じたという、いぶし銀のMCでファンを沸かせた。

ビッグアーティストも虜にするファンとの距離感

すでにホールやアリーナクラスのツアーを主戦場にしているアーティストも、Zepp Tokyoでライブすることに魅了されている。サカナクションは「やっぱりライブハウスいいね。すごい近い! だからなんか……アガるね」と声を弾ませ、赤西仁は「バンドでツアーをやるのは初めてなんですけど、大丈夫ですかね。いつもは踊るので、ステージでのやり方がわからなくて」と戸惑いつつも、フロアに飛び交う声に応じるなど観客とのコミュニケーションを楽しんだ。5日後に東京ドーム公演を控え、「東京ドーム前夜祭」と銘打った公演を実施したGLAYは、TAKUROの誕生日をサプライズ満載で祝福。クイズ大会も行われるなど、まさに前夜祭らしいアットホームなライブを行った。2021年12月だけで5回もZepp Tokyoでライブをするなど、“Love Like Zepp Tokyo”なaikoは、ファンの熱狂に思わずトリプルアンコールまで披露。VAMPSを含め幾度となくZepp Tokyoに“篭城”し、同会場での公演数第1位を誇るHYDEは、100回公演の際にはZepp Tokyoの支配人と鏡開きを行っている。ヤバイTシャツ屋さんも2021年3月2日から9日にかけてZepp Tokyo 5DAYS、10公演を実施。「正直マジでもう声が出ない」と言いながらも、かねてより目標に掲げていた“Zepp篭城”を完遂した。

1日3公演、計6時間の伝説的ライブ

アイドルたちも負けていない。ももいろクローバーZが2011年に行った1日3公演、計6時間ライブはファンの間で伝説となっており、BELLRING少女ハートは正月も開けきらぬ1月2日に1公演で35曲をパフォーマンスする荒業でファンを熱狂させた。けやき坂46も「絶対成功させて伝説にしよう」という意気込みでZepp Tokyo公演に臨み、その2年後には日向坂46としてカムバック。「あのときよりも成長できた」と自信に満ちたライブを繰り広げた。2021年12月9日にZepp Tokyoでバースデーイベントを開催したことも記憶に新しいあほの坂田。と志麻は、ソロでも浦島坂田船としてもZepp Tokyoの常連。同じく歌い手のluzがオーガナイザーを務める「XYZ TOUR」も全国のZeppを巡るのが恒例となっており、「平成最後」と銘打った2019年4月の「XYZ」では出演者たちが「まさか『XYZ TOUR』が元号をまたぐとは思わなかった」と口にしながらもZepp Tokyoで大団円を迎えた。

終わりと始まりの場所

この場所で活動に区切りをつけたアーティストも多い。Charisma.comの活動休止前ラストワンマンでは骸骨姿のいつかとゴンチの遺影が用意され、2人はステージに用意された真っ白な棺桶から登場。すべての楽曲を終えると、再び棺桶の中に戻るという演出でファンの目を釘付けにした。東京パフォーマンスドールは「ファンの皆さんは私たちの宝物です」とファンとの別れを惜しみ、常に予測のつかない活動を続けてきた清 竜人25はZepp Tokyo公演のラストに突然、約半年後のライブをもって解散することを告知。来場者がライブの余韻に浸る間も与えず感情に揺さぶりをかけた。

もちろん、Zepp Tokyoはアーティストが再スタートを切る舞台にもなってきた。2014年に一時活動休止していたSPYAIRは「すごい長い時間がかかったけど、みんな戻ってきてくれたよね。ツアーをやれてよかった。失って帰ってこないと思ってたものが、友達が、戻ってきたような気がします」と涙ぐみながら語り、中島愛は音楽活動休止を経て6年ぶりに実施したツアーのファイナルで「どのくらいの方に興味を持ってもらえるかと思ってたんですけど……本当に私は幸せ者ですね」と喜びを噛み締めた。チームしゃちほこから改名後、初のワンマンを行ったTEAM SHACHIは「チームしゃちほこのときの初ワンマンもすごく成功したと思うけど、今日はそれよりも成功した」と胸を張り、℃-ute解散から9カ月後、ソロで再スタートを切った鈴木愛理は「これからも共に歴史を作っていこうじゃないか!」とファンに呼びかけた。本名名義では初となる全国ツアーのファイナルをZepp Tokyoで開催した西川貴教は「一生の中でそんなにあるはずないのに、何度か経験している気がする(笑)」とユーモアたっぷりに語って笑いを取っていた。そして川谷絵音の未成年者との飲酒により活動を自粛していたゲスの極み乙女。は、アルバム「達磨林檎」をZepp Tokyoで販売し、その場で行うくじ引きの当選者のみがライブに参加できるという形で活動を再開。そのライブでは、アーティストビジュアルに登場する“達磨林檎”に右目を書き入れるという演出で自身の新たな門出を祝した。

本日を持ってZepp Tokyoの営業は終了するが、すぐそばには系列店のZepp DiverCity (TOKYO)がある。また2020年にはZepp Haneda(TOKYO)やKT Zepp Yokohamaもオープンしている。ライブハウスの火が消えることはない。そこでは、これからも日々アーティストとファンの思いがぶつかり合い、さまざまなドラマが生み出されていくだろう。