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アイドルのセカンドキャリアを考える 第3回 よきゅーんは愛を持って所属タレントと向き合う(聞き手:レナ)

「アイドルのセカンドキャリアを考える 第3回」ビジュアル
3年近く前2022年07月01日 9:05

元バニラビーンズのレナをナビゲーターに迎え、引退後に異なる仕事に就いて新たな人生を送る “元アイドル”たちに、セカンドキャリアをどう形成したのか話を聞く本連載。第3回は “アイドル戦国時代”が本格化する少し前の2006年に、中野腐女子シスターズ(※2011年に「中野風女シスターズ」に改名。現在は活動休止中)の一員としてデビューした“よきゅーん”こと乾曜子をゲストに迎えてインタビューを実施した。

よきゅーんはアイドルになる以前から、コスプレイヤー /タレントとして活躍。中野腐女子シスターズとその男装グループ・風男塾(元:腐男塾)でリーダーを務め、2011年にグループ卒業を発表した。そして2018年に芸能事務所・株式会社PPエンタープライズを設立。現在は代表取締役社長兼プロデューサーとして、えなこや伊織もえ、篠崎こころといった人気コスプレイヤーを次々と世に送り出している。今回はよきゅーんが考える所属タレントとの向き合い方や、仕事のやりがいについて語ってもらった。

取材 / レナ 文 / 下原研二 撮影 / 小財美香子

アイドルになるとは思ってなかった

レナ よきゅーんさんは中野腐女シスターズの一員として2006年にデビューしましたけど、それ以前からタレント業も行われていたんですよね?

よきゅーん そうですね。中野腐女シスターズは個別でタレント業をしている子たちが集まったグループだったので。

レナ グループを結成するにあたってオーディションがあったんですか?

よきゅーん いえ、オーディションとかはなくて。オタクを集めた番組をGYAO!でやって、その初回放送がお蔵入りになったんですよ。番組MCのはなわさんとプロデューサーの間で「このオタクの人たち面白いから、ちゃんと番組にしたほうがよくない?」という話になったらしく、グループとして「はなわレコード“中野腐女子シスターズ”」という番組をやることになったんです。

レナ いい意味でのお蔵入りだったんですね。

よきゅーん 当時は「収録時間めちゃくちゃ長かったのに!」と思ってましたけどね(笑)。

レナ (笑)。番組発のグループだったんですね。

よきゅーん そう。それにもともと音楽をやるつもりもなかったんですよ。

レナ え、アイドルグループを組みたい、みたいな気持ちもなかったんですか?

よきゅーん うん。全然考えてなかったし、そこで男装をやるとも思ってなかったです。遊びでやっていたらデビューが決まったという感じで(笑)。

レナ 歌を歌いたいという願望があったわけでもないんですね。

よきゅーん 全然全然、歌と踊りが苦手な子とかもいたし(笑)。

レナ あの頃はアイドルシーンが無法地帯だったというか、ちゃんとした王道のアイドルとしてモーニング娘。や養成所上がりのグループもいましたけど、同時に私たちみたいに道で拾われた感じの人たちもいて。

よきゅーん インディーズとメジャーが同居した感じでしたよね。PASSPO☆さんとかはメジャーな感じがしてた(笑)。

レナ わかります(笑)。そのあたりから大人たちが考えるグループ先行のアイドルが増えていった感じはしますよね。

よきゅーん 今ほどグループの数も多くなかったから、合同のライブにももクロちゃん(ももいろクローバーZ)もいたりして。

レナ カオスな時代でしたよね。

グループ卒業で学んだこと

レナ よきゅーんさんは中野腐女シスターズと腐男塾のリーダーを務めて2011年にグループを卒業しますけど、何かきっかけがあったんですか?(参照:腐男塾・部長&中野腐女シスターズ・リーダーが卒業発表

よきゅーん 単純にメンバーの入れ替わりですね。

レナ それはご自身で選択されたことだったんですか?

よきゅーん いえ、上から言われました。30歳になったから卒業みたいな。

レナ えー! そう言い渡されたときはどう思いました?

よきゅーん うーん……その経験が今にも続く教訓になっていて、「どれだけがんばっても認めてもらえないんだな」とは思いました。世間というかビジネスってそういうものなんだなという、それはすごく感じました。

レナ 私もビジネスだからしょうがないと理解していますけど、バニラビーンズも半年前に解散を言い渡されたんです(参照: バニラビーンズ ラストインタビュー|兄貴分・掟ポルシェが聞く解散の真相)。だから言い方が悪いかもしれないけど当時は駒にされたという思いもあって。

よきゅーん 本当にそうだよね! 全世界のアイドルに声を大にして言いたい。「マジで必要以上に運営にへこへこする必要ないよ」って(笑)。そういった経験を通して感じたのは、会議室で会議してるだけの人たちに現場のことはわからないということ。だから今は自分の感覚だけを絶対的に優先しています。結局お金を出している人に決定権があるから、PPエンタープライズにはいらない大人は絶対に入れないし、株主も私以外いないんです。

レナ じゃあ、今もスタッフはよきゅーんさんお一人なんですか?

よきゅーん そう。だからマネージャーも私しかいないです。社員を入れたいくらい忙しいんですけど、私はできない人間にお金を払いたくない(笑)。

レナ おお! でも、これだけ多忙だとガソリン切れみたいになることはないですか?

よきゅーん それがまったくない(笑)。風邪も引かないし、すごく元気なんです。

レナ 所属タレントの現場にも立ち会うんですか?

よきゅーん 基本的にはそうですね。ただ、最近はコロナ禍も明けてきてタレントの現場が被ることも多くなっていて。そういうときは私がメイド喫茶を運営していた頃に働いてくれていた子にアルバイトとして現場に行ってもらっています。

愛を持ってタレントと接する

レナ 話を戻すと、よきゅーんさんはあまり納得していない状態でグループを卒業されたわけじゃないですか。当時はどんな心境だったんですか?

よきゅーん どっちにしても将来的には起業したいと考えていたし、当時はグループの辞めどきってわからなかったから、今思えばちょうどよかったのかなと思います。アイドル時代って井の中の蛙というか、周りが見えなくなかった?

レナ はい。まったく同じです(笑)。

よきゅーん だよね。それを今の若い人たちに教えたい。

レナ 正直、ぬるま湯だったというか。

よきゅーん 私たちは当時「オリコン10位に入ったら世界が変わる」と言われていたけど、いざ実現しても何かが変わることなんてなかったし、音楽業界自体が厳しい時期に突入したのもあるだろうけど、結果的にみんなが想像していた未来ではなかった。それは自分たちの実力不足もあるだろうし、扱う側の……こんなこと言ったら怒られるだろうな(笑)。

レナ いやいや。

よきゅーん グループで売れていったももクロちゃんはやっぱりすごいと思うんです。川上(アキラ)さんのプロデュース力なのか、楽曲選び1つ取ってもすごいんですよね。今、自分でタレントを抱えてみて思うのは、心から愛していないとタレントは扱えないということ。そうじゃないとその子のセールスポイントや「ここが絶対的にファンにウケる」みたいなことはわからないと思うんです。だからこそPPエンタープライズでは私がそのタレントの特性を見て、「絶対これがいい」と思ったことをやるみたいな方針があって。

レナ それは大事ですよね。やっぱり運営に愛されてないとタレント本人も自信を持てないと思いますし。

よきゅーん 机上の空論って言うんですかね。さっきも言いましたけど、会議室で話しているだけの人に現場のことはわからない。だからももクロちゃんと川上さんが二人三脚でやっていたのを見ると、「あそこまで愛情をかけていらっしゃったから、売れるのは必然」と思ってしまう。例えば私の場合は所属タレントに関心があるから「この子はここが絶対にかわいい」と思って売り出しポイントを決めるんです。

レナ マネージャーさんも「この子たちを売ろう!」と言うより、会社の上司に言われてアイドル担当になることが多いですもんね。

よきゅーん そう。それが歩合制とかなら向き合い方も違うと思うけど、給料制だとあまり変わらないですからね。だから私は小さい事務所でも二人三脚でがんばるほうが正直売れると思う。今の時代、デビューするのは容易いけどグループとして売れるかどうかの差は、ファンと同じ熱量でタレントを見れるかどうかだと思うんです。もちろんファンと同じ熱量だけではダメで、広い目線を持って井の中の蛙にならないことが大事なのかなって。あと私は大きな後ろ盾がない中でも、うちの子たちを売れるようにしてあげたい。「うちなんてただのオタクの集まりで、握手会もなくて、この人は億稼いでますよ」みたいな。それをPPエンタープライズが証明したいんです。

尽きることはないやる気

レナ そもそも、えなこさんとはどうやって出会ったんですか?

よきゅーん 私が面倒を見ていた人が「この子と契約する」と言ってえなこを連れてきたんです。その人がマネジメントする予定だったんだけど、結局その話は立ち消えになって、あれよあれよという間に私と契約することになって。

レナ えなこさんと契約するにあたって会社を立ち上げたんですか?

よきゅーん いえ、もともとはメイド喫茶を始めるために立ち上げた会社で、それとは別でアイドル事業をやりましょうという流れですね。コスプレイヤーを使った仕事が流行り出した頃で、私はゲーム会社さんからキャスティングをよく頼まれていたんですよ。コスプレイヤーって素人だから「今日はめんどくさい」とか「昨日飲みすぎたから行かない」みたいな理由で約束の日に現場に来なかったりするんです(笑)。だからゲーム会社の方から「仕事をしたことのある信頼できる人にキャスティングを頼みたい」と言われることも多くて、ちょうどそのときにえなこと契約してトントン拍子でコスプレ仕事をいただくようになった。今思えばタイミング的にラッキーだったのかもしれないです。

レナ なるほど。よきゅーんさんがすごいのは二足の草鞋というか、社長としてプロデュース業をこなしつつ出役もしていて。

よきゅーん 最初の頃はコスプレイヤーとして一緒にメディアに出てました(笑)。本当に忙しい時期は雑誌の撮影中にイヤフォンを付けながらリモートで会議に参加したこともあって。ポーズをキメながら弁護士と話し合いをしてるみたいな(笑)。

レナ どこにそんなパワーが……。

よきゅーん 結局、私は好きなことしかしてないんですよ。もちろん仕事ではあるけど、趣味の延長線上にあるのが今の活動というか。それに所属タレントが活躍すればするほど、自分が描いたロードマップにフラグが立っていく感じがして楽しいんです。一緒に仕事をしている人たちから「大きな仕事をやり遂げると燃え尽き症候群になっちゃう」みたいな話を聞くけど、私の場合はその大きな仕事が終わる前に次にやりたいを考えてる。だから本当にやる気の塊で燃え尽きることがないんです(笑)。

レナ すごい(笑)。そのやる気はご自身の中から自然と湧いてくるものなんですか?

よきゅーん えなこと去年うちに入ってくれた伊織もえが、今の日本のコスプレ界の2トップみたいな感じなんですね。で、雑誌の年間表紙冊数もその2人が1位と2位になって、うちの篠崎こころが3位だったんですよ。それとか超楽しい。「やってやったぜ!」みたいな(笑)。だから私は「アイドルマスター(アイドルマスター ミリオンライブ!)」をプレイしている感覚なんです(笑)。

レナ それだけの売れっ子たちを1人で担当するのは大変じゃないですか?

よきゅーん いえいえ、楽しいし誰にも渡したくない! 「俺が一番うまく育てられるんだ!」と思っているので(笑)。

仕事とプライベート、どちらも幸せになってほしい

レナ よきゅーんさんは、えなこさんや伊織さんの熱愛が報じられた際にお二人に対して前向きなメッセージを送っていたじゃないですか。アイドルの熱愛報道に対してファンから厳しい意見が飛び交うことも多いですけど、こういった風潮に対して何か思うところがあったのでしょうか?

よきゅーん うーん、まずコスプレイヤーはアイドルではないのでは?というのが大前提。コスプレイヤーって彼氏と一緒にイベントに来る子もいるし、彼氏がカメラマンということも少なくないんです。だからコスプレ界って熱愛云々についてあまり騒がない。これが接触ありきでファンからお金をもらっているとなると、さっき言ったように「金を払ってやってるのに」という気持ちが潜在的にでも出てきちゃう方もいるのだと思います。

レナ アイドルとコスプレイヤーでは、ファンの方々の見方も違うんですね。

よきゅーん そうそう。見せている夢が違うのかなと思います。あとは最初から恋愛商法をしてるかどうかも別で、私の中ではファンに向けて「クリスマスに1人はさみしい」みたいなことを発信するのはもうアウトなんですよ。えなこももえちゃんもそういうことは言ってきてないし嘘をついてない。だから本人も堂々と「私は嘘はついてない」と言えるというか。

レナ なるほど。

よきゅーん 結局そこで好きにさせてるのは恋愛商法なんですよね。ファンが自然に「彼氏はいないだろう」と思うのと、いないそぶりでそう思わせるのは別じゃないですか。だから恋愛商法をするのであれば最後までやり切るべきだと思います。彼氏と一緒に外を歩かないとか誕生日は我慢するとかね。それで対価をもらってるわけですから。もちろん、すべてのアイドルが恋愛商法をしているというわけじゃないですよ。

レナ ちなみにえなこさんと伊織さんの報道が出た際に、ファンの人たちからはどういう声が上がったんですか?

よきゅーん もちろんガチ恋のファンが一切いないとは思っていないので、どうなるかわからなかったんですけど、2人ともフォロワーが増えたんですよ。潔く発表する姿がカッコいいと言っていただくこともありました。まあ、えなこの報道の前に「週刊文春」さんから電話が来たときはさすがにびっくりしましたけどね(笑)。私も初めての経験だったので「どうにかできないかな?」とも思ったけど、普通に手をつないで歩いているところとか撮られているみたいだったけど、写真も見せてもらえないんですよ。だったら年齢も年齢だし、そういう売り方をしていないという自負もあったから堂々と発表しようと。私たちが何も言わなくても文春には載るわけですから。

レナ そういう連絡はギリギリに来るんですよね。

よきゅーん そうそう、だから少ない時間で何ができるかを考えました。ちょうどその電話が来たのがラジオの収録日だったから「もう数時間後に収録で4日後に放送されるラジオで言うぞ!」みたいな(笑)。この日ばかりは私も一緒に出演したんですけど、えなこ本人は「私、嘘はついてないもん!」みたいなことを言っていて。えなこはもともとそういう気質なんですけど、ファンに媚びを売ることがなかったので成立したのかもしれないし、コスプレイヤーだから許された部分もあるかもしれない。とは言え文春さんから連絡が来たときは足が震えました(笑)。私がその先の舵取りを失敗した場合、大変なことになるのはえなこじゃないですか。だからもう何度も何度も最適解をシミュレーションして、文春さんと同じ時間に発表させてもらうことにしたんです。えなこの人気はその報道でグラつくものじゃないと思っていたので、もう堂々と発表しようって。

レナ 社長が足を震わせながらでも、どっしり構えてくれていたというのはえなこさんも心強かったと思います。

よきゅーん 既婚者である茉夏を入れたこともそうですけど、彼氏がいることを公表して恋愛OKですよと発信するのも会社のブランディングとしてプラスだと思ったんです。私はうちの子たちに仕事とプライベート、どちらも幸せになってほしい。あと世間の人たちに対して思うのは、彼女たちのプライベートの人生や年齢も考えてあげてほしいということですかね。

過信はしない、毎日の積み重ねが大事

レナ よきゅーんさんはコスプレをいつまで続けようみたいなことは考えているんですか?

よきゅーん いえ、考えてないです。面白いと思ったらやるだけ(笑)。オファーがあっても「別に私がやらなくてもいい」と感じたらお断りすることもあるんです。あとはPPエンタープライズのタレント全員一緒に出るからこそ価値があるというのもありますね。完成した雑誌なりを読者の方が見て「この中に事務所の社長がいるんだよ」という1つのフックになるじゃないですか。それに私が前に出ることで安心するファンもいると思うので。

レナ 今年の4月1日にはエイプリルフール企画として、PPエンタープライズのタレントが集結した限定グループ・PPE41がデビュー曲「LIE! LIE? PANIC!!」を発表するというトピックもありました。よきゅーんさんはこのグループにも参加されていて、コスプレイヤーの方からすると、そうやって40代でも活躍する姿が見れるのはすごく夢があるんじゃないかなと思いました。

よきゅーん この企画、本当に大変だったんですよ(笑)。でも、同年代の方々にそう思ってもらえたらうれしいですよね。

レナ これだけ経験豊富だと現役アイドルの子たちから相談を受けることもあるんじゃないですか?

よきゅーん たまにありますね。この先どうしたらいいのか、みたいな相談を受けたり。

レナ そういう相談にはどうアドバイスをするんですか?

よきゅーん 「辞めたら?」って(笑)。若いときは見極めが大変だし、卒業するという決断がどう転ぶかは誰にもわからないけど、努力したうえで現状に満足していないならどうにかしたほうがいいんじゃないかなと思うんです。

レナ 私も現状に満足できないまま「とりあえず3年やろう、とりあえず5年やろう」みたいになっていたかもしれません。ターニングポイントはあったはずなんだけど、なかなか自分から辞めますとは言い出せなくて。

よきゅーん わかるわかる。辞めたあとに何をすればいいかとか若いうちはわからないですからね。それってうちの子たちもそうだと思うんですよ。仕事がない日に何かやることを考えられる子と、考えられない子というのがいて。だからセルフプロデュースができる子は、どんどん自分で自分を売り出す写真が撮れたりする。けど言われないとできない子もいるから、事務所があるわけじゃないですか。

レナ そういう子にアドバイスを送るとしたら?

よきゅーん まずはできる人の真似をすることですね。私は毎日写真を撮ってSNSに上げたほうがいいと思っているんですけど、それに対して「今日はお化粧してないから」と言う子がいたとすると、その時点で努力する人とは1年間で365歩の差があるわけですよね。もちろん何もしなくてもチャンスをつかめる人もいるけど、そんなの本当にごくわずかじゃないですか。えなこだってすごく努力してるんです。うまくいっているように見えるだろうけど、彼女は本当に休みがなくても文句を言わないし、スケジュールを全部私に任せてくれるし、誕生日は彼氏と過ごしたいとかも言わない。えなこ本人は「仕事に対しての覚悟があるかどうか」だと言ってましたけど、仕事をするからには事務所に迷惑をかけたくないとか、その覚悟ができてるかどうかで仕事に対しての向き合い方も、ファンの方の評価も絶対に変わると思うんです。だって背水の陣だったら死なないように努力するけど、その状況がわかってない人は死んじゃうわけじゃないですか。自分の立ち位置を客観的に見られるか、「〇〇は売れていていいな」とうらやむだけだったらずっとそこ止まりなんです。うちはめちゃくちゃ体育会系なので、やらないんだったら売れたくないんだなと思っちゃう。努力ができない子って、チャンスが来ても努力しない。どこに出しても恥ずかしくない子に育ってくれないと、私としても自信を持って売り込めないんですよね。うるせえババアって思われるかもしれないけど(笑)。

レナ いやいや、愛があるから絶対に伝わってますよ。

よきゅーん やっぱり過信しちゃいけないし、表紙に出続けるためにはどうしたらいいかを考えなきゃいけないんですよ。

レナ 厳しい世界なんですね……。

よきゅーん えなこにもずっと「世の中は数字だからね」と言ってきましたから。私が腐男塾で一番の売り上げを叩き出していたら、辞めさせられることはなかったわけじゃないですか。上の人間は数字しか見ないから、どれだけ現場で数字に関係ない部分などでがんばっていても重要視されるのは売り上げなんですよね。

レナ アイドル時代の経験はPPエンタープライズの運営に生かされているんですね。

よきゅーん そうですね。結局、世の中は数字でしか評価してくれない。逆に自分たちもよそのタレントさんを見るときに、まずフォロワー数をチェックするわけですから。

レナ 毎日のSNS投稿のお話だったり、すごく説得力があります。

よきゅーん もちろん私も昔はプレイヤーだったから、そういった積み重ねが難しいのは理解しているんです。私は腐男塾のときに毎日自分と別人格のブログを更新していたんですよ。それはファンの方が評価してくれていたし、10年経った今でも私の推しじゃないファンの方がイベントに来てくれたりする。結局、信頼度みたいなものはそういうところで少しずつ積み上げていくしかないんです。

チャンスに対して常に準備しておく

レナ 今、将来について悩んでいるアイドルたちに何かアドバイスはありますか?

よきゅーん でんぱ組.incのみりんちゃん(古川未鈴)のように結婚と出産を経てアイドルを続けている人もいるし、私の知り合いには40代でもまだアイドルをがんばっている人もいるから、結局は自分がどうしたいかだと思いますね。セカンドキャリアを考えるならちゃんと引き際を見極めないといけないし、もう少しがんばりたいで行けるならそれでいいと思う。ただ違う道に興味があるなら、自分がプレイヤーのうちに外の世界を見るべき。それはマネージャーさんでもいいし、ほかの職業でもいいし、書物でもいいしね。自分のことを振り返ってみるとプレイヤーとしていっぱいいっぱいというのもわかる。けど、現役の子たちに何か伝えるなら、そういうことも考えながらいろんなことも見たほうがいいよって言いたいです。いつも対バンしてる人たちしか知らなくて、井の中の蛙で自分たちのグループの中で争っていたらその世界はもっと狭いわけだし。

レナ うんうん。

よきゅーん 私はグループのリーダーをやっていて自分が主張しすぎちゃダメなんだと学んだし、自分がMCでトークを回したときにみんなのいいところを引き出せると評価されたんですよね。そこからMCの仕事につながることもあるし。

レナ 自分で自分を認めてあげられるような武器を見つけるってことですよね。

よきゅーん うんうん。そうすると外界にも目が向くようになる。運営に指摘されたことや自分に課しているノルマを100%達成できているんだったら次は何をしようかってなると思うんです。自分と他人の違いを探して見つめてみたり、「〇〇ちゃんはトークがすごい」と思うなら、毎日5分間でも1人でしゃべる配信をやってみようとかね。たった5分でも365日続ければトーク力が身に付いて、次の世代のMCになれるかもしれない。だから常にチャンスに対しての心構えや準備をしておくべきだと思います。それはセカンドキャリアにもつながると思うから。

レナ なるほど。

よきゅーん 自分に今何が必要かわからない子は、運営さんにアドバイスをもらうのもいいかもしれないです。ファンの人に歌がうまいって言われるなら、アカペラでもいいから“歌ってみた”動画をアップするとかね。自分の武器を強化していくのもありだし、違う武器に手を伸ばしてみるのもいいし。ゲーム感覚でステータスを上げていく感じですよね。全体的に言えるのは客観視かな。ただファンの方の言うことをすべて鵜呑みにするのではなく、ビジネスとして話せる人を見つけるべきだと思いますね。

レナ 若い頃だと特に難しいですよね。

よきゅーん もしかしたらファンの中でも、意見を聞くなら自分以外のメンバーを推してる人のほうがいいかもしれない。基本的に自分のファンは全肯定してくれるし、推してないファンに「今日、歌うまかったね」とか言われるとうれしかったりするじゃないですか。推しじゃない人にも何かが刺さったのかなとか。

レナ 自分の現役時代を振り返ると、目の前のことで手一杯でした。あとはライブをやればお客さんも集まってくれるし、このまま30代になってもバニラビーンズでやっていけるんだろうみたいな意識があって。それがセカンドキャリアと真剣に向き合えなかった原因かもしれないです。

よきゅーん いやあ、なかなか考えられないよね。私もアイドルとしての生活が永遠に続くと思ってたもん。現役の子たちには「永遠はないよ」と言っておこう(笑)。永遠に続くのは売れてる人たちだけです!

レナ その売れてる人たちも想像できないくらいの努力をしてるわけですもんね。いやあ、今日は講演会に来たような気分です(笑)。

よきゅーん セカンドキャリアじゃないような話ばっかりしてる(笑)。

レナ いやいや勉強になります。セカンドキャリアを考える前に全力で自分を高めろってことですよね。

よきゅーん そうそう。志の高い人は自ずと転職できるんですよ。だって「キャリアアップしたいから次のステージに行きたい」と言っても、お茶汲みしかできない人は引き抜かれないわけで。アイドルは今の自分の立ち位置でどういう個性を生かせるのか、自分の得意なことを見出せるのかがセカンドキャリアにつながると思うので、最初からセカンドキャリアを考えていても仕方ないですよね。

レナ 歌とダンスだけでごはんを食べられる人なんてひと握りですもんね。

よきゅーん 人生に危機感を持ったほうがいい、って成功してない私が言うのもあれですけど。

レナ いやいや、大成功してるじゃないですか。

よきゅーん ビジネスとしてはね。でも、私はもともとビジネスが得意だから。

レナ 趣味を生かしたビジネスで成功してるというのも素敵だと思います。

よきゅーん そうかな。でも、だから休みがなくても幸せなのかも。最近は20代の自分をマネジメントしてあげたいなと思います。

レナ そのときに戻れたらどんなマネジメントをしますか?

よきゅーん コスプレというジャンルを当時の関係者さんはうまく使えていなかったんですよ。だから何度も言うように、会議室にいるだけの人が何を考えても仕方がないんです(笑)。

レナ 現場の声をね。

よきゅーん もちろん現場の声を聞きすぎるのもダメだとは思うけど、私の結論としては愛がない人がタレントをプロデュースするべきではない。

レナ それは本当にそう思います。

よきゅーん 愛を持って接してもらえたら、面倒を見てもらったほうも「ここまでやってもらってこの結果なら仕方ない」ってあきらめがつくじゃない? けど「こうしてたらよかったのにな」とモヤモヤが溜まったり、悔いが残るようなら運営を辞めたほうがいい。結局、お金を出しているのは運営だからなんとも言えないですけどね。

魔法はない、ガラスの靴は自分で作る

よきゅーん あとアイデア出しは学んだほうがいいかもしれない。

レナ アイデア出し?

よきゅーん テレビや雑誌でもそうなんですけど、私から「こういうことをやったらどうですか?」と提案した企画が通ることが多いんですよ。「この時期ならこういうコスプレで、こういう企画をやりませんか?」みたいな。アイデアってお金になるんですよね。その発想力があるかないかでSNSの運用方法も変わるだろうから、その頭の回転みたいなのは意識したほうがいいと思います。そういうのがうまいのが元AKB48の指原(莉乃)さんだったり、元SKE48の松村(香織)さんだったりして。松村さんは早い段階からほかのメンバーを巻き込んでYouTube動画を撮ったりしていて、その誰もやってないことをやるって勇気がいるじゃないですか。それでもあれだけ人数がいる中で自分にどうやって注目を集めるか、どうやって1歩を踏み出すかが大事ですよね。

レナ この連載でインタビュアーをしていると、どれだけ自分が甘かったかを毎回痛感させられます(笑)。

よきゅーん いやいや、私だってえなこと出会わなかったらどうなっていたかわからないですから。

レナ よきゅーんさんのお話を聞いていると、厳しさの中に愛があるじゃないですか。それは所属タレントの皆さんにも伝わっていると思います。それに「世の中は数字でしか見ない」とか、ご自身がプレイヤーであり続けているからすごく説得力がある。

よきゅーん タレントを抱えるにあたっての責任はすごく感じますね。自分の感覚が世間とズレていたら失敗するだろうから、「今の方向性って合ってる?」と周りの経営者の意見を聞くこともあります。あとは全員が全員、うちにいるからといって成功するわけではないってところが心苦しいですね。

レナ うんうん。

よきゅーん 女の子って事務所に入ったら仕事が来ると思っていることが多いんですよ。本当はそんなことないから、できるだけ早く「自分はお姫様じゃない」ということに気付いたほうがいい。今の時代、シンデレラは自分でガラスの靴を作って舞踏会に行くべきなんですよ(笑)。

レナ ガラスの靴は自分で作る!

よきゅーん うん。なければ作ればいい。待っているだけじゃダメで、今は雑誌も事務所無所属でもSNSなどの数字がある子が起用されますからね。だから今の若い子たちには「ガラスの靴は自分で作れ、魔法はないよ」と言いたい(笑)。

レナ それパンチラインですよ(笑)。セルフプロデュース能力は大事ってことですよね。

よきゅーん しっかりとセルフプロデュースができつつ、自分に対して愛情を持ってくれるパートナーと一緒にやれたらより強いですよね。自分の武器は自分で作る。うちでは「働かざる者食うべからず」と口酸っぱく教えてますから(笑)。

レナの取材後記

連載3回目にして超ロングインタビューw
読んでくださった皆様! ありがとうございます。
そしてこのインタビューは現役アイドルグループのメンバーに絶対! 読んでもらいたいです。
どうしたら届くかなあ……? あ、今読んでくれているアイドルファンのあなた! 今応援しているアイドルちゃんにオススメしてもらえたらうれしいです!(笑)

私はアイドルというのは大人が作ったレールの上をどれだけ煌びやかに走れるかだと思っていて、「そのレールの上で履く靴ぐらいは自分で美しいものを作ろう」という、よきゅーんさんのメッセージは本当にすべての現役アイドルに伝わってほしいと思いました!
実際、私も「現役時代にこのインタビューと出会っていたらな」と考えさせられる取材になりました。
ロングインタビューでしたので取材後記は短めに……♡
次回もお楽しみに!

よきゅーん

中野腐女子シスターズと腐男塾の元メンバー。コスプレイヤー / タレントとしてマルチに活躍するかたわら、えなこや伊織もえ、篠崎こころといった人気コスプレイヤーを擁する芸能事務所・PPエンタープライズの代表取締役社長兼プロデューサーを務めている。
PP Enter Prise inc. - 株式会社 PPエンタープライズ
PPエンタープライズ (@PP_enter) | Twitter
よきゅーん (@yokyu_n) | Twitter
よきゅーん と つきみたま - YouTube
よきゅCH - YouTube

レナ

2007年にデビューした女性アイドルユニット・バニラビーンズの元メンバー。バニラビーンズはスウェディッシュポップを意識したサウンドとレトロなビジュアルで渋谷系ファンなどから高評価を得る一方で「ガラス張りトラック生活」などの風変わりな活動でも注目を集めた。2018年9月にラストシングル「going my way」をリリースし、10月のライブをもって解散。バニラビーンズ解散後は、トークスキルを生かしてMC・タレント業をメインに活躍しており、“多摩川のおんな”としてボートレース多摩川の選手インタビュー、生配信の番組進行を担当している。
レナ(多摩川のおんな) (@VB_Rena) | Twitter
レナ(多摩川のおんな) (@vb_rena913) ・Instagram

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