作家 / イラストレーターのしまおまほさんがミュージシャンのお子さんにインタビューする新連載「しまおまほの おしえて!みゅーじしゃんのこどもNOW」がスタート。ミュージシャンが子育てについて語るインタビュー記事は世の中に数あれど、当の子供たちはミュージシャンという仕事を持つ親の存在をどのように思っているのでしょう? 父は写真家の島尾伸三、母は写真家の潮田登久子、祖父は小説家の島尾敏雄というアーティスト一家に育ち、自身も6歳のお子さんを持つしまおさんが、子どもたちへのインタビューを通してパパママミュージシャンの日常の姿に迫ります。第1回となる今回のゲストは“ハマケン”こと浜野謙太(在日ファンク)さんの息子・ロクくん(9歳)。ロクくんお気に入りの回転寿司店で一緒にお寿司を食べながら、最近ハマってること、お父さんのことなど、あれこれ話を聞いてきました。
取材・文・イラスト / しまおまほ
マンガを読み終わるとだらーんってなる
わたしが子供の頃、お寿司はフランス料理やステーキなどと並ぶ高級料理で、大人でもときどきしか食べないとされているものでした。それが今やファストフード並みに気軽に、子どもたちが集まるのが回転寿司。記念すべき連載第1回のゲスト・ロクくんも回転寿司が大好き。在日ファンク・浜野謙太さんをお父さんに持つ小学3年生です。
まほ ゆずポン酢に関東風、九州風、甘口にだし……醤油だけでこんな種類あるんだー。
ロク ロクはこんぶ醤油にする。出汁とこんぶをねー、使った醬油なんだよ。
まほ 回転寿司ってさ、うどんとかラーメンも頼めるから楽しいよね。
ロク ラーメンはネギがないと。
まほ ネギ好きなんだ。珍しいね。
ロク ネギでしょ!
まほ (メニューを見ながら)あ、タコ焼きもあるんだー。頼もうかな。
ロク ここのタコ、メッッッッチャ小さいよ!
まほ ウッソ(笑)。じゃ、やめとくわ(笑)。
行きつけの回転寿司店。慣れた手つきでお皿に醬油を入れるロクくん。幼稚園時代、食事にあまり積極的でなかったロクくんがどんなときでも食べたのが回転寿司。お母さんがあのときは随分助けられたと思い出していました。
まほ うちの子どもは小1で、今「ポケモン」と「妖怪ウォッチ」にハマってるけど……。ロクくんも「ポケモン」好きなのかな。
ロク うん! 好き。
まほ 「ポケモン」の前って何にハマってたか覚えてる?
ロク 「鬼滅の刃」。その前は、「シンカリオン」(新幹線変形ロボ シンカリオン)。
まほ おお、スラスラ出てくるね。その前は?
ロク ……ない。
母 あるよ、ほら、「ウ」が付く。
まほ 「ウ」?
ロク 「ウ」?
母 そう、「ウ」……?
ロク 「ウ」……ン?
母 違う違う! 「ウー」……。
ロク 「ウン~」……?
母 「ウー」!
ロク 「ンー」!
まほ あ~(笑)。飲食店で出しちゃいけないワードが出そう~(笑)。
ロク ウン……ウン……ウルトラマン。
母 わかってるじゃん!
まほ (笑)。
ロク ウルトラマンはもう興味ないな。
まほ 今は「ポケモン」なんだ。
ロク いや、「ポケモン」もそろそろ飽きそう。「ワンピース」が好き。
まほ そうなんだね。
ロク マンガで読んでる。
まほ いつからマンガ読み始めたの?
ロク 3歳。
まほ 早い!
ロク マンガは、読み終わるとぉ、歩くと体が重くて、だらーんってなる。
まほ ?
ロク 本棚に、マンガ戻すときとか、次の巻を取るときとかにー、眠くなって、だらーん。
まほ なんでだろう?
ロク マンガの世界から戻るとき。
まほ なるほど……現実とマンガ、2つの世界を行き来するからなのかあ。
ロク あとぉ、いつも読んでる読み方はぁ、ゴローンと寝ながら読んでる。
まほ マンガ、顔に落ちてこない?
ロク ページめくるときにね。
まほ 落ちるよね(笑)。
ロク こっちの手が外れて、うわーツルン! あーこっちの手も離しちゃったー! わー!
まほ 芝居が始まった(笑)。一番痛いマンガ、ある?
ロク んーとね、マンガじゃないけど。「ドラえもん ひみつ道具大事典」。
まほ 痛そ(笑)。
お弁当と朝ごはんはいつもトトが作る
まほ いつも何時くらいに起きる?
ロク 6時か6時半。
まほ 自分で起きられる?
ロク (しばらく考えて)……目ぇつぶっててー「あーオレ今なにやってんのかなー」って思ったら「あ、オレ起きてる」って。
まほ ディティールが細かい(笑)。確かにそうだね。起きた瞬間って一瞬「?」な間のあとに「あ、今起きてる」って思うわ。初めて気付かされた(笑)。起きたあとは?
ロク トイレ行ってーすぐ着替えろって言われるんだけど、まずマンガ!
まほ マンガ、相当好きだ。「ワンピース」以外にどんなマンガがあるんだろう。
母 けっこう私が買ってきてて……。
まほ あ、そうなんですね。
母 私が小さい頃に読んでた「姫ちゃんのリボン」とか「ちびまる子ちゃん」とか「魔法騎士レイアース」とか。
まほ へー!
母 「こんなのどう?」って聞いて買ってます。きっとこの先は自分で選んで買うようになると思うんですけど。
まほ じゃあ、朝はマンガを読んで~。
ロク 読んだら着替えじゃー!
まほ 洋服は自分で選ぶ?
ロク うん、着心地がいいの選ぶ。
まほ なるほど、肌触りがいいものってことかな。
ロク そう、ザラザラしてるのとかじゃないヤツ。全身で味わうことになるから。
まほ 味わう(笑)。
ロク 着替えたら、朝ごはん。朝ごはんはトトが作る。
まほ お父さんのこと?
ロク そう。
まほ お母さんのことは?
ロク ターシャン。
母 「オカアサン」が変化して。昔からそうなんです。
まほ ハマケンさん、朝ごはん作られるんですね。
母 忙しくなければ、お弁当と朝ごはんはいつもトトだね。
ロク うん、ぜーんぶトト。(トトが)夜遅くまで起きてたらターシャンだけど。
まほ 自分のベストな朝ごはんは?
ロク 白いご飯と、卵焼き、それからお肉のおかず。
まほ おお、朝からしっかり。
ロク それからご飯に合う、濃いお味噌汁。
まほ こだわるねえ。
ロク ご飯をまず口ン中に入れて、ズズズズーっと飲む(言いながら納得した様子で頷く)。
まほ おいしそう~。具は?
ロク ?
まほ お味噌汁の中身。
ロク 溶き卵。
まほ 卵焼きあるけど!
ロク あと、なんだっけ。やさい。
母 小松菜ね。
ロク そう、小松菜。
まほ ネギも食べられるし、野菜食べられるのね。エラい。
ロク トマトはいやだ。生野菜も。
まほ そっかそっか。
ロク オトウさんにー、昔、卵とトマト混ぜたやつを……。
ときどき「オトウさん」ときどき「トト」。お母さんのことも「ターシャン」だったり「カーチャン」だったり。
母 トマトと卵の炒めものね。
ロク 「挑戦してみて!」って言われて、口の中に入れて……ウエ~ウオ~(悶えて演技中)。
まほ イヤだったんだ。
ロク うん。
「レディ」に優しく!
まほ お父さんって、どんな人?
ロク オレをバカにしてる。
まほ えっ(笑)。そんなことないでしょう。
ロク オレをバカにする担当。
まほ それって、お父さんとロクくんの目線が近いってことなんですかね。
母 それはあると思います。かなり近い感覚だとは。
ロク あのね、妹がオレに言ったことをね、「ウエ~言われた言われた~、ウエ~」ってからかってくる。ヒドい!
まほ お仕事は知ってるのかな?
ロク うーん。いろんなことしてる。
まほ テレビで観たことは?
ロク うーん、いろんなこと……あんまり言いたくない。
まほ そうなんだ。
母 うちってテレビがなくって、テレビでの姿は認識してないかもしれないですね。
まほ なるほど。
ロク 歌を歌う人……。
まほ うんうん……。
ロク と、ロクをバカにする人!
まほ え! 最近、何かあったのかな。
ロク んまあ、ちょっとね。マンガ読んでて、ターシャンに注意されたら、「ウエ~言われた~」とか言ってきたり。
まほ なるほど。ちょっと悔しい出来事があったと。
ロク でもねえ、言い返せる言葉がない。
まほ (笑)。
ロク んまあ、ケチだけど、優しい。
まほ ケチ(笑)。新たな情報が(笑)。
ロク レディにばっか優しくてぇ、ターシャンの味方ばっかしてて、ロクたちの味方してくれない。
まほ レディ(笑)。
ロク んまあ、いろんなところ連れてってくれるけどぉ。
まほ 愛憎が交互に(笑)。
ロク トトが「レディには優しくしないと!」って。
まほ いいお父さんだね。女の人には優しくってことだね。
ロク いや、「女の人」とはひと言も言ってない。「レディ」に優しく!
まほ あ、すみません(笑)。
ロク でも、妻のほうには、それよりも、もーっと優しくしてる。
まほ 妻(笑)。
ロク こないだ、トトがターシャンに「お茶どうぞ」ってしてあげてて。
まほ うんうん。
ロク 「今いらない」って言われてた。
まほ !(笑)
ダンスはオレのほうが上!
まほ トトは歌も歌うけど、ダンスもうまいじゃん。ライブでもキレッキレだし。
ロク あー、でもダンスはオレのほうが上!
母 ダンススクールに通ってるんだよね。
ロク うん。オレのほうがうまい!
まほ でもさ、トトのこと、やっぱりカッコいいって思うでしょ?
ロク ええええ~(ニヤニヤ、モジモジ)。
まほ カッコいいよね。
ロク ええ~う~ん(ニヤニヤ)。
母 トトが帰ってくるの、めっちゃ楽しみにしてるよね。
ロク ええ~ロクはさぁ、にぎやかなのが好きだから……。
まほ うんうん。
ロク トトが帰ってくるとにぎやかになる。
まほ いいね!
ロク トトがいると楽しいんだ。
まほ じゃあさ、トトに1等賞あげるとしたらどんなこと?
ロク えー……。
まほ なんでもいいよ。好きなところでも。
ロク 下品なことしか思いつかない。
まほ えっ! い、いいよ。こっそり教えて。
ロク “大”の時間の長さ。
まほ !(笑)
ロク あと起きたらむくんでる。
まほ いいこと言ってあげて~(笑)。
このあと、「トトの1等賞」をメモ帳に書いて渡してくれたロクくん。
小学校中学年になって、お父さんへの感情表現も今までとは少し変わってきているようで、大好きと反抗心の間を揺れ動く気持ちを垣間見ました。
インタビューが終わってからハマケンさんがロクくんの妹さんを連れて合流してくれたのですが、トトが現れたときのロクくんの目の輝き!
小さい頃、「トトは光って見える」と言っていたというロクくん。「そんなの忘れちゃった」って言っていたけれど、今もお父さんはキラキラ輝く存在なんだね。
浜野謙太(ハマノケンタ)
1981年8月5日生まれ。神奈川県出身。在日ファンクのボーカル兼リーダーで、俳優としても映画、ドラマなど多数の作品に出演している。映画「婚前特急」で第33回ヨコハマ映画祭・最優秀新人賞を受賞。在日ファンクの最新作は11月30日にリリースされたデジタルシングル「身に起こる」。12月3日には東京・LIQUIDROOMにてワンマンライブ「身に起こる the One マン」を開催する。
しまおまほ
1978年東京生まれの作家、イラストレーター。多摩美術大学在学中の1997年にマンガ「女子高生ゴリコ」で作家デビューを果たす。以降「タビリオン」「ぼんやり小町」「しまおまほのひとりオリーブ調査隊」「まほちゃんの家」「漫画真帆ちゃん」「ガールフレンド」「スーベニア」「家族って」といった著作を発表。最新刊は「しまおまほのおしえてコドモNOW!」。イベントやラジオ番組にも多数出演している。父は写真家の島尾伸三、母は写真家の潮田登久子、祖父は小説家の島尾敏雄。