JOYSOUND 音楽ニュース
powered by ナタリー
「JOYSOUND X1」公式サイト「ジョイオンプー」LINEスタンプ販売中

みのミュージックの素直にライブ評 Vol.4 ステージに立つのんさんは「パンクだな!」

のん
約1年前2023年07月31日 11:01

自身の敬愛する音楽カルチャーの紹介を軸にしたYouTubeチャンネル「みのミュージック」での動画配信と並行して、ロックバンド・ミノタウロスでも活動するクリエイター、みのがさまざまなアーティストのライブの現場を訪問する連載「みのミュージックの素直にライブ評」。この企画では、洋楽邦楽を問わず幅広い音楽ジャンルに精通した音楽マニアであるみのが、直接現場に足を運び、感じたことを素直にレポートする。

みのは連載第4回にあたる今回、のんが7月9日に行ったワンマンライブ「PURSUE TOUR - 最強なんだ!!! -」の東京・Zepp Haneda(TOKYO)公演を観覧。俳優として国民的な人気を誇るのんのステージに、みのが感じたのは、彼女のパンク精神だった。

取材・文・撮影 / 田中和宏 ライブ写真撮影 / 南賢太郎(FOCUS STUDIO)

ステージに立つのんを見て「パンクだな!」

のんさんがミュージシャンとして活動なさっているのは随分前から把握してるんですけど、生で観たのは初めてでした。タレント性の高い方が音楽をやると、どうしても受け手からすると“素”とは違った“虚構”的な部分がチラつくことがあると思うんですよ。そういった部分をのんさんも理解してるから、これまで“創作あーちすと”と名乗っていたんだろうなと思います。

のんさんはライブでギターをたくさん弾いてましたけど、隣にいるギタリストのひぐちけいさんに喰らい付いていってる感じがして、カッコよかった。ステージにいるのんさんは「パンクだな!」って印象です。いい意味で開き直っている部分も感じて、楽しいライブ体験になりました。まずバンドの演奏がめちゃくちゃうまい。ギターアンプもベースアンプもスピーカーが小口径だと思うんですよね。バスドラムも一般的なものより小さめで、音のレスポンスがいい。“軽量だけどすごくスピードの出るスポーツカー”みたいな編成で、キャッチーなパンクロックを届けてくれる感じが、のんさんに合ってるなって。

あとはストラト、テレキャスター、シンラインといろんなギターを使っていたのも印象的で。音もすごくよくて、メタ的な視点ですけど、裏方のテックの方もとっても優秀な方なんだろうなと思いました。ギターに関しては特にひぐちけいさんのプレイがすごくて、ギターソロの音でぶっ飛びましたよ。ひさしぶりにあんないい音をライブハウスで聴きました。

音楽的ルーツがふんだんに詰まったステージ

フロアには音楽ファンというよりは「のんさんのことが好き」という方がたくさんいたと思います。つまり「のんさんがライブをやるからライブハウスに来た」という方々ですね。きっとのんさんはそういう人たちがいることを理解しつつも、自分の好きな音楽を届けていましたよね。攻めたサウンドのオープニングSEもそうだし、RCサクセション、矢野顕子さん、サディスティック・ミカ・バンドとかをカバーするのもそう。自分を媒体にして、そういった古き良き音楽を伝えていこうとする姿勢を感じました。特にサディスティック・ミカ・バンドは日本における女性ロックボーカルの元祖みたいな存在なわけで、そういったアーティストのカバーを入れること自体、明確に自分の立ち位置を表明しているステージだなって。

素晴らしい演奏が展開される一方、のんさんのライブならではとも言える“面白ポイント”だと思ったのは、「むしゃくしゃ」という曲の途中で演奏が止まり、のんさんが倒れて小芝居をするというシーンですね。元気なく膝を落とすのんさんが、「みんなが『がんばれ!』って言ってくれたらがんばれる」と発言したあのくだり。あれはジェームス・ブラウンのマントショーの現代版なんじゃないでしょうか? ジェームス・ブラウンのマント演出は彼が熱唱して、燃え尽きて倒れて、みんなが「大丈夫か!」と呼びかける場面があり、マントをかけると立ち上がるという一連の流れで構成されています。深読みしすぎかもしれないけど、のんさんが俳優であるということを考えると、歌唱以外の演技的な演出を取り入れることでショーとしての幅を広げているのは素晴らしいと思いました。

基本的にパンクロック中心とはいえ、バラエティに富んだライブですよね。RCサクセション「I LIKE YOU」のカバーなんて忌野清志郎さんへのリスペクトがすごく伝わりました。特に細かい歌のニュアンスとかで“つかみにいってる”というか。キリンジの「エイリアンズ」もよかったですけど、あの曲はメロディが複雑で難しいと思うんですよ。「エイリアンズ」のカバーはのんさんの音楽キャリアの初期から歌ってきた大切な曲だと思うので、最新アルバム「PURSUE」で音源化されたのはファンもうれしいだろうし、意義のあるものだったんでしょうね。きっと2016年にのん名義でデビューしてからの成長過程も長年のファンからしたらうれしいでしょうし、ライブでもそんな温かい雰囲気を感じました。

バンド活動をしてくれて音楽ファンとしてうれしい

ひぐちけいさんのお姉さん・ヒグチアイさんが提供した楽曲「荒野に立つ」のパフォーマンスはライブにおけるハイライトの1つでした。この曲はのんさんの20代を総括するような内容で、のんさんがヒグチアイさんに自身の思いを打ち明けたうえで完成したということで、「自分の分身みたいな曲ができた」と話してましたよね。ひぐちけいさんのお姉さんということもあるし、信頼しているアーティストだからこそ、いろいろと赤裸々な話ができたんだろうなと思いました。

それとのんさんがひぐちけいさんとギターでハモる場面があって。ソロの直前にファンの1人がかなり大きな声で声援を送ったとき、一瞬のんさんが止まったんですよ(笑)。そのあとひぐちけいさんのほうを向いてギターを弾き続けるっていうのが、ライブらしい臨場感があってよかったですね。のんさんとしても今から難しいフレーズを弾くぞ、というところでひと呼吸がほしいんだなということが、あのファンの声かけによって鮮明に見えた瞬間でした。

MCではもうすぐライブが終わることを伝えたあと、お決まりの「えー」という反応が返ってきてましたけど、「しょうがないじゃん。私が決めてもいいでしょう」と言い切るあの感じ、かわいさがありつつも、自分の意思を曲げない強さを持った、芯の通った人なんだろうなと思いました。国民的な知名度を誇る方が、こういったバンドスタイルで音楽をやってくれるのって、音楽が好きな自分からすると、本当にうれしいです。ステージでの泥臭いパフォーマンス、素晴らしかったです。

JOYSOUND
JOYSOUND.COMカラオケ歌うならJOYSOUND

関連記事

映画「私にふさわしいホテル」ポスタービジュアル (c)2012柚木麻子/新潮社 (c)2024「私にふさわしいホテル」製作委員会

奇妙礼太郎が映画「私にふさわしいホテル」主題歌書き下ろし、のん主演×堤幸彦監督で描く“文壇下剋上”

12日
高野寛「続く、イエローマジック」書影(帯あり)

デビュー35周年の高野寛、YMO軸に音楽家としての歩みつづった随筆集「続く、イエローマジック」発表

26日
「私にふさわしいホテル」ティザービジュアル (c)2024「私にふさわしいホテル」製作委員会

のん、堤幸彦監督映画「私にふさわしいホテル」で主演 不遇な新人作家演じる

4か月
のん「夢が傷むから(Inspired by 東京百景)」バンドバージョンMVより。

のん「夢が傷むから」バンドバージョンMV公開

6か月
のんと藤ヶ谷太輔(Kis-My-Ft2)

のん&キスマイ藤ヶ谷太輔がドラマ共演、殺し屋の相棒に

6か月
中森明菜「スローモーション-JAZZ-」サムネイル画像

デビュー42周年!中森明菜のベスト盤が本日再発、デビュー曲「スローモーション」の新旧動画を公開

6か月
左からのん、百田夏菜子(ももいろクローバーZ)。(c)NHK

のん、大ファンの百田夏菜子とNHK「スイッチインタビュー」で語り合う

6か月
「のん監督主演~夢が傷むから~MVドキュメンタリー」より。(c)フジテレビ

のん監督主演MVの制作裏を追ったドキュメンタリー放送決定、又吉直樹も出演

8か月
東北ユースオーケストラと坂本龍一

坂本龍一が音楽監督、東北ユースオーケストラ初のコンサート作品集発売

9か月
「第7回 ももいろ歌合戦」タイムテーブル (c)AbemaTV, Inc.

ももクロ「ももいろ歌合戦」曲順&組分け発表!期待のメドレーにT.M.Revolution参加

10か月