はっくしょい! ヤッボーみんな、ボグ、キニナル君……。将来音楽でごはんを食べでいぎだい大学生だよ。それにしてもこの時期は花粉症がつらい……。こんな状態でステージに立つなんて想像できないよ。でもミュージシャンでも花粉症の人はたくさんいるよね。みんなどうしてるんだろう? 気になって夜も眠れなくなったので、自身も花粉症として知られ、この季節にたびたび話題になる“花粉症ソング”「あのさぁ」を発表している大槻ケンヂ(筋肉少女帯、特撮)さんに突撃取材したよ!
取材・文 /キニナル君 撮影 / 藤木裕之 イラスト / 柘植文
「あのさぁ」の頃は花粉症じゃなかった
──今日はよろしくお願いします! それにしても花粉症、つらいですよね……。
世の中には2種類の人間しかいないんですよ。“花粉症の人”と“花粉症じゃない人”。花粉症じゃない人はこの大変さをわかってないんだろうなって思う。断絶を感じるよね(笑)。
──ですね(笑)。
ただ僕はまだましなほうで。重度なミュージシャンを見たことがあるけど、かわいそうだったなあ。完全に声が出てないし、これでステージに立つのは無理だろってくらい。花粉症の薬も飲んでいるから意識がもうろうとしていて。
──大槻さんは薬を飲んだりは?
僕は薬は飲まないようにしてる。でも、そこまでひどくはないよ。本当につらいのは3月後半から2週間くらいだけ。
──あ、けっこう短いですね。いつ頃から花粉症を自覚しました?
覚えているのは東日本大震災のあと。ものすごく目が痒くなって医者に行った記憶があるなあ。
──ということは2011年ですね。あれ? ソロシングル「あのさぁ」をリリースしたのは1995年ですよね。あの曲は花粉症の人にとってのテーマソングだと思うんですけど、発表したときはまだ花粉症じゃなかった?
「君が泣くわけが 花粉症じゃないなら♪」って歌ってる「あのさぁ」ね。確かにあれは花粉症ありきで作ったんだけど、当時仲よかった女の子が花粉症で、この時期いつもぐしゅぐしゅしていたんだよな。それを見て作ったんだったかなあ。呑気に人の花粉症を気にするような曲を作ってるくらいだから、その頃僕はまだ花粉症じゃなかったのかも。
──そうだったんですね……!
花粉症の当事者じゃない人間が作った曲だよね。花粉症の人って昔はそれほど多くなかったでしょ? 花粉症でコンディションの悪さをアピールしてくるのって、マウントを取りにきているのかと思っていたもん。ヘタすると花粉症は都市伝説なんじゃないかと思ってたくらい(笑)。
やりすぎなくらいケアしてるのに……
僕、子供の頃から鼻や喉が弱くて。今はどうなっているかわからないけど、昭和の蓄膿症の治療は恐ろしいもので、細い金属のパイプみたいなものを鼻に入れるんだよ。それで木槌でトントントンって叩いて頬につながる空間に突き通して、消毒液を流して内側に溜まっている膿を出すの。
──想像するだけで痛い……!
麻酔をしてるから実際には痛くないんだけど、おぞましいよね。それを子供の頃週イチのペースで受けてて。あとアデノイドも切除しているんだよね。アデノイドの手術は口の中からメスで切られるんだけど、生涯であんなに痛かったことはない。ゴムチューブで手足を椅子に縛り付けられて。
──今の時代だったら、不適切にもほどがありますね……!
昭和の医療ヤバいよね(笑)。あれは恐ろしかったなあ。
──今は喉や鼻のケアはどんなことをやっているんですか?
「ハナノア」という商品で鼻うがいをしたあとにうがいを3回くらいやって、「龍角散ダイレクト」っていう顆粒タイプのやつを飲んで、「のどぬ~るスプレー」を噴射してるよ。家から外出する前もやるし、ライブ本番前もやってる。
──めちゃくちゃやってますね。
なんだったら本番中のアンコール前のときも。やりすぎて逆によくないんじゃないかってくらい(笑)。「龍角散」は難しくて、色が付いているんだよね。赤と青があるんだけど、間違えて青を飲んじゃうと大変で、舌が真っ青になって毒霧を吐いたあとのグレート・ムタみたいになっちゃう。
──それは大変だ。
僕は今でも副鼻腔炎になりやすくて。副鼻腔炎の治療も、いつも病院を出て近所のルノアールで30分ほど半泣きするくらいの痛さなんだけど、治療を受けるか鼻うがいを続けるしかないって言われたから、鼻うがいをやってるんだ。ほかにも僕は舌痛症という病気があって、舌の先がいつも歯の裏側にあたっている感覚があって痛くなったり熱くなったりするんだけど、それを軽減するために「ミンティア+MASK」を舐めているよ。
──いろいろな対策をしてるんですね。
うん。あとは寝るときはずっとマスクをしてる。コロナとか関係なく、ほぼ1年通して。
──あ、聞いたことあります! ボーカリストの人は喉の乾燥を防ぐためにやるって。
そうそう。僕は歌うま系ボーカルじゃなくてシャウトする系なので喉のケアなんかしてないって思われがちなんだけど、病気不安症なところがあって、ちょっと過剰なくらいやってる。すごく神経質なのに先日もインフルエンザに罹っちゃって全然ダメなんだけど(笑)。むしろケアしてない人のほうが健康だったりするんだよなあ。
周りのボーカリストの喉ケア事情
──周りのボーカリストの方もやっぱりいろいろなケアをしてます?
話を聞くとそれぞれで、何もしないっていう人もいるんだよね。それも1つの考え方で、自己治癒力を上げる方法というか。とあるヘビースモーカーのロックミュージシャンは「俺は喉を鍛えているんだ」って言ってたな。でもあれは依存症だよね。だって喫煙家って冬の寒い雨の日でも外でタバコを吸うでしょ? それは完全におかしいって言いに行きますもん(笑)。君らはニコチン依存症だよって。
──食べ物で気を付けていることはありますか? ライブ前は辛いものを食べないとか、炭酸を取らないとか。
いや、それはないなあ。
──フライドチキンのような油モノを取ると喉がなめらかになる人もいるとか。
それがその人にとっては効くんだろうね。僕が聞いたことあるのは、歌う前に乳製品は絶対に取っちゃダメってこと。声帯の繊細な動きを邪魔するんだって。でも結局、花粉症も喉のケアも絶対がないので最終的にはオカルトになっていくんだよね(笑)。ホント人それぞれ。「響声破笛丸」っていう、わりといろんな人が使ってる漢方薬があるんだけど、僕はね、漢方はあまり合わなくて。
──その人がいいと思うものを摂るのが一番なんですね。
あと花粉症のときにいいのは、とにかく黙ること。これが一番だね。喉を使うとダメだからしゃべらないことが大事。
──ステージで歌うのと真逆の行為じゃないですか!(笑)
ホントそう。リハでもほとんど歌わずステージに飛び出して、2時間だけバッと開放するのが理想。なかなか難しいんだけどね。
声が出なくなっても意外に復活する
──これまで花粉症が原因でライブで失敗したことはありますか?
ステージに立つと意外となんとかなるんだよね。花粉症に限らず風邪気味でライブの途中に声が出なくなるときもあるんだけど、「また出るようになる!」って信じてがんばっていると本当に出てくるっていう。ちょっと喉を休ませるというか、きつい部分をかわしながら歌っているうちに出てくるときがある。そういうのはボーカリストはみんな経験があるんじゃないかな。
──へえ! ライブ中はアドレナリンが出てるから気にならなくなるとか?
それもあるだろうね。目が痒くても声が出なくても、「このステージの時間だけはなんとかする!」って気持ちを高めることで乗り切れるというか。だから花粉症の最中のライブでも絶対にあきらめないことが大事。声が出なくなっても復活する可能性があるから。お客さんも「この人花粉症で今日はダメだな」って思っても信じてあげてください。意外に彼や彼女はライブの中盤から復活することもある。そしたら「戻ってきた!」って讃えてあげてほしい。僕も客席に目を向けて「このお客さん花粉症だな」っていう人もよく見かけるけど、途中から回復することもあると思うので、お互い見守りつつこの季節をがんばりましょう。
──それでも本当にダメなときは?
筋肉少女帯のライブって異常に音がデカいんだよね。爆音すぎて、ウチの親から「あんたの歌はひと言も聞こえない」って言われるくらい。なので、「どうせ歌なんか聞こえてない」という開き直りも重要。あとはお客さんを信じるというか、お客さんに委ねること。もう完全に声出てないし全然ダメなんだけど、とりあえずバンドの音は出てるしお客さんもワーワー盛り上がってるからこれはこれでいいかなって(笑)。でもしっとり歌い上げる系の人はホント大変だと思う。そういうごまかしができないもんね。
弾き語りライブに魅せられる理由
──でも大槻さんは3月12日から弾き語りツアーをやりますよね。弾き語りは筋肉少女帯と違って爆音でお茶を濁せないのでは?
僕が弾き語りをやる場合は自分で歌の調子を制御できるから大丈夫。花粉症で歌いづらいときも「今日はあえてささやくように歌ってます」っていうふうに、意図的を装ってコントロールするので。
──なるほど(笑)。その弾き語りツアー、すごく楽しみなんですけどどんな感じになりそうですか?
僕は40代半ばからギターを始めたんだ。それまでまったくやったことがなくて。なのでギターに関しては素人みたいなものなんだけど、ギターって同じメーカーの同じ機種であっても本当に1本1本違うんだよ。楽器屋さんでどんなに大きい音を出してもわからないし、スタジオで大きい声で歌いながら弾いてもわからない。ステージで鳴らさないとそのギターが自分に合っているかどうかってわからないんだ。しかもその合っているか合ってないかっていうのは、お客さんにもわからなくて。
──あくまで自分の感覚で。
そう、自分の感覚。そこに僕みたいな素人もハマっちゃうと抜けられないんだ。この間も「これはいけるかもしれない」っていうギターを楽器屋さんで見つけて、スタジオやリハーサルでも弾いて「いける!」って思ったのに本番で弾いたらダメで。ガクーンときちゃった。そしたらメーカーさんが「もう1本同じのがあるからそれも試してみてください」って言ってくれたんだけど。そういうのにハマると面白いんだよね。
──じゃあ、今回のツアーでも公演によって使うギターが変わっている可能性もありそうですね。
うん、あるかもしれない。80~90年代のバンドブームで出てきたミュージシャンの人って、今弾き語りをやっている人も多いでしょ? バンドもいいけど、弾き語りもいいなって思うようになるんだよね。僕はその気持ち、すごくよくわかる。ギター1本で1時間半とか2時間、その場を演出することができて、その自由さがとても楽しい。あと今日はインタビューだからキニナル君も話を聞いてくれるけど、歳を取ると誰もおじさんの話なんか聞かなくなってきて。
──そんなことないですよ! ちゃんと聞いてますよ!
いやいや、そういうものなんだよ。周りの同世代を見てても実際に人の話聞いてないもん。逆に僕も人の話に興味がなくて聞いてないことも多いし。そういうふうになってくるんだよね。「俺の話なんか誰も聞いてない」っていうのは、中年期以降の絶望だと思う。自分も含めて。その絶対的な孤独の世界で自分の話ができるのはステージ上だけなんだよ。好きなことをずっとしゃべっていても僕の話を聞いてもらえる唯一の時間と言ってもいいかもしれない。この歳になるとすごく思う。
──じゃあ歌だけじゃなく、大槻さんの話もしっかり聞きに行きますね!
いや、しっかり聞くほどたいそうな話はしないです(笑)。
大槻ケンヂ
1966年東京出身の男性シンガー / 作家。中学の同級生だった内田雄一郎と筋肉少女帯を結成し、1988年にアルバム「仏陀L」でメジャーデビュー。不条理かつ幻想的な詩世界と卓越した演奏力で、独自の世界観を確立する。またバンド活動と並行して、小説やエッセイを執筆。青春小説「グミ・チョコレート・パイン」は2007年に映画化され、話題となった。1995年にはソロアーティストデビューし、1999年には特撮を結成。2006年に筋肉少女帯が活動再開し、現在はバンドやソロなど、さまざまな活動を行っている。3月12日からはソロでの弾き語りツアーを実施。5月8日には筋肉少女帯の新作「医者にオカルトを止められた男」をリリースする。
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