インドの打楽器タブラの奏者であり、本場のカレーに精通したU-zhaanが、さまざまなカレー好きミュージシャンに「なぜミュージシャンにカレー好きが多いのか?」を聞いていく連載「カレーと音楽」。第3回は自他ともに認めるカレー好きで、カレーの話に特化したポッドキャスト「TOKIO CURRY CLUB」のナビゲーターを務めたTaiTan(Dos Monos)が対談相手として登場する。
「TOKIO CURRY CLUB」にゲスト出演した際、TaiTanから「カレー好きのミュージシャンが多いのはなぜなのか」という質問を投げかけられていたU-zhaan。今度はホストとなってこの質問をTaiTanに問い返し、彼の考察を深掘りしていく。
取材 / U-zhaan 文 / U-zhaan、鈴木身和 撮影 / 後藤武浩
カレーとヒップホップ、フォーマットとしての類似点
U-zhaan おひさしぶりです。TaiTanさんがナビゲーターを務めていた、ひたすらカレーの話をするポッドキャスト「TOKIO CURRY CLUB」にゲストで呼んでもらって以来ですけど、あの番組はもう終わっちゃったんですか?
TaiTan そうなんですよ。回を追うごとにスタッフから提案される企画がどんどん高度になっていって。「今度は西インドカレーだけで1時間やりましょう!」とか言われるようになってきたとき、さすがに僕がついていけなくなって終了しました。
U-zhaan 南や北ならまだしも、西インドカレーの話だけで1時間はきついですよね。
TaiTan 力尽きましたね。でも、番組が終わったことで逆に今はのびのびとカレーを楽しめてます。
U-zhaan それは何よりです。えーと、この連載は「カレー好きのミュージシャンが多いのはなぜなのか」「音楽とカレーにはどんな関係があるのか」を探ってくれと言われて始まったんですが、そういえばポッドキャストのときTaiTanさんから同じような質問をされたなと思って。
TaiTan しましたね。ユザーンさんからは「音楽とカレーに関係性なんてありますかね?」みたいなアンサーをいただいた記憶があるんですけど。
U-zhaan そう、アンサーというかクエスチョンかな。カレーと音楽に共通点や相似点を見出したことが僕にはなかったから、どう答えたらいいか今ひとつわからなかったんです。なので今回、改めてTaiTanさんからそれらについて聞いてみたくて。
TaiTan いや、あのときユザーンさんから「そんなことある?」って聞かれたことで、僕も半信半疑になってきたんです。「ミュージシャンにはラーメンが好きな人だっていっぱいいるのに、なぜカレーだけにこだわるのだろうか」とか、「なぜ俺たちは、カレーと音楽の相性がいいとしたいのだろうか」みたいな、そっちの宗派に今は属してます。
U-zhaan 宗派って(笑)。
TaiTan ユザーンさんの影響で改宗しました。
U-zhaan じゃあ、ポッドキャストをやっていたころはどんな宗派だったんですか?
TaiTan 当時の僕は、宇多丸さんの論に強く共感していて。カレーの構成要素を音域に例えて考えることにより、音楽、そしてヒップホップとの共通項が見えてくるっていう。
U-zhaan あの理論はすごいですよね! この連載の初回に宇多丸さんから聞いて、僕もかなり衝撃を受けましたよ(参照:「カレーと音楽」 第1回 カレーエリートの宇多丸が説く「音楽とカレーは似ている」)。
TaiTan あとは、1つの皿にいろんなものが少しずつ乗ってるカレーですね。ああいうのもヒップホップっぽいなと思ってました。
U-zhaan いわゆるスパイスカレー的な、ワンプレートに盛り付けられたタイプのやつですよね? どこにヒップホップ感があるんだろう。
TaiTan そのプレートの中だけでも、カレーや付け合わせをどう組み合わせるかでいくらでも味が変わっていく感じというか。ヒップホップも素材の組み合わせ方次第ってところがあるので。
U-zhaan なるほど。でも、例えばそれがカレーではなく絵画だとしても同じように音楽と対比できそうな気もしませんか? プレートを、パレットに置き換えたりしたら。
TaiTan 確かに。カレーにも当てはまるっていうくらいの要素でしかないのかも。
U-zhaan だけどTaiTanさんや宇多丸さんだけじゃなく、さまざまな人が音楽とカレーの関係について論じている。それはなぜなんだろうか、と思って。
TaiTan ヒップホップに限って言うなら、フォーマットの強度が関係してるんじゃないですかね。僕は大学4年の頃、なんの知識もないままラップを始めたんですけど、それでもビートに乗せればそれなりに聴けたんですよ。リズミカルに言葉を連ねていくだけでも、フォーマットの強さによってすべて回収されるという特徴がラップミュージックにはあると思ってます。で、カレーもそうなんじゃないかなと。
U-zhaan カレーにおいてのフォーマットとは、何を指すんでしょうか。
TaiTan それはもう、スパイスです。僕がよく作るのはキーマカレーなんですが、適切なスパイスさえあれば、あとは玉ねぎ、トマト、ひき肉を順に投げ込むだけで絶対に完成する。そのうえで椎茸を入れてみたりとか、キクラゲを加えてみたりとか、そういうアレンジを加えてもびくともしないのはフォーマットが強いからだと思う。
U-zhaan あー。
TaiTan で、そういう強度のフォーマットを持っていると入口の敷居が低くなる。敷居は低いのにも関わらず、そこから先の加点幅みたいなものは無限にあるっていうのがカレーとヒップホップ両方に共通するポイントですね。
給食のカレーが嫌い
U-zhaan 子供の頃からカレーは好きでしたか?
TaiTan 給食のカレーは苦手でした。でも、家で食べるカレーは大好きでしたね。僕の母親が作るのはシーフードカレーとかキーマカレーとか、家庭にしてはオルタナっぽいカレーだったんですよ。だから一般的なニンジン、じゃがいも、玉ねぎが入った、いわゆる“ジャパニーズカレーライス”みたいなのに馴染みがなくて。
U-zhaan ジャパニーズカレーライスの、どのへんが嫌だったんでしょう。甘さ?
TaiTan 普通に野菜が嫌いでした。
U-zhaan それ、カレーじゃなくて野菜が嫌なだけじゃないですか。
TaiTan クリームシチューもカレーと同じように野菜がゴロゴロ入ってるけど、シチューだと全然食べない野菜嫌いな子たちもカレーになるとおかわりするんですよ。なぜなんだとずっと思ってました。僕にとっては、野菜が入ってる時点でカレーもクリームシチューも同じような存在だったんで。
U-zhaan 野菜全般が苦手?
TaiTan ニンジンがとにかくダメでした。なんかプラスチックを食べてるみたいな気持ちになって。
U-zhaan 今でも嫌いなんですか?
TaiTan いや、それがですね。クリスマスって、みんなはチキンとか七面鳥とか焼いて食べるじゃないですか。今や僕はクリスマスにチキンじゃなくてニンジンのステーキを自分で焼いて食べてます(笑)。
U-zhaan いいですね! 時を経て、大のニンジン好きに。
TaiTan そうなんです。調理方法にもよりますが。
U-zhaan 給食みたいな、ニンジンがゴロゴロ入ってるようなカレーはどうですか?
TaiTan それはまだ苦手です。先日、とある蕎麦屋さんで試しにカレーライスを食べてみたんですけど、やっぱりニンジンは要らないなっていう感覚になりました。
U-zhaan ニンジンステーキとは何が違うんですか?
TaiTan 僕が焼くニンジンステーキは自家製のガーリックオイルを使ってるんですけど、どっちかというとニンジンの味よりもニンニクの風味のほうを楽しむぐらいのジャンクな調理なんですよね。昔から素朴な味付けがあんまり好きじゃなくて。肉じゃがとか料亭の冷たい小鉢とかも好きになれない。今の僕の夢は、おいしい肉じゃがに巡り合うことなんです。
U-zhaan それ、すごく難しいですよね。だって、TaiTanさんが好きじゃないって言ってる肉じゃがを僕らは普通においしいと思って食べてるんだから。
TaiTan いやいや、誰もそんなこと思ってないですよ! あれは家庭料理の定番とされちゃってるからみんな仕方なく食べてるだけで、決しておいしくはない。
U-zhaan そうかなあ。
TaiTan だからこそ僕は、ちょっといい和食屋に行くと必ず肉じゃがを頼むんです。僕の肉じゃが観をこの店で変えてほしい、という期待を込めて。この間も恵比寿のすごく高い日本料理店のメニューに「和牛の肉じゃが」っていうのがあったんで頼んでみたら、それは確かにうまかった。でも、よく考えたら普通の肉じゃがに和牛のすき焼きがのっかってるだけなんですよ。和牛がうまいのであって、肉じゃががうまいというわけではない。だから、その店での僕と肉じゃがの対決はドロー。
U-zhaan 勝ち負けがあるんだ(笑)。
手食嫌いポッドキャスト誕生?
U-zhaan お母さんが作るカレーが原体験だったとして、そのあとどうやってカレーの番組を持つまでカレー好きになっていったんですか?
TaiTan 大学3年か4年のとき、知り合いからダバインディア(京橋で営業していたが2023年4月に閉店)っていう南インド料理屋に連れていかれたんです。そこで食べたカレーが衝撃的においしかった。欧風とかキーマとかそういう、それまでに知っていたすべてのカレーと違って、しかも僕が求めているジャンク感もすごく刺激してくれる味で。それからその知り合いにはサンバレーホテル(※1)をはじめ、さまざまなお店に連れて行ってもらい、しばらくして自分でもカレー屋さんを調べて巡るようになりました。「TOKIO CURRY CLUB」の話が来た頃にはもう完全にカレー好きになっちゃってたので、カレーのことなら語りがいがあると思って引き受けた感じです。
U-zhaan すごい番組でしたよね。途中からレギュラー出演者になっちゃった稲田俊輔(南インド料理専門店・エリックサウスの総料理長)さんも、カレーの語り部として素晴らしかったし。
TaiTan いやー、稲田さんとの出会いは大きかったです。
U-zhaan 僕がゲスト出演した回は、カレーに合わせる主食の話になって。「とりあえずみんな、バスマティライスを5kg買ったほうがいい」って言った記憶がある。
TaiTan 言ってましたね。
U-zhaan 買いました?
TaiTan 僕は常備してますよ。経堂にいいお店があって、そこで買ってます。
U-zhaan 店頭で、鶏の串焼きを250円で売ってるところ(※2)ですよね。
TaiTan よくご存じですね!
U-zhaan あの串焼き食べたことあります? かなりおいしいですよ。通りかかるたびに買っちゃう。
TaiTan あそこではスパイスとバスマティライスぐらいしか買ったことないな。店内でも食事ができるんでしたっけ?
U-zhaan そう、ビリヤニとかパラタとか注文できるんだけど、落ち着いて食べるにはイートインのスペースがレジの真横すぎるんですよ(笑)。経堂には最近までスリマンガラム(※3)っていう南インド料理店があって、あそこも経堂時代はハラル食材屋を併設してたな。スリマンガラム、行ったことありました?
TaiTan 行ってましたし、祖師ヶ谷大蔵に移転してからの店舗にも通ってます。バナナの葉に盛り付けたカレーを食べさせてくれるの、日本では珍しいですよね。いつも手で食べることを勧められるんですが、僕は手食が好きじゃないからスプーンで食べてます。最初にダバインディアへ連れて行ってくれた僕の知り合いからも「カレーは手食に限るよね」みたいなことを「天ぷらは塩だよね」的なノリで言われて、本当かよ?って思いました。
U-zhaan あはは。でも正直、手で食べるほうが若干おいしいと思うけどな。というか、僕は金属製のスプーンの味があまり好きじゃないんですよね。家でカレーを食べるときも、木製スプーンを使うか手で食べるかのどっちかにしています。
TaiTan なるほど。でも、木のスプーンにも独特な味があるじゃないですか。
U-zhaan 僕は金属の味のほうが嫌ですね。バナナリーフや木皿で食べるならまだいいけど、金属の食器と金属のスプーンの組み合わせは最悪。
TaiTan それはめっちゃわかります。鉄と鉄が当たったときに発生する強烈な酸味みたいなのはすごく苦手です。
U-zhaan 手食はどのへんが嫌なんでしょうか。
TaiTan 自分の手をもしゃもしゃするのが生理的に今ひとつ受け付けられないのもあるし、あとは手が汚れるのも嫌です。
U-zhaan もしかして、おにぎりなんかも手で持ちたくないタイプですか?
TaiTan そうなんですよ。おにぎりも個包装されてたフィルムやラップの部分にしか触らないようにして食べます。なんならポテトチップスも箸で食べるし。
U-zhaan かなり徹底してますね!
TaiTan 手羽先とかも好きじゃないし、「チキンマックナゲット」も紙ナプキンで取って食べます。手を介入せざるを得ないもの全般が好きじゃない。去年のお正月、ゼロワンカレー(※4)がおせちカレーをやると聞いたんで食べに行ってみたら、カレーにカニが入ってて。仕方なく手を使って食べたんですけど、そうするとどんなにおいしくても煩わしさに気を取られちゃって。もちろんゼロワンのカレーは最高なのですが。
U-zhaan 僕はむしろ手で食べたい派なんですけど、TaiTanさんの今の話を聞いて「うわ、それめっちゃわかる!!」ってなる人も絶対いっぱいいると思いますよ。カレーのポッドキャストの次は、手食嫌いポッドキャストをやってみたらいいんじゃないですかね。
TaiTan 誰も聴かない聴かない(笑)。
U-zhaan 自分の手が汚れるのが嫌なのはわかったんですが、例えば他人が握ったおにぎりとかは食べられます?
TaiTan 絶対に嫌ですね。他人の親が作ったビーフンとかも食べないです。
U-zhaan なんで突然ビーフンが(笑)。
TaiTan すごく仲がよかった友達の家に遊びに行ったとき、お母さんから「ビーフン食べる?」って聞かれたトラウマがあるんですよ。
U-zhaan そのときはがんばって食べました?
TaiTan 断りました。まず、他人の家の食器すら苦手なので。
U-zhaan でも、インド料理屋の食器だってさまざまな人が使ってますよね。
TaiTan そこには大いなる矛盾が生じてくるんですが、店舗になっていれば大丈夫で。住居として登録されている家屋で出される食器が嫌なんです。
U-zhaan じゃあ、TaiTanさんがよく行くレストランのシェフから自宅での食事会に招待されたとしたらどうでしょうか。
TaiTan うーん。それでも嫌かもしれないですね。でも、こんなこと言い続けてたら誰もホームパーティに呼んでくれなくなっちゃう。結果、クリスマスも1人でニンジンステーキを食うことになるんですよ(笑)。
まずはフェスに出店
U-zhaan なんだか興味深い話だな。どこらへんに線引きがあるんだろ。友達の親ではなく、友達自身がいれてくれたお茶とかも嫌?
TaiTan できればペットボトルを持ち込みたいですね。せっかく「アルフォート」を出してくれた友達に「包装されたまま渡してくれればよかったのに、なぜ皿に載せちゃうんだ」って怒ったこともあります(笑)。
U-zhaan でも、それは決してTaiTanさんが悪いわけではないですよね。衛生観念は個人差が大きいし、変えようと思って変えられるものでもないから。
TaiTan 食に限らず、僕には潔癖症的なところが多少あるんだとは思うんですけど、何なんでしょうね。なぜかバーベキューだといけるんだよな。
U-zhaan バーベキューはいけるんですね。みんなで大皿の料理を取り分けて食べるのは?
TaiTan それも問題ないです。いや、やっぱりちょっとは嫌だけど、そう思ってるのを誰にも悟られないように振る舞えるって感じかも。
U-zhaan 逆にTaiTanさん自身が作った料理を誰かに食べさせるのは大丈夫?
TaiTan 大丈夫どころか、むしろ自分の料理を食べてもらうのは大好きなんです。僕が作るキーマカレーはおいしいですよ。
U-zhaan キーマカレーが得意なんだ。
TaiTan はい。先日、カレー作りに自信があるっていう放送作家さんとカレー対決をやったんですよね。ちゃんと審査員まで用意して。彼は中華風あんかけカレーを作ったんですが、100-0で僕のキーマカレーが勝った。
U-zhaan 完全試合! すごいですね。審査員は何人いたんだろう。
TaiTan 2人。
U-zhaan それ、100-0っていうか2-0ですよね(笑)。
TaiTan いつかユザーンさんにも僕のキーマカレー食べてもらいたいな。
U-zhaan じゃあ僕ともカレー対決します? あ、でもTaiTanさんのほうは僕が作ったカレーを食べるの気が進まないか。
TaiTan それがバレないようにする技術は持ってるんで大丈夫です(笑)。もしくはフェスのカレーとかなら全然食べられるんで、よかったらまず出店していただけたら。
U-zhaan TaiTanさんにカレーを食べてもらうだけのために、なんでフェスに出店までしなきゃならないんですか(笑)。
TaiTan(タイタン)
1993年10月12日生まれのラッパー。荘子it、没とDos Monosを結成。2018年にアメリカのレーベル・Deathbomb Arcと契約を結ぶ。2020年より玉置周啓(MONO NO AWARE、MIZ)と配信しているポッドキャスト「奇奇怪怪」および2022年にスタートしたTBSラジオのレギュラー番組「脳盗」が人気に。2021年5月から2022年5月までカレーに特化したポッドキャスト「TOKIO CURRY CLUB」のナビゲーターを務めた。
U-zhaan(ユザーン)
埼玉県川越市出身のタブラ奏者。世界的なタブラプレイヤーであるザキール・フセイン、オニンド・チャタルジーの両氏に師事する。タブラ修業のために毎年インドを訪れ、本場のスパイス料理に慣れ親しんだ経験を生かし、自身が監修したベンガル料理のレシピ集、レトルトカレー、仕切りが取れるカレー皿を発売した。2014年10月リリースの1stソロアルバム「Tabla Rock Mountain」の初回限定盤はスパイスで一部色付けされたことが大きな話題に。
登場したカレーショップ
※1)サンバレーホテル
※2)スパイスワラ経堂店
※3)スリマンガラム
※4)ゼロワンカレー A.o.D