YouTubeでの視聴回数チャートや、ストリーミングサービスでの再生数が伸びている楽曲を観測し、今何が注目されているのかを解説する週刊連載「再生数急上昇ソング定点観測」。今週はYouTubeで4月19日から4月25日にかけて集計されたミュージックビデオランキングの中から要注目トピックをピックアップします。
文 / 真貝聡
まずはこの週の初登場曲の振り返りから
今週のYouTubeのミュージックビデオランキングは、5位にBE:FIRSTの「Masterplan」が初登場した。同曲は27位にオフィシャルオーディオ、44位にダンスパフォーマンス映像がランクインしており、4月24日にはダンスプラクティス映像も公開された。合わせてチェックすることで、楽曲の魅力をより深く堪能できる。
39位にはRIIZEの「Impossible」が登場した。アメリカのファッション誌「Vogue」の姉妹雑誌「Teen Vogue」は「Impossible」を“今週最高の新曲”の1つに選定し、「RIIZEがハウスジャンルにインスパイアされたグルーヴィな音楽とMVで戻ってきた」と紹介。ほかにも「Rolling Stone」誌が選んだ“1週間、必ず聴かなければならない新曲”リストに挙がるなど、世界中のメディアから絶賛されている。
41位はHoneyWorksの「運命の人だった。 feat. 榎本虎太朗・瀬戸口雛(CV:花江夏樹・麻倉もも)」が初登場。HoneyWorksのオリジナル曲シリーズ「告白実行委員会」に登場する榎本虎太朗と瀬戸口雛の関係の結末を描いた曲で、2019年の「大嫌いなはずだった。」から2人の恋路を見守っていたファンの間で、「まさか自分が先を越されるとは」という驚きと祝福の声が挙がった。
42位にはZORNの「声」がランクインした。亡くなった大事な人へ向けた楽曲で、YouTubeのコメント欄にはこの曲を通して、同じく亡くなったリスナーそれぞれの大切な家族や友人を思ったという感想が多く書き込まれている。51位には、なとりの「絶対零度」が初登場。今作は編曲とギターにじん、ベースに西月麗音、ドラムにゆーまお(ヒトリエ)を迎えた豪華な布陣ということもあり、公開から2週間で100万再生を突破した。
ダンスナンバーからロックサウンドまで、幅広いジャンルの楽曲が並んだ今週は下記の3曲をピックアップ。
HY「366日 feat. 大橋卓弥(スキマスイッチ)」コラボレーションムービー
※YouTubeウィークリーミュージックビデオランキング初登場38位
HYの代表曲「366日」は、2008年に発表された5thアルバム「HeartY」の収録曲だ。同年12月に公開・放送された映画&ドラマ「赤い糸」の主題歌に使用されたことで一気に注目を浴びた。
2018年にHYがベストアルバム「STORY ~HY BEST~」をリリースした際、槇原敬之は「366日」に対して「人は大抵、本当のことを知った時、それまで自分が想像していたどんなものとも違う感情が胸にやってくる事に、驚き戸惑ってしまうもの。この曲は『恋をするとはこういうものか』という新鮮な不安感を思い出させてくれます」とコメント。恋をした人の深部に刺さるこの曲は、今も年齢や性別問わず多くの人に愛されており、清水翔太、川崎鷹也、上白石萌音など数々の人気アーティストに歌い継がれている。
そんな名曲から着想を得て制作されたのが、フジテレビ系で現在放送中の月9ドラマ「366日」だ。このドラマならではの面白い試みは、エンディングで各話ごとにHYの仲宗根泉が別の男性ボーカルを迎えてデュエットする「366日」が流れるところ。第2話で大橋卓弥とデュエットしたバージョンが流れると、X(Twitter)で「曲が流れるシーンで泣いた」という声が多く挙がった。コラボレーションムービーで、個人的に心をつかまれたのはラストのサビだ。2つの巨大なエネルギーがぶつかってビッグバンが起こっているような素晴らしい盛り上がりは、思わず涙腺が緩んだ。
なお、4月22日放送の第3話では與那城奨(JO1)、4月29日放送の第4話では川崎鷹也とのデュエットがエンディングで流れていて、YouTubeではこれら2バージョンのコラボムービーも公開されている。今後は誰の歌声を聴くことができるのか、ドラマの展開ともども目が離せない。
キタニタツヤ「次回予告」
※YouTubeウィークリーミュージックビデオランキング初登場69位
地上侵攻を繰り返し敗れ散る怪人の下っ端戦闘員の主人公と、ヒーロー像とかけ離れた戦隊との対決を描いた異色のヒーローバトルマンガ「戦隊大失格」。4月にテレビアニメの放送がスタートし、そのオープニングテーマとしてキタニタツヤが書き下ろしたのが「次回予告」だ。
4月7日に公開されたリリックビデオは「ウルトラマン」初期シリーズのオープニングのパロディで、これを観たファンの間では「もしかして、MVではキタニがウルトラマンに変身するのでは?」とささやかれていた。しかし4月21日に公開されたMVでは、キタニがまさかの巨大生物の役で登場。
MVのディレクターを務めたのは、2022年に放送され話題となったNHK Eテレ「タローマン」を手がけた藤井亮だ。「タローマン」は「70年代に放送されていた、岡本太郎をモチーフにした特撮ヒーロー番組」という設定のモキュメンタリー。本当に存在したかのように当時の雰囲気を徹底的に再現した番組で、「次回予告」のMVにも通じるものがある。
4月22日に放送されたニッポン放送「キタニタツヤのオールナイトニッポンX」で、キタニは「MVをバンバン撮っている人ではない方に、今回はお願いしたんですけど、これがめちゃくちゃいいMVに仕上がっている」「今回、初めて特撮のMVを撮りました。ビルのジオラマの中で、怪人の格好をして正義のヒーローを倒すという、ありがたい経験をさせていただきました。顔を青く塗って、死ぬほど肩が凝る衣装を着た」と話していた。MVは特撮のダイナミックな映像にも目を奪われるが、背景に映り込む看板やポスターなどに、ほぼすべての歌詞が常に映り込んでいるというアイデアも素晴らしい。この非常に手間と時間のかかる映像制作について、藤井はX(Twitter)で「馬鹿じゃないとやらない手法」とポストしている。
ちなみに、ラストの提供クレジットを“提供目”にするというアイデアなど、MVにはキタニの提案を採用した演出も含まれているという。楽曲・映像ともに、作り手たちの熱い思い、好奇心、本気の遊び心が感じられる。
MAZZEL「ICE -Ballad Ver.- feat. KAIRYU(MAZZEL) & REIKO」
※YouTubeウィークリーミュージックビデオランキング初登場90位
「ICE」のオリジナルバージョンは、MAZZELが3月20日にリリースした1stアルバム「Parade」に収録されている、彼らと同じBMSG所属のREIKOをフィーチャーしたR&Bナンバー。まるで最初からMAZZELが9人組だったかのように、メンバーとREIKOが抜群の相性を見せていた。
そんな「ICE」を、BMSGの中でも屈指の歌唱力を誇るKAIRYU(MAZZEL)とREIKOがリメイクしたのが、今回のバラードバージョンだ。BE:FIRSTを輩出したオーディション「THE FIRST」に、ともに応募者として参加していたKAIRYUとREIKO。その後、BMSG所属のアーティストとして別々の道に進んだ2人が、この曲では美しい歌声の掛け合いを繰り広げている。
美しいピアノの旋律の中で、KAIRYUのクールなウイスパーボイス混じりの歌声と、REIKOのスキルフルでありながら少年性を帯びた歌声が見事に絡み合った素晴らしいパフォーマンス。特に、歌い出しの「わかってた / この時をずっと待ってたようにwe'd go back」というフレーズは、まるで原曲の段階で2人で歌うことを想定して書かれた曲に思えるほど、歌声だけでなく歌詞もハマっている。
レコーディングやMV撮影の裏側を追った「Behind The Scenes」も公開されており、その中でREIKOが「数年後にすごい伝説の曲というか、バージョンになっている気がする。めっちゃいい!」とうれしそうに話すシーンが印象的だった。ぜひ、ほかのメンバー同士で歌った「ICE」も観てみたいものだ。