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印税とは? 気になる音楽業界の印税をわかりやすく解説

キニナル君が行く!
9か月前2024年07月29日 9:01

ヤッホーみんな! 僕、キニナル君。音楽愛する大学生♪ 将来の夢は音楽でごはんを食べていくことだよ。でも、正直わからないことばかり。だからこの連載を通して、僕が気になった音楽にまつわるさまざまな疑問を専門家の人たちに聞きに行くよ。

はぁ~南の島のビーチでトロピカルカクテルを飲みながら優雅な印税生活を送りたい……。みんなもそんな妄想を膨らませたりしない? でも印税ってどうやったらもらえるのかな。考えてみたらよくわからなかったので、JASRAC広報部の岩根茉佑さんに音楽業界の印税について詳しく聞いてきたよ。目指せ、夢の印税生活……!

取材・文 / キニナル君 撮影 / 山崎玲士 イラスト / 柘植文

印税には3つある

──今日はよろしくお願いします! あのー僕、南の島で優雅な印税生活をするのが夢なんですけど、印税ってどうやったらもらえるんですか?

いい夢ですね(笑)。印税には著作権印税、アーティスト印税(歌唱印税)、原盤印税の3つがあります。ただ印税という単語は法律用語ではないんですね。著作権法に印税という言葉は出てきません。権利周りでもらえるお金の通称として印税と呼んでいるだけで、印税の明確な定義は実はなくて。なので人によって違う意味で使っている可能性のある、曖昧な言葉なんです。

──著作権印税のことを印税と言っている人もいるかもしれないし、アーティスト印税のことを指している人もいるかもしれない?

そうですね。3つをまとめて印税と呼んでいる人もいるかもしれません。その中でJASRACでは著作権印税に関する仕事をしています。

──実は僕、著作権も何かよくわかってなくて……。

思想や感情を創作的に表現したものを著作物といい、音楽に限らずマンガや小説、絵画なども該当します。また、著作物作った人を「著作者」といい、音楽であれば作詞者と作曲者などが著作者です。そして、著作者に与えられる権利が著作権になります。例えばキニナル君が苦労して制作した曲を知らない人が勝手に使ってお金もうけをしていたらどう思いますか?

──めちゃくちゃ嫌だ! 普段温厚な僕だって怒るよ!

ですよね。著作権は自分が作った作品を無断で使われないようにするための権利なんです。「著作権は権利の束である」と言われているんですが、利用方法ごとに権利が定められていて、それぞれの権利に対して利用のたびに著作者の許諾が必要になります。

──どんな権利があるんですか?

演奏権や複製権、公衆送信権など、たくさんの権利があります。演奏権はコンサートや発表会などで公衆に向けて著作物を演奏したりBGMとして流したりする際の権利、複製権はその名の通り著作物のコピーを作成することに関する権利──楽譜をコピーすることやCDを別メディアにコピーすることも該当します。そして公衆送信権はインターネットなどを通じて著作物を公衆に送信するときの権利ですね。

著作権とは別に著作隣接権がある

──こんなにたくさんの権利があるんですね! これらの権利に関わる方法で楽曲を利用するときに発生するお金が著作権印税かあ。アーティスト印税や原盤印税というのは?

一般的に曲を作っただけだと何も生まないですよね。その曲を広くみんなに届ける役割の人、例えば、実際に歌ったり演奏したりする人、レコーディング業務を行ってレコード(CD)などに音源を固定する人や会社には著作隣接権という権利が与えられます。アーティスト印税とか原盤印税はこの著作隣接権に関わるものなんですよ。

──へえ、著作権とは別に著作隣接権という権利があるんだ。

この著作隣接権には「実演家の著作隣接権」「レコード製作者の著作隣接権」「放送事業者の著作隣接権」「有線放送事業者の著作隣接権」があり、さらにこれらの著作隣接権も録音権・録画権や送信可能化権などたくさんの権利の束になっています。

──うーん、ややこしいなあ……。

図で説明すると、このような形になります。「実演家の著作隣接権」がアーティスト印税に関わる部分です。諸説あるんですが、「実演家の著作隣接権」と「レコード製作者の著作隣接権」を合わせて原盤権と呼ぶことが多いようです。実演家は曲を歌ったり演奏したりする人──アーティストのことが多く、レコード製作者はレコーディング費用を出した人──最近はDTMで制作してアーティスト個人が保有するケースもありますが、レコード会社が多いのかなと思います。

──あれ? アーティスト印税と原盤印税はお金が発生する場所がかぶってますよね。利用したい人は二重に支払わなきゃいけないんですか?

例えばレコード会社Aから出ているCDの曲を利用したい場合、著作権はJASRACに、原盤権は実演家やレコード製作者に許諾を取っていただく必要があるんですね。でも、利用希望者が実演家=アーティスト本人に連絡を取るのは現実的ではないですよね。なのでアーティストは「実演家の著作隣接権」をレコード会社に譲渡して一任し、その代わりにレコード会社からアーティスト印税として受け取るという契約が多いようです。諸説あると言ったのは、原盤権も印税と同様に法律用語ではなく業界慣習として使われている言葉なので、解釈が人によって違う場合がありまして。

──質問です! 「およげ!たいやきくん」の歌唱を担当した子門真人さんはアーティスト印税が支払われなかったって聞いたことがあるんですけど、それはどういうことなんですか?

「実演家の著作隣接権」をレコード会社に譲渡するときに買取契約を選択してギャランティを受け取り、印税契約をしなかったということだと思います。例えばシンガーソングライターがレコーディングする際のバックミュージシャンも実演家にあたりますが、業界慣習的に買取契約になることが多いようです。

──へえ。それにしてもいつ曲がヒットするかわからないから、アーティスト印税が支払われないのはキツいよなあ。

CDや配信などで作品をリリースした際、作詞作曲も自分で行っていればアーティスト印税や原盤印税のほかに著作権印税も入ってくるんですよ。マネジメントやレーベルがしっかりついていれば大丈夫だと思いますが、個人で活動している音楽家の場合、私たちのような管理団体に著作権を預けていないと著作権印税をもらい損ねている可能性もあるので注意が必要です。

JASRACの業務内容は

──JASRACは具体的にどんな業務をしているんですか?

私たちは著作権管理業務を行っている管理団体です。具体的には、権利者から著作権をお預かりして、権利者の代わりに利用したい方々に許諾を出します。その許諾に対する使用料をいただき、権利者に分配するのが主な業務になります。この、私たちが分配している使用料が、いわゆる著作権印税と呼ばれているものに当たります。

──僕みたいに個人で音楽を作ってる人も相手にしてもらえるんですか?

もちろんです。原則としてお持ちの楽曲が過去1年以内に第三者によって利用されていること、または利用予定があることが必要で、例えば「YouTubeで1000回以上再生された」などの条件を満たしていれば無料でご契約いただけます。

──でも手続きとか面倒くさそう……。

確かに以前は書面で印鑑登録証明書などを提出していただく必要があったのですが、今はeKYCシステム(※オンライン上で本人確認を完結できる仕組み)を導入しているので、オンラインで手続きができるようになっているんですよ。

──個人でも申し込みしやすいようにアップデートされているんですね!

そうですね。もしもJASRACと契約せず、音楽出版社にも権利を譲渡しないで自己管理しようとすると、相当に大変だと思います。どこで使われたかを把握してご自身で利用者全員とその都度交渉しないといけないので。

──そんなことやってたら音楽を作るどころじゃなくなっちゃう!

場合によってはGoogleやAppleのような海外企業とも交渉する必要が出てくるかもしれませんしね。

JASRAC設立の経緯は

──そもそもJASRACってどうして設立されたんですか?

1931年にドイツ人のウィルヘルム・プラーゲという人が東京に事務所を開いて、外国の著作権管理団体の代理人として権利を主張し、高額な使用料を求めてきたんですね。日本の音楽業界は大混乱に陥り、プラーゲ氏に対抗して作詞家・作曲家が自分たちで音楽著作権を管理する団体を立ち上げたんです。それがJASRACの前身となる大日本音楽著作権協会で、1939年に設立されました。この一連の騒動はプラーゲ旋風と呼ばれています。

──へえ、100年近く前にそんなことがあったんですね。ちなみに今ってJASRAC以外に、NexToneという団体も著作権管理業務を行ってますよね。JASRACとNexToneの違いってなんですか?

わかりやすい違いで言うとJASRACは非営利の一般社団法人。NexToneは株式会社です。また、楽曲を管理する方法にも違いがあり、JASRACは信託契約、NexToneは委任契約という形を取っています。

──信託か委任……?

JASRACが著作者から権利をお預かりするときには、著作権信託契約を結びます。それにより、作詞・作曲家の著作権が信託財産としてJASRACに帰属します。つまり、JASRACは自らが「著作権者」として管理業務を行うことができるので、例えば著作権の侵害行為があった場合などは、当事者として違法利用に対して訴訟を提起することができるんですよ。信託財産というのは、使い方などに制約が課された財産なので、JASRACが勝手に処分したりはできず、あくまでも著作者のための管理業務を行います。

SNSと著作権

──そう言えばたまにXで誰かが歌詞をポストしたときに、「それは著作権侵害だよ」という指摘を見るんですけど、本当ですか?

SNSの中でもYouTubeやTikTok、Instagramはプラットフォーム側がJASRACと包括的な利用許諾契約を結んでいて、投稿者による利用について代わりに手続きを済ませています。しかし、Xはそれができていません。なので、JASRACが管理している楽曲を含むポストをするときは、投稿者が個別にJASRACに許諾手続きを行ってもらう必要があります。

──やっぱそうなんだ。じゃあ別の質問。ライブに行くと「基本的には撮影はNGだけど、この曲だけはOKだからどんどんSNSにあげてね」ってアーティストが言ってるケースがあると思うんですけど、それって問題ないんですか?

JASRACが管理している楽曲であれば、JASRACと包括的な利用許諾契約を結んでいるプラットフォームに上げることは著作権的には問題ありません。ただし、著作権とは別に「実演家の著作隣接権」についても考える必要があります。実演家には、著作隣接権としての録音権と送信可能化権が定められています。録音権とは録音・録画することに関する権利、送信可能化権とはサーバー等に記録することで配信できる状態にする権利のことです。これにより他者がステージ上のパフォーマンスを無断で録音・撮影すること、配信することは禁止されています。実演家本人がOKを出したということであればその曲のパフォーマンスについては許諾を与えたということなので、SNSにあげることは問題ありませんが、このように著作隣接権の理解も必要です。

──確かに勝手にライブを撮影されてBlu-rayとかで売られたら大変だもんね。ほかにも気になってることがあって、アーティストの楽曲をBGMとして使った動画をYouTubeにアップすると、「Content IDの申し立て」っていう警告が出てきて、収益が受け取れなかったり、視聴できないように動画がブロックされたりすると思うんですよね。YouTubeは著作権の許諾契約をしていると言っていたのに、なんで曲を自由に使えないんですか?

CDや配信の音源をアップすると原盤権に抵触してしまうということですね。楽曲のカバー動画を上げる分には問題ないのですが、音源をそのまま使用する場合には原盤権の許諾が必要になります。JASRACとYouTubeの契約はあくまで著作権に関してなので。

──え? でもYouTube ショートやTikTok、Instagramのリールで動画をアップするときはアーティストの公式の音源をBGMとして選択できますよね。それは原盤権に抵触しないんですか?

それは各サービスの運営会社が各レーベルと個別に原盤権契約を結んでいて、使っていい音楽だけ選べるようになっているんですよ。自分でCDや配信の音源をアップするのは、この原盤権の契約外なのでダメなんです。

──そうなんだ! あ、ちょっと前にユニバーサルミュージックとTikTokが契約するしないで揉めてたのって、この原盤権のことだったんですね! なるほどなあ。勉強になります!(参考:ユニバーサルミュージック、TikTokとの契約終了を正式発表「アーティストの権利を守るために不可欠」 / ユニバーサルミュージックがTikTokと新契約、楽曲使用が再び可能に

<次回、「著作権って何?」編に続く>

プロフィール

岩根茉佑

2018年に一般社団法人日本音楽著作権協会(JASRAC)に入職。仙台支部を経て2022年より広報部に在籍。
一般社団法人日本音楽著作権協会 JASRAC