さまざまな“アーティストのファンの店”を紹介してきた連載「ファンの店」。第15回となる今回は、店主と“ファン自身”がともに作り上げた、一風変わったファンの店を紹介する。それは、aikoファンの聖地として長年愛されている大阪のもんじゃ焼き店「もんじゃ屋」だ。かつてaiko本人が通っていたことでも知られるもんじゃ屋は、どのようにaikoファンの聖地になっていったのか。店主の久賀さんに話を聞いた。
取材・文 / 石井佑来 撮影 / 塩崎智裕
20年以上、aikoファンが訪れている
天神橋筋六丁目駅と天満駅のちょうど間あたりに、昔ながらのお店が立ち並ぶ商店街が続いている。天五中崎通商店街という名のその通りを進むと、赤字で「もんじゃ焼」と書かれた鮮やかな緑色の看板が。階段を上り2階のドアを開くと、優しい笑顔の店主が温かく迎え入れてくれた。畳の上に鉄板が4つほど並んだこのお店こそ、aikoがかつてお客さんとして通っていたことでも知られるもんじゃ焼き店・もんじゃ屋だ。店内にはaikoのサインやポスター、お客さんが描いたファンアートなどが飾られており、ファンにはたまらない空間となっている。aiko自身がかつて通っていたということをライブのMCやラジオで公言していたことから、ファンから聖地として認知されているこのお店。深夜まで営業しているということもあり、大阪でaikoのライブがあった際には、同じTシャツを着たライブ帰りのファンたちで店内がいっぱいになるとのことだ。
aikoが生まれ育った街ともあって、大阪にはaikoゆかりのスポットがたくさんある。連日さまざまなaikoスポットを全国のファンが訪れており、このもんじゃ屋も定番の聖地巡礼コースに組み込まれているのだ。aikoファンがこのお店を訪れるようになったのは、aikoがブレイクして間もなく、20年以上前にさかのぼる。オーナーとしてお店を切り盛りする久賀さんいわく「もちろん一般のお客さんも多いんですけど、20年以上ずーっと、ファンの方がひっきりなしに来てくれていますね。オフ会とかもしょっちゅうやってらっしゃいますし、aikoちゃんの誕生日にはファンの方が宴会をされていて。今年の誕生日ももうすでに予約が入ってます(笑)」とのことで、このお店がいかにaikoファンに愛されているかが伝わってくる。また最寄駅の1つである天満駅の発車メロディにaikoの代表曲「花火」が使用されていることや、FM802が近くにあるというのも、お店にファンが継続的に集まる要因の1つだと久賀さんは教えてくれた。
前オーナーから引き継いだaikoへの思い
aikoがもんじゃ屋に通っていたのはメジャーデビュー前。その頃は久賀さんもお客さんとしてこのお店に通っていたとのことだ。久賀さんは、オーナー伝いにaikoの存在を知ったそうで、「『aikoちゃんってお客さんが音楽やってて、すごく歌がうまいから、聴いてあげてくれ』ってカセットテープとかライブのフライヤーとかをよくもらってました。まだインディーズだったから、当時は全然知らなかったけど、まさかこんなに人気になるなんて(笑)」と当時のことを振り返る。やがて前オーナーからお店を引き継ぎ、もんじゃ屋の代表を務めることに。それでもお店の内装やメニューはほとんど当時のまま。「桜の時」「花火」「れんげ畑」など、aikoの楽曲のタイトルをメニューに冠したカクテルも販売されているが、それも前オーナーから引き継いだものだ。「お店にまつわることは、基本的に何も変えないようにしています。外観も内装も、もんじゃ焼きのレシピも。全部前のオーナーがやっていた通りにやろうと思っていて。それはすべてお客さんのためなんです。ひさびさに来たお客さんに『変わってない! あの頃と一緒や』と言われるとうれしいんですよ。なので、変えなくていいところを変えないようにする努力をしています」と、お店を営業していくうえでのモットーを語ってくれた。
aikoファンの“お裾分け”
デビュー前からaikoを応援し続けていた前オーナー、その思いを受け継いでお店を営んでいる久賀さん。そしてもう1つ、もんじゃ屋がaikoファンの聖地として愛されるお店になった背景を語るうえで、忘れてはならない存在がある。それはほかでもないaikoファン自身だ。お店にはaikoのライブで使用された銀テープが大量に保管されているが、これはすべて、お店を訪れたファンが持参してきたもの。ライブ帰りにお店に寄ったファンが“お裾分け”をしてくれるのだ。店内BGMはもちろんaiko縛りだが、これもお客さんが作成してきたCD-Rを流しているのだという。
「うちに来てくれたファンの方が銀テープとかCD-Rとか、いろいろ持ち込んでくださって。それを何年ももらい続けていたら、いつの間にかこういうことになっていたんです(笑)。だからこのお店をaikoちゃんの聖地にしていったのは、ファンの方々自身なんですよ。物をくれるだけじゃなくて、私が知らないようなaikoちゃんの情報もたくさん教えてくれて。そこで聞いた話を、最近ファンになったお客さんに私が教えたり。面白い循環がお店で生まれているんです」
また店内には、かつてaikoファンのお客さんたちが書き込んでいたというプリクラ帳も。それぞれが巡ってきたaikoスポットのルートやaikoへの思いがびっしりと書き込まれたこのネタ帳には、ファンの思いが今でも確かに息づいている。
これからもできるだけ変わらずに
これからもんじゃ屋をどういうお店にしていきたいかという質問に、久賀さんは「今後も変わらず、いつでも同じようにお客様を迎えられたら、それが一番の幸せだと思っています。変わらないって、意外と難しくって、だからこそひさびさに来たお客さんに『変わってない』と思われるとうれしいんです。aikoちゃんのファンもそれ以外の方もいつでも迎えられるように、これからもできるだけ変わらずにいられたらと思いますね」と笑いながら答えてくれた。2代にわたって営まれてきたaikoファンの聖地は、これからも全国のaikoジャンキーたちに愛され続けることだろう。
店舗情報
住所:大阪府大阪市北区浪花町5-7新家ビル2F
電話番号:06-6376-4060
営業時間:18:00~27:00(LO 26:30)
※日曜定休