2025年の幕開けに合わせ、音楽ナタリーではさまざまなアーティストに「2024年に最も愛聴した3曲」を聞くアンケート企画を実施。回答者のジャンルごとに分けた全8本の記事を公開していく。今回は「シンガーソングライター編」として、アイナ・ジ・エンド、岸本ゆめの、澤部渡(スカート)、寺尾紗穂、友成空、槇原敬之が選んだ2024年の3曲を紹介する。
構成 / 高橋拓也
アイナ・ジ・エンド
プーマ・ブルー「O, The Blood!」
昨年はBiSH解散後初のワンマンライブや、武道館公演など。緊張する出来事が沢山あったのでプライベートでは気分がフラットになれるプーマ・ブルーを一番聴きました。
彼の美声、優しい音圧の狂気。地に足をつけて演奏する姿が堪らなく好きです。
渋谷でやったライブも行けて、レコードも購入しました。
クリアのレコードがとっても可愛くて、自分も初のレコードを出すとき、クリアの色味で出しました。真似しちゃいました(笑)。
この曲は爽やかな悲鳴のような瞬間もあり、聴き応えバッチリです。
グレン・グールド「Aria」
グレン・グールドの録音は、永遠に生きている音だと感じます。
上質なヘッドホンで聴くと実際に唸っている声も聞こえるのです。
魂が指先から滲み出ている唯一無二の演奏。
その素晴らしい生々しさは、言葉にできません。
生命力を耕したいときにずっと聴いていました。
特に、落ちていく夕陽を眺めながら聴く「Aria」は、心地いい刹那を教えてくれます。
そして、スイッチを切り替えたい移動時間も、ひたすらグレン・グールドを聴いていた2024年でした。グレン・グールドの人柄も好きです。もしも生きていたなら、友だちになりたかったです。
Daughter「Youth」
Daughterの音はレコードで聴くのが最高!!と思っていたら、首都高をドライブしながら聴くのも最高でした。
Daughterやスネイル・メイル。そしてヨンシー(ヨン=ソル・ビルギッソン)やRadioheadに、2024年は沢山安らぎをもらいました。
その中でも「Youth」のロウ感の高揚感は飽きなくて、何度でも聴きたくなる良さがありました。
混じり合う音に混沌はなく、透明感すら感じます。
生き急ぎそうになる心模様を、研ぎ澄ませてくれました。
きっと2025年もその先も、「Youth」のことをどんどん好きになるんだと思います。
<プロフィール>
アイナ・ジ・エンド
2015年から2023年までBiSHのメンバーとして活躍。2021年に1stソロアルバム「THE END」を発表し、本格的にソロ活動を開始する。ミュージカル「ジャニス」では主演のジャニス・ジョプリン役、岩井俊二監督による「キリエのうた」では映画初主演を務め、俳優としての活動も積極的に展開している。
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岸本ゆめの
2024リリースの曲という縛りの中で断トツ心を奪われた3曲です。
音源聴いて、ライブで観れて、また音源を聴きまくりましたね。
自分自身の音楽活動が今年から生バンドに寄ったのが影響しているのか、3組ともバンドですが、個性はバラバラ!
OKAMOTO'Sの都会っぽさに憧れ、浪漫革命のリアルな温かさに恋して、アカシックの人間らしさに底から共鳴しました。ホントそんな1年だったな。
OKAMOTO'S「この愛に敵うもんはない」
今年たくさんのライブを観た中で、最も衝撃を受けたアーティスト2組のうちのひとつがOKAMOTO'Sでした。
正直こんなにかっこいいバンドが、こんなにまっすぐな愛を歌っているの、ズルすぎます!
好きな子に会いに駆け出しちゃうような心のギアを感じて、聴きながら走っちゃったこともありました。
同じシングルに収録されている「カーニバル」まで流れで聴くのが最高です。
浪漫革命「世界に君一人だけ」
曲を知るたび、ライブに行くたびに新しい恋をしたかのような気持ちになるバンドです。
EP「溢れ出す」は今年一番聴いたアルバムでした(単純に一番聴いたアーティストでもあった)。
その中でもこの曲の、心地よいサウンドに等身大な歌詞が大好きすぎて、珍しく大切な友人にMVのURLを送ったのを覚えています。
この曲でも、また新たに恋をして、恋をされました。
アカシック「飾り(令和)」
自分がソロになって、2曲提供もしていただいたアカシック。そのときに寄り添ってくださった理姫さんとは、実際お話してみて人間として浅くは無い部分での共感があったりしました。
ライブでイントロが聞こえたとき、嬉しさで一番大きくカラダが動いたのがこの曲でした。
甘さと叫びと無感情のような歌声が数小節ごとにどんどん変わっていくのがリアルで、聴いても聴いても毎度新たな感情になります。
<プロフィール>
岸本ゆめの(キシモトユメノ)
2015年からつばきファクトリーのメンバーとして活動。2023年にグループを卒業後、翌2024年4月からソロ名義での音楽活動を開始した。毎月1日に新曲を配信リリース中で、これまでにアカシック、ありぼぼ(ヤバイTシャツ屋さん)、浪漫革命、楢原英介(VOLA & THE ORIENTAL MACHINE)ら数々のミュージシャンと楽曲を制作している。
岸本ゆめの | YU-M Entertainment
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澤部渡
soraya「レコード」
sorayaの1stアルバムは最高でした。一見隙のないポップ・レコードにも思えますが、
余白がきちんと取られていて、小口が白い漫画のような素晴らしい佇まい。特に「レコード」が好きです。
トリプルファイヤー「相席屋に行きたい」
2024年は日本で「ストップ・メイキング・センス」の4Kレストア版が公開された年、
そしてトリプルファイヤーのニューアルバムが出た年となりました。この曲は新しいアンセムだと思います。
マテナイ「巻きもどる」
ライブで大阪に行ったとき、会場に向かうモノレールでリリースされたばかりの
自分の新曲「火をともせ」がサブスク上でどういうふうに聞こえるんだろう、と聴いたまま、
おすすめを受け入れていたら流れてきたのがこの曲でした。
天気のいい冬の朝、モノレール、万博記念公園とこの曲が全部ハマってとても印象深いです。
<プロフィール>
澤部渡(サワベワタル)
2006年にソロプロジェクト・スカート名義にてレコーディングを中心とした活動を開始。2010年に自身のレーベル、カチュカ・サウンズから1stアルバム「エス・オー・エス」を発表して活動を本格化させ、2017年にポニーキャニオンよりメジャーデビューした。多彩な楽器を演奏するマルチプレイヤーとしても活躍中で、ライブやレコーデイングのサポート、他アーティストへの楽曲提供、ドラマや映画の劇伴制作にも携わる。
スカート オフィシャルサイト
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寺尾紗穂
高山燦基「壜」
余白があり、詩情を表現する術に長けている。バンドのアンサンブルは完成されているのだが、それを一つずつ剥がしていったときに、歌に強さが備わっていくような気もして、次作が楽しみ。「終わることない話をしよう まだ日々はつづく」と歌うこの曲は、喪失を乗り越えようとする人にぜひ届いてほしい1曲。
SADFRANK「肌色」
声の危うさが強みとなっている。弾き語りもクセになる魅力があるが、音源の完成度も高い。「朝日も夕焼けも 見分けがつかなくなって どれくらい経ったのだろう」というたよりない浮遊感と死の気配、かすかな優しさと希望。加藤さんの声が、ナイフで切り付けられた傷のようにも、さびしいナイフそのもののようにも思われた。
Delkhii「Human」
モンゴルの民族楽器や歌の奏法を織り交ぜながらフォーク、ポップス、エスノエレクトロニカなど横断的なあり方を模索し、幅広い曲想でクラブシーンでも活躍するモンゴルのユニットDelkhiiの3枚目のアルバム。弦楽器トフシュールと口琴を用いた声が前面にでて風格がある「Human」はアルバムのタイトル曲。ロック調の「Uukhai」は、国境を越え声を合わせて歌いたくなる1曲だ。
<プロフィール>
寺尾紗穂(テラオサホ)
2007年にアルバム「御身」でデビュー。NHKのドキュメンタリー「Dear にっぽん」のテーマ曲に選ばれた「魔法みたいに」は教育芸術社の教科書「高校生の音楽1」に掲載された。最新作は2024年発表のアルバム「しゅー・しゃいん」。同作は2022年発表の「余白のメロディ」に続いて「ミュージック・マガジン」年間ベストの日本のロック部門の10枚に選出された。
寺尾紗穂 オフィシャルサイト
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友成空
星野源「光の跡」
原口沙輔「イガク」
HALLEY「From Dusk Till Dawn」
2024年は、自分の楽曲が初めてさまざまなチャートに登場した特別な年だったので、例年以上に流行に敏感になりながら音楽を聴いていました。だからこそ、今年の僕はJ-POPを「情報収集」のような感覚で聴いてしまって、以前のように心から音楽を「感じる」ことが難しい瞬間もありました。そんな中で、今回挙げた3曲は、2024年の僕に「やっぱり音楽は自由で、心から楽しめるものだ」と改めて気付かせてくれた楽曲たちです。
「光の跡」は、星野源さんの作品の中で一番のお気に入りになった曲です。この世界で生きていたいと思わせてくれるような歌詞を紡ぐ星野さんを、心から尊敬しています。
「イガク」は、数年前からその才能に半ば嫉妬しつつも追いかけていた原口沙輔さんの作品で、久々に「新しい音楽」の衝撃を受けました。自由でありながら、極めて緻密に作り込まれたサウンドが、音楽の面白さを再認識させてくれました。
「From Dusk Till Dawn」は、ブラックミュージックの文脈を感じる日本のポップバンド・HALLEYの1stアルバム表題曲です。彼らの音楽が大好きで、ライブにも足を運んでいます。この曲は、世界に認められるべき傑作だと思います。
<プロフィール>
友成空(トモナリソラ)
小学4年生の頃から独学で楽曲制作を行い、2021年3月に5曲入り音源「18」でシンガーソングライターとしての活動を本格的に開始。2023年12月にcutting edgeからメジャーデビューした。2024年1月に発表された「鬼ノ宴」はストリーミングでの総再生数1億回以上を記録している。
友成空(TOMONARI SORA)Official Web Site
友成空 (TOMONARI SORA) (@tomonarisora) | Instagram
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槇原敬之
岡村和義「サメと人魚」
2024年の僕的ナンバーワンソングでした。2020年からずっと色々な音楽を聴いて過ごしてきて、素晴らしい音楽、特に新しいアーティストたちの曲には、そのクオリティに驚かされるばかりだったのですが、ラジオから流れてきた瞬間に、「ああ、僕の好きな音楽って、こういう音楽だったよな」ってはっきりと思えたのがこの曲でした。深海に引き摺り込まれていきそうな耽美な世界、堪りません!
松任谷由実「心のまま」
ここ数年、色々なコンサートを拝見させていただきました。その中で一番インパクトが強かったのが、松任谷由実さんのアリーナツアー「The Journey」でした。
ユーミンがなぜ、シンガーソングライターとしてあの大きな舞台で歌っているのかというのを、(勝手にですが)テレパシックに感じることができて、改めて、自分も同じシンガーソングライターという仕事をしていることに、誇りを持てた瞬間でした。
そのコンサートのセットリストをとにかくよく聴いたので、今年よく聴いた曲の1つに挙げさせていただきました。
研ナオコ「糸」
12月の夜、車でたまたま、この曲が入った「今日からあなたと… Starting today, with you」という55周年を記念して作られたアルバムを聴く機会がありました。中島みゆきさんの「糸」という歌は、色々な歌手の方がカバーするほど愛されている曲ではあるのですが、研ナオコさんの歌声で綴られるこの歌に思わず涙し、「歌ってテクニックだけでは推し量れないんだな」と感じたとともに、アレンジ・Mixともにとても素晴らしく、街の景色が違って見えるほどでした。「糸」という歌の良さも改めて感じることができました。
年の瀬だったので再生回数は少ないですが、これはぜひ、2024年の僕の思い出の1曲として挙げさせていただきたいです。
<プロフィール>
槇原敬之(マキハラノリユキ)
1990年にデビューし、1991年に3rdシングル「どんなときも。」がミリオンセラーを記録。その後も「冬がはじまるよ」「もう恋なんてしない」「僕が一番欲しかったもの」など数々のヒット曲を発表してきた。SMAPの「世界に一つだけの花」など、他アーティストへの楽曲提供も多数手がけている。
槇原敬之公式サイト|MAKIHARANORIYUKI.COM
槇原敬之スタッフ(オフィシャル)(@buppulabel) | Instagram
槇原敬之 (@Daviechan) | X