古川未鈴(ex. でんぱ組.inc)初の書籍「ツインテールの終わりに、 #未鈴の自伝」が3月14日に発売される。これに合わせ、古川が音楽ナタリーの取材に応じた。
1月4、5日に開催された千葉・幕張メッセ 幕張イベントホール公演「でんぱ組.inc THE ENDING『宇宙を救うのはきっと、でんぱ組.inc!』」をもって、約16年間におよんだ活動を“エンディング“に導いたでんぱ組.inc。「ツインテールの終わりに、 #未鈴の自伝」は、グループのオリジナルメンバーであった古川が「自伝を出版したいと言ったら無理そうだったので、どこかに書いていきたいと思っています」と2024年春頃からX(Twitter)にポストしていたエッセイ「#未鈴の自伝」を書籍化した作品だ。幼少時のエピソードやでんぱ組.inc発祥の地・秋葉原ディアステージでの思い出、エンディングを迎えたからこそ語れるアイドル哲学などがつづられている。
でんぱ組.incがエンディングを迎えて
書籍の内容の前に、まず古川に尋ねたのはでんぱ組.incのエンディングライブの話。古川は「ほとんどMCを入れずに2日間で66曲歌いました。MCを入れなかった理由は、エンディングに向けて死ぬほどしゃべってきたので、もういいだろうという感じだったんですよね。そんな中でいつものライブと違ったのは、普段が『私たちの姿を目に焼き付けてくださいね』という感じなのに対し、『ペンライトがたくさんある景色をステージから見るのはこれが最後かも。私もこの景色をちゃんと脳裏に焼き付けておこう』という思いでステージに臨んだことです」とライブを振り返る。また、彼女は2017年にグループを去った最上もがの“卒業式”が初日公演に行われたことについて「あのときあれをやっておけばよかったなとか、もやっとしたものがこの先の人生もずっと続いていくのは大変だなと思ったんですよね。だから、もがちゃんがライブに出ることで、もがちゃん自身にもちゃんと卒業できたと感じてもらえたらいいなと思ったし、ファンの方の中でもちゃんと終わらせられるかなって」と話し、「ライブのあとにはメンバー全員、卒業証書をもらいました」と晴れやかな笑顔を見せた。
「でんぱ組ロスみたいなものがあるのかなと卒業前は思っていたんですけど、意外と私、エンディングを迎えたその次の日から『なんかやんなきゃ』みたいな気持ちになって」と話した古川は、16年間の活動を終えた自分へのご褒美としてシャネルの鞄を買いに行ったものの、予想以上に高額だったため断念し、その代わりにフェンダーのアコースティックギターを買ったことを告白。「新機一転なんて人生でそんな何回もできることじゃないと思うので。勝手に余生って言っているんですけど、その余生を楽しく過ごせるようにがんばろうという気持ちでペダルを漕いでおります」とほほえんだ。
「#未鈴の自伝」を書いた理由
なぜエッセイを書き始めようと思ったのか。その理由を聞くと、古川は「私のアイドルとしての頭をどっかに置いておきたいなと思ったんですよね。私がどんなことを考えてアイドルをやっていたのか、そういうことを語れる機会ってもうないのかもしれないなと考えたときに、私インターネットが大好きなんで、インターネットの海に放出する、散骨するみたいなイメージで残しておきたいなと思ったところから始まりました」と回答した。また、アイドル活動を続けつつ2019年に結婚し、2021年に母になった古川は「自伝を書いた理由の1つに、子供にもう少し大きくなったら読んでもらいたいという思いもありました。『ママ、こんなこと考えてたんだ』みたいな」と子供への思いを明かした。
エッセイには現役アイドルに向けたアドバイスのような言葉も多く並んでいるが、古川は「もともとそういうつもりはなかったんです」とあっけらかんと話す。彼女は「でんぱ組.incの中ではかなりの先輩メンバーでしたけど、後輩を育てようとか一切思ってなくて。アイドルなんて超個人事業主で、自分のやりたいようにやって自分の個性を出す職業だと思うし、私が後輩に対して言うことなんかないよという気持ちでした」と自身の”アイドル観”を語ったのち、「でも、Xに書いたことに対するアイドルの方の反応を見ていて『確かに、今がんばってるアイドルさんからしたら私の経験ってめちゃめちゃ貴重な参考資料かも』と思ったんですよね。私が16年アイドルをやった結果はこうだったよみたいな。アイドルさんが私の文章を読んで、少しでも答えに近道できたらいなと思いました」と言葉を続けた。
藤本美貴は自分のすべてにおける先輩
この書籍にはエッセイのほか、でんぱ組.incメンバーと餃子を作る、メンバーと韓国メイクで変身、バンジージャンプに挑戦、子どもに自分のライブを見せる、といったアイドルとしてやり残したことを実現させる企画「アイドル実績解除」も掲載されている。「本の力を借りて好きなことを全部やってみた感じです」と笑った古川は、でんぱ組.inc初期からともに活動してきた相沢梨紗や、“初めてのママ友”藤本美貴との対談企画が収録されていることにも言及。相沢との対談について「ちょっとこっ恥ずかしかったんですけど(笑)、ここで初出しの話とかもけっこうあるので、ファンの人には読んでいただきたいです」とアピールした。
また彼女は藤本との対談について「ミキティさんとは、去年NHK BSの番組(「JOYNT POPS」)ででんぱ組.incを取り上げていただいたときに『ママ友になってください!』と突撃したところから付き合いが始まって。大尊敬している方で、私がオーディションを受けて落ちているハロー!プロジェクトの方であり、そしてママとしての大先輩であり、すべてにおいて私の先輩、憧れの的です」と目を輝かせる。さらに「子育てで迷惑かけてごめんねって、メンバーへの罪悪感を感じながら活動していたんですけど、ミキティさんは『そんなんいいんだよ!』みたいな感じで言ってくれる方で」「高すぎて買うのを止めたシャネルの鞄の話もしたんですけど、ミキティさんは『買え! 2個くらい買え!』と言ってくれました」と笑いながら回想した。
欲張りバージョンの選択肢を見せられた
古川のアイドル人生における最大の転換点は、やはり結婚と出産。「私は昔から『結婚しても子供産んでも、ぜってえアイドルやってやんぞ!』と考えていて。結婚するとどうしても選択を迫られてしまう中、こういう選択肢もあるよっていうのを業界に示すことができるんじゃないかと、けっこう強く思っていました。でも実際に私がその立場になったときにはやっぱり迷いがあって。無理かもしれないと思ったけど、そこで背中押してくれたのがディアステージのスタッフさんやトイズファクトリーさんでした。皆さんの協力がなかったら活動を続けられていなかったと思います」と語った古川は、「もちろんスパっと卒業するのもカッコいいし、これが正解というものはないと思うんですよ。そんな中で、自分はアイドルも子育てもやりたいと思った。その欲張りバージョンの選択肢を見せられたというのが、私の中で1つやりきった部分でもありました」と達成感を表情ににじませた。
最後に古川に尋ねたのは、「16年間のアイドル活動の中で変わったところ、逆に変わらなかったところは?」という質問。彼女は「変化が起きたのはやっぱり出産の前後ですね。周りからもよく言われます。出産後に二丁目の魁カミングアウトのミキティー本物さんとお会いしたときに、『あんた、かわいくなったね。昔は人殺す目をしていたのに』と言われました(笑)。自分ではわからないんですけど、お母さんの顔になるってこういうことなのかなって」としみじみと述べ、「変わっていない部分で言うと、話が逸れちゃうんですけど、2014年に最初の武道館ライブをやったときにまったく変わらなくてびっくりしました。武道館に立ったら渋谷の街を歩けないくらい人気になると思っていたんですけど、全然そんなことなくて(笑)。当時は武道館でライブをやるアイドルがまだそんなにいなかったですし、世界が放っておかないアーティストになると勝手に思ってました。今もまったくオーラがなくて、衣装を着ていないときは『HUNTER×HUNTER』で言う“絶”の達人。いろんな人の協力があってオーラが出るアイドルでしたね」と自身のアイドル人生を改めて振り返った。
