ヤッホーみんな! 僕、キニナル君。音楽愛する大学生♪ 将来の夢は音楽でごはんを食べていくことだよ。でも、正直わからないことばかり。だからこの連載を通して、僕が気になった音楽にまつわるさまざまな疑問を専門家の人たちに聞きに行くよ。
いつかは日本武道館のステージに立ちたいと思って、前回、藤井フミヤさんに日本武道館でライブする魅力について聞いたけど、やっぱり全国ツアーもしてみたいんだよね。でも各地のライブハウス事情ってほとんど知らないし、一軒一軒会場に電話して予約しなきゃいけないのかな。全国ツアーをするにはどうしたらいいんだろう……。と気になっていたら、“ライブ制作”と呼ばれる人たちがサポートしてくれると聞いたので、株式会社インターブレンドの渡邉直也さんにお話を聞いてきたよ!
取材・文 / キニナル君 イラスト / 柘植文
ライブ制作とイベンターの違い
──今日はよろしくお願いします! 僕、いつかツアーで全国を回りたいんですけど、ライブハウスにコネもないし、どうやったらできるのか全然わからなくて。そしたら、すでにツアーをやってる先輩から「ライブ制作と呼ばれる方たちがフォローしてくれるんだ」って聞いたんですけど、ホントですか?
そうだね。スタートからゴールまでアーティストと一緒にライブを作っていくのが僕たちの仕事で、今僕はTHE BACK HORNやandropなど何組かのアーティストを担当させてもらっているよ。マネジメントやアーティスト本人から「ツアーをやりたい」と連絡をもらって、日程や規模などを相談のうえで会場を押さえるところから始まるんだ。
──渡邉さんが全国のライブハウスに電話やメールして会場を予約しているの?
いや、各エリアごとにイベンター(コンサートプロモーター)さんと呼ばれる方たちがいて、その人たちに会場を押さえてもらうのが一般的かな。
──イベンターって名前は聞いたことあります! 北海道だったらウエスとか、東北だったらGIPとか。東京だとクリエイティブマンプロダクションがそうですよね?
ほかにもディスクガレージとかスマッシュとか、いろいろな会社があるね。
──でもイベンターさんが何をしているのかもいまいちわからないや。ライブ制作さんとどう違うんだろう。
ライブ制作はどちらかと言うとアーティスト側のスタッフに近いイメージかな。我々はアーティストが全国ツアーをやる際に、東京、大阪、愛知、福岡、北海道と各地に一緒に行くし、ツアーに関するやりとりを全部担当するんだけど、例えばウエスさんだったら、基本的には北海道公演のみを担当していただいて、北海道に来るさまざまなアーティストの仕事を現地でやる。現地のラジオ局やテレビ局とのコネクションを持っているからライブのプロモーションをしてくれることもあるよ。
──確かに、各地のライブハウスなどの情報はその地域に根ざしたイベンターさんのほうが熟知してますよね。新しくオープンするライブハウスとかもあるだろうし。
それにいろいろなアーティストの情報を持っているから、「●●さんが同じ時期に来るから対バンイベントにしたらどうですか?」って提案してもらうこともあるよ。イベンターさんが会場を押さえて、「今度こういうイベントをやるので出てもらえませんか?」と言ってくることも。「RISING SUN ROCK FESTIVAL」はウエスさん、「ARABAKI ROCK FEST.」はGIPさんの主催フェスだよね。
──イベンターさんからアーティストに声をかけるケースもあるんですね。
うん、僕たちはイベンターさんが主催するフェスにライブ制作として関わることもあって、どの程度関わるかはそれぞれ違うけど、各地のいくつかのフェスなどにもステージ制作として参加させてもらっているよ。
機材の運搬方法や移動手段
──各エリアのイベンターさんに会場を押さえてもらうという話でしたけど、地域ごとにいろいろなイベンターさんに声をかけるわけですよね。回る地域が多くなればなるほどツアーのスケジュールを組むのが難しくなりそう。
47都道府県ツアーとかになると大変だね(笑)。長期間かけてじっくり回るなら調整はつきやすいけどね。あと、ホールやアリーナなどの大きな会場はそもそもの数が少ないから早めに埋まりがちだし、バンドだとやっぱりフェスがない時期にツアーを回りたいという要望もあるので、ほかのアーティストと予定がバッティングしがちになるかな。
──渡邉さんはツアーにどのくらい帯同するんですか?
基本は全公演行く前提で考えているよ。うちの会社ではそういう組み方をしている場合が多くて、ライブ制作会社によってはそうじゃないケースもあるかもしれないけど。もちろん担当アーティストをたくさん抱えていると全部行くのは物理的に無理な場合も出てくるので、そういう場合は別の人に行ってもらったり。
──あと、機材の運搬をどうしているのかも気になっていて。
アーティストの規模によるけど、ハイエース規模の機材車1台分とかだったら請け負うこともあるし、運搬のプロのトランポ(トランスポート)さんに依頼することもあるし。あとはマネジメントが自分たちで機材車を運転して各地を回ることもあるので、ケースバイケースだね。マネージャーさんが運転する車にメンバーも乗って、車1台で各地を回るバンドもいるよ。
──そうやってみんなでドライブしながら回るのも青春って感じであこがれるんだよなあ。新幹線や飛行機などの移動手段の手配はライブ制作さんがしてるんですか? それともイベンターさん?
現地までの移動についてはライブ制作のほうで手配することが多いかな。バンドメンバーもスタッフも東京にいることが多いし、移動日の直前に急に別の仕事が入って予定が変わったら僕らが行程を変更する必要があるから。一方で、ホテルの予約や、現地に着いてからの移動についてはイベンターさんにお願いするのが一般的。「何人で行きます。喫煙が何部屋、禁煙が何部屋です」みたいなリクエストを出すと、イベンターさんは慣れているので、駅や空港とライブ会場の両方にアクセスのいいところを提案してくれる。ほかにも、ライブ会場のケータリングの用意とか現地でのアルバイトさんの手配もイベンターさんがやってくれるよ。
──ライブ制作さんとイベンターさんでしっかり役割分担ができているんですね。
現地のことはやっぱり僕らじゃわからないことが多いからね。
ツアースケジュールが決まったあとにやること
──ツアーのスケジュールが決まったあとは、ライブ制作さんとしてはどんな動きになるんですか?
ライブの内容を詰めるのとチケット代を確定させるのが同時進行だね。どういうステージにするか、そのためにはどれくらいのスタッフが必要なのかを検討して、そうするとチケットの価格も決まってくる。
──例えばTHE BACK HORNが2024年にパシフィコ横浜で開催したライブでは映像演出があり、ステージ後方に“KYO-MEIロゴ”の巨大オブジェがありましたよね。本編の最後には銀テープも発射されて、すごく凝ってるなと思ったんですが、そういう内容をアーティストと一緒に決めていくということ?(参照:THE BACK HORN、初のパシフィコで新たな試みも!25周年を共に祝い、その先へ)
あのライブはバンドの結成25周年を締めくくる特別なライブだったので、いろいろやろうってアーティストやマネジメントと話したんだ。
──僕もいつか映像を流したり、スモークやレーザーを使ったりしてライブしたいんですけど、そういう手配もライブ制作さんがしてくれるんですね!
希望があればそういうのも僕らで手配して取りまとめるよ。
──PAとか照明は?
ライブハウスだと基本的にPA卓も照明機材も会場にそろっているケースが多いので、備え付けのものを使うよ。機材はライブハウスごとに多少変わるけど、オペレーターさんに一緒に回ってもらって、なるべくいつもと変わらないようにしてもらって。
──ホールやアリーナのようにPA卓などがない会場の場合は?
その都度PAさんや照明さんにお願いして機材を持ってきてもらう。ホールツアーになるとPAや照明などの機材を全部トラックに積んで持ち運ぶことになる。アリーナだと台数が増えて大型トラック何台分、みたいな。
──会場設営費だけじゃなくて、運送費もすごくかかりそう……。そういうのも含めて経費を算出して、チケット代を決めるんですね。
アーティストのやりたいことを詰め込んだ結果、例えば10代の中高生をターゲットにしているのにチケット代が1万円以上になってしまったら割高感があるよね? そういうのも考慮する必要があるから、ライブの内容とチケット代を決めるのは同時進行なんだ。チケットの価格が決まったら、アーティストやマネジメントと相談して販売計画を立てる。最初はファンクラブ会員限定にしましょう、とか、イープラスやチケットぴあのような各プレイガイドに先行販売のスケジュールを組んでもらいましょう、とか。もしまだ販売する余地がある場合は各地のイベンターさんに一般発売の手配のお願いをすることもあるね。
リハーサルの調整もライブ制作の仕事
──チケットの販売スケジュールも決まって無事に進んだら、めでたくライブ当日を迎えるわけですね。
いや、その前に本番に向けたリハーサルのハンドリングもライブ制作の仕事なんだ。ツアー前に何日間リハーサルしたいかをアーティストにヒアリングして、なるべくツアーに近い日程でスタジオを押さえたり、関係スタッフのスケジュールを調整したり。
──リハーサルってマネジメントサイドが調整するものだと思ってたんですけど、ライブに関わる内容っていう意味ではライブ制作さんのお仕事になるのか。
マネジメントが決めるところもなくはないんだけど、「このスケジュールで調整してもらえますか?」と連絡をもらってスタジオやスタッフを手配することが多いかな。例えばライブで披露する新曲があると、PAさんやローディーさんには音作りから一緒にやってもらう必要があるので。
──いやー、ライブ当日までにすごくたくさんの工程があるんですね!
ライブ制作が1組のアーティストだけを担当しているケースは少なくて、時期も違えば規模も違うアーティストを複数担当しながらみんなやっていると思うよ。
ライブ当日のハプニング
──ライブ当日の動きとしてはどういう感じになるんですか?
本番までのタイムテーブルをライブ制作のほうで組んでいるので、それに沿って動いていく感じかな。大規模なコンサートで舞台監督に入ってもらっているケースだとタイムテーブルの作成をお願いすることもあるけど。ライブハウス規模のツアーの場合は、朝の入り時間にPAさんや照明スタッフたちみんなと会場に行き、機材を搬入して楽器のセッティングを行い、各セクションの準備をしてリハーサル。それで問題なければ本番を迎える流れだよ。基本的に準備に時間を割いて全部事前に決めているので、ライブ制作が当日やることはそれほど多くはなくて。
──準備通りにちゃんと進んでいるかを確認するくらい?
そうだね。もちろん、現場でハプニングが起こることもあるんだけど。
──例えばこれまでどんなハプニングがあったか、こっそり教えてほしいなあ。
そうだなあ……去年の夏、THE BACK HORNが「RISING SUN ROCK FESTIVAL」に出演するときに、メンバーもスタッフも当日に羽田空港から新千歳空港に同じ便で行くことにしたんだけど、新千歳空港の店舗から業務用のハサミがなくなるトラブルがあって、保安検査が2時間くらい中断になったんだ。もう会場の入り時間に絶対間に合わなくて、フェスなのでどんどんステージは進んでる状況でどうしようって。
──うわーヤバいヤバい! 絶体絶命……。どうなったんですか?
たまたまTHE BACK HORNの普段のライブを担当してくれているスタッフが現地スタッフとして2人くらい入っていたんだ。機材は先に送っていたけど人だけがいない状況だったので、THE BACK HORNの機材のことをわかっているその2人が現地のスタッフさんに手伝ってもらいながら準備を進めておいてくれたおかげで、なんとかギリギリに間に合って。
──よかった! 僕の友達がまさに去年「RISING SUN ROCK FESTIVAL」に行っていたんですけど、裏でそんなことがあったんだ……。
フェスでのライブ制作の役割
──先ほど「フェスにライブ制作として関わることもある」と言ってましたけど、もう少し具体的に教えてください。アーティストのブッキングとかもやるんですか?
ブッキングはフェスの主催者がやるのでライブ制作でやることはほぼないかな。それよりは、実際のステージを設営する部分と出演アーティストとのやりとりだね。
──アーティストとのやりとりというのは?
マネジメントの皆さんにアンサーシートというものを提出してもらうんだ。メンバーやスタッフのネームリストをもらって人数を把握し、あとは車の調整も。駐車場のスペースが限られている会場の場合、1アーティストにつき車は何台までかを決めておかないと収容できなかったりするので。
──確かに、バンドのメンバー全員がそれぞれ車で来たら大変な数になっちゃいますね。
あと基本的に楽器は持ち込んでもらうんだけど、アーティストによってはちょっと特殊なもの……例えば「DJ台はレンタルを使いたい」というリクエストがあったりするので、そういう要望に対しての調整だったりとか。DJ台を使いたい人がステージ全体を通して何組かいたら、イベント側で手配してみんなで使ってもらうほうがスムーズなので。ほかにも、「レーザーを使いたい」というリクエストがくることもあるし、全アーティストとそういうやりとりをしていくんだ。
──フェスって出演するアーティストの数も膨大だから、調整がめちゃくちゃ大変そう。
もちろん1人で全部やるわけじゃなくて、ステージごとに担当が分かれているから大丈夫だよ。それにフェスだと、ステージの設営に関して僕たちができることは限られているから。
──どういうこと?
ワンマンライブだったらバンドや曲のイメージに合わせて照明やセットを組むこともできるけど、フェスの場合は1つのステージにたくさんのアーティストが出るので、基本的にみんなで同じセットを使ってもらうことになるからね。さらにフェスが始まっちゃえば僕らが実際に動くことはそんなになくて。
──そこは普段のライブと一緒なんですね。
そうだね。各専門のポジションの人が対応してくれるので。準備と調整に時間をかけるところは同じかな。
──屋内と屋外のフェスでの違いはどんなところがあります?
屋外だと天気の影響をモロに受けるので、準備期間が全然違うよ。例えば僕たちが参加させてもらってる野外フェスだと、普通の公園の敷地を使っているのでステージを設営するのに鉄板を敷くところから始まるんだ。舞台を作るための基礎から始めなくちゃいけなくて、それをやるのに何日間もかかる。あと屋外なので日没で作業は終了になるし、雨が降ったら作業できないし。
──確かに。雨で言うと、スピーカーなどの機材は屋内のときと変えてるんですか?
完全防水の機材はないから、雨養生して保護する形だよ。あ、もう1つ屋内と屋外の違いで言うと、音の苦情が出る可能性はある。特に都市型フェスだと、音量にも気を使う必要はあるよね。
ライブ制作の醍醐味
──お話を聞いて、ホントたくさんの業務をこなされていて、アーティストがライブするのに不可欠な存在ということがわかりました!
細かい決め事や確認事項の量は多いので、たくさんの情報を処理して進めていく必要はあるかな。ただそれは表面的な部分で、大事なのはいかにアーティストに寄り添って一緒に大きくしていけるかだと思うんだ。例えば3年後にZeppでやりたいというアーティストがいたとして、それを実現するためにどうすればいいかをスタッフ一丸となって考えて実行していく。なかなか難しいけど、そういうことを考えながらやれたらいいのかなと思ってるよ。
──マネジメントに近い意識でやられているんですね。渡邉さんがライブ制作の仕事をしていて楽しいと感じるのはどんなときですか?
やっぱりアーティストがすごくいいライブをしてくれると「やっててよかったな」と思うよ。ステージに立っているアーティストが一番感じるものがあるだろうけど、僕らも一緒にライブを作っているつもりなので。アーティストも人間だから、常に全力を出す中でも多少のコンディションの波があって、たまに格別に素晴らしいライブの日があるんだ。きっとお客さんの力も大きいんだろうね。そういうライブを観ると楽しいし、僕も「またがんばろう」という気持ちにさせてもらえるよ。
──僕もいつか渡邉さんを感動させるライブができるようがんばります! 今日はありがとうございました!
渡邉直也
1977年生まれ。インディーズレーベル・マネジメント業務を務めたあと、2019年に株式会社インターブレンドに入社してライブ制作を手がける。現在THE BACK HORNやandropなどのライブ制作を担当。また各地フェスでのステージ制作業務も行っている。
