YouTubeでの視聴回数チャートや、ストリーミングサービスでの再生数が伸びている楽曲を観測し、今何が注目されているのかを解説する週イチ連載「再生数急上昇ソング定点観測」。今週はYouTubeで4月25日から5月1日にかけて集計されたミュージックビデオランキングの中から要注目トピックをピックアップします。
文 / 真貝聡
まずはこの週の初登場曲の振り返りから
今週のYouTubeのミュージックビデオランキングは、2位にHANA「Tiger」のパフォーマンスビデオが登場した。彼女たちのスキルフルなダンスを堪能できるだけでなく、メンバー同士で顔を見合わせて笑みを浮かべるほほえましい様子も魅力的だ。
9位にはCUTIE STREET「ちきゅーめいくあっぷ計画」がランクインした。ありぼぼ(ヤバイTシャツ屋さん)が作詞作曲を手がけた本作は、CUTIE STREET史上最もハイテンションなポップソングになっている。
15位には、しなこ、竹下☆ぱらだいす、リアルピースによる合同ユニット、原宿ヒーローズの「コドモオトナヒーロー」が登場した。子供の頃に抱いた夢や希望をあきらめてしまった大人に「君は何にでもなれるって / あの時言ってくれたよね?」「なれる! / 今も!」と明るく背中を押すような応援ソングに仕上がっている。
27位にランクインしたのは櫻坂46の「Addiction」だ。4月30日にリリースされる2ndアルバムの表題曲で、二期生の藤吉夏鈴と山崎天(崎は立つ先が正式表記)がダブルセンターを務めているこの曲。MVで雨に打たれながら藤吉と山崎が笑顔で踊る場面は、映画のワンシーンを観ているかのような美しさが詰まっている。
人気アイドルグループの新曲が目立った今週は、下記の3曲をピックアップする。
BE:FIRST「夢中」リリックビデオ
※YouTubeウィークリーミュージックビデオランキング初登場8位
「夢中」とは、我を忘れるほど1つの物事に心を奪われた様子を指す言葉だ。何かに夢中になっているとき、その対象が肥大するあまり、自分の中では“好き”以上の思いが芽生えることがある。5月28日にリリースされるBE:FIRSTのニューシングル「GRIT」収録曲「夢中」にこんなフレーズが登場する。
「来世でも 前世でも / ずっと会いたくて」「何回でも 何万回でも / 名前を呼ぶよ」
俯瞰して聴けばクサい言葉であり非現実的な表現に思えるが、“君に”夢中になっている歌の主人公は、そこに微塵の脚色もなく素直に愛の気持ちを伝えているように思える。だからこそ、この曲は歌い手の高い技術力だけでなく、豊かな感情表現・歌心・説得力が求められる。それをBE:FIRSTは見事に表現した。
今年発表した「Sailing」「Spacecraft」とダンサブルな楽曲が続いていた中、今作の温かみのある歌モノでも彼らは優れた才能を発揮している。
back number「ブルーアンバー」ミュージックビデオ
※YouTubeウィークリーミュージックビデオランキング初登場16位
back numberの「ブルーアンバー」は、カンテレ・フジテレビ系で放送中のドラマ「あなたを奪ったその日から」の主題歌として書き下ろされた楽曲。誰にも言えないまま心の内にしまっていた感情が、雫となって流れ落ちる様子が歌詞に描かれており、人間の悲哀と美しさと温もりを感じる。4月28日にMVが公開されると「こんなにボロ泣きするとは思わなかった」と大きな話題を呼んでいる。
主人公の男性を演じたのは、都内中心にDJやパフォーマーとして活躍し、“ヒゲ女装”の愛称で親しまれているドラァグクイーンのMONDO。監督を務めたのはMOROHAや優里、柊人などのMVや、藤井風やBiSHのドキュメンタリー映像、東出昌大の狩猟生活に1年間密着した映画「WILL」を監督し、新作短編映画「献呈」が第47回モスクワ国際映画祭 短編映画コンペティション部門 正式出品決定した映像作家のエリザベス宮地だ。
改めてMVの内容について紹介しよう。主人公は、夜はドラァグクイーンとしてステージに立ち、日中はマッサージ師として仕事をしている男性。夜の華々しい姿と、家に帰って1人で質素な食事をする姿との対比がどこか切ない。男性の母親は認知症を患っているのか、自宅で一人暮らしをしながら介護を受けている。ある日、母親が1人で家の外へ出て浜辺へ行き、そのまま海の中へ入ろうとするところを、ちょうど実家に戻っていた男性が見つけて呼び止める。
心に残るシーンはたくさんあるが、その中でも特に感動的なのが2分34秒以降の、母親と男性がお互いの唇に紅を引くシーンだ。母親に口紅を塗ってもらっているとき、男性は目を閉じて唇を震わせているのが印象的。これまで隠していた“女装に惹かれている自分”の個性を母親に認めてもらえた喜びと、もっと奥にある感情の扉が開いたのだろう。そんな場面で流れる「私の中で誰にも見付けられずに / こんな色になるまで泣いていたんだね / 綺麗よ」という歌は、母親から息子に送る言葉にも感じられて、さらに感動の波が大きくなる。
Aiobahn +81 feat. ななひら & P丸様。「天天天国地獄国」ミュージックビデオ
※YouTubeウィークリーミュージックビデオランキング初登場54位
Aiobahn +81はエレクトロニックダンスミュージックをルーツに持ち、日本のサブカルチャーシーンにコネクトする韓国出身の音楽プロデューサー・Aiobahnの別名義。電波ソングやインターネットミュージックなどのオタクカルチャーとセッションする際の名義として2024年夏頃に設立され、2021年4月に公開されたMVが2500万再生の「INTERNET OVERDOSE」や、2023年3月公開のMVが5100万再生を超えた「INTERNET YAMERO」も、現在はこの名義の曲となっている。
2月5日発表の「天天天国地獄国」は、Aiobahn +81名義が始動してから初のシングル。フィーチャリングボーカルにななひら、P丸様。を迎え、作詞は「東方Project」の楽曲アレンジで知られるIOSYSの夕野ヨシミが担当している。この曲で描かれているのは、天国と地獄の狭間で天使と悪魔が出会い、新しい門戸が開いた世界。「天使と悪魔、死者と生者が入り乱れ、踊り、笑い / すべては混沌の中に飲み込まれてゆく。 / それは世界の終焉であり、新たな始まりでもあるのだ」という壮大な歌詞に対して、2人の歌声がかわいいというギャップがこの曲のキャッチーさを生んでいる。
2月の公開時から反響を呼び、さまざまなカバー動画などが作られたこのMV。それらの二次創作の中でも特に、4月30日に公開されたKnight A - 騎士A -のてるとくん&ばぁうによる“歌ってみた動画”が話題になっている。天使パートのてるとくんは声のかわいさが際立っており、悪魔パートのばぁうはいたずらっぽい雰囲気が増幅されている。歌う人の個性や声のキャラクター性を引き出す楽曲だからこそ、いろいろな歌い手が「天天天国地獄国」に挑戦してみたくなるのかもしれない。
