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音楽出版社ってどんなことをしてる会社?

キニナル君が行く!
22分前2025年09月26日 9:05

ヤッホーみんな! 僕、キニナル君。音楽愛する大学生♪ 将来の夢は音楽でごはんを食べていくことだよ。でも、正直わからないことばかり。だからこの連載を通して、僕が気になった音楽にまつわるさまざまな疑問を専門家の人たちに聞きに行くよ。

この連載も10回を越えたし、そのうち連載をまとめて本を出版したいなあ。やっぱり出すなら音楽出版社からだよね。と思って調べたんだけど、音楽出版社って音楽に関する本を出す出版社じゃないみたい……。いったい何をしている会社なのかよくわからなかったので、テレビ朝日ミュージックの中川瑛美さん、平山歩果さんのお二人に話を聞いてきたよ!

取材・文 / キニナル君 撮影 / 小原泰広 イラスト / 柘植文

どうして音楽出版社が生まれたの?

──音楽出版社って音楽に関する本を刊行する会社だと思っていたんですけど、違うんですね。具体的にはどんなことをしているんですか?

中川瑛美 実は私も入社前はそう思っていました(笑)。

平山歩果 簡単に言うと、作詞家さんや作曲家さんから音楽作品をお預かりしてプロモーションすることで作品に伴う収益を増やし、その収益を著作者に分配するのが音楽出版社の業務です。

──でもどうして「出版社」っていう名前が付いてるの?

平山 起源は16世紀のヨーロッパと言われています。当時の貴族はお抱えの音楽家に舞踏会用の曲を作らせていて、人気が出た楽曲をほかの人も演奏したいと思ったときに、楽譜を出版・貸出する仕組みが生まれました。そこから「音楽出版社」と呼ばれるようになったそうです。

──なるほど! 楽譜を出版していたから音楽出版社。16世紀って、だいぶ昔からあるんですね。

平山 よく学校の音楽室に肖像画が飾ってある人たちの時代ですね(笑)。

──現代のように作詞家・作曲家さんから著作権を預かってプロモーションを行うようになったのはいつ頃からなんですか?

平山 日本で音楽出版社が誕生したのは1960年代です。アメリカの著作権管理団体・ASCAPが来日して「日本にも音楽出版社が必要だ」というレポートを出したのがきっかけでした。世界的にはもっと前からそのような活動をしていたんでしょうね。

──JASRACの前身の大日本音楽著作権協会が設立されたのが1939年だったから(参照:「キニナル君が行く!印税ってどうやったらもらえるの?」)、それから20年くらいあとなんですね。それまで日本では誰も著作権を預かってプロモーションをしていなかった?

平山 はい。当時の日本には、今のような音楽出版社はありませんでした。

音楽出版社はどんなことをしているの?

──実際に音楽出版社の皆さんが日々どういう業務をしているのか、一般の人にはあまりなじみがないと思うので教えてもらえますか?

平山 私は著作権関連の業務を担当しています。具体的には、作詞家や作曲家の方との契約、共同出版社との契約、JASRACやNexToneへの管理楽曲の届け出、著作権使用料の分配に必要な口座情報や住所データの管理などですね。契約の準備から締結、実際に収益を分配するところまで一連の流れを担当しています。

──JASRACやNexToneが著作者に分配しているのではなく、音楽出版社を経由するんですか?

平山 音楽出版社と契約している楽曲に関してはそうですね。JASRACやNexToneなどの管理団体が利用者から徴収した著作権使用料は音楽出版社に分配され、そこから著作者である作詞家・作曲家の方に分配されます。2段階の流れになっているんです。

──共同出版社というのは?

平山 例えばアニメの主題歌を当社が管理する場合、放送局や製作委員会と一緒に楽曲をプロモーションしていきます。その際、得られた著作権使用料を一緒にプロモーションしてくださった会社に分配する仕組みがあり、その会社のことを「共同出版社」と呼んでいます。

──下請け的な存在ではなく、横並びのパートナーということですね。

平山 楽曲によっては2社で分ける場合もあれば、それ以上の会社で共同出版する場合もあります。私が入社してから最高で11社で共同出版したケースがありました(笑)。

──すごい数! 聞いただけでも調整が大変そう……。

平山 その場合、1社が「代表出版社」として窓口となり、管理団体とやりとりして著作権使用料を受領します。そこからほかの共同出版社に分配する仕組みです。

中川 ほかにも、ゲームや広告、アニメなどで楽曲を使うときのライセンス交渉も音楽出版社が行っています。例えばゲームとのコラボで楽曲を使用する場合、ライセンス料をいくらに設定するか交渉したり、「この曲をぜひ使ってほしい」と再開発(営業)したり。そういったプロモーションも音楽出版社の重要な役割です。

──そもそもの話、音楽出版社の収入源はやはり著作権使用料になるんでしょうか?

中川 一番わかりやすいのは、テレビ放送や配信、ラジオ、カラオケなどで楽曲が利用されたときの著作権使用料です。管理団体から音楽出版社に入金され、契約に従って作家さんや共同出版社に分配されます。つまり楽曲が広く使われれば使われるほど、著作権使用料の収入も増えていきます。

──音楽出版社もヒット曲を生み出すためにプロモーションをがんばるんですね! 芸能事務所のマネージャーやレコード会社の宣伝担当者がテレビ局にプロモーションするのはなんとなくイメージできますけど、音楽出版社の人もプロモーションしていたのは初めて知りました。

中川 1つの楽曲を活発にプロモートすることがひいてはアーティスト全体の起爆剤となるので、ヒットを後押しするプロモーションはとても重要なんです。当社は特にテレビ朝日系列の番組と連動したプロモーションを得意としています。

──例えばテレビ番組のプロデューサーが「この曲を使いたい」と思ったとき、レコード会社ではなく音楽出版社に連絡するんですか?

中川 当社は音楽の専門集団としてグループ会社で認知されていますから、音楽著作権の話では最初に相談されることが多いです。もちろん、アーティスト事務所やレーベルに先に確認されることもあります。それは、音源をそのまま使う場合にはまず原盤権者がどこにいるかを調べる必要がありますからね。ですから、1つの窓口で完結するケースもあれば、複数の会社に連絡する必要がある場合もあります。

──そっか、著作権とは別に原盤権があって、それはレコード会社が持っていることが多いんですよね。以前、JASRACの岩根さんに教えてもらったよ(参照:「キニナル君が行く!印税ってどうやったらもらえるの?」)。

中川 アニメの劇伴音楽などはアニメ製作委員会がその原盤権を100%持つこともあります。そういったケースでは著作権管理のみさせていただくことがあります。

──音楽出版社にも系列の違いがあると聞きました。テレビ局系やレコード会社系、マネジメント系など、どう違うんですか?

中川 マネジメント系の音楽出版社は所属アーティストの楽曲を中心に扱っていますし、レコード会社系は自社レーベルで発売された楽曲を扱っていますので、各社、それぞれの特色があると思います。放送系の音楽出版社の強みは放送メディアとのパイプが非常に強いことですね。当社はテレビ朝日ミュージックという社名の通り、テレビ朝日やBS朝日、全国の各系列局など、テレビ朝日に関連する放送 / 配信媒体と連携したメディアプロモーションを強みにしています。

音楽出版社に楽曲を預けるメリット

──すべての楽曲が音楽出版社を通して管理されているわけではないですよね?

平山 作家本人がJASRACから直接分配を受けているケースもあり、音楽出版社に預けていない楽曲も存在しますね。

──ズバリ聞きます! 最近はTuneCore Japanのようなデジタルディストリビューションサービスを使って個人が簡単に配信し、著作権の管理もしてもらえるようになってると思うんですが、それでも音楽出版社に預けるメリットってなんでしょう?(参照:TuneCore Japan「著作権管理サービス」にインディーズアーティストから称賛の嵐

平山 デジタルディストリビューションサービスは配信代行です。プロモーションやライセンス交渉までは行ってくれません。広告やドラマ、CMなどでの利用交渉や、管理楽曲が広く聞かれるための企画開発は音楽出版社だからこそできる部分なのかなと思いますね。

──確かに個人で企業と契約交渉するのはハードルが高そう。

平山 契約や交渉も音楽出版社が間に入ることでスムーズに進みますし、楽曲を適切に扱ってもらえるよう調整するのも私たちの重要な役割です。

──大事な楽曲を雑に扱われたりしたら悲しいもんね。ちなみにアーティスト個人が音楽出版社に直接コンタクトを取ることもあるの?

中川 実際に「プロモーションをお願いしたい」と相談にいらっしゃる方もいます。その際はその方が求められているプロモーションと当社でできることのマッチング度合いや楽曲のクオリティなど含めて総合的にお話しさせていただいてますね。逆に我々がSNSなどでアーティストを見つけて声をかける場合もあります。

──スカウティング的なこともしているんですね。

中川 当社は昔から新人発掘に力を入れていて。以前、弊社代表の吉田(真佐男)が音楽ナタリーのインタビューで「『BREAK OUT』や『FUTURE TRACKS』という番組を立ち上げて、次世代アーティストを取り上げてきた」というお話をさせていただきましたが、そういう社風なんですよね(参照:テレビ朝日ミュージック代表取締役CEO 吉田真佐男インタビュー)。

「BREAK OUT」でシーンの盛り上がりを後押し

──中川さんは「BREAK OUT」の制作にも携わっていたそうですね。テレビ局の制作スタッフの立場ではないと思うんですが、どんなことをするんですか?

中川 撮影や編集などの実作業的な部分は番組制作会社が行っていて、私たちは「企画を立て、番組で何を起こすか」を考える立場ですね。音楽出版社の中で「BREAK OUT」と「musicるTV」という2つの音楽番組を企画・運営しているのは当社だけなんです。番組を通じて新しいアーティストやクリエイターを発掘し、成長を応援していく。そうした姿勢は昔から大事にしています。

──つまり「誰を取り上げるか」を含めた企画の部分を担っていると。

中川 私自身は部署異動を挟みながら関わってきたんですが、初期はヴィジュアル系、その後は“歌い手”系、そしてダンスボーカルグループへと移っていって。当時、そのジャンルで活動されていた新人アーティストをいち早く取り上げ、シーンの盛り上がりを後押しできたのが印象に残っています。また「BREAK OUT祭」というイベントも開催してきましたが、人によって「ダンスボーカルグループのイベント」というイメージもあれば「ヴィジュアル系の祭り」と思っている人もいて、世代ごとに異なる印象で捉えられているのは面白いですね。

──番組を持っている強みとして、やっぱりアーティストのプロモーションに生かせる部分もあります?

中川 私たちの強みは“楽曲の出口”を確保できるところです。“タイアップして終わり”ではなく、リリースやツアーのタイミングに合わせて番組で特集を組むなど、点ではなく線でプロモーションを設計できる。年間を通して一緒に動くアーティストさんもいるので、そこは当社ならではの強みだと思います。

楽曲を広告使用する際のバランス

──最近、過去の楽曲がCMに再び使われるケースも増えてますよね。

中川 そうした再開発は主に広告代理店や音楽制作プロダクション、ときには企業とダイレクトに進めています。私たちが普段相手にしているテレビ局と連携するのとは異なる角度から楽曲を広めます。

──管理楽曲が膨大にある中で、提案する際はやっぱり担当者の熱量や好みも関わってきます? ミュージシャンや作詞・作曲者と音楽出版社の方って直接会って話す機会があまり多くないのかなって思うんですけど。

平山 私自身は作家さんと直接会うことは少ないですが、事務所を通してやりとりすることはあります。提案する際は“好み”よりも、その作品とCMのターゲット層との親和性を重視します。もちろん私たちが「いい曲だからぜひ!」と思っても、作家さんが「この作品はCMに合わない」と判断されれば無理に勧めることはありません。その代わり「こちらの楽曲はいかがでしょう?」と別の提案をする。それが音楽出版社の役割だと思います。

──例えばもし僕の曲を預かってもらった場合、僕はほとんどNGないんですけど(笑)、その場合プロモーションはやりやすい?

平山 広告に関して「なんでも大丈夫です」と言っていただけると、代理店の要望に沿う形でプッシュしやすいですね。そういう意味では、制約が少ないほうがプロモーションの幅は広がります。

──ただ、アーティストの作家性をどこまで尊重するか、そのバランスも大事ですよね。

平山 そうですね。例えば「替え歌で使いたい」という要望があったときに、替え歌そのものがNGではなくても「この言葉は曲の雰囲気に合わないので使わないでほしい」というケースもあります。そこで「どこまでなら大丈夫か」というすり合わせをする。白黒はっきりではなく、柔軟に調整することが多いです。

──逆に「なんでもいいです」と言いながら、完成したあとに文句を言われるのは困りますよね。

中川 私自身はそのような経験はないですが、確かにそうですね。逆に「替え歌は絶対にNGです」と明確に決めている作家さんもいらっしゃるので、そのあたりはバランスを取る必要があります。

楽曲の書き下ろしについて

──今のは既存の楽曲をどう使うかという話でしたけど、「このアーティストに書き下ろしてほしい」と依頼が来ることもあるんですか?

中川 ありますね。私の場合はテレビ朝日やBS朝日と向き合うことが多いのですが、例えばドラマやアニメ、映画の場合は、企画書や脚本をプロデューサーから共有していただきます。そのうえで「女性ボーカルがいいか」「男性アーティストが合うか」などイメージを伺いながら、作品に合うアーティストを提案しますが、ヒット性の高いアーティストや、これからブレイクしそうなアーティストを提案することが多いですね。その後、レーベルや事務所と権利交渉を行い、タイアップが決定した際は、楽曲制作に入ります。完成した楽曲については「解禁日をどうするか」「どう展開していくか」を関係者と話し合い、「BREAK OUT」や「musicるTV」などでのプロモーションにつなげる。提案から出口まで一貫して進行するのが私の役割です。

──ドラマ主題歌がどうやって決まるのか気になっていたんですが、音楽出版社の方がプロデューサーと密にやりとりされているんですね。

中川 「どういったアーティストがいいか」という話は各クールごとにプロデューサーと会話を重ねています。基本的にアーティストには書き下ろしをお願いするケースが多いですね。アーティストにとっても、今の自分を表現した楽曲を世に出せる機会になりますから。

──音楽出版社って、著作権の管理だけじゃなくて実にいろいろなことをやってるんですね。よかったら、ぜひ僕を主題歌アーティストとしてプッシュお願いします……! 今日はありがとうございました!

プロフィール

中川瑛美

2014年度入社。テレビ朝日・系列各局の番組に音楽を提案するタイアップ業務、「BREAK OUT」の番組担当などを幅広く経験。産休・育休を取得し、現在はタイアップチームの課長として部下の育成と、ドラマ・アニメ・映画の主題歌や劇伴などの音楽周りを担当している。

平山歩果

2023年度入社。著作権部にて、アーティストや作詞・作曲家との契約業務、締結後の印税の入金管理まで一連の業務を行っている。管理する楽曲をより多くの人に届けるため、テレビやCM、映画、ゲームなどで楽曲を利用してもらえるよう各媒体への提案・関係権利者との利用条件のクリアランスも行う。

テレビ朝日ミュージック