YouTubeでの視聴回数チャートや、ストリーミングサービスでの再生数が伸びている楽曲を観測し、今何が注目されているのかを解説する週イチ連載「再生数急上昇ソング定点観測」。今週はYouTubeで9月19日から9月25日にかけて集計されたミュージックビデオランキングの中から要注目トピックをピックアップします。
文 / 真貝聡
まずはこの週の初登場曲の振り返りから
今週のYouTubeのミュージックビデオランキングは、2位に米津玄師 & 宇多田ヒカルの「JANE DOE」がランクインした。今作は、劇場版「チェンソーマン レゼ篇」エンディング・テーマ。米津玄師が作詞作曲を手がけ、宇多田ヒカルが歌唱に参加したデュエットソングとなっている。9月23日のMV公開から8日間で850万再生を突破した。また、米津による同作の主題歌「JANE DOE」も前週に引き続き1位をキープしており、どちらも破竹の勢いで再生数を伸ばしている。
4位にはSTARGLOWの「Moonchaser」が登場した。彼らはBMSGが主催したオーディション「THE LAST PIECE」から生まれたRUI、TAIKI、KANON、GOICHI、ADAMの5人からなるボーイズグループだ。今作は9月22日に配信リリースされたプレデビュー曲で、暗闇から希望をつかもうとする力強さが感じられる。
7位に登場したのはXGの「GALA」だ。この曲は来年1月23日にリリースされる1stフルアルバムの先行配信シングル。宇宙から降り立つようなスケール感のイントロから始まり、英語とフランス語による力強いラップ、疾走感のあるハウスのリズムが一体となったサウンドに仕上がっている。
19位にはHUNTR/X「Golden」のリリックビデオがランクインした。HUNTR/XはNetflixで配信中のアニメ映画「K-POPガールズ!デーモン・ハンターズ」の劇中に登場するグループで、「Golden」はそのサウンドトラックに収録されている曲。女性リードシンガーが歌唱したK-POP楽曲として、初めての全米シングルチャート首位獲得という快挙を成し遂げた。
多種多様な楽曲が並んだ今週は、下記の3曲をピックアップする。
HALCALI「おつかれSUMMER」
※YouTubeウィークリーミュージックビデオランキング初登場18位
2003年にリリースされたHALCALIの1stアルバム「ハルカリベーコン」に収録されている「おつかれSUMMER」が、今年に入ってからアメリカ、イギリス、東南アジアと幅広い国々で爆発的にヒットしており、8月にはTikTok総再生回数が16億回を突破した。そんな予想外のヒットを受けて、リリースから22年の時を経てMVが新たに制作されるという異例の事態に。そうして完成したMVは、9月19日公開から10日間で250万再生を記録した。
田中知之(FPM)がプロデュースを手がけたこの曲は、「お疲れさま」と「SUMMER」を合体させたゆるい雰囲気のタイトル通り、HALCALIらしい程よくリラックス感のあるポップなサウンドと、ラップを組み合わせたサマーソング。シングル曲でもなければタイアップも付いていない、知る人ぞ知る曲だったが、海外で発掘される形で多くの人々にその魅力が知られることになった。
「おつかれSUMMER」に限らず、今年は平成の楽曲がSNSで話題となり、リバイバルヒットをしている。その背景には、物語性の高さや巧みな語彙力を生かしたIQ高めな今の音楽とは違い、ダジャレや遊び心を感じる歌詞が要因の1つとしてあるのではないだろうか。今、再び注目されているRIP SLYME「熱帯夜」の「ホテらすネツタイヤ / あなたなら Ah 私なら Woo」や、ORANGE RANGE「イケナイ太陽」の「きっと キミじゃなきゃ やだよ / オレは イケナイ太陽」もどこかノリで書いたような、ギャグっぽいテンションを放っている。
これらの平成ソングを聴いて、筆者は酔拳のようだと思った。酒に酔ったような動きで相手を翻弄する中国武術のことだ。一見、テキトーな歌詞にも思えるが、実はメロディやリズムのハマりがよく、フレーズにインパクトとグルーヴ感があり、計算されていないように見せて実は緻密に計算されている。この奥深さが、今のZ世代にも刺さっているのではないだろうか。
煮ル果実「オーパーツ」
※YouTubeウィークリーミュージックビデオランキング初登場21位
2023年9月に始動した、ポケットモンスターと初音ミクのコラボレーション企画「ポケモン feat. 初音ミク Project VOLTAGE 18 Types/Songs」。これまでDECO*27 「ボルテッカー」やGiga「ガッチュー!」など23曲が公開され、YouTubeとニコニコ動画でのシリーズ累計の再生数は、1億回再生を突破する人気プロジェクトとなった。2024年12月からは「ポケモン feat. 初音ミク Project VOLTAGE High↑」にリニューアルし、原口沙輔「しんかしんかしんか」、サツキ「ファサード・クエスチョン」など、新曲が発表されるたびに大きな話題を集めている。
そしてその第3弾を手がけたのが、ダークかつ芸術性の高いサウンドと文学的な歌詞によって、独自の世界観を確立している煮ル果実。ニンテンドーDS用ゲーム「ポケットモンスターブラック・ホワイト」の発売15周年にあたる9月18日にMVが公開された「オーパーツ」は、同ゲーム内のキーキャラクターで、主人公たちと敵対する組織プラズマ団の王・Nを題材にした、これまでのシリーズとは違った新しい切り口の1曲だ。
YouTubeのコメント欄では「『Nは観覧車が大好き』という設定があるから、背景でNの手持ちポケモンが円を描いてるのかな」「オーパーツ=王の部品=おうじゃのしるし」といった、歌詞や映像についての考察で盛り上がっている。
粗品「粗品のテーマ」
※YouTubeウィークリーミュージックビデオランキング初登場58位
「素人へ」というタイトルでYouTubeにMVが投稿された今作は、粗品が9月10日にリリースした最新アルバム「佐々木直人」の収録曲。去年リリースされた「宙ぶらりん」で「芯の無い道化師が嫌い」と芸人に対して好戦的な曲を歌っていた粗品が、今回は芸人、俳優、アーティスト、テレビ関係者だけでなく、「消え去れ素人 おとなしく寝とけ」という歌詞で一般人へも牙を向けている。
曲中には「は~いこんにちは」「ただぁ!」「お前の事誰が好きなん?」など粗品語録がふんだんに詰め込まれているのも面白い。テレビやラジオで尖った発言が問題になりやすい今の時代に、「お前全然おもろいこと言わんのにバラエティでよう見るなあ思たら案の定枕営業やないかえ」「ええことないねやろ / 普段生活してて」と、ここまで痛烈なフレーズを堂々と歌い上げるところに、粗品の覚悟と強者感を覚える。また「いや図星やから病気なったことにしたのバレてますよ」をはじめ、セリフパートもしっかりと音楽のリズムと音の気持ちよさを意識しているところにも魅力を感じた。
このMVが「素人へ」というタイトルで投稿された発端は、チョコレートプラネットの松尾駿が9月10日にYouTubeで「素人はSNSをやるな」と発言して炎上したこと。粗品はこの騒動についてYouTubeの企画「1人賛否」で触れ、「自分は素人なんて言ったことがない」と発言していた。すると、ある視聴者がこの言葉に対して「粗品が過去に素人って発言した証拠のスクショを持っている」と反応。これを受けて粗品は「素人に弱み握られた」と題した謝罪動画を公開し、その翌日にこの「消え去れ素人」と歌うMVを公開したのだ。とはいえ前述の通り、この曲がリリースされたのは松尾の炎上した動画の公開日と同日のこと。この騒動を踏まえて作られた曲ではないのだが、こういった奇跡的なまでのタイミングのよさも粗品ならではなのだろう。
