2026年の幕開けに合わせ、音楽ナタリーではさまざまなアーティストに「2025年に最も愛聴した3曲」を聞くアンケート企画を実施。回答者のジャンルごとに分けた全8本の記事を公開していく。今回は「シンガーソングライター編」として、安島夕貴、井上園子、北村蕗、笹川真生、堂島孝平、眞名子新が選んだ2025年の3曲を紹介する。
構成 / 高橋拓也
安島夕貴
タイラー・ザ・クリエイター「Ring Ring Ring」
2025年7月リリースの「Don't Tap the Glass」より選出。
私の作風はラップに縁がないのですが、HIPHOPは大好きで、新譜に関しては最も注視しているジャンルかもしれません。タイラー・ザ・クリエイターは以前から特に好きなアーティストの1人。前作から1年と経たないサプライズリリースに歓喜しました。
この曲は、彼の作品の中でもダンサブルでありながらメロディのある歌に接近していて、キャリア史上最もジャンルを越境しているポップな1曲だと思います。これまでの作品も、どんなに露悪的なトラックであっても、フレーズの中にとびきりのメロディセンスがちりばめられていました。そんな彼の仕事を信じ続けてきて本当によかった。
レディ・レイ「Where Could I Be」
2025年9月リリースの「Cover Girl」より選出。
ネットで見たとあるレコード店のレビューが素晴らしかったことをきっかけに聴きました。
個人的に2025年はR&B旋風が吹き荒れており、新旧問わずたくさん聴いていたのですが、その中でも特によかったのがこの1曲です。
近年のR&Bは、歌い方が情熱的でもトラックが体感的に涼しい感じのものが多いですが、こちらはいい意味でオールドスクール的。往年歌い継がれたヴィンテージ・ソウルの血脈を感じます。
あまりの楽曲の風格に、カバー曲なのかと思ってクレジットを確認したほどでした。新たなスタンダード・ナンバーが誕生したと言っていいのではないでしょうか。
マルコム・トッド「Who's The Fool」
2025年4月リリースの「Malcolm Todd」から選出。
現時点ではあまり日本語で彼についての情報を得ることができず、2003年生まれのアメリカのミュージシャンであり、R&Bのエッセンスを孕んだインディー・ポップ的な文脈で聴かれているらしい、ということ以外は知りません。
なんと言っても、甘く切ないコード進行が素晴らしい。今回選出した中では、最も自分のソングライティングに近いものを感じます。おそらく従来のポップスのセオリーを踏襲した楽曲ではあるけど、一音目から説明しがたいマジックが起こっている。音楽は必ずしも発明的である必要はなく、心地いい方向へ素直に導かれたものが最良の結果をもたらすこともあると再確認しました。
<プロフィール>
安島夕貴(アジマユキ)
ロックバンド・股下89での活動を経て、2018年からソロでの音楽活動を開始。本名名義のほか、電子音楽家として大山田大山脈名義でも楽曲を発表している。2023年には5人組ロックバンド・The Halcyonを結成。2025年に本名名義初のフルアルバム「第一音源集」をリリースした。
井上園子
シエラ・フェレル「I Could Drive You Crazy」
2025年は新譜をゆっくり聴くことが少なかったのですが、シエラ・フェレルのアルバム「Trail of Flowers」はベコベコの輸入盤で聴きまくってました。
ジャケットの彼女はまるで神話に出てくる架空の天使のようで、いざ針を落としてみると懐かしいはずなんてないのに何故か幼少期過ごした田んぼや牛の糞の匂いが香ってきたり、近づいてはいけない線を感じたり、すごく不思議な気持ちになったのを覚えています。低い位置で奏でる彼女のフィドル姿が目に浮かびます。
ビリー・ストリングス「Away From The Mire」
「Home」は本当に自分が求めていた音は何なのかを教えてくれたようなアルバムです。
彼らの弦には安心と不安定が共存しているように聞こえます。それが物語の輪郭をより強く感じさせてくれると同時に、自由には不自由が伴うからこそ不自由の中の自由を見つけたい。そんな曲。
痛みを手放してリズムを掴む
Mr. Bungle「Squeeze Me Macaroni」
「Mr. Bungle」はゴリゴリにクネクネしていて最低でいて最高のアルバムです。
徒歩、自転車、電車、舟、飛行機とあらゆる乗り物に乗りながら聴きました。ほら見てくれよ、変態様のお通りだぞって通学路で子ども達に見せちゃいけないもの見せちゃう大人の気持ちを体験できます。
<プロフィール>
井上園子(イノウエソノコ)
2022年にアルバイト先のオーナーのひと声をきっかけに音楽活動を開始。茅ヶ崎、藤沢、横浜など神奈川県沿岸部を中心にライブを行い、2024年に初のフルアルバム「ほころび」を発表。2025年には「FUJI ROCK FESTIVAL」への出演を果たした。今年3月に台湾と韓国を巡る自身初の海外公演を行う。
北村蕗
柴田聡子「Reebok」
曇り空の電車の中、取り憑かれたようにリピートして聴いていました。毎年そんな曲に出会います。
“投げ出した右足で空中に描く丸”
と言う歌詞が、とても好きで。聴いたときに伝わる、日本語の発音が、メロディに影響され変容する様にグッときます。
柴田さんの楽曲は、言葉とメロディが糸のように何度も編まれていく印象を受け、とても大好きでよく聴いています。
Underworld「Little Speaker」
粘り着くようなベースの連なりが堪りません。
2025年は自分の音楽とテクノをどういう形で結びつけていこうかと考え続けた年で、その中でたくさんヒントをもらったのがUnderworldでした。
歌や声のサンプルが乗っていながらも、サウンドメイクに引けを取らない構成が、とても魅力的です。
金沢明子「秋田音頭~秋田大黒舞 <AKITA'N' SORA MIX>」
この曲を聴いて私は歌そのものもサウンドメイクの一部として捉えていることに気づきました。民謡をエレクトロニクスとミックスするという前衛的な構成の中にも哀愁が漂っていて、胸が締め付けられます。
エレクトロニクスと掛け合わされることによって、民謡の歌唱法の素晴らしさに気づけました。声をサンプルとして、音として配置している寺田創一さんのクリエイティブにも敬服です。
<プロフィール>
北村蕗(キタムラフキ)
山形県上山市出身。幼少よりピアノと童謡を学び、2023年に初の配信シングル「amaranthus feat. 梅井美咲」を発表。同年には「FUJI ROCK FESTIVAL」にROOKIE A GO-GO枠で出演した。2025年11月には初のフルアルバム「Spira1oop」を発表。 kuyurimi名義でDJ活動を行うほか、冨田ラボのメンバーとしても活動している。
笹川真生
2025年は個人的に刺さり散らかした作品が多く放たれ、
嬉しい悲鳴をあげ続けた1年間でした。
このコラム(?)に文章を寄せるとは思っていなかったので、
「3曲に絞れ」と言われ、その嬌声は本物の悲鳴に変わり、喉がこわれてしまいました。
神聖かまってちゃん「死にたいひまわり」
神聖かまってちゃんの楽曲には、言葉にならない美しさや、一瞬の煌めきを覚えずにはまったくいられません。
頭の中で鳴り止まない音の洪水や言葉の渦、光の明滅、それはその時々で流動的にかたちを変えますが、
わたしを苦しめるそのどれもを、ありのままで居させてくれる…。そんな、鮮血に似た夕焼けのような。
そういった存在として寄り添ってくれました。
「ひまわりが咲いていくよ」
そう聞こえたときに思わず涙が出ました。
こんな作品はほかの誰にも作れません。
Magdalena Bay「Human Happens」
毎回毎回、新曲がリリースされるたびにそのサウンドの豊かさとアレンジメント、歌声の美しさに圧倒されるばかりですが、
こちらも素晴らしい楽曲でした。
2024年のアルバム「Imaginal Disk」で見られた暴力的な(?)アプローチは比較的、潜んではいますが、
まったく油断ならず、むしろ深いところで狂気を見た気がします。
ところでMagdalena Bayのサウンドは、どこか「水中ステージ」を想起いたします。
わたしは水が嫌いで、とりわけ「水中ステージ」なんてもってのほか!なのですが、
この海の底にはいつまで潜っていたいと心から思えます。
廻花「スタンドバイミー」
厳密には2024年リリースなのですが、アルバム収録は2025年ですので、2025年のベストトラックとさせてください。
間違いなく今年一番聴いた楽曲です。
わたしは通常、ものすごいサウンドや、少し変わった楽曲を好む指向性があるのですが、
「スタンドバイミー」には奇妙なアレンジも、爆発的なところもなく、歌声も、ことばも、痛ましいほどにまっすぐで(目を背けたくなるほどに!)、
だのに、すべてが合わさるその一瞬間の連続は、紛れもなく「奇妙」であって、「特別」で、
音楽とは連続性なのだと実感を得ました。時間とは何かを理解できた気さえします。
「普通」と言ってしまうのは言葉を間違えているのかもしれませんが。
「普通」に曲を作ったその先で奇妙な肌触りになるというのは、もはや狂気なのかも。
彼女の歌声が狂っているのかもしれません。もちろん、よい意味で、です。
<プロフィール>
笹川真生(ササガワマオ)
中学生の頃にプレイしたニンテンドーDSのソフト「大合奏!バンドブラザーズ」をきっかけに音楽を作り始め、その後DTMで本格的に音楽制作を開始。シンガーソングライターとしての活動以外にも、数多くのアーティストに楽曲提供をしたり、編曲で参加したりと作家としても活躍している。個人名義の最新作は2025年4月発表のフルアルバム「STRANGE POP」。
堂島孝平
Bon Iver「If Only I Could Wait」
チェルシー・ジョーダン「halfwaythru」
レイヴェイ「Lover Girl」
2025年もいろいろな曲と出会えて楽しかったですが、中でもとりわけ美しさを感じ、音像が好みだった曲を選びました。
ビートの強い曲やカラフルな曲も好きですが、ここ数年は滲むとか沁みるって感覚が聴き手としても作り手としても大事になってきてます。
ニューアルバム「PIN」(2/11リリースだよ!)でもそのような意識が随所にあるので、この3曲と併せてぜひ聴いてみてくださいね。
<プロフィール>
堂島孝平(ドウジマコウヘイ)
1995年2月にシングル「俺はどこへ行く」でメジャーデビュー。KinKi Kids(現:DOMOTO)、藤井隆、PUFFY、アンジュルムなど数多くのアーティストへの楽曲提供やサウンドプロデュースでも手腕を発揮している。2025年から活動30周年を記念した施策を展開中で、今年2月15日には東京・EX THEATER ROPPONGIにてワンマンライブ「堂島孝平 活動30周年大感謝祭」を開催する。
眞名子新
The Lumineers「Same Old Song」
2025年は年始早々から自分が大好きなバンドのアルバムリリースがあり、最高なスタートでした。アルバムの中でもこれぞカントリーソングだと個人的に思ったこの曲をシングルカット1曲目にしたThe Lumineersのことが改めて好きになりましたし、自分の背中を押してもらえた気がしてこの曲には感謝しています。
ベラ・ホワイト「Little Things」
11月シングルリリースされた曲。枯れた艶やかな声とギターの陽気だけど少し切なさも含んでいるような乾いた音が気持ちよく合わさり、シンプルなリフを繰り返しながらじんわりと進んでいくのが心地よくて何度も聴いています。これからのリリースも楽しみです。
Japanese Breakfast「Picture Window」
2025年3月リリースのアルバムで、通して聴いていますが、特にこの曲は何度もリピートしています。とてつもない何かが始まる予感がするイントロが癖になります。いい曲っていいイントロから始まるんだよなと改めて感じさせられた1曲です。
<プロフィール>
眞名子新(マナコアラタ)
2016年に神戸のあらた名義で音楽活動を開始し、2022年7月末に本名である眞名子新に改名。2023年発表のEP「もしかして世間」がSpotify「Best of Japanese SSW」に選出されたことで話題を呼んだ。2025年には初のフルアルバム「野原では海の話を」を発表し、「FUJI ROCK FESTIVAL」「VIVA LA ROCK」などのフェスに出演した。


