2026年に入り、日本のバイラルチャートを賑わせている謎の音楽ジャンル「Japanese Funk」。日本語ボーカルによるJ-POP的なメロディ、歪んだキック、そしてバイレファンキのリズムが同居するこの奇妙な音楽は、その多くが海外のプロデューサーたちによって大量生産され、日本市場へと逆輸入されている。
今、インターネットの音楽シーンでいったい何が起きているのか? この記事ではPhonkから連なるTikTokの音楽トレンドの変遷を振り返りつつ、この不思議な現象の核心に迫る。
取材・文 / namahoge
突如チャートに現れた「MONTAGEM HIKARI」
今年1月14日にリリースされてから、国内バイラルチャートで長らく上位にランクインした「MONTAGEM HIKARI」という曲がある。同曲は「超かぐや姫!」のエンディングテーマやM!LKの新曲などと競り合いながら2月中旬まではトップに座して、執筆時点(2026年4月11日)でSpotifyでは1400万、YouTubeでは計2600万の再生回数を記録するに至った。もしもあなたがTikTokユーザーならば、ダンス動画とともに「朝の光の中で♪」と歌うリフレインが思い出されることだろう。
知らない人も一聴すれば、これがYOASOBIの「夜に駆ける」に代表されるような近年の“夜好性J-POP”の影響下にあると理解するはずだ。イントロがなく、再生ボタンを叩いた瞬間にボーカルが入る構成にも私たちは慣れたもので、リリースカットピアノと呼ばれる、ピアノ音源が残響なく消える音色にももはや親しみがある。
けれど、たった10秒ほどの7小節でAメロが断ち切られ、「朝の光の中で♪」とサビに突入する性急さには驚いてしまう。実際のところ歌詞の半分は「朝の光の中で♪」と歌っているのみで、その潔さには感心するが、慎重に耳を傾ければこんな疑問も浮かんでくる──幾田りらっぽい声はAIボーカル? それにしてもキックが歪みすぎじゃない? 後半にいきなり「ヒョッヒョッ」というサンバのパーカッションらしき音が入ってくるのはなぜ? 「MONTAGEM」とはなんだ? あとカバーアートはいろいろと平気なん?……などなど。
以上のような謎を呼び起こす作品は「MONTAGEM HIKARI」だけではない。Spotifyプレイリスト「Japanese Funk」を聴いてみよう。字面から想像されるような「日本のファンクミュージック」を期待してはいけない。これはジェームス・ブラウン的な意味でのそれではない。
ジャンル名の紛らわしさに頭痛がしてきそうだが、さまざまな疑問は差し置いて、ここで言う「Japanese Funk」とはいったいどんな音楽なのか整理してみよう。
- ①尺が2分未満のJ-POP風の楽曲である
- ②日本語詞のボーカルがあり、その音声はAI生成である
- ③サビでビートが四つ打ちとなり、キックが歪んでいてデカい
- ④「ツッチャッチャ・チャッチャ」といったバイレファンキのリズムがある
- ⑤ジャケットでは既存IPのキャラクターが使われる
「MONTAGEM HIKARI」を例にとれば、①②③は問題ないとして、④について、冒頭から鳴るピアノが「ツッチャッチャ・チャッチャ」と刻んでおり、サビに入ると独特な音色のシンセがレイアリングされることで、そのリズムを強調しているのだと確認できる。⑤は見た通りである。
しかし「Japanese Funk」と括られる楽曲の中には、②AI歌唱ではなくサンプリングが使用されている場合も、④このリズムがどこにも採用されていない場合もある。が、一旦脇に置いておく。
ことさら奇妙に感じられるのは、「Japanese Funk」のプロデューサーの多くが、ちょっと前まではポルトガル語のMCを曲中に使っていたことであり、さらにさかのぼれば、ダークな雰囲気のビートに英語のラップを乗せていたことである。
どうも「Japanese Funk」のプロデューサーの大半は、今年に入ってから日本語詞を書き始めたらしい。機械翻訳の精度向上のためか、不自然といえるほどの破綻は少なく、ぎこちない日本語詞にシュールな愛らしさを覚える類の曲でもない。しかし、こうも一斉に始めたのはなぜなのか?
不可解な点はそれだけでない。これら楽曲の配信元であるレーベルの所在地も日本国内にないのである。並べてみれば、RioX、Tribal Trap、MIDNIGHT SHADOW、Launch13、Project Vyral、TTC Records──これらは順に、ベトナム、オランダ、イギリス、アルゼンチン、ドイツに本拠があり、最後の1つは私の検索能力が及ばず不明である。
件の楽曲のヒット以降、2カ月で20曲以上の「Japanese Funk」をリリースした0to8というレーベルがある。生まれたばかりのジャンルにとって最大の庇護者と言えるこのレーベルは、2022年に設立された「Zero to Infinity」という、UAEはドバイに拠点を置く企業である。
私は取材を試みた。なぜ0to8は「Japanese Funk」というジャンルに熱心に取り組んでいるのか? 送信から数時間後に届いた回答を要約すると、こうである。
「日本は重要な市場です。日本のオーディエンスは“新たな美学”への受容性が非常に高く、TikTokへのエンゲージメントも熱心だからです。けれど0to8は『Japanese Funk』が日本だけでなく、もっと遠くに届くと信じています。“日本的”とされるローカルなサウンドも、インターネットネイティブなコミュニティが牽引すれば瞬く間に世界的な現象となりうるのです。だからこそ『Japanese Funk』のムーブメントに期待できるのです。それは日本という枠を越え、きっと大きな成長を遂げるはずだから」
いきなり提示された壮大なビジョンに面食らいながら、彼らが何に基づいて話しているのかを理解する。これは0to8の未来予測であると同時に、業界の歩んだ過去を示している。
それは「Phonk(フォンク)」と「Funk(ファンキ)」というジャンルが、2020年代のTikTok音楽シーンで独特のグローバル市場を築き上げてきた過去である。発音が紛らわしく思うかも知れないが、どちらもJB的な意味でのファンクミュージックに語源を持ち、前者はアメリカはメンフィス、後者はブラジルはリオデジャネイロにおいて、20世紀へとルーツをたどることのできるジャンルである。
しかし、トレンドを高速回転させるTikTokの場においては文脈が切り離されて展開し、ほとんど従来とは異なるジャンルへと変わる。そして、すでに異形となったジャンルに接ぎ木されるようにして現れたのが「Japanese Funk(ジャパニーズファンキ、と読む)」だった。
J-POP風の歌詞は書けてもオーラルな言葉をしばしば誤読する機械が蔓延し、いよいよ表面だけ流暢に言葉が流れていくだけの時代に入ろうとしているようだ。しかし「Japanese Funk」には、まだ奇妙な直訳調の手触りが残っている。この違和感を頼りに、同ジャンルの起源を確かめていこう。
TikTokにおけるPhonkの台頭【~2022年】
市場、コミュニティ、音楽性などさまざまな側面で「Japanese Funk」の土台となったジャンルがPhonkである。カーレースや怒りたけったサッカー選手、アニメの戦闘シーンなど、何か針が振り切れたような昂りを演出するBGMとして聴いた覚えがあるのではないか。
PhonkはTikTok以降の音楽シーンで最も論争的なジャンルの1つだ。例えば「2020年代で最も収益性が高く、しかし空虚なジャンル」という批判がある。縦型動画の現場が巨大なインセンティブを生んだことで、頻繁に何億回ものストリーミングを記録するのだとか、月に15万ドル(2千万円超!?)稼ぐプロデューサーがいるのだとか、とにかくPhonkは世界中の若者たちが一攫千金を狙う猟場となり、トレンドを追うばかりの無個性な楽曲で占められたというのである。
TikTok市場を勝ち抜く指針を示す象徴的な作品として、Kordhell「MURDER IN MY MIND」(2022年)を聴いてみよう。機械が発狂したかのような808カウベル、非常事態を告げるような無機質なサンプリングボイス、デカすぎる四つ打ちビートなど、縦型動画の世界の住人を呼び止めるのに十分なインパクトを備えている。これは同時に、従来的なPhonkとの完璧な決別をも示している。
ごく簡単に歴史を振り返る。Phonkは90年代のメンフィスラップにルーツを持ちながら、ジャンルとしては2010年代初頭のマイアミに創始された。前世紀末のアメリカ南部で流通した、呪術的な感もあるカセットテープの音色を21世紀によみがえらせようと、当初はヒップホップのサブジャンルとしてスタイルが確立されたのだった。
しかし2010年代後半、早くもPhonkは原型を失っていく。SoundCloudを通じて北米の外に出るや、一方ではチルな作業用BGMとなり、もう一方ではハイエナジーな電子音楽へと姿を変えた。後者はもっぱらロシアをはじめとした東欧で流行し、カーレースの映像に付されるBGMとして定着したのでDrift Phonkとも呼ばれるが、これがTikTokで人気を集めていく。
Drift Phonkを前身として、多国籍なプロデューサーによる四つ打ち時代が到来する。2021年以降のシーンを担うのは、東欧勢に加えて北米のKordhell、デンマークのPlayaPhonk、アルジェリアのDxrk ダークなど。引き継がれた90’sメンフィスOGのサンプリングはにわかに後退し、代わりに主旋律を担った808のカウベルが騒がしく終末の時報を打っている。
日本のビートメイカーのFullmaticは、Phonkとは「ある種ファンタジーに仕上げる音楽」なのだと説明する。そのような意味に限定すれば、Phonkの変遷にも一貫性がある。いわば、死のファンタジーが貫かれているのだ。骸骨、墓、悪魔──90’sメンフィスから引き継がれたホラーコア美学は、東欧に渡ってJ・G・バラード的な手つきで暴走エンジンを積み、TikTokに至ると破局に向かって脈打つサイボーグと化している。
だが結局のところ、縦型動画の市場と結びついたことは、シーンを創意なき再生産の場に変えてしまったようだ。誰かの筋トレ動画やFPSのキル集動画に刺激的なファンタジーを注ぐためのBGM。反対に言えば、Phonkがキャラクターの代入が可能なゲームの戦闘BGMのようになったことで、グローバル市場を掌握することが可能になったとも考えられる。
しかし、単一のファンタジーのみがトレンドを維持できるほどTikTokの遠心力はヤワでない。したがって音楽性の刷新が求められるのも時間の問題だったが、この国境なきシーンで新たに台頭するのは、むしろ国家というファンタジーだった。
Funk(ファンキ)の席巻【~2026】
時にテイラー・スウィフトのリスナー数を超えたり、Spotifyで1日に400万回以上再生されたりと、ヒットの概念が揺らぐくらいにはPhonkシーンのトラフィックはすさまじかった。その代償として、ひとたびトレンドが生まれたら、全世界のプロデューサーが一斉に群がり宝くじを引くような生産モデルが定着してしまう。
では、現在のトレンドはいったい何か。流行当初こそBrazilian Phonkと呼ばれてシーンの連続性を保っていたが、今では単にFunkとされることが多い、ブラジル音楽に由来するトレンドである。
これは昨年夏にリリースされた「MONTAGEM XONADA」である。おわかりだろう。多くの点で「Japanese Funk」との類似を見いだせる。
- ①尺が1分ちょっとしかないポップソング
- ②ポルトガル語のボーカルはAIか不明(だがコメント欄にはAIを疑う声も多数)
- ③サビ(コーラス)でビートが四つ打ちとなり、キックが歪む
- ④鍵盤が「ツッチャッチャ、チャッチャ」とリズムを刻む
- ⑤アートワークがなかなか大丈夫?
つまり私たちは「Japanese Funk」に限りなく近付いてきたのであるが、また少し遠ざかる。
そもそもFunkとは何か。80年代のリオのファベーラ(スラム街)に起源を持つジャンルでFunk Carioca(ファンキカリオカ)とも言い、こと日本ではBaile Funk(バイレファンキ)とも呼ばれるが、先述の要素④はまさにFunkに由来する。また、これはPhonkとは事情が違い、幾度かグローバルとの交差を経ながらも、ブラジルに固有なダンスミュージックとして根を張ってきた歴史を持つ。
2020年代になると、アニッタやパブロ・ヴィターなどのポップアクトの台頭や、アングラシーンの先鋭化によりFunkは世界的な脚光を浴びていく。日本においてもこれに呼応する動きがあり、K-POPでも近年フィーチャーされる傾向にある。
したがって、PhonkシーンでFunkが包摂されたのもこれとパラレルな動きだった。その最初期のヒットは、四つ打ちPhonkの全盛期たる2022年に確認できる。
エディットされたポルトガル語のMC、「ツッチャッチャ・チャッチャ」のリズム構造を剥き出しにする電子音、重低音の効いた巨大なベース。不気味な嗤笑や叫び声のサンプルに、どこかPhonk的な残虐性を感じられるが、タイトルの「MONTAGEM」はポルトガル語のモンタージュ、ボーカル断片をリズム素材として配置するFunkの手法のことを言う。
このトラックのプロデューサー・DJPH01はブラジル在住で、ルーツはサンパウロ発のFunk Mandelão(ファンキマンデラオ)というジャンルにあるそうだ。しかし未来的かつ攻撃的な、そしてエキゾチックな感もあるこのサウンドが、新たなファンタジーを求めるPhonkキッズの耳に留まるのも必然だった。
こうして登場したのが、2023年1月にリリースされた「Brazilian Phonk Mano」だった。新ジャンル・Brazilian Phonkの誕生である。作者はSlowboy、lucaf.、Crazy Manoの3名だが、出身地は順にノルウェー、不明、不明のプロデューサー。続けて5月、アルゼンチン在住のS3BZS「MONTAGEM - PR FUNK」がビルボードでチャートインするほどの大ヒット。かくして大波が生じたPhonkシーンがどうなるかといえば、ご想像の通りである。
いや、あるいは想像以上かもしれない。2026年現在、Spotify公式プレイリスト「phonk」を見ればポルトガル語のタイトルばかりで、いわゆるPhonkを探すのが困難なほどである。それでもPhonkの看板を残すのはシーンの連続性のあらわれであるが、ここにおいて名称はいよいよ混乱する。Brazilian Funkと呼ばれるようになり、単にFunkになり、フォンク、ファンキ、ファンク、フォンキ……とにかくPhonkとFunkは渾然一体としてくる。
混ざり合った形跡は音楽面でも明らかだ。以下は2024年、2025年の最大のヒット曲であるが、順に聴いてみれば、Funkに特徴的なリズム「ツッチャッチャ・チャッチャ」を刻む楽器を抑えて、四つ打ちのキックが肥大化していく傾向が確認できるだろう。不思議なことに、縦型動画の弾性か、グルーヴの力点はFunkから再び四つ打ち時代のPhonkへと回帰していくのである。
たった2、3年で変容した現在のFunkをFunkと呼んでいいのか私にはわからないが、意外にも、これらの楽曲はブラジル国内でも受け入れられているらしい。今年1月に現地メディアが好意的な反応を示しているほか、人気プロデューサーであるMXZIやSlxughter、Repsajなどのリスナー国別分布(Spotify)を見ても、やはりブラジルで最大の支持を得ているようなのだ。
ただし、これが依然として赤道以南のエキゾチズムを表す記号でしかないように思えるのは、シーンにブラジル音楽が持ち込まれた直後、メキシカンPhonk、インディアンPhonk、エジプティアンPhonk、イタリアンPhonk、アラビックPhonk、フレンチPhonk、チャイニーズPhonk、パキスターニPhonk……などなど粗製乱造の国名Phonkが氾濫した経緯を知っているからである。無論、二匹目のドジョウのすべては出オチであり、見た通りブラジル風Phonkがシーンを席巻したのだが。
2026年になってみれば、以上のような無節操な国名Phonkの残骸は、「Japanese Funk」を育てる肥やしとなったように思われる。そして、浸透したはずのFunkが四つ打ちへと変化するのを待つことで、ようやくJ-POP的歌唱を乗せる準備ができたのだと考える。四つ打ちビートはそのままに、リリースカットピアノをFunkの名残に当てればよいのである。
こうしてビートとタグが整ったものの、まだ足りないピースがある。#JapaneseFunkを完成させるには、日本語ボーカルを用意しなければならない。
<後編につづく>

