5月16日は松尾芭蕉が奥の細道に旅立ったことから“旅の日”に制定されています。多くの人にとって人生における大切な要素である“旅”。この連載では、旅好き / ツアーなどで各地を飛び回るアーティストに、旅をテーマにエッセイをつづってもらいます。
2026年第1弾に登場するのは、年始にヨーロッパへ一人旅したことがファンの間で話題になっていたME:IのMOMONAさん。18歳の夏に初めて海外一人旅をした地、イタリアの思い出とともに、彼女にとっての旅する意味を明かしてくれました。MOMONAさんセレクトの“移動中に聴きたい旅プレイリスト”とともにお楽しみください。
文 / MOMONA
私は大好きな映画の舞台である“クレマ”という郊外の街へ向かった
私にとって旅とは“我に返る”こと。
遠く離れた土地に出向き、もう二度と会わないかもしれない人々と言葉を交わし、見たことのない景色や新しい味を感じる。
こういったことが、束の間の現実逃避のように感じる人も多いかもしれない。でも見方を変えれば、まるで捉え方が変わってくる。
“我に返る”というのは、もう少し意味を紐解くと“五感で得ることのできる喜びを思い出す”ことだと、旅を通じて私は感じてきた。
普段の拠点ではどうしても、仕事や生活、立場や責任という要素が常に身の回りと脳内にちりばめられている。それ自体持てることはきっと幸福でもあるが、時に、極端に五感を鈍らせることもある。忙しない日々の中で、娯楽はどうしてもスマートフォンの画面の中に集中してしまうという人も多いだろう。
この身一つだけで感じることのできる幸せを教えてくれて、胸がときめく方へ身体も心も丸ごと私を連れて行ってくれるのは、いつだって“旅”だ。
十代の頃に経験した忘れられないイタリア旅行の思い出話を基に、私の“旅”に対する思いや考えを共有させていただき、この記事を読んでくれている皆さんにも「なんか、どっか行ってみようかな」なんて、思ってもらえたら嬉しい。
十八の夏、むしゃくしゃして勢いで向かった北イタリア。まず、この頃私はアルバイトだけをしている生活で、自分の人生の進路について悩んでいた。自分が今何者といえるのか、自分は何を持っているのか、そんなことを考え始めたら止まらなくなって眠れない夜ばかりだった。
そんな生活の中、人生のうちでいつか必ず行きたいと憧れていた北イタリア行きの航空券を取ったのは、些細なきっかけで、その頃ヨーロッパにいた敬愛する先輩が「自分もこの夏イタリアに行きたいと思ってる」と、世間話の流れで教えてくれたから。私はこの機会に行くしかない、と直感的に強く思った。
英語も全く話せない、一人で海外へ行ったこともない十代の日本人が、急にヨーロッパへ向かうなんて無謀だと考える人も多いと思う。だけど、この頃の私は今以上に衝動的で、思い立った瞬間に行動しないと、気が済まなかった。
この旅行の計画は、ミラノから始まりヴェネツィア、フィレンツェを主な目的地として北イタリア内を約一週間周遊するというものだった。
一日目は夜遅くにミラノの空港に着いて先輩と合流をした後、すぐに宿へ向かった。そして二日目の朝、市内から列車で一時間と少しをかけて、大好きな映画の舞台である“クレマ”という郊外の街へ向かい、一日かけて観光した。私はこの日のことが、永遠に忘れられない。
街に着いてすぐ自転車をレンタルして、北イタリアの真夏の強い日差しに照らされながら、どこまでも広がる青々とした草原や木々を眺めていた。この時、気温は40度近く、くらくらするほど暑かったのを覚えている。それでも気分は清々しくって、爽やかだった。
大好きな映画のロケ地で使われた“Fontanile Quarantina”という湖へ、一時間ほど必死に自転車を漕いで向かい、辿り着いた時は本当に胸がいっぱいになった。とても冷たいその湖の中に足を浸した瞬間、自分は本当に遠くまで来たのだと思った。
肌を突き刺すような激しい日差しが、この場所では優しい木漏れ日に変わり、それを透き通った水面が反射して柔らかな光を生んでいる。
私たちと同じように湖で涼む人たちの楽しそうな話し声や、元気な夏の虫の声。草や土の匂いも、歩くたびに足元でちゃぷちゃぷと鳴る水の音も、何もかも脳裏に焼き付いて離れない。
目の前の景色、音、匂いから得るもので胸がいっぱいになった時、この瞬間のために今までの全てがあったのではないだろうか?と、大袈裟な考えが頭に思い浮かぶ。
自分が、社会や世間的に何者であるとか、今この瞬間は何だって関係ない。
だって私は今ただ生きていて、身体があってそれだけで得られるものがある。そしてその得られるものだけで、生きていて良かったと思えるのだから。
普段ずっと思考の内だけに強くあった意識が、心と身体に戻るような、我に返ったような、そんな感覚に陥った。
日々の喧騒も、煩悩もどんどん遠のいていく……それがとても、気持ちが良かった。
この一週間の旅で、ヴェネツィアでゴンドラに乗ったり、フィレンツェで美しく広大な街並みを眺めたり、イタリア観光としては王道のコースも辿った。どれも忘れられない思い出になったけれど、クレマで過ごした一日が一際色濃く、数年経っても心に残っている。
観光客として明るく出迎えられる観光地の賑やかさや、お祭りのような雰囲気と比べるとだいぶ落ち着いた場所だった。
でもなんだか、そこからは“街が呼吸をしている”と、感じられるのだ。
この街で暮らす人々の当たり前の暮らしを、自然体で佇む建物やすれ違う人々から感じることができる。きっと日本から、ネットで調べたり画像を見るだけじゃ分からなかった。
この土地に佇む“当たり前”。それは私にとっては、すごく遠くって当たり前じゃない。だから心から、ワクワクした。
きっとあの街の人たちにとっては、私の生活にとっての当たり前が、別世界の事ように感じられるだろう。地球はとっても広くて、繋がっているのに未知で溢れている。旅に出てそう感じるたびに、生きていたいと思う。もっと色んな人や、文化や物事に出逢ってみたいと思える。
日々抱える煩悩も責任も、なくっちゃきっと生きていけないし、帰る場所があるから旅をしたくなる。
旅へ行って離れてみて、普段は見えなかった、帰る場所のあたたかさに気付いたりもする。
何も捨てられないと思うのに、自分でも気づけないうちに日々選択の連続であるのが、きっと人生だから。悩ましくなったら旅へ出てみることも、何かを得る選択になるはず。
本当は、あなたの身一つだけで大きな幸せを感じて、得ることができる。
五感で得られることって、頭で考えたり追いかけようとしなくても、必然的に胸を満たしてくれるもの。
私はそんな、生きてることの本質とも思えるものを、旅を通じて思い出すから…
きっとこの先どんな選択をしていこうとも、旅と共に人生を歩んでいくだろう。
移動中に聴きたい旅プレイリスト Selected by MOMONA(ME:I)
01. NewJeans「Cool With You」
02. ひかりとだいち love SOIL&"PIMP"SESSIONS「eden」
03. 米津玄師、宇多田ヒカル「JANE DOE」
04. f(x)「4 Walls」
05. スフィアン・スティーヴンス「Mystery of Love」
06. Mondo Grosso, 満島ひかり「ラビリンス」
07. 宇多田ヒカル「One Last Kiss」
08. ME:I「Tomorrow」
09. プリシラ・アーン「Fine On The Out Side」
10. BTS「Butterfly (Prologue Mix)」
プロフィール
MOMONA
2003年10月生まれ、神奈川県出身。2023年10月から12月にかけて配信されたサバイバルオーディション番組「PRODUCE 101 JAPAN」初のガールズ版「PRODUCE 101 JAPAN THE GIRLS」から誕生したガールズグループME:Iのリーダー。グループ名には「新しい日本の世代を代表する“未来のアイドル”」という意味が込められている。2024年4月にデビューシングル「MIRAI」を発表。2026年は「LとR」がテレビアニメ「どうせ、恋してしまうんだ。」第2期のオープニングテーマとUHA味覚糖の「特濃ミルク8.2」のテレビCMタイアップソングに決定。2月にNTTドコモのテレビCMタイアップソング「Best Match」、4月にヘアケアブランド「Linon(リノン)」のタイアップソング「Update ME」をデジタルリリースした。8月からは、 2度目となるアリーナツアー「2026 ME:I 2ND ARENA LIVE TOUR “ME:I WAY”」を東京、宮城、兵庫、福岡の全国4都市で開催。8月5日には4thシングル「花咲く道」が発売される。また2026年4月にフジテレビにて地上波初冠番組「ME:Iの会いにきたよ!」がスタート。個人活動としては2026年公開の映画「口に関するアンケート」に出演する。


