世の中には、さまざまな「名盤ランキング」や「名盤リスト」が存在する。その中でたびたび話題になるのが、リユースショップ・ブックオフが制作した「邦楽名盤100選」だ。独特なラインナップで構成されたこのリストは、これまでもSNSを中心に繰り返し話題になってきたが、今年の4月末以降にまたも大きな反響を呼んでおり、「どういう人が選んだんだろう」といった声も多く上がっている。同様の疑問を抱いた音楽ナタリー編集部は、ブックオフに取材を実施。どのような経緯を経て、この「名盤100選」ができたのか話を聞いた。
ブックオフ「邦楽名盤100選」はこちら。
※記事内の情報は取材時点のリストを参照しています。
取材・文 / 石井佑来
ブックオフ「邦楽名盤100選」とは?
ブックオフの公式オンラインストアには「特集ページ」というものが存在し、そこには「邦楽名盤100選」と銘打たれたリストが掲載されている。「誰もが認める傑作アルバム」というキャッチが付けられたこのリストの始まりを飾るのは、シュガー・ベイブの言わずと知れた名盤「SONGS」。なるほど、確かに“誰もが認める傑作アルバム”だ。そしてキャロルの「ファンキー・モンキー・ベイビー」が続き、3番目にはBLANKEY JET CITYが現れる。しかし選ばれているのは、名盤として挙がりがちな「Bang!」でも「C.B.Jim」でもなく、6thアルバム「LOVE FLASH FEVER」。何やら様子がおかしいぞ……そう思った矢先、突如MUTE BEATの「FLOWER」が飛び込んでくる。その後、頭脳警察やあぶらだこといったアンダーグラウンドなバンドの名盤がいくつか並び、かと思えばWANDSや相川七瀬、LINDBERGといった批評的な文脈からこぼれがちなメジャーアーティストもしっかり顔を覗かせる。なんなのだろう、この納得感と違和感が激しく入り混じる感覚は。特定の史観に寄るわけではなく、かといってヒットチャートからもかけ離れている。メジャーとアンダーグラウンド、その両極を等しく扱うことから立ち現れる混沌とした雑多性。それはまるでブックオフの売り場そのもののようでもあるが、まさかEvery Little Thingも、ニューエスト・モデルとゆらゆら帝国に挟まれる日が来るとは思わなかっただろう。
と、ここまできて当然湧き上がる1つの疑問──このリストはいったい誰がどのようにして作ったのか? そんな素朴な疑問を解決すべく、「邦楽名盤100選」の制作に携わったブックオフの西尾さんと長谷川さんにお話をお聞きした。
高尚すぎないアーカイブにしたほうが
──そもそもこの「邦楽名盤100選」はどのような経緯で制作することになったのでしょうか?
西尾さん このページを作ったのはもう10年くらい前で。ブックオフのオンラインサイトにたくさんの人が来てくれるよう、いろんな記事やコンテンツを作っていたんです。その一環として作ったのがこの「邦楽名盤100選」でした。もともと自分はHMVで働いていて、長谷川は元ミュージシャンだったりもするので、いろんな知見を生かしながら一緒にコンテンツを作っていて。もう退職したメンバーも含めていろんなスタッフでアップデートしながら、今の形になりました。
長谷川さん オンラインストアの集客が課題になっていたので、それを解決するために特集記事にはけっこう力を入れていましたね。あと、邦楽ってオリジナルアルバムが売れづらいんですよ。どうしてもベストアルバムのほうが売れやすくって。それをどうにかしたいと思って考えたのが「名盤」を切り口にした特集でした。ポップスやロックの線引きも曖昧だからジャンルで分けるのも難しいし、であれば「これは聴くべき」というオリジナルアルバムをまとめたリストを作るのはどうだろう、というのがきっかけですね。
──「こういうリストにしたい」という具体的なイメージは制作当初からあったのでしょうか?
長谷川さん 特別な大義を持っているわけではなかったんですけど、できれば1つの方向性に偏ってないものにしたいなというのは、意識していましたね。「音楽好きが集まる素晴らしいサイトがたくさんある中で、自分たちができることはなんだろう」と考えたときに、堅苦しくないものにしたほうがいいのかなと思ったんです。いろんな情報を気軽に楽しめる、高尚すぎないアーカイブにするべきなのかなと。ただ、最初に少人数でリストを作ったら、全然面白くなかったんですよ(笑)。
──それはどういう意味で?
長谷川さん 「これどっかで見たことあるな」というものができちゃって。そこから、チーム外のメンバーにも意見を聞いたりしながら、各々が好きなアルバムとか影響を受けた作品を入れていきました。私が担当を外れたあとも何度かそれが繰り返され、集合知としてできあがったのがあのリストです。ユーザーの皆さまから「なんであれ入ってないんだ」とか「これが入ってるのはおかしいだろ」というリアクションをいただくことがあるんですけど、そういうやりとりが内部でも発生してましたね。
──「この並びにこれがあるのはさすがに変でしょ」というものであっても受け入れていった結果、個性的なリストができあがったと。
西尾さん そうなることを意識していたわけではないので、“結果的に”という感じですけどね。ただ、ブックオフはそもそもおしゃれなイメージを持たれているわけではないので、気取ったセレクトをする必要もなくて。それよりもちょっと変だったり面白かったりする並びのほうが、ブックオフらしいと感じてもらえるかなとは思っていました。
──確かに、頭脳警察のようなアンダーグラウンドなバンドと、相川七瀬のようなJ-POPド真ん中のシンガーが等しく存在しているというのは、ブックオフの売り場そのものみたいですよね。
長谷川さん その2つはどちらも自分が選んだような記憶があります(笑)。でも、別に物珍しさを狙ったわけではないんですよ。どっちもちゃんと好きなんです。そういうふうに“実際に自分が聴いていいと思ったか”はけっこう大事にしてました。ほかのスタッフに「このアルバムいいよ」と言われた作品も、知らなかったらちゃんと聴くようにしていましたし。
──「このアーティストだったら普通こっちでしょ」みたいなものもけっこうあると思うんですが(笑)、それも選んだ人の好みがそのまま反映されている?
長谷川さん 素直に一番好きなアルバム、一番聴いたものを選んでいたと思います。
──ちなみにこのページはランキングではなく、あくまで100選のリストだと思うんですが、順番はどのように決めたんですか?
長谷川さん 明確なルールがあったわけではないので、「この人の隣はこの人にしちゃおうかな」とか、ちょっと遊んじゃった記憶があります(笑)。同じような人たちが並ばないように気を付けてはいて、「ここは何々ゾーン」みたいな感じにはならないようにしていたはずです。
音楽を深掘りするきっかけになってくれたら
──このリストを制作したご本人たちは、10年以上にわたって反響を呼ぶものになるだろうと思っていましたか?
長谷川さん まったく思ってなかったです(笑)。
西尾さん まったくですね(笑)。
長谷川さん もちろん真剣に選んだものではありますけど、ここまで長く話題になるとは……。でもそれは自分たちの力じゃなくて、音楽がすごいってことなんだと思います。音楽は時を超えるというのを、改めて実感しました。今回このリストを話題にしてくれている方を拝見すると、20代の方もけっこういて。そういう若い世代の方たちから反響をいただけるのは、すごく喜ばしいです。音楽のすごさを改めて感じられて、音楽を好きな1人として純粋にうれしいですね。中には、「これを作った人はきっと本当に音楽が好きだと思う」というコメントをしてくださった人もいて。今はもういないこのページを作った仲間も、みんな音楽が好きな人たちだったので、そういうコメントをしてくださった人がいるという事実は本当にうれしいです。
──ちなみに今後、新しいアーティストを追加する予定はあるんでしょうか?
長谷川さん 考えはしますが……という感じです。お客様に継ぎ足していってもらえたりするといいんですけど(笑)。「なんでこれが入ってないんだ」というものをみんなで継ぎ足し継ぎ足ししていって、どんどん更新されるみたいな。
西尾さん 今回も「アイドルが全然入ってない」という声があったりしましたからね。「確かに」と思って反省しました。
──これからもたくさんの人がこのリストを目にすると思いますが、どういう存在としてこの「名盤100選」を受け止めてもらいたいでしょうか?
長谷川さん それはもう自由に見てもらえたらいいと思います。それぞれの感じ方や見方があると思うので。自分自身「やっぱりあれ入れとけばよかったなあ」とか「今だったらあれが入るのかな」とか感じることはありますからね。こういうリストがあるからこそ、「自分が選ぶとしたらこうだ」という意見も出てきたりするはずですし、全然知らないアーティストに出会うきっかけにもなると思うので、その足がかりになってくれたらうれしいです。
西尾さん 淘汰されて消えていってしまう素晴らしいアーティストも、世の中にはたくさんいると思うんですよ。そんな中で、この雑多に選ばれたリストが、1つの足がかりになればいいなと思っています。このページを見ることで何か議論が起こったり、知らないアーティストに出会ったり、音楽を深掘りするきっかけになってくれたらいいなと。そのためにもこのまま残し続けていきたいですね。

