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荒谷翔大が恵比寿に響かせた伸びやかな歌、ピアニスト山本由希子の紡ぐ旋律と向き合った夜

荒谷翔大(Photo by TOYOHIRO MATSUSHIMA)
4か月前2026年06月09日 3:02

荒谷翔大が6月6日、東京・BLUE NOTE PLACEにて「荒谷翔大 Duo Grand Piano One Man Live」の初日公演を開催した。以降のテキストには公演のネタバレが含まれるので、今後ツアーに参加予定の人はご注意を。

1stセットは「黄昏ソウル」で伸びやかに幕開け

本格的な梅雨の季節を目前に控えた6月の週末。少し前までの真夏のような暑さから一転、台風一過の北風がひんやりとした空気を運んでいた。恵比寿ガーデンプレイス内にあるBLUE NOTE PLACEは、吹き抜けの2階建てによる開放感が心地よく、まだ明るさの残る外の光が店内に差し込んでいる。やがて宵のとばりがゆっくりと下りていく中、食事や飲み物を楽しみながら、着席スタイルで音楽に身を委ねる親密な空間でライブは幕を開けた。

昨年の「ひとりぼっちツアー」以来、BLUE NOTE PLACEでのワンマンライブは2度目となった荒谷。この日はバンドセットのライブでもおなじみの山本由希子を迎え、ツアーを経てさらに強度を増した荒谷のボーカルと、山本のしなやかで大胆なピアノが真正面から向き合う特別な一夜となった。

定刻を迎え、山本とともに登場した荒谷は、「こんばんは!」と笑顔で挨拶。フロア席と2階席のオーディエンスに手を振りながら、「あ、真上にもお客さんが……って、1年前にもこれやりましたね(笑)」と場を和ませる。そして「話し過ぎると長くなるけん、今日はピアノとのデュオスタイルで早速やりたいと思います」と告げ、1stセットは1stソロアルバム「TASOGARE SOUL」の冒頭を飾る「黄昏ソウル」で始まった。

グランドピアノの前に座った山本が流麗なフレーズを放ち、その音に導かれるように荒谷が歌い出す。ハンドマイクを手にした彼の声は伸びやかで、どこか少年の面影を残したようなイノセンスがある一方、その奥にはかすかな影も差している。

続く「東京」では、荒谷が無造作にかき鳴らすアコギの弾き語りで始まり、サビで山本のピアノが滑り込むように加わる。「東京」という言葉をまっすぐに、エモーショナルに繰り返しながら、「君と出逢えた よろこび かなしみも ぎゅっと抱きしめるよ」と歌うこの曲は、ラブソングでありながら、同時に東京という街への思いをつづった歌でもある。故郷・福岡を離れ、東京で暮らす荒谷にとってこの街は、喜びも悲しみも、言葉にできない思いも飲み込んでいく場所なのだろう。「ぼくは唄うよ 名もなき夢もすべて この声にのせて」というフレーズは、そんな街の片隅で歌い続ける彼自身の決意のようにも響いた。

「Amber」では、ハネる16ビートに乗せて、ギターとピアノがグルーヴィに絡み合う。荒谷の低音の魅力が際立つスリリングな曲調の中、彼は笑顔でフロアを見渡しながら歌っていた。一緒に音を奏でる山本へのリスペクト、彼女とこの場所で歌えること、そしてその瞬間をオーディエンスと共有できることへの喜びが、隠しきれずに表情からあふれ出ている。曲が終わると、フロアからは大きな拍手と歓声が上がった。

スウィングするリズムに、座っていても思わず体が動いてしまう「ピーナッツバター」では、ラップと歌のあわいを漂うような抑制の効いたボーカルから、「きみの隣に 生まれ変わってもいたいの」と、ファルセットを交えたソウルフルなシャウトへと一気に感情を解放していく。終盤にはジャジーなフェイクも飛び出し、その鬼気迫る声に再び歓声が沸いた。ミドルテンポのソウルチューン「Osmanthus」では官能的なファルセットを響かせ、「i miss you - Twilight」を経て、1stセットの最後を飾ったのは「真夏のラストナンバー」。その跳躍するメロディを、荒谷は丁寧に、しかし胸の奥から絞り出すように歌い上げた。

2ndセットではジョン・レノン、椎名林檎のカバーを

休憩を挟んで始まった2ndセットの前半では、公演ごとに内容を少しずつ変える予定だというカバー曲が披露された。椎名林檎の「丸ノ内サディスティック」では、ジャジーにリハーモナイズされたコードの上をメロディが滑っていくスリリングな瞬間に、観客は何度も身震いさせられる。荒谷は「どこにもない、由希子ちゃんのオリジナルアレンジ。その上で遊ばせてもらいました」と、彼女への賛辞とリスペクトを惜しみなく口にした。

この日の白眉は、荒谷自身が12歳の頃にテレビで出会い、音楽に目覚めるきっかけになったというジョン・レノンの「Imagine」のカバー。荒谷は当時まだ楽器が弾けず、アカペラで曲を作っていたというエピソードを明かしたあと、ジャズやゴスペルのフレイバーをまとった山本によるアレンジで、楽曲の新たな表情を見せていく。荒谷も歌詞の意味を1つひとつ噛み締めるように、真摯に歌に向き合っていた。

「ここがダンスフロアだと思って聴いてください」と告げて始まった「煌めきワンダー」では、体を揺らしステップを踏みながら楽しそうに歌う荒谷。再びハンドクラップが響く中、オーディエンス1人ひとりに手を振り、笑いかけながら歌う。さらに「Lovely Baby」では、アコギをザクザクとかき鳴らしながら、ソウル、ロック、歌謡の感覚をポップミュージックへと昇華していく。どこかサザンオールスターズにも通じるような大らかさと、夕暮れどきの切なさが同居する曲だ。

ノスタルジックで和の響きをたたえた「夕凪小焼」を経て、ワルツのリズムに乗せた「i'm in love - Angel」へ。真夜中にそっと弾き語る子守唄のように、音の隙間を大切にしながら歌われ、山本のピアノソロが寄せては返す波のようにダイナミックに広がっていく。最後は「心」。オリエンタルな響きがほのかに漂うメロディラインの余韻を残し、この日のライブは静かに幕を閉じた。

歌とピアノだけだからこそ、声の輪郭や息遣い、言葉の重みがいつも以上に鮮明になる。一方で、たった2人とは思えないほど豊かなグルーヴとダイナミズム。荒谷翔大の歌には喜びと悲しみ、都会の孤独、誰かを想う祈り、そして音楽そのものへの尽きない憧れが混じり合っている。まさに「黄昏ソウル」。その言葉の意味が、BLUE NOTE PLACEという親密な空間で、改めて表現された一夜だった。

公演情報

荒谷翔大 Duo Grand Piano One Man Live(※終了分は割愛)

2026年6月12日(金)大阪府 島之内教会
2026年6月13日(土)福岡県 Gate's7

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