楽曲のリズムやノリを作り出すうえでの屋台骨として非常に重要なドラムだけど、ひと叩きで楽曲の世界観に引き込むイントロや、サビ前にアクセントを付けるフィルインも聴きどころの1つ。そこで、この連載ではドラマーとして活躍するミュージシャンに、「この部分のドラムをぜひ聴いてほしい!」と思う曲を教えてもらいます。
第44回は、8月26日に初のライブアルバム「E-Magination - Live at the Blues Alley Japan -」をリリースする川口千里さんの登場です。彼女が選んだのはもちろん恩師・菅沼孝三さんの楽曲。さらに“菅沼道場”に入門する前に憧れたドラマーや、今現在一番気になっているドラマーなど、長年のキャリアの中からまんべんなくセレクトしてくれました。
構成 / 丸澤嘉明
ドラムフレーズが好きな曲とその理由
FRAGILE「Bluff」(ドラム:菅沼孝三)
菅沼孝三ドラム道場生として、絶対に外せないドラムイントロです。フュージョンギタートリオ・FRAGILEの記念すべきデビューアルバム「FRAGILE」のオープニングを飾るインパクト抜群な1曲です。まさに、今回の企画のテーマにぴったり! 冒頭5秒聴くだけで、「このアルバムは間違いなく強烈な衝撃を与えてくれる!」と確信できます。孝三先生本人も渾身のイントロだと自負していたらしく、ご自身でまとめた「名ドラムイントロ集」にしっかりと記載していました(笑)。このアルバム自体は私が生まれる前にリリースされていますが、昨今の作曲事情(イントロが長いと聴いてもらえないなど)がある今だからこそ、興味をグッと惹きつける渾身のドラムイントロを、私たちドラマーはどんどん考案していくべきだなと考えさせてくれます。
ビリー・コブハム「Stratus」(ドラム:ビリー・コブハム)
1つ目で挙げさせていただいた孝三先生にとって、憧れのドラマーであるコブハムさんもやはり外せません。1:30頃から始まるランダムなシンセアルペジオに合わせてのフリードラムソロイントロを初めて聴いたときの衝撃は忘れられません。「Stratus」は、私たちロック / フュージョンの界隈では定番のセッション曲なのでよく演奏するのですが、たまにこのアルペジオをループさせてドラムソロをとったり、ツインドラムでトレードしたりしています。そこからスネアロールに入って、4分で一発! 真似したくなる、素敵なイントロですよね。
ラーネル・ルイス「Change Your Mind」(ドラム:ラーネル・ルイス)4:13~
あとの質問でも答えるとは思うのですが、今一番大好きなドラマーがラーネルさん! 全編通して素敵な演奏なのですが、特にお気に入りの部分をピックアップしました。2拍の間、シングルペダルで16分連打! 簡単そうに見えますが、実はとても難しいテクニックなのです。数年前にご一緒する機会があったので、ご本人に直接どうやっているのか教えてもらったのですが、そもそも足の大きさが私の倍ぐらいあり、その身体的ポテンシャルあっての技術なのだと気付き、最近やっと習得をあきらめました(笑)。
Deep Purple「Fireball」(ドラム:イアン・ペイス)
菅沼道場入門前、私はDeep Purpleを愛するロック小僧(少女?)でした。私のドラマー人生で初めて憧れたドラマーがイアンさんです。私のバイブルアルバムである「Made In Japan」から取り上げたい気もしたのですが、ドラムイントロでいうとやはりこの曲かなと思い、選曲しました。ロックドラマーは必ず一度は練習してます!(私個人の意見、偏見です!笑)。ジャズをルーツとした独特なグルーブ感とドライブ感は、何度聴いてもたまらないですね。
B'z「love me, I love you」(ドラム:青山純)
この曲の一発目のスネアとシンバル! 強烈な一発ですよね。もしかすると、ほかのポップスやロックのドラマーの方もピックアップするのでは?と勝手に想像しています。小節の頭ではなく、3連符の2つ目で一発入れる発想と、それを実践する勇気に感服いたしました。残念ながら、ご本人にお会いすることは叶わなかったのですが、もし今お話ができるのなら、このイントロを考案した流れについてや、この独特な、ドラマーにとってはかなり難しいシャッフルのグルーブについて、たくさん質問がしたいです。
自身でドラムフレーズをプレイする際に意識していること
ドラムイントロについては、上の質問に対する回答と重複する部分もあるのですが、インパクトが大事だと思っています。孝三先生は実際、どんな楽曲に対してもオリジナリティにあふれた渾身のドラムイントロを毎回考案していらっしゃいました。聴いてくださる皆さんの心をつかむため、私もできる限りのアイデアを出すようにしています。
曲中のフィルインについては、ドラムは一緒に演奏するミュージシャンにとっての地図、道標のような役割を持っていると思って演奏しています。次にどんな展開が待っているのかをフィルインで示していくこと、そして、バッキングの際に共演者のポテンシャルを最大限に引き出すサポートをすることが、ドラマーの大事なお仕事だと思っています。
自身のプレイスタイルに影響を与えたドラマー
やはり、菅沼孝三先生が私にとっての恩師です。ここまで「ドラムって楽しい!」という気持ちを失わずにドラマーとしてやっていけているのは、間違いなく彼のおかげです。
気になっているドラマー、好きなドラマーは本当に数えきれないほどいるのですが、“今”一番気になっているドラマーは、ラーネルさんです。彼は上でも答えたように身体的ポテンシャルを最大限に生かした演奏をする方で、音量・音質ともに素晴らしいです。そして、彼のアプローチはとても音楽的で、私と身体的にはまったく違っていても、参考にしたいと思えるようなフレージングにあふれています。さらに彼は人柄も穏やかで、ドラマーとしても、ミュージシャンとしても、私の目指すべき指標のような、そんな方だと思っています。
プロフィール
川口千里
1997年、愛知県生まれのドラマー。5歳でドラムを始め、8歳から“手数王”こと菅沼孝三に師事。世界的なドラム関連サイト「DRUMMERWORLD」で世界のトップドラマー500人に選ばれた経歴を持つ。2013年、16歳で1stアルバム「A LA MODE」をリリース。2016年12月にサウンドプロデュースにフィリップ・セスを迎え、LAでレコーディングしたアルバム「CIDER ~Hard&Sweet~」でメジャーデビューを果たした。2026年8月26日に初のライブアルバム「E-Magination - Live at the Blues Alley Japan -」を発表。また2026年に本格始動したフュージョンユニット・TheChiliGrindersのメンバーでもある。


