アニメ音楽を取り巻く環境は、近年大きく変化した。アニメ文化が一般的となり、国内だけでなく海外でのアニメ人気も増したことで、既存のアニメソング業界以外のアーティストたちもこぞってアニメ音楽に参入。売り出し中の若手から経験豊かなベテランまで、多くのアーティストがタイアップを取り合っているのが現状だ。その中で、アニメのキャラクターが歌唱を担当する「キャラクターソング」という文化も大きな波にさらされている。
キャラクターの心情や性格を反映した楽曲や、複数人でユニットを組んで歌う主題歌など、多くの熱狂を生み出してきたキャラクターソング。上述した環境変化や、配信が中心となった昨今の音楽事情も相まって、今や「キャラソン文化は死滅した」という過激な声もSNSでは聞かれるほどだ。しかし、それはどこまで本当なのだろうか?
音楽ナタリーでは「キャラクターソングの現状と未来」をテーマに、キャラソンを愛し、作家として多くの作品へ楽曲を提供するZAQと、キャラソン文化の現状認識に疑問を持っているというアニソンライター河瀬タツヤの対談をセッティング。河瀬は夏のコミックマーケットで頒布予定の評論同人誌「キャラソン文化は死んでいない!」にて、過去16年間に発表されたキャラクターソング約4万9000曲を調査・分析したという。膨大な調査データとクリエイターとしての経験値、2つの異なる視点から、2人にキャラクターソングについて大いに語ってもらった。
取材 / はるのおと、河瀬タツヤ 構成 / 河瀬タツヤ
キャラソン文化、もう一回流行りやがれ
河瀬タツヤ 今回、ZAQさんとお話させていただきたいと思った最大のきっかけが、「キャラソン文化、もう一回流行りやがれ」という昨年9月のポストでした。作家としてキャラソン制作に深く関わっているZAQさんからそういった強い思いが発せられたことに、自分はとても感銘を受けたんですよ。ちょうどそのとき、キャラクターソングを集計・調査する同人誌を作り始めていたこともあって、対談ができればいいなと密かに思っていました。
ZAQ ありがとうございます。あのポスト、めちゃくちゃバズったんですよね。「もう1回流行りやがれ」というのは、私の思う“コアなやつ”が流行ってほしいという願いで。例えば「きんいろモザイク」のユニット・Rhodanthe*や、「ロウきゅーぶ!」のユニット・RO-KYU-BU!が大きい会場でライブをしたような、キャラクターとして音楽的に成功しているコンテンツですね。
河瀬 RO-KYU-BU!はさいたまスーパーアリーナでライブをしましたものね。
ZAQ 今だったらさいたまスーパーアリーナの規模ではやらないと思うし、去年ミルキィホームズが「アニサマ」で復活したのも奇跡だと思っているぐらい。なので、あのときの熱量を感じられるような、キャラクターと声優が一体となって活動するような流れがまた来てほしい。私の中でキャラクターソングは、「キャラクターが歌う、キャラクターのための歌」で。特に「このキャラクターだからこそ、この言葉が言える!」という曲が、私の思うキャラクターソングなんです。
河瀬 1人ひとりのキャラクターや、複数人の関係性にフォーカスしたような曲ということですかね?
ZAQ そうです! 逆に大勢で普遍的なことを歌っている曲は、あまりキャラソンっぽく感じないかな。
河瀬 自分も似たような感覚ですが、ZAQさんよりはもう少し解釈の範囲は広いですかね。人によってはキャラクターとはまったく関係ない歌手の方が歌ったキャラクターイメージソングをキャラソンと呼ぶ人もいるし、キャラクターが歌う自己紹介ソング的なものしかキャラソンと認めない人もいる。100人いれば100通りのキャラソン観があるんですよね。ちなみに、ZAQさんのキャラクターソングの原体験はどこになるのでしょうか?
ZAQ 私はヒャダインさんに強く影響を受けている人間で、中でもアニメ「みつどもえ」のキャラクターソング集「みつどもべすと」と、アニメ「日常」のキャラクターソングは擦り切れるほど聴いていました。例えば「みつどもえ」には、1曲の中で“チ”しか言わない「チクビの七変化」という曲もあったりして。その2つが衝撃を受けた原体験ですね。河瀬さんは?
河瀬 自分は「シャーマンキング(2001年版)」と「東京アンダーグラウンド」のキャラクターソングです。特に「東京アンダーグラウンド」の「Blow up」という曲は、関智一さんと保志総一朗さんによるラップも織り交ぜたノリノリなアップチューンなのですが、「キャラクターソングってこんなにカッコいい曲もあるのか!」と当時はとても衝撃的でした。
データから読み解くキャラクターソングの現状
──河瀬さんは夏のコミックマーケットに向けて、キャラクターソングを集計・調査した同人誌を執筆したとのことですが、その内容について詳しく説明してもらえますか?
河瀬 簡単に言うと、2010年~2025年の16年間のキャラクターソングを全部調べました。
ZAQ すごい。
河瀬 今回なるべく主観が入らないように、CV表記やキャラ名で歌唱している楽曲をキャラクターソングと定義しているので、カバーソングや全体曲のソロバージョン、公式YouTubeチャンネルで公開されているキャラクターによる歌ってみた動画なども集計対象としています。媒体としてはアニメ、ゲーム、ドラマCD、メディアミックス作品、遊技機などが対象で、反対に2.5次元の舞台や特撮ドラマといった2次元作品でないものは対象外。また、曲がリリースされない場合もあるので、発売ではなく“発表”を基準としています。全体(以下、「①全体」と表記)の総数としては……約4万9000曲ですね。
ZAQ いやあ……すごっ!
河瀬 ソロバージョンやアレンジ違い、声優交代による再録版やカバー曲などを除いた、オリジナル曲だけを集計すると、16年間で2万8000曲ぐらいになります(以下、「②オリジナル曲のみ」を参照)。
河瀬 「①全体」としては、2017年が1つのピークで2020年までに少し落ちますが、そこからまた増えて直近5年では年間4000曲程度で推移。「②オリジナル曲のみ」を見ると、2017年よりは現在は若干少ないですが、直近5年間では年間2000曲程度リリースされていることになります。なので、キャラクターソング全体としては劇的に減っているわけではありません。ただ、内訳を見るとまた違ってきますね。
──まず、2013年から2017年にかけてキャラソンが大きく右肩上がりに伸びています。これは「アイドルマスター」や「ラブライブ!」といった作品の影響なのでしょうか?
河瀬 その影響は大きいと思います。また、2015年前後で「あんさんぶるスターズ!!」や「アイドリッシュセブン」といった男性アイドル作品が複数出てきたのも一因としては考えられますね。一方で、2018年以降に一時的にキャラソンが減った理由を考察すると、まず2016年の「君の名は。」のヒット以降、アニメ業界に多くの新規参入があった。それらの企業は「ラブライブ!」や「アイドルマスター」が流行った頃に参入した企業とは別の切り口で参入してきているので、キャラクターソングにはこだわりがないんですよ。
ZAQ あと、この頃から音楽のサブスクサービスが少しずつ定着し始めて、みんなが気軽に音楽を聴けるようになりましたよね。先ほどおっしゃったようなライトなユーザーは、キャラソンに興味がある人ばかりではないので、その層が一気に広まったことでキャラソンの需要が低くなったのかな。
クリエイター側から感じるキャラソンの熱量と役割の変化
──キャラクターソングまで目がいかない人が増えたということでしょうか?
ZAQ 2017年ぐらいまでは、1人のキャラクターにつきCDが1枚リリースされて、2曲、3曲と歌っていた時代だったんですよ。アニメのBlu-rayの特典にキャラソンCDを付ける商法もあったし、キャラクターソングを買うこと自体が作品を応援している証拠にもなっていた。それが「君の名は。」以降は主題歌だけで十分という風潮になってきたのは1つあるかなと思います。
河瀬 単純にCDやBlu-ray自体が売れなくなってしまったというビジネス的な観点もあるとは思います。ZAQさんは制作側として、この頃の時代の変化をどのように感じていましたか?
ZAQ 私は2012年に「めだかボックス」のBlu-ray特典のキャラソンの作詞を全部やらせてもらったんですけど、作家サイドとしてもあの時代はキャラソンが売れると思っているから、曲を書きたいという人はいっぱいいたし、ランティスというレーベルはそこにめちゃくちゃ強かった。あの時代はキャラクターソングを作家から集める能力がすごく高かったなと思います。
──それが2010年代後半にはそういったノリがなくなったと。
ZAQ ……なくなりましたね。2019年放送のアニメ「荒野のコトブキ飛行隊」のキャラソンを作ったるときは「えっ、今時キャラクターソングを作らせてもらえるんですか。珍しいですね!」という気持ちでしたから。
河瀬 実際にデータを見ても、アニメに限定すれば、「②オリジナル曲のみ」で2017年が約1000曲だったのが、2019年は約700曲、2025年は約570曲と半減。アニメという分類はその年に放送されたアニメだけに限らないので、体感的にはもっと少ないのかなと思います。15分以上の放送枠のうち、その年に放送された新規作品でキャラソンが“あり”か“なし”かだけを分類した割合グラフを見ると、2017年にキャラソンがあったアニメは約6割ですが、2025年だと4割程度にまで下がっている。これは例えばキャラクターによる主題歌カバーなども含んでいるので、体感的にはもう少し下がる。なので、キャラソンがない作品が優勢になってきているのは間違いないです。そういう意味では、昨年ZAQさんが関わった、アニメ「ばっどがーる」から生まれたユニット・天狼群はキャラクターソングアルバムも作られましたが、相当珍しいケースですよね。
ZAQ プロデューサーがすごく乗り気だったんですよ! 私が制作した「中二病でも恋がしたい!」でのキャラソンの暴れっぷりを見て抜擢してくれたフシがあるので(笑)。あの頃のキャラソン文化が好きな人が制作側に回っていたりするし、私としては天狼群には希望を見出しているんです。
──ちなみにこのデータは、いわゆるアニメのキャラソンが減ったというZAQさんの肌感と一致しますか?
ZAQ めちゃくちゃ合いますね。ただ、減ったのではなくキャラクターソングの役割が変わったのかなと。例えば、このデータを見るとメディアミックス作品のキャラソンはここ数年で一気に増えているし、いろんなメディアと合わせて、キャラクターソングもその中の1つになったと。
河瀬 そうですね。最近の作品はアニメやゲームそれぞれで独立しているわけではなく、全体でIPとして作られている。あと、「アイドルマスター SideM」や「Re:ステージ!」のように、ソーシャルゲームのサービスが終わってもIPとしてはそのまま展開が継続されているものもある。昔はアニメ化やゲーム化がある種のゴールだったけど、今はそうではないから、アニメを彩るか、ゲームを彩るかというよりは、作品を彩るのであれば媒体はもうなんでもいいという感じなんじゃないでしょうか? 実際、「①全体」「②オリジナル曲のみ」どちらも、アニメは減っているけど、ゲームとメディアミックスは増えたので楽曲数全体として変化はないんですよ。
ZAQ でも、私が最初にお話ししたアニメのコアなキャラソンは確かに減ってきている。
河瀬 それはもうおっしゃる通りです。例えば「MILGRAM -ミルグラム-」や「VS AMBIVALENZ」といった視聴者参加型のメディアミックスプロジェクトはまさに代表例で、これはZAQさんがいうコア側だとは思いますが、媒体はアニメではない。そして、これらの作品は音楽が物語の1つのギミックとして重要な要素となっている。役割と消費のされ方が変わってきているんですよね。
ZAQが手がけた多彩なキャラクターソングの数々
河瀬 クリエイター側の視点として、ZAQさんがキャラクターソングを作る際、どういうふうにキャラクターにスポットを当てようと意識されているんですか?
ZAQ キャラクターが1人の場合と集合曲の場合で光の当て方は変わるんですけど、ZAQは歌い分けもけっこう指定したりするんですね。例えば4人で歌う曲でAメロの歌詞が4行だとしたら、1行ずつキャラクターを入れて先に誰が歌うかを決めておく。そして、このキャラクターの歌割にはこういう言葉を使わないようにしよう、逆にこういう言葉を使ってあげようとか考えます。
河瀬 個性を際立たせることで、キャラクターとしての魅力を引き出すんですね。
ZAQ はい。特に天狼群はよりそれを強く出したかな? 「ばっどがーる」だと、瑠璃葉るらちゃんのセリフや歌詞をめちゃくちゃキューティにする一方で、水鳥亜鳥先輩には闇を感じるような不穏なセリフを言わせたりする。いろいろ考えたうえで、メロも歌詞も組んでいくようにして作っていきました。
河瀬 あと「中二病でも恋がしたい!」の丹生谷森夏のキャラソン「でいなばよって☆マサリモ」もキャラクターへのスポットの当て方としては面白いですよね。
ZAQ ほかの作家からも、いまだに「あれヤバいね」と言われることが多い曲ですね。1番は表向きの猫かぶりなキャラ、2番で森夏の内面を表現していて。音楽的にもメロディはほぼ一緒だけど、1番と2番でメジャーとマイナーでコードが違うというわかりやすい構成にしています。「でいなばよって☆マサリモ」みたいな変な曲もこれまでいっぱい書いているんですけど、アーティスト・ZAQのカッコよくてオラオラした曲のイメージが発注側にはどうにも強いみたいなので、「変な曲も、カッコいい曲も、面白い曲も、かわいい曲も全部やれます!」と強く言いたいですね(笑)。
河瀬 例えばゲームだと作り方を変えたりしますか?
ZAQ 納品形態は変わりますけど、気持ち的にはまったく変わらないです。ただ、キャラクターソングってキャラクターの深掘りをすることで正解を叩き出すことが多いと思うんですけど、「アイドルマスター ミリオンライブ!」は、どちらかといえばシチュエーションや感情の部分を指定されることのほうが多かったかな。例えば天空橋朋花の「Maria Trap」に関しては「ドロドロの恋愛曲を書いてくれ」って言われて、嫉妬に狂った女の曲にしましたし、所恵美の「アフタースクールパーリータイム」は「JKがマックで会話してるような曲にしてほしい」という風景を提示されました。もちろん野々原茜の「AIKANE?」や、松田亜利沙の「アイドルは、かく語りき」のようなアイドル自身にフォーカスした曲もありますけどね。
河瀬 「アイマス」が自己紹介ソング的な意味でのキャラソンじゃないという意見もけっこう聞くんですけど、今のお話ですごく納得しました。ほかにも例えば「アイドルマスター ミリオンライブ! シアターデイズ」のリズムゲーム部分を考慮した発注とかもあったりするんですか?
ZAQ 「ビッグバンズバリボー!!!!!」と「頂上決戦ヴィクトリー!!!!!!」という2曲は、熱血ソングであるという発注に加えて、リズムゲームのスキルが求められるような曲にしてほしいと言われたんです。なのでツーバスをたくさん入れたり、急に止まったり、シンコペーションを多くしたり、今まで頭ノリだったところを急に裏ノリにしたりして、ユーザーを困らせるためのギミックをいろいろ仕込んだりはしましたよ。
河瀬 へえ、面白い。ちなみに少し本筋から外れますけど、ZAQさんはライブでキャラクターソングをセルフカバーすることもありますよね。そのときはどういう気分で歌うんですか?
ZAQ あー……キャラになりきることはないですね。「私がやるとこうなるよ」というほうがデカいかもしれない。昨年のセルフカバーライブのタイトルが「ZAQ's Selfjack Day」だったんですけど、ジャックしている、乗っ取っているという感覚。もちろん原作にリスペクトを持ちながらですけどね。だから「アイマス」の曲もカバーするけど一切踊らないし。「オイッッ!!」って煽ったりしました(笑)。
キャラクターソングとバズは相性が悪い?
──ちなみに、ご自身が関わっている曲の中で、ZAQさんのイメージするキャラクターソングに近い曲を1つ挙げるならどれになりますか?
ZAQ アニメ「ぼっち・ざ・ろっく!」の挿入歌に「ギターと孤独と蒼い惑星」という曲があるんですけど、作中で主人公の後藤ひとり(通称:ぼっち)が初めて作詞をするというストーリーがすでにあったんですね。ぼっちの考える孤独をさらけ出して、ノートに殴り書きをするような歌詞にする必要があったので、ZAQが書いたという気配をまったく見せたくなかったんです。一方で、そのあとに使われた「忘れてやらない」はもう少し抽象的な形にして、「ギターと孤独と蒼い惑星」とは明確に書き方を変えています。「キャラクターとして書いた歌詞」として捉えるか、「作詞家というフィルターを挟んで書いた歌詞」とするか、そこは考え方を分けましたね。
河瀬 昔と比べると、現在のキャラクターソングは物語本編の中に組み込まれているものが増えていて。最近だと「超かぐや姫!」とか、「ギターと孤独と蒼い惑星」もその一例なんですけど、その場合、キャラソン制作において、今までキャラクターだけを考えていればよかったところが、物語の流れも汲んで曲を作らなきゃいけなくなってきた。つまり、制作側にはキャラクターだけでなく物語の解釈も求められるわけですけど、それはどう感じていますか?
ZAQ 私は本編とリンクしてキャラソンを物語の中に入れていくという作業がすごく得意なほうだと思うし大好きなので、まさにそれが今後キャラソンが復活していくにあたって一番成功する形かなと。私はそれがやりたいですね。
河瀬 例えばVtuberの楽曲でも、いわゆる文脈的なものがあるじゃないですか。それはアニメのキャラソンとはまた違う感じですか?
ZAQ 違いますね。Vtuberは脚本がないし、設定資料と配信の姿が真逆だったりするし(笑)。
河瀬 確かに(笑)。
ZAQ だからヒアリングがすごく大事になるんですけど、Vtuberさんからの発注は「15秒切り抜いて楽しいと思う曲にしてほしい」「私をもっと知ってほしい」という現代的なものが多いんですよね。
河瀬 なるほど。やっぱり“バズ”がキーワード。とはいえ、それはアニソンも最近は同じですよね?
ZAQ そうですね。「単体で聴いて、いいと思うようなフレーズを」とか。だからバラードが流行らないんですよ! 昔はCD1枚の流れで聴くと「このバラードはめちゃくちゃ味がする!」みたいなことがあったんだけど、もう今は1曲1曲の強さ重視だから。
──キャラクターソングに話を戻すと、キャラクターソングでバズるって相当難しくないですか?
ZAQ 昔のアニメソングは89秒の中でどれだけ展開をつけて、いかにサビを盛り上げるか、ストーリーを作るかという作り方だったけど、もう今はパッチワークなんですよ。イントロでバズれ。それでダメならAメロ、Bメロでいいことを言え。サビはとりあえず繰り返せ。そういうのがもう黄金律としてあるので、そもそも昔とは作り方が全然違う。あと、最近はAIで人の声を引っこ抜く人もいるし、誰が歌っているのかという点に光が当たらなくなってきているんじゃないかとちょっと不安に思っています。
河瀬 それは正直自分も少し思っていて。HoneyWorksの「可愛くてごめん」とか、AiScReamの「愛♡スクリ~ム!」とかTikTokでバズったキャラソンもいくつかありますけど、なんの作品の曲かわからないまま流行るじゃないですか。例えば、韓国のアイドルが取り上げたからという流れだったり。曲の記名性みたいなものが薄れてきているし、流行る段階で脱色される。キャラクターソングって“誰が歌う”かが重要な音楽だから、バズとは少々相性が悪いのかもしれないですね。
キャラクターソングに未来はあるのか
──最後に、お二人が考えるキャラソンだからこそできる面白さと、今後のキャラソンの未来はどのような形でしょうか?
河瀬 バズをあまり意識せずキャラソンを作っている人は、今でも一定数いるんですよ。音楽の流行には波があるので、個人的にはキャラソンがまた復権するタイミングが必ずどこかで来ると思っています。
ZAQ 私も本当にそう思います! だからこそ、そのときの第一人者になっておきたいという気持ちがすごくあるし、最初に話したような“このキャラクターだからこそ歌える”個性的なキャラクターソングが好きだという気持ちは常に全面に出していきたい。キャラクターソングの未来の形としては、先ほども話が出ましたが本編に絡めていくことかな。「BanG Dream! Ave Mujica」のDiggy-MO'さんのように、1人のプロデューサーが1つのコンテンツの音楽を全部管理するのはやっぱり強いと思うんですよ。アーティストであり、クリエイターでありながらストーリーや流れをしっかり見ることができる作曲家がキャラソンに介入していけば、もっと物語としてキャラクターソングを作っていける。
河瀬 あと、昔のキャラソンって「面白ければすべてよし!」という雰囲気がありましたよね。実験的な曲も多かったし。
ZAQ そうそう。今は保守的な方も多いから、「お客さんを置いてけぼりにしちゃうかも」という意見もけっこうあるんですよね。「いや、いいじゃん! 置いていって」と思うんですけど、個性は大事でも引かせてはいけないという。
河瀬 それはリスナーの予想の範囲内であれということじゃないですか? 逆に言えば、そこから外れたらインパクトは絶対に出てくる。インパクトという観点だと、キャラソン談義で必ず話題に挙がる曲として、「家庭教師ヒットマンREBORN!」の六道骸のキャラソン「クフフのフ~僕と契約~」があるじゃないですか。
ZAQ ああー! 懐かしい!(笑)
河瀬 あれは六道骸というシリアスなキャラにいきなりサンバを歌わせたというインパクトがあるから、約20年経ってもみんな強烈に憶えているわけですよね。それはバズとは違う視点だけど、みんな話題にするじゃないですか。だから、バズとインパクトが重なったらもっと爆発的に注目されると思うし、別に重ならなくても「なんか面白いじゃん」という方向で話題になっていけばいいのかなと。
ZAQ 作家は基本的に面白いことや人と違うことをやりたいんですよ。なので、それを許容してくれる会社があればいいですね。
河瀬 あってほしいなあ。例えば作曲家の上松範康さんが「戦姫絶唱シンフォギア」「うたの☆プリンスさまっ♪」の原作や原案を務めたように、ZAQさんも原作を立ち上げて何か面白いことをしていけば、またムーブメントを起こせる可能性がありますよね。でも、そうなるとだいぶクリエイター側に求められる能力が高そう。
ZAQ 能力も大事だけど、それ以上に信頼も大事。この人は絶対に逃げないとか(笑)。会社からの信頼も絶対大事だと思うので、いつかやっていきたいなと思いますね。
プロフィール
ZAQ(ザック)
シンガーソングライター。3歳の頃からピアノを始め、音楽大学のピアノ科に進学。学生時代に触れたアニメソングに衝撃を受け、アニソンシンガーを目指す。2012年にアニメ「未来日記」のキャラクターソングを制作し、クリエイターとしてデビュー。さらに同年にアニメ「中二病でも恋がしたい!」のオープニング主題歌「Sparkling Daydream」で、シンガーソングライターとしてメジャーデビューを果たした。2017年には日本最大級のアニメイベント「Animelo Summer Live」のテーマソングを制作。アーティストデビュー10周年を迎えた2022年10月には初のベストアルバム「ZAQPOT」を発表した。2026年4月にアニメ「ようこそ実力至上主義の教室へ 4th Season 2年生編1学期」のエンディングテーマ「ライアーヴェール」をシングルとしてリリース。クリエイターとして内田真礼や上坂すみれ、結束バンドといった多くのアーティストに楽曲提供も行っている。
河瀬タツヤ(カワセタツヤ)
アニソンを専門とするライター。アニソン評論サークル「アニソン ア・ラ・カルト」としても活動するほか、さまざまなアニソン情報を発信中。


