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90s日本語ラップの匂いを放つ夢(BOY)、そのスタイルが生まれた背景

夢(BOY)
14分前2026年09月05日 11:06

気鋭の新人アーティストにインタビューしていく新連載企画「Who's Next?」。記念すべき第1回に登場するのは、「かみなりのいし」「ニュークラシック」といった楽曲がSNSを中心に話題を呼んでいる4MCラップクルー、夢(BOY)だ。彼らが音楽ファンを惹き付ける理由は、2025年に結成されたばかりの若いグループでありながら、1990年代の日本語ラップの空気感を、楽曲からミュージックビデオに至るまで“時代ごと”再現している点にある。「たのしーヒップホップ」というコンセプトを掲げ、突如としてシーンに現れた彼らはいかにしてこのスタイルに行き着いたのか。その意外なルーツに迫った。

文 / 高木"JET"晋一郎

SNSやサブスクで「かみなりのいし」や「ニュークラシック」といった楽曲がバズり、注目を浴びている4MCラップクルー、夢(BOY)。無骨さとポップさが併存したトラック、ポップなフロウもありながらロジックよりもパッションが押し出された荒削りなラップとマイクリレー、VHSのようなアナログの質感を感じるミュージックビデオ。そういった90年代の日本語ラップを想起させ、色濃く継承した彼らのスタイルは現行のヒップホップトレンドとは明確に一線を画している。そして、その特異な“距離感”が好事家のヒップホップリスナーや音楽ファンの耳目を集めている。

「もともと全員が別々のバンドやっていて、対バンや活動界隈の近さ、あと全員が練馬に住んでるということでつながりはあったんですよね」(sesa3e)

それぞれのメンバーがバンドで活動し、プレイヤーとしての経歴をもつ夢(BOY)。昔から熱心なラップリスナー、ヒップホップヘッズというわけではなかったという。

「僕はOasisが大好きで、ラップは全然聴いてなくて、むしろ苦手なぐらいでしたね」(sesa3e)

「Dragon Ashが好きだったんで、そこからRIP SLYME、RHYMESTER、Zeebraとかを聴いてました。それから洋楽のロック。世代的には『フリースタイルダンジョン』も毎週観てたんだけど、エンタメとして好きという感じで、自分でラップしようとは思ってなかったですね」(HIX)

「僕は『ダンジョン』はまったく観たことがなかった。ラップもSOUL'd OUTしか聴いたことがなくて、音楽的にはストレイテナーとかハヌマーンのようなJ-ROCKが中心でしたね」(.iso)

「RIP SLYMEは全曲歌えるぐらい好きです。ほかにもSEAMOとかnobodyknows+のような、メジャーなラップを聴いてました。バンド的にはThe Beatlesに影響を受けていて、自分でもすごく複雑なサウンドのバンドをやっていました」(Iwashi)

その彼らがラップを始めたのは2024年の夏。きっかけはsesa3eがBUDDHA BRANDの「人間発電所」にハマったことからだったという。

「YouTubeで『人間発電所』を聴いたとき、涙が出るぐらい感動して。それで、自分でもラップをやってみたいと思い、まずHIXとIwashiと僕の3人でフリースタイルサイファーをやってみたら、それがとんでもなく面白くて、止まらなくなったんですね。サイファーはとにかく自分を晒し続けることになるし、恥もかくし、その人がそのまま言葉になって出るから、相手のこともよくわかるんです。だから、サイファーを通して仲よくなっていって。そこに.isoが参加して、今のメンバーがそろった感じです」(sesa3e)

そして2025年4月に1st EP「こんにちーっす」をリリース。

「自分たちでは大傑作だと思ってたのに、ラップシーンからも、もともといたバンド界隈からもほとんど無視されてたので、『お前ら何聴いてんの?!』ってちょっとイラついてました」(sesa3e)

ただ、彼らはそこで腐ることなく、その後1stシングル「DRIP OUT」をリリース。スペースシャワーネットワーク×SKIYAKI主催オーディション「Nobody to Somebody」のグランプリを獲得し、2ndシングル「やったー!」収録の「かみなりのいし」や、3rdシングル「ニュークラシック」がSNSなどで話題になっていった。

「特に『ニュークラシック』と『かみなりのいし』の反応がよかったときは、『やっとわかったか!』みたいな(笑)。サニーデイ・サービスの曽我部恵一さんのような日本のアーティストやクリエイターはもちろん、ルーペ・フィアスコさんからもSNSをフォローされたり、状況が変わった感じがありました」(sesa3e)

「かみなりのいし」は、YOU THE ROCK★やRINO LATINA II、TWIGYなどを擁するヒップホップクルー・雷が1997年にリリースした「カミナリ」と、RIP SLYME「マタ逢ウ日マデ」への明確なオマージュが垣間見える。

「その部分は明確に引用をしていますね。ただ、ほかの曲で『あれは◯◯っぽい』と言われても、実はその曲を知らないことも多くて。僕に関して言えば、ヒップホップを聴き始めたのが最近なので、いわゆる日本語ラップクラシックも知らない曲が多いし、新曲のような気持ちで聴いてたりするんですよね。だから、せめて知ったかぶりをするのはやめようと思ってます」(sesa3e)

誤解を恐れずに言えば、彼らのラップは拙い。「ラップスタア」で本戦に進むラッパーのような高度なラップやフロウではないし、ポップスとの連続性があるラップのようにメロディアスなボーカルワークが乗るような整頓された音像ではない。またMCバトルのような、日本語ラップの中で蓄積されてきたハードライムを使いこなすわけでもない。文脈を外れていてもいびつでも“自分たちにとっての気持ちよさ”を追求し、シーンの進化とは別軸に重きを置いた、彼らの荒っぽくも新たなスタイルを築こうとする姿勢が、現行の音楽シーンに対するある種のカウンターとして機能し、注目の要因となっているのだろう。そしてそのエナジーは、80sや90sの日本語ラップが持っていた、“試行錯誤”や“チャレンジ”を形にし、自分たち独自のスタンスを世間に知らしめたいというダイナミズムにも通じる部分がある。

「開拓者とか黎明期が好きで、そういうものにエネルギーを感じるんです。自分たちで作り上げてる感じというか。それが自分たちもやってみたいことだったりするのかもしれない」(Iwashi)

「そこがカッコいいと思うんですよね。何か新しいものを見つけてる感じが」(.iso)

「忌野清志郎が『完成したものは興味ない、完成の途中を見せたいんだ』という話をしてたけど、その言葉は夢(BOY)のテーマかもしれないですね。発展途中の楽しい状態、遊んでる状態を提示したいなって」(sesa3e)

「ただ90sを基準にしようとは思っていないんです。これがブーンバップ(90年代ヒップホップに代表される、サンプリングをメインにしたサウンド。トラップと対置されることが多い)というジャンルだと言われているのも、ここ1年で知ったくらいで。もしトラップでメンバー全員がカッコいいと思えるものがあれば、トラップをやるかもしれないし」(HIX)

彼らがコンセプトとして掲げる「たのしーヒップホップ」には、どういった思いが込められているのだろうか。

「ほかのヒップホップが楽しくないという否定の気持ちはないです。でも、俺らが聴きたいのは『たのしーヒップホップ』なので、それなら自分たちで作るしかないじゃんという気持ちですね。それが自分たちにとっての“リアル”なのかなって。シーンが求めるようなリアルとは違うかもしれないけど、俺らの楽しい暮らし=『ニュークラシック』も、自分たちにとってはリアル。こういうやり方もヒップホップとして認めてほしい、認めさせたい、と思ってます」(sesa3e)

「ただ、今の自分たちをヒップホップと表現するのは、カルチャーに対して申し訳ないという気持ちも個人的にはあって。だから自分では(歌唱表現としての)ラップだと思ってますね」(HIX)

最後に、彼らの目下の目標を聞いて、この原稿を閉じよう。

「紅白に出て白組を勝たせたい。紅白という目標を立てたときに、何をすべきかが明確になると思うし。フェイマスになりたいという意味でも、それは1つの目標なのかなって。かつてないくらいの大成功をしたいという思いはありますね。その頂点で華々しく散りたい(笑)」(sesa3e)

「紅白で白組を勝たせるのは本当に目標。戦うなら勝つしかないという(笑)。あとはとにかくいろんな楽しいことがやりたいですね」(Iwashi)

「楽しいことをやって、楽しそうと思ってもらえればいいかな」(.iso)

「みんな楽器ができるから、それも含めて、今まで見たことがないようなショーをやってみたいです。これからやることも変わっていくかもしれないし、もしかしたらすごくロックに戻るかもしれない。でも、そういった動きの中で、ロックもヒップホップのファンもつなげられるようなものをやってみたいと思うし、どういう方向に変わっていくのか、自分たちでも楽しみです」(HIX)

プロフィール

夢(BOY)(ユメボーイ)

2025年に結成され、「たのしーヒップホップ」をコンセプトに掲げて活動する4MCラップクルー。「かみなりのいし」「ニュークラシック」など、90年代の日本語ラップを想起させる楽曲で注目を浴びている。スペースシャワーTVとBitfanによる共同オーディション「Nobody to Somebody」第2回でグランプリを獲得した。

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