ゆっきゅんが初の単著エッセイ「孤独はかけがえないディスコ」の発売を記念して、音楽ナタリーの取材に応じた。
DIVA Project以前 / 以後のゆっきゅん
2021年にソロプロジェクト・DIVA Projectを始動させ、きらびやかな世界と日常をユーモラスにつなぐような音楽活動を展開しているゆっきゅん。それだけでなく、コラム執筆や映画批評を中心に文筆活動でも注目を浴びてきた。「孤独はかけがえないディスコ」には、ゆっきゅんがnoteや「ユリイカ」「群像」「新潮」「TV Bros.」などで執筆したエッセイから厳選したものに、書き下ろし5編を加えた計41編を収録。テーマは孤独や自由、かねてより提唱している“DIVA”、多大な影響を受けたJ-POP、故郷である岡山の思い出、上京物語、家族や友人との記憶などさまざまだ。
2018~2026年、23歳から31歳までにつづられた文章がまとめられた本書。制作期間、記憶と向き合い直しているかのような時間を過ごしたというゆっきゅんは、過去の文章について「その時々で目の前にあるものに全力を出さなきゃいけなかったので、一生懸命に書いている感じがして、ほほえましかったです。今よりも頭で考え事をしていたなと思います。ひとつずつ物事の道理を言葉で発見していった期間というか。歌詞という表現手段がなかったときの言葉の使い方かもしれません」と分析。「今では少し、力を抜いて書けるようになった気がします」と自身の変化を口にする。
私たちはわかりやすく生まれてきたわけじゃない
エッセイの章立てや収録順は、アルバムの曲順を考えるのが好きなゆっきゅんが決めたもの。「友達と、これから出会う友達に捧げる」というプロローグは、“イントロなしの歌い出し”と位置付けられた。そのプロローグに「好きなページから読んでみてください」とあるように、どこから読んでも楽しめる本書だが、順番に読み進める読者がまず触れるエッセイは、現代人が陥りがちな極端な思考への怒りがにじむ「傷だらけじゃなくてもいいじゃん」という書き下ろしだ。「力強いことを最初に伝えておきたくて、ここに置きました。至って当たり前のことだけど、今伝えなきゃいけないと感じたことを書いています。“甘い情報”に飛びついちゃう人が多い気がして、『みんな落ち着いて』と思うんです。心と言葉がもったいないから」と語るゆっきゅん。さらに、人間を「表裏の二面性」で語ることへの違和感にも言及し、「“二”面性って、少なくないですか? 100とかだったらわかるけど。私たちはわかりやすく生まれてきたわけじゃないんだから、そのままにしておいてほしいし、他人をそういうものとして扱ってほしい。そのほうが、みんながもっと優しく冷静になれると思います」と言葉に祈りを込めた。
本書のタイトル「孤独はかけがえないディスコ」にも象徴されているように、ゆっきゅんにとって“孤独”は決してネガティブなものではない。自分の孤独を無理に埋めようとせず、大切なものとして捉える秘訣はあるのだろうか。そんな質問に、ゆっきゅんは「私にとっての孤独って、平たく言うと自分らしさのことです。だから、私にとっては埋めるとか埋められないとかじゃないです。寂しかったら何かで埋めてもいいし、自分だけでなんとかしようとせず、人を頼っても全然いいんだと思います」と軽やかな表現で回答。「一番大切なのは“自分の気持ちを無視しないであげること”だと思います。私はそれを表明するのが仕事だから、自分がどうしたいかを言葉にして絶対に伝えるようにしていますけど、みんながそういう環境にいられるわけじゃないですよね。だから、言葉にできなくても、自分が自分の気持ちを大切にしていて、心の中が大丈夫であればそれでいい。それが、自分の孤独を大切にすることなのかなと思います」と考えを明かしてくれた。
ゆっきゅんの“歌詞観”が更新された曲
本書に15ページにわたって収録されている「DIVAの感動作詞法」。新たに書き下ろされた本編では、ゆっきゅんの作詞のプロセスが事細かに言語化されている。自身の手の内を明かしているようでいて、その内容は当然、誰でも簡単にマネできるようなものではないが、「日本のヒットチャートが面白い歌詞であふれてほしい」という願いは本物だ。
「自身が考える面白い歌詞とは何か?」と聞かれ、ゆっきゅんは「新しい視点があること、ですかね。世界とか日常、他者や自分の気持ち、そういうものへの向き合い方のバリエーションが増えるとか。あるいは“まいばすけっと観”が変わってしまうとか。シンパシーとワンダーが同居しているのが面白い歌詞だと思います」と、自身の楽曲「Oh My Basket!」(2025年発表のEP「OVER THE AURORA」収録曲)にも絡めて回答。“最近最も衝撃を受けた歌詞”として、1990年代のガールポップシンガー・川崎真理子の「失恋はつかれる」(1993年発売のアルバム「GIRL'S TALK」収録曲)を挙げ「失恋の悲しみをバッティングセンターで乗り越えようとして『つかれる』って感想になる歌なんですよ。ラブソングって、こう、心の問題じゃないですか? でも、自分1人の体でバッティングに取り組んで何百回も空振りして疲れていくっていうのが衝撃で、でも、その通りで。『カキーン カキーン』なんて歌詞、普通書けませんよ。こんなふうに、大胆なものが好きなんです」と熱弁した。
また中島みゆき「涙 -Made in tears-」(前川清への提供曲。1988年にセルフカバーがシングルリリースされた)からは、文章でも詩でもない、歌詞ならではの言葉があることを感じ取ったという。「哀愁たっぷりに『男運は悪くなかった』と繰り返すんです。男運、すっごい悪かったのかなあって受け取るじゃないですか。歌詞は音があって、声があって、その歌い方があって初めて意味を持つんですよね。日常では『Wow Wow』なんて言わないけど、歌詞には『Wow Wow』しかないことがある。好きな歌詞は昔からたくさんあったけど、作詞を始めてから改めて『これすごいな!』と気付くことがあります」と、ゆっきゅんは自らの“歌詞観”が更新された瞬間を明かす。さらに「自分が変わっていったら聞こえ方も変わるし、何度も“出会い直せる”のがいい歌なんだと思います。そういう体験はリスナーとしてすごく楽しいですよね。自分の歌詞でもそういうことが起きていたらいいなと思うけど、そこはコントロールできない部分。作詞を始めてまだ5年なので、出会い直してくれるリスナーがこれから出てきてくれたらうれしいですね」と語った。
この本を手に取ってほしい人は
「自分がどういう人間なのか、やっとわかってきた気がします。人生の全部ではないけれど、この1冊を読んでくれたら、ゆっきゅんのことがだいたいわかるのかも。順番も編み直しているし、これまで連載とかいろいろ追ってくれている人も新鮮に読める本になったと思います」と本書の出来栄えに胸を張るゆっきゅん。最後に「どんな人に手に取ってほしいか?」と聞くと、しばし思考ののち、返ってきたのは「友達がいる人と、いない人」という答え。あらゆる人への目配りを忘れない、らしさ満点の言葉だ。「つまり、全員ですね」というゆっきゅんは、「どんな人が読んでくれるかな、と思いながら書いていました。だから、わからないんですけど……友達がいる人が読んだら友達のこと思い出すだろうし、友達がいなくてもこの本のこと友達だと思ってくれたらいいなと思います」と笑顔を見せた。
ゆっきゅん「孤独はかけがえないディスコ」試し読み
https://web.kawade.co.jp/tameshiyomi/264716/
ゆっきゅん「孤独はかけがえないディスコ」目次
I どうでもいい道を堂々と歩く 孤独と自由
II 私は私のまま踊れるわ がんばりたい
III DIVA ME、DIVA YOU 歌と詞と
IV 思い出以外の話が出来るかな 故郷と私
V 東京だから大丈夫だ TOKYO
VI つまんなかったよ 君と会うまで 友達たち
VII 駅も道も信号も足りない チェーン店と旅情


