今年8月、あるnote記事が話題を呼んだ。タイトルは「アーティストがSNSでバズるために絶対にやってはいけないNG行動5選」。駆け出しのアーティストがやりがちな、でもやるべきでないSNSの運用ノウハウが具体的にわかりやすく解説されたこの記事は、音楽業界に限らずさまざまな人々から興味深く読まれることになった。そしてその後もこのnoteでは、SNSでのバズやWebマーケティングなどについて発信する記事が人気を集めている。
そんな記事を書いているのは、IT企業でもコンサルティングファームでもない。渋谷にある、キャパシティ180人のライブハウス・TOKIO TOKYOだ。そしてこのnoteをきっかけに最近、同店には「SNSの相談に乗ってください」というインディーズアーティストからの連絡が殺到しているという。
ライブハウスといえば、アーティストに「演奏する空間」を貸し出すのが本来のビジネスだ。全国平均で見るとライブハウスの稼働率は70%程度なのだそうで、平日の空きスケジュールをどう埋めるかが多くの店舗にとって課題となっている。しかしTOKIO TOKYOは、空間だけでなく「バズの作り方」を提供するエージェンシーとして機能することで、ライブハウス激戦区・渋谷において、1年間の稼働率100%という驚きの数字を叩き出した。
従来のライブハウスの役割を再定義し、毎日人が絶えない空間を作り上げたTOKIO TOKYO。2027年1月に京都に新店舗「TOKIO KYOTO」をオープンさせることでも話題のこの店に、その背景を聞いた。
取材・文 / 橋本尚平 撮影 / 曽我美芽
待つのではなく、こちらから情報を届ける
TOKIO TOKYOがアーティストの“マーケティング”にここまで深く介入するようになった背景には、中規模ライブハウスが抱える問題点があった。代表のトキオ氏はこう語る。
「ライブハウスの営業って大きく分けて、いわゆるハコ貸し、つまり『会場レンタル』と、自らアーティストを呼ぶ『自主企画』の2つがあります。経営を安定させるうえで一番重要なのは、営業の労力が少なく確実な売上が立つ会場レンタルです。ただ、ここには会場の規模によってかなりの格差があって。キャパが大きかったりブランド力がある大手さんは、もうレンタルの問い合わせだけで年間スケジュールがほぼ100%埋まっちゃうんです。でも、僕らみたいなキャパ180のハコとなると、とにかく競合が多すぎる。普通に待っているだけだと、月に20日くらいは予約でご利用いただけるんですが、残りの10日間はスケジュールが空いてしまう。そこを自分たちの自主企画でなんとか埋めないといけないというのが現実なんです」(トキオ氏)
月に数日はどうしても空きが出てしまう状況を打破すべく、彼らは2025年6月に「365日、稼働率100%」という目標を掲げた。そこで最初に着手したのが、待つだけの営業スタイルを捨て、主体的なアプローチに切り替えることだった。
「まず顧客管理を徹底しました。過去にウチを使ってくださったり、問い合わせをしてくださったアーティストさんや事務所さんのメールリストに対して、待つのではなくこちらから定期的に情報を届けるようにしたんです。一番よく読まれているのが、空き日程のご案内です。『直近でここ空きました』とか『10月のこの日、空いてますよ』という情報ですね。それに加えて、TOKIO TOKYOのnoteの記事や、自社で作ったアーティストのインタビュー記事などを月に1、2本送る。そうやって『このお店、なんかいいな』と思ってもらえる接点を作り続けるうちに、『じゃあ、この日はまだ空いてますか?』のような問い合わせが来るんです」(トキオ氏)
1日ぶっ通しで9組のアーティストと無料相談会
情報発信で稼働率を底上げしつつ、TOKIO TOKYOが本格的に着手したのが、出演アーティストに対するコンサルティングだった。SNSの普及によって個人活動が容易になったとはいえ、インディーズで活動するアーティストの多くにとって「身近に相談できる大人がいない」という課題はまだ残っている。TOKIO TOKYOはそこに目を付けた。
「ウチを使ってくれている、すべてのイベント主催者さんに定期的にお電話をして、『今、チケットの発券状況ってどんな感じですか?』と1人ひとりにていねいに聞いていくんです。『実は今、30~40枚で止まっていて……』と相談されたら、『じゃあ、1時間だけオンラインでミーティングさせてください!』と打ち合わせをセッティングします。そこで過去のプロモーションの成功事例を紹介したり、『こういう告知動画を撮ってみませんか?』といった提案をする。ある新人のワンマンライブでは、このミーティングを行ったことでチケットが49枚から95枚へと倍以上に伸びました」(トキオ氏)
とはいえ、彼らが実践したというプロモーションのサポートはこれといって特殊なものではなく、基本に忠実なやり方を徹底することだった。
「結局、チケットの販売って『量×質』の方程式でしかないんです。まずは『週3回は必ず告知を入れましょう。2日に1回のペースで予約投稿をセットしましょう』と“量”を担保させる。そしてそのあとで“質”の話。ただただ『チケット発売中!』とつぶやくだけじゃ、誰も買ってくれませんよね。だから、アーティストと一緒に『一番の強み、ファンに刺さるポイントってどこですか?』というのを言語化して、強いフックを作る。今すでにSNSをフォローしてくれている人たちに対して『今回のライブはいつもと違う? 行かなきゃ後悔するかも!』と思わせるんです」(トキオ氏)
この手厚いサポートの噂は広がり、トキオ氏のもとにはまだTOKIO TOKYOを利用したことのない若手アーティストからも、アドバイスを求める声が直接届くようになったという。
「今のインディーズアーティストって、マネージャーもレーベルの人もいなくて孤立していることが多い。だから、僕の個人のDMに『ヤバいっす、チケット全然売れてないです……』って相談がよく来るんですよ。そこで思い切って『無料相談会やります!』と告知して、昼から夜まで1日中時間を空けて、30分ごとに入れ替えながら一気に9組のアーティストとぶっ通しで話をしたことがありました。そうやって相談に乗ったことで券売が少し伸びた子が、『じゃあ今度、TOKIO TOKYOでライブさせてください』と言ってくれる。会場を貸して終わりじゃなくて、お金以上の貢献ができることを常に探しています」(トキオ氏)
オールラウンダーを求めない、尖った部分をさらに伸ばす完全分業制
1人ひとりに連絡を取り、対面でとことん相談に乗るTOKIO TOKYOのメンバー。その泥臭い仕事と並行して、バズるためのWebマーケティングを追求しているのが、冒頭のnote記事「アーティストがSNSでバズるために絶対にやってはいけないNG行動5選」を執筆した25歳のスタッフ、シンドウ氏だ。彼はTOKIO TOKYOにおいてマーケティングを専門に担当している。
「シンドウはもともと音楽系のSNSをやっていて、ウチにお客さんとして来てくれていた子で。それで知り合って週3回くらい一緒にごはんに行くようになって、『一緒に働きたい』とジョインしてくれました。僕の個人SNSの運用もしてくれてるんですけど、それからは下北沢を歩いているときに中学生くらいのキッズからいきなり『TikTok見てます!』って声をかけられたりするようになって。イベント出演の応募フォームにも『店長のTikTokを見て、ここに出たいと思いました』と書いてくれる若いバンドマンが増えたんですよ。ライブハウスって普通、『好きなバンドが出るからそのハコを知る』という順番で認知されるものですけど、ウチの場合は『SNSでオーナーやハコのキャラクターを知って応募してくる』という逆流ルートができているんです」(トキオ氏)
そもそも、この規模のライブハウスの組織図に「マーケティング専門」という役職があるというのは、あまり聞いたことがない。音響や照明といった、ステージのクオリティを上げる役割や、ドリンクカウンターでの接客、それに自主企画の出演交渉をするブッキング業務はあるが、ライブの集客やプロモーションは出演するアーティスト側に任されることが多い。そんなポジションに就いているシンドウ氏は、どのような人物なのだろうか。
「シンドウはそれまでフリーランスで、組織で人と働いた経験がなかったんです。でも今では、ウチにある種のいいムードを作ってくれていますね。“ラーニングアニマル”というか、いろんなことをものすごく吸収しようとする姿勢を持っています。僕からはけっこう雑な仕事の振り方をして、『これやっといて』とオーダーだけをポンと投げて、あとはやり方を考えてもらうことが多いんです。それでも自分で仕事の仕方を調べながら『やってみました』と繰り返しているので、成長スピードがめちゃくちゃ速い」(トキオ氏)
「この職場に決めた理由は、完全に“人”ですね。トキオさんのカリスマ性に惹かれました。『ライブハウス自体には関心がない』と言うと少し言葉が強すぎるかもしれませんが、ライブハウスをやりたいというモチベーションよりも、面白い人がやっている事業がたまたまライブハウスだったから一緒に働いているという感覚です。実際に入ってみるとわからないことだらけで、文字や数字で表しきれないことがすごく重要になる業界だなと気付きました。自分はずっとSNSをやってきて、数字で見えることだけを測ってきた人間なので、そういう意味でも、わからないことだらけの領域に取り組ませてもらっているのは、とても面白い経験だと思っています」(シンドウ氏)
マーケティング担当のシンドウ氏に限らず、TOKIO TOKYOではスタッフそれぞれの特性に合わせて役割分担をはっきり分けるという、完全分業制を採用している。例えば、この店の自主企画イベントは年間120本前後あるが、そのほぼすべてを1人のブッキング担当が組んでいるという。
「普通のライブハウスはブッキングも現場対応もドリンクも兼任するオールラウンダーを求められますが、ウチはそれをやめました。例えばメインのブッキング担当のニイムラは、本当にブッキングしかしないんです。SNSを四六時中ディグりまくって、まだ世に見つかっていない才能ある新人を探し出し、毎月10本くらい自分でイベントを組んでくる『スーパー新人発掘アニマル』みたいな子で。でも、当日の現場対応をさせたりドリンクを作らせたりすると、頭が真っ白でパニックになっちゃう(笑)。逆に、現場のオペレーションが天才的に優秀なスタッフは、ゼロからのブッキング業務がまったくできない。だから『なんでも平均的にできるようになれ』と無理をさせるのではなく、それぞれの尖っている一番強い部分をさらに伸ばすように、特性に合わせて完全に仕事を切り分けました。今のところ、僕らのチームにとってこれが一番生産性が高いと感じます」(トキオ氏)
前例がないということは、言い換えれば「自分が先駆者になれる」ということ
無名の新人アーティストを発掘し続け、毎月10本ものイベントを企画しているというニイムラ氏。彼女はどのような基準で、まだあまり知られていない原石を見つけ出しているのか。
「よく遊びに来てくださる方とフロアでお話しする機会も多いので、そこで『このアーティストが好き』と聞いて知ることもありますし、出演していただいたアーティストの方に『どんな人と対バンしてみたいですか?』と教えてもらうこともあります。あとはYouTubeの関連動画やSpotifyで知らない曲をしらみつぶしに聴いたり、よく遊びに行くライブハウスのフライヤーで知らない名前を見つけたら調べてみたり。仕事としてやっているというより、本当に自分の興味からですね」(ニイムラ氏)
一般的なライブハウスの業務を兼任せず、自分の得意なことのみを任されている現在の分業制をどう感じているのか。ニイムラ氏とシンドウ氏に聞いてみた。
「ほかのライブハウスで働いているブッキング担当の方に『月に10本くらいイベントを組んでいる』と話すと、『めっちゃ多いね!』と驚かれるので、『あ、これって多いんだな』と気付いたんですけど(笑)、私自身はすごく楽しいです。イベントを組むということだけに集中できる環境があるのは、個人的にものすごく働きやすいですね」(ニイムラ氏)
「一般的なライブハウスの仕組みをあまり深くは知らないのですが、TOKIO TOKYOはかなり先進的というか、ほかのライブハウスがやっていないことにどんどん踏み出していこうというマインドが強い場所だと思います。なので、悪く言えば『前例がないからやり方がわからない』ですが、よく言えば『自分がその仕事の先駆者になれる』ということ。自分でやり方を発明して『これが正解だ』と主張できるのは、個人的にすごく面白いところだなと思っています」(シンドウ氏)
「ヤクザの息子」と噂されたことが原体験に
株式会社メルカリのプロデューサーや、株式会社リクルートホールディングスのディレクターを経て、2019年にTOKIO TOKYOを運営するHYPE株式会社を立ち上げたトキオ氏。もともとライブハウス業界の出身ではなく、IT系の企業を渡り歩いてきた経歴を持つ彼が、今ライブハウスという場所に執着するのには、少年時代の原体験が影響している。
「父親が横浜で有名なライブハウスを経営していて、中学生のときに僕も月に1、2回そこに通っていたんですけど、ちょうどその頃に校外学習で、偶然その店の前を通りかかったんです。入り口がものすごく暗くて、僕の目から見ても独特のガラの悪さが漂っていた。早く通り過ぎようとしたら、地下からタトゥーがびっしり入った強面の店員さんがヌッと出てきて、『おう! トキオくんじゃん!』って大声で話しかけてきて。クラスメイトたちは凍りついて、次の日から学校で『トキオはヤクザの息子だ』って噂を流されました(笑)。その体験がずっと心にあるんですよ。やっぱりライブハウスって、音楽が好きな人以外から見たら、入りづらくて怖い場所なんだなという。僕はそのイメージを根本から変えたい、誰もがフラッと簡単に入れるような、明るくて開かれた場所にしたいとずっと思っていました」(トキオ氏)
その「誰もが入りやすい空間」を実現するための具体的なアプローチが、目当ての出演アーティストがいなくても人が集まる仕組み作りだった。
「フジロックって、ラインナップが発表されていなくても『あの空間が好きだから行く』っていうファンがいるじゃないですか。あの仕組みを作りたくて、ウチでは2ドリンク代のみの入場無料イベントを定期開催しています。無名の新人バンドがチケット代3000円でライブをしたとして、そこにお客さんが4人しか来ないなら、誰にも価値を提供できません。でも無料にすれば、毎回100人以上の若いお客さんでフロアが埋まる。さらに、インバウンドの旅行客向けにも英語で情報を発信しているので、『日本の音楽は知らないけれど、渋谷で面白いカルチャーを体験したい』という層にも足を運んでもらえています」(トキオ氏)
大学生の頃には趣味として、自分でクラブイベントを主催していたというトキオ氏。当時行っていたイベントでは、渋谷のWOMBのような大箱を毎回パンパンに埋めていたそうで、やはりもともとイベンター的なセンスが光っていたようだ。当時から漠然と「いつか音楽の仕事がしたいな」と思っていたという彼だが、大企業を飛び出して音楽の世界へ身を投じた理由は意外なものだった。
「一番のきっかけは、友人が人気アーティストになった嫉妬です(笑)。自分が新卒でくすぶってた時期に、向こうはどんどん売れていって超活躍してて。それでワンマンライブを観に行ったら、大きなアリーナで観客の視線を一身に浴びて会場を沸かせていた。それを見た瞬間、あまりの悔しさと衝撃でマジでその場でゲロを吐きそうになって(笑)。『俺がこんなところでくすぶってる場合じゃねえ! 絶対に音楽のシーンでリベンジしてやる!』って、猛烈な嫉妬が爆発したんです。それがこの業界に飛び込んだ最大の原動力ですね。1年かけて会社を辞めて、何もわかってないまま自分の会社を作りました」(トキオ氏)
「納得いかなくてもドリンク代700円払ってください」は、エンタメをやる人間として絶対に間違っている
ネットでの「バズ作り」と、リアルでの「コミュニティ作り」の両軸で、これからのライブハウスのあり方を模索してきたTOKIO TOKYOが、次に力を入れようとしているのが「飲食」だという。
「2時間も3時間も立ちっぱなしでいると足腰がキツくなるし、何よりライブハウスの滞在時間である19時から21時って、1日の中で一番お腹が減る時間帯じゃないですか。そんなときに目当てのバンドのライブが始まっちゃうと、フロアで身動きが取れなくなるんです。とはいえ、ウチの狭いキッチンスペースでは、チャーハンとかラーメンみたいな本格的なごはんを作る体制は整えられません。だったら、ちょっとでも小腹を満たせてテンションが上がるようなスイーツを提供できたら最高じゃん?と思って、「Minimal」というクラフトチョコレートのブランドと直談判して、TOKIO TOKYO特製の板チョコと、濃厚なチョコアイス、それから極上のガトーショコラを定番メニューとして提供することを快諾してもらいました。これによって、ライブハウスでの体験がまた1つ変わるなと確信しています。ドリンクに関しても、愛媛県の宇和島で作った手絞りみかんジュースや、クラフトジン、最近だと『Teenage Brewing』というブルワリーのクラフトビールを入れています」(トキオ氏)
ライブハウスで飲食といえば、業界の構造的な課題として定期的にSNSで議論になる「入場時の1ドリンク代が高すぎ問題」。最近では物価高騰に伴う値上げの話も聞くが、これについてはトキオ氏はどう思っているのか。
「お酒を飲まないのにペットボトルの水1本に700円払うお客さんの不満はごもっともです。ワクワクしてお店の入り口をくぐった瞬間に、いきなり出鼻をくじかれてテンションが下がっちゃいますよね。でも、法律上『飲食店』であるライブハウスにとって、入場時の1ドリンク代って、店を維持するための絶対に削れない切実な生命線なんです。ドリンク代の利益がなかったら、日本のほとんどのライブハウスは一瞬で倒産します。ただ、『そういう決まりなので、納得いかなくても700円払ってください』と思考停止して突き返すのは、エンタメをやる人間として絶対に間違っている。だから、もしウチが今後ドリンク代を値上げせざるを得ない局面が来たら、絶対に『お菓子セット』にして提供しようと決めています。高級チョコじゃなくてもいいんです。例えばですけど、『カントリーマアム』や『ハッピーターン』を1個付けるだけでもいい。原価は少しかもしれないけれど、ドリンクを受け取ったときに『あ、ハッピーターンももらえるんだ』と思ってもらえたら、お客さんの納得感は少し変わると思うんです。原価云々よりも、『ここに来てうれしい』と感じてもらえる体験を少しでも多く作らないと、お客さんはどんどん離れていくと思っています」(トキオ氏)
京都にオープンする新たな拠点、TOKIO KYOTOで目指すものとは
そんなTOKIO TOKYOを運営するHYPEが、次なる展開として見据えているのが京都での新たなライブハウスのオープンだ。2027年1月中旬、平安神宮の境内にある文化商業施設・時代祭館 十二十二(トニトニ)の2階に、TOKIO KYOTOが開業する。「日本を代表する、日本らしいライブハウス」がテーマで、キャパは立席約700人、着席250~280人。“NEW KYOTO MODERN”というコンセプトを掲げた内装は、提灯を思わせる光や格子を想起させるデザインが取り入れられるという。
「会場のある岡崎エリアは、平安神宮をはじめとした神社や、ロームシアター京都、京都市勧業館みやこめっせなどがあるアートと文化の街で、昼間はインバウンドの観光客がものすごく多いんです。ただ、このあたりは『ナイトライフを楽しめる場所が少ない』とよく言われるので、そういう人たちが夜も楽しめるように、インバウンド向けの枠を確保したり、専用のイベントをやったりしようと考えています。 東京と同じように、京都でも毎日無休で営業するのが目標です。普通に音楽イベントだけで月30日を埋めるのは大変ですが、海外の人がフラッと来て音楽を楽しめる場にしたいですね。まだ検討中ですが、抹茶の提供を始めようかといったアイデアも練っています」(トキオ氏)
最後にトキオ氏、シンドウ氏、ニイムラ氏のそれぞれに、ライブハウスという場所が、今後アーティストや音楽ファンにとってどんな存在になっていくべきだと考えているのかを聞いてみた。
「AIで作った音楽を聴いたり、SNSで流れてきた音源を楽しむというのも、別に悪いことだとは思っていません。でも音楽って、太古の昔はデータなんかなくて、お祭りで太鼓を叩いてその生音を聴くというところから始まっているので、人と人が向かい合って、そこから鳴らされる音を聴く体験は絶対になくならない。ライブハウスで音を聴くという、土台になるような体験があるからこそ、音源を聴くという楽しみも生まれて、AIで音楽を生成する遊び方にもつながっている。そういう土台を広げていくことができれば、音楽業界全体の裾野がもっと広がっていくのかなと思っています」(シンドウ氏)
「私は、ライブハウスが『特別視されるもの』じゃなくなったらいいなと思っています。もちろん非日常で楽しい場所であってほしいんですが、『ちょっと飲みに行こう』くらいの感覚というか、日常の中に当たり前にある施設の1つとして、皆さんの選択肢の中にライブハウスが入ってくれたらすごくうれしいですね」(ニイムラ氏)
「ライブハウスって、今後は『もっと広げるか』『もっと閉じるか』に二極化していくと思っています。今は表現を悪く言うと、間口が広くもないし、かといって超クローズドでもない、一番中途半端な立ち位置になっちゃっている。 閉じるのであれば、海外の有名クラブのように厳しい入場制限を設けて、選ばれた人しか入れない特別な空間にするのも正解だと思います。そうすれば閉じられた空間としての価値がものすごく高まる。 逆に開くのであれば、チケットという概念すらなくして、誰でもフラッと来れるようにする。『知らないアーティストだから興味ない』ではなく、音楽を1つのコンテンツとして楽しみつつ、飲食も含めて『ここに来たら絶対楽しいよね』と思ってもらえる場所にしたい。 僕らが今アプローチしているのは、その『開いて広げる』側です。でも将来的に店舗を増やすなら、完全に閉じる側のハコもやりたい。そうやって明確にコンセプトを棲み分けしていかないと、これからの時代、ライブハウスは生き残れないんじゃないかと思っています」(トキオ氏)

