今、最もホットなラッパーが集まる東京の現場と言えば、東京・恵比寿に2011年にオープンし、今年15周年を迎えたEBISU BATICA。この連載では、そんなBATICAでブッキングを担当している店長の一瀬公佑さんやスタッフの桐部さんに、毎月印象に残ったラッパーについて話を伺っています。
9月の振り返りとして、今回は「RAPSTAR 2026」への参加で今大きな話題を集めるFilix王のワンマンライブや、湘南出身のラッパー18easyのリリースパーティ、新世代アーティスト集団gotchersのメンバーが集結した「mid points」、37曲入りのアルバムを完成させたlilbesh ramkoのワンマンライブなどの様子を紹介していただきました。
取材・文 / 三浦良純
パーティ映えするレゲトンラッパーHikoichi
9月4日の「OMJ」はjulihamさんとojupipiさんのダブル“ジュリア”が主催したパーティで、カッコいいライブアクトとDJがそろっていました。その中でもパーティの雰囲気とバッチリ合っていて、特に輝いていたのがレゲトンラッパーのHikoichiさん。レゲトンサウンドと本人のフロウがしっかりマッチしているし、この日は音をしっかり楽しむお客さんが集まっていたので、とても盛り上がっていました。Hikoichiさんは身長が190cmくらいあってスター性も感じるんですが、媚びた印象はなくて、いい意味で男のファンが付きそうだなとも思います。Mall Boyzが「GYAL IS EVERYTHING」を歌ったりと、レゲトンがリバイバルしている雰囲気もあるので、その波に乗ってHikoichiさんも広まってほしいですね。
トリのmezzさんはいろんな持ち曲がある人ですが、ONJUICYさん、なかむらみなみさんとのコラボ曲を披露したり、めちゃくちゃパワフルなライブをしてくれて。トリでしっとり締めるんじゃなく、「ここからまだまだ盛り上がるぞ」というライブをしてくれるのはありがたかったです。
グライムMC・DEKISHIの沸かせっぷりに驚き
「“Lo” CARESS × コウシテ pre.」は、DJとして活動し、「CARESS」というパーティも主催しているmewetaさんからBATICAでイベントを開催したいとお声掛けいただいたことをきっかけに実現しました。制作にはコウシテさんも参加されていました。私の印象では、話題性のあるイベントにいつも足を運んでいるような、音楽に対する感度の高い方です。mewetaさん、コウシテさんのお二人とも幅広い音楽への関心がある中で、ヒップホップを多角的に捉え、さまざまな要素や文脈を含んだブッキングになっていると感じました。
どのアクトも個性が強く、イベント全体を通して観ていても1秒たりとも飽きることのないライブばかりでした。中でも、個人的に印象に残っているのがDEKISHIさんのライブです。日本で早い時期からグライムに取り組んできた方ですが、身振り手振りを多用するわけではなく、マイクと声だけでここまでお客さんを沸かせられることに驚きました。
同時に、どのアーティストのライブでも、一緒に歌って盛り上がれるお客さんの熱量にも圧倒されました。アーティストそれぞれの個性はもちろん、それを受け止めて盛り上がるお客さんも含めて、mewetaさんとコウシテさんのブッキングの鋭さを実感したイベントでした。
Filix王、会場キャパ超え集客で汗だくに
13日はFilix王さんの初ワンマンでBATICAの前に長蛇の列ができました。BATICAのキャパが130から140くらいなところ、予約は250人に達していたので「入れない可能性があります」と事前にしっかりアナウンスしつつ、それでもなお集まってくれた濃いファンで当日はパンパンになりました。予約は250で締め切ったものの、全然もっと伸びそうだったし、BATICAより大きい場所でやれる人だと思うんですけど、「BATICAで最初にやりたい」とFilix王さんが言ってくれてありがたかったです。
ライブは9月にリリースされたばかりの2ndアルバム「itamae2026」の曲を披露する第1部と、過去から現在までの曲を披露していく第2部の2部構成で、昔の曲も今の曲もどっちもめちゃくちゃ盛り上がっていました。アーティストとしてすごく理想的ですよね。「汗っかきなので涼しくしてください。風量最大にしてもたぶん暑いです」と事前にお願いされていたので、ステージ脇にスポットクーラーを置いたんですけど、全然風量が足りなくて……Filix王さんは汗をかいてもむしろカッコいいんですが、そういうのを気にするところも面白い。
見た目がどうこう言われることもあるんですが、とにかく日本語ラップを楽しくやっている人なので、色眼鏡なしに評価されてほしいなと思います。あと若いラッパーって現世を生きている感じがしないというか、自分たちと常識が違う世界にいるような感覚がある一方、Filix王さんはテレビっ子的な目線があるし、同じ世界に生きている感じがありますよね。最近リリースされた「ヒップホップ流行ってない」は、ダウ90000の蓮見翔さんに届いていて、自分も蓮見さんのファンなのでうれしかったです。
18easyのリリパ、30分間ずっと大合唱
18easyさんのリリースパーティは、コンパクトなラインナップながら100人を超えるお客さんが集まりました。いろんな現場でカマしてるSAFUJIさんや、MIKADOさんとのコラボも話題のMel Edenさんは説明不要として、ここではShaaさんを紹介したいです。Shaaさんは、Yog*さんや17kimさんと同じ界隈のラッパーで、華があってラップや歌がうまくて楽曲作りのセンスがあって引き算のバランス感覚があって……全部の平均点がバカ高い。曲は若い子だけじゃなくて上の層にも刺さりそうな渋い感じで、ライブもめっちゃうまいので、見つかったらすぐ広がると思ってます。
18easyさんは以前も紹介した通り、めちゃくちゃキャッチーな曲を作る才能があるラッパーです。今回は30分尺だったんですけど、30分間ずっと大合唱でした。お客さんが血気盛んなのもありつつ、「この曲も歌えるやん」「いやこの曲も盛り上がるやん」みたいな感じで沸き続けて、最後は「もう終わりかー」って。本人のキャラクターとしては、クレバーに戦略的に活動しているという感じではなく、とにかくピュアで、ノリとか本能でやってる感じなんですよね。それで売れてるのがカッコいいなと思います。
もともとサッカーがめちゃくちゃ強い高校で活躍していて、本名でめっちゃ知られてる子だったんですけど、そろそろ本名を超えるくらいの知名度になってきましたね。デイイベントだったものの、この日はシャンパンが開き続けて結局夜の3時クローズになりました。
愛媛をレペゼンするGOUUのライブ力に注目
18日にはGOUUさんのリリースライブがありました。そこで印象に残ったFlip da Hoodsを紹介したいです。Flip da Hoodsは、itachiさん、Ixtabさん、lapさん、ns hackさん、tmswgさんの5MCによるコレクティブで、Sad Kid Yazさんとかと同じくらいの世代だと思うんですけど、今年3年ぶりのミックステープをリリースしたんです。これがビートもラップもめちゃめちゃカッコよくて、個人的に最近一番食らいました。ライブもラフでカッコよくて、ライフスタイルが音楽みたいな人たちなんです。朝起きたらメシ食ってシャワー浴びて、それから曲作るっしょみたいな。メンバー全員、生活の延長に音楽があってナチュラルにカッコいいことを言うんですが、海外ドラマの字幕としゃべってるみたいな感じがあります(笑)。
GOUUさんは地元の愛媛をREPした曲をリリースしている子で、日本語の遊び方がうまいし、キャラクターも面白いんですけど、何より地元で鍛えたライブ力がすごくて。今のラッパーは自分の声が入った音源を流してライブするのが当たり前になってますけど、GOUUさんは自分の声が入ってないライブ用の音源をしっかり作って、ひと言も噛まずにラップして、ずっと聴き取れるようなライブをしてくれます。動きもキレイで、曲を一切知らなくてもカッコいいと思える。徐々に人気が出ている印象ですが、もっと広く聴かれるべきだと思っています。
新世代アーティスト集団gotchersが集結
22日の「mid points」は、Letsuさん、octopus nakamuraさん、tairahさん、ggslayerさん、vxescotさん、ksbiさん、suzu hottaさんというgotchersのメンバーを集めつつ、そこに呼びたい人を混ぜるというコンセプトでブッキングした回です。
gotchersの各メンバーにはよくライブに出てもらっていますが、ここまで一堂に会することはこれまでになくて。まだフロアをパンパンにするほどの人気ではないものの、最前から3列目くらいまでがありえないくらいの盛り上がり方をしていました。Kiannaさんもメンバーですし、gotchersを中心にして、これから大きなムーブメントが生まれそうな感覚があります。
gotchers以外の出演者で言うと、以前も紹介したLynxXxCERO:Aさんはやっぱりいいなと。ヒップホップだけを聴いていたら生み出せないようなフロウを作るセンスがあって、エレクトロとかダンスミュージックとかいろんな音楽の要素を感じるし、インターネットの匂いもするし、現代っぽいアーティストなんですけど、オートチューンを使わずに地声で歌い切るライブ力の高さを評価したいです。音源でいいなと思って、ライブを観たらさらにいいという、2度おいしいアーティストだと思います。
この日のトリを務めたLudioさんはもともと“ザ・アングラサウンド”という印象が強かったけど、今は日本語ラップをしっかりやってる印象です。フックもビートもいろいろな角度のものが作れるし、Sieroさん、Only Uさんと一緒にやってた「Replay」という曲では「もうみんな好きでしょ」と思うようなフックを歌っていて。「POP YOURS」ツアーのオリジナルソングとして制作されたKiannaさん、Sieroさん、Yog*さんのコラボ曲「goldenblue」のプロデュースもしていますよね。2、3年前はこのあたりのアーティストはメインのシーンに毛嫌いされていた印象だったけど、今はど真ん中でカマしているのが痛快で面白いと思います。
ksr:3は楽曲をシームレスにつないで歌い上げる
「EVE」は桐部の企画で、以前からスタッフ間で注目していたアーティストや、普段からお世話になっているアーティストさんをお呼びしました。ksr:3さんは、アルバム「DANCE LIKE NOBODY IS WATCHING YOU」をリリースしてから、以前よりも幅広い層に聴かれるようになった印象がありますし、このアルバムは今年リリースされた作品の中でも特に好きなアルバムの1つです。ライブのスキルも高く、ダンスミュージックのビートに乗りながら、DJのように楽曲をシームレスにつないで歌い上げていくパフォーマンスは、ksr:3さんならではの魅力だと思います。
実は裏テーマとして桐部の誕生日会も兼ねていたので、一瀬とBATICA常連のSoUさんというDJの方でB2Bをしてみたり、7人同時でクローズDJをお願いしてみたり、スタッフ的にも楽しい1日でした。
ラムコはもはや日本のポップスを象徴する存在
29日にlilbesh ramkoさんのワンマンライブがありました。ramkoさんは1年半前にもBATICAに出てくれましたけど、今回はBATICAに来たことがないから入口がわからないようなお客さんがたくさんいて。確かに今ramkoさんを聴いててもBATICAに来ることはないと思いますけど、それだけ大きいアーティストになって、いろんな層のファンが増えたんだなと。それでもフロアにいるのはみんな温かくてパワフルな人ばかりで、ramkoさんの人柄を映しているように思いました。
ramkoさんは数カ月ずっとアルバムを作っていたそうで、この日は10月10日にリリースされたその「Ramko Helvetica」というアルバムの曲を披露していました。リリース前なので知らない曲がほとんどでしたが、コアな音楽が好きな人からお茶の間の人まで楽しめるような音楽で、もう日本のポップスを象徴するようなサウンドだなと。日本代表として、どこの国に出してもいいくらいに思いました。
今月の注目イベント
FEMALE UP
10月16日の「FEMALE UP」はyummmaさんの自主企画です。1年ほど前から別名義でイベントを主催してくれている子なんですけど、yummma名義で7月にEPをリリースして、それがすごく注目されていて……! EPリリース後初のイベントなので、ものすごく楽しみです。ほかのラインナップも旬な方、アップカミングな方が多いので、ぜひとも観に来てほしいです。個人的にamiriさんは気になっていたので、期待してます。
百物語:TOKIO Night
「百物語」は岐阜出身のラッパーAONさんが主催するパーティです。東京っぽい雰囲気の中にどこかローカルのバイブスも感じるイベントで、Lootaさん、Ramzaさん、Cwondoさんなどキャリアもある実力派に加えて、多方面の新進気鋭なラインナップがそろっています。確実に熱い夜になるので見逃せないですね!
店舗情報
EBISU BATICA
クラブとライブハウスの両方のよさを引き出し、違った感性と人を紡ぐ新しいコミュニティ作りの場として、多種多様なシーンに対応するイベントスペース。1Fは40名前後、2Fは80名前後のキャパシティで、ドラムセット、アンプ、プロジェクターなども備えている。DJやライブイベント、展示からウエディングパーティに加え、飲み会、結婚式二次会、試聴会、プレス向け発表会、展示会、各種撮影など、さまざまな形態での利用が可能となっている。


