気鋭の新人アーティストにインタビューしていく連載企画「Who's Next?」。今回は、“音楽界のスーパーアイドル”を標榜する一条ゆうをフィーチャーする。最新曲「多摩川で、恋…したい♡」を用いた“踊ってみた”動画が著名アーティストを巻き込む形でバイラルヒットし、一躍その名を広めている一条。音楽シーンに彗星のごとく現れた彼はいったい何者なのか? その正体に迫った。
取材・文 / ナカニシキュウ
一条ゆうは“総合芸術”
てらいのない牧歌的なメロディライン、手作り感あふれるローファイなバックトラック、往年のアイドルスターを彷彿とさせる甘ったるい歌唱スタイル──あらゆる点において現代の音楽的トレンドとは趣を異にする異色のポップソング「多摩川で、恋…したい♡」が今、SNSを席巻している。9月30日に配信リリースされるやいなや、瞬く間に同曲を用いた“踊ってみた”動画が相次いで投稿され始め、その潮流は著名人たちにも波及。M!LKの塩﨑太智と吉田仁人、=LOVEの大谷映美里、さらにはINI、AKB48、OCHA NORMA、CUTIE STREET、DXTEENといった有名グループのメンバーがこの風変わりな楽曲を楽しそうに踊っている。
このバズソングを生みだしたのは、“音楽界のスーパーアイドル”を標榜するアーティスト一条ゆう。歌唱はもちろん、作詞、作曲、編曲、さらには映像やアートワーク制作に至るまで、すべてを一手に担うマルチクリエイターだ。
「一条ゆうは、総合芸術です。音楽活動だけにとどまらず、総合的な芸術として表現活動を行っています」
朴訥とした語り口で、一条はそう語る。控えめで柔らかな雰囲気とは対照的に、発する言葉には強い確信と意志を感じる。今回の急激なバイラルヒットに際しても、「ずっと前からそうなりたかったので、あきらめずにがんばってきてよかったなと思います」と素直に受け止めることができているようだ。当初こそ「これは果たしてホンマなんやろうか?みたいな感じで、でもほっぺたをつねっても痛くないし……天変地異でも起こってるんじゃないかと思っていました」と戸惑いを隠せなかったことを振り返る一条だが、必要以上に舞い上がってはいない。それは自身の表現に確たる自信と信念を持っているからにほかならず、想像以上の反響ではあっても、想定外の事態ではなかったということだろう。
「これまではYouTubeをメインに楽曲を発表していたんですけど、今回はTikTokに力を入れようと思って。そうしたら、思いのほかうまくいってしまった感じですね」
音楽そのものが大きく変わったわけではない。2022年に発表したデビュー曲「ときめき☆季節風」以来、一条の芸風には確固たる一貫性があった。今回の「多摩川で、恋…したい♡」が突如として広く受け入れられた要因は、楽曲自体が持つポテンシャルの高さだけにあるのではなく、発信経路を変えることで届くべき層に届いた、という構造的な側面も大きく寄与しているようだ。
「もともとはアイドル声優になりたかった」
そもそも、この一条ゆうというアーティストはいかにして誕生したのだろうか。
「もともとは火星で生まれました。火星のお城でネコやウサギたちと楽しく暮らしていたんですけど、その子たちが暴飲暴食を繰り返すもので、生活費が心もとなくなってきて。なので、ちょっと地球に出稼ぎに来ています」
メルヘンチックでほのぼのとした出自とは裏腹に、意外と切実な動機でアーティスト活動を行っているようだ。“出稼ぎ”の業種として音楽を選んだ理由は、幼少期からピアノに親しみ歌うことも好きだったという生い立ちに加え、思春期に訪れた出会いが決定的だったという。
「昔からアニメがすごく好きで、中学、高校時代にアニメ作品をたくさん観ていたんですけど、その時期に田村ゆかりさんの存在を知って、私もああなりたい!と思うようになりました。なので、もともとはアイドル声優になりたかったんですよ」
その言葉通り、一条の活動スタイルには田村の影響が色濃く感じられる。ボーカル表現における鼻にかかった甘い発声や語尾のしゃくり方などが最も顕著だが、17歳という年齢設定もかつて“17歳教”の信者だった田村へのリスペクトゆえのものだ。さらに「多摩川で、恋…したい♡」の歌詞に清竜人ばりに「♡」が多用されているのも、田村の楽曲「14秒後にKISSして♡」や「ゆかりはゆかり♡」などが元ネタであると明言。一条にとって、田村はそれだけ特別な存在なのである。
「男性版の田村ゆかりさんみたいな存在……“男ゆかりん”を目指したいなと思っているんです」
ということは、いずれは声優業にも挑戦する意思があるのだろうか。
「憧れはあります。でも、本当に声優さんをやってみたいのかと考えると……やっぱり自分は歌なんじゃないかなって」
田村に憧れるあまり迷わず“アイドル声優”を目指してきた一条だが、さほど芝居がしたいわけではないことにあとから気が付いた、ということのようだ。それはおそらく、彼が憧れた田村のようなスタイルの専業歌手が、一時期の声優業界以外では見出しにくかったことによって起こった齟齬だろう。活動を始めた頃の一条にとって「ソロアイドルを目指す」は、ほとんど「アイドル声優を目指す」と同義だったのだ。
誰が聴いても嫌な気持ちにならない曲を
そんな一条は高校時代、軽音楽部でロックバンドをやっていたのだそう。そのバンドが活動終了した際に「1人ですべての主導権を握れる」ソロ活動に活路を見いだし、本格的な曲作りもそのタイミングで始めた。
「作曲の知識は、特に学んではいなくて。今は打ち込みで全部作れるじゃないですか。例えば『こんな感じのギターソロが欲しいな』と思ったら、そういう音色を選んで鍵盤で弾けばいい。ピアノで培ったものを、がんばって曲作りに反映させています」
思わず口ずさみたくなるような歌謡性を強く備える特徴的な作風は、どのように確立していったのだろうか。
「誰が聴いても嫌な気持ちにならない歌詞には絶対的にこだわっていて、大前提として徹底しています。その一方で、音やメロディにはあまりこだわりがなくて。例えば『多摩川~』はサビで転調するんですけど、狙った転調じゃないんですよ。あの曲はまずサビから浮かんで……曲を作るときはいつもそうなんですけど、まず火星から電波を受信してサビが最初にできるんですね。そのあとで前後のパートを作るんですけど、それをくっつけた結果、あの転調になっちゃいました(笑)」
一条の楽曲は、技巧性を排した鼻歌のようなプリミティブさが最大の特徴であり武器だ。令和のJ-POPシーンにはあまり見られない種類の特性と言える。本人は「令和っぽい曲調にも憧れるんですけど、作れないんですよ(笑)」と笑うが、こねくり回さないピュアなメロディラインこそが、現代のリスナーに新鮮に受け入れられている最大の要因と見ていいだろう。
「いつも火星から電波が来たら作る、みたいな流れなんですよ。音楽に関しては何にも追われていないので、受信したらアウトプットするだけ」
つまり、今の一条には“曲を作らなければいけない理由”がない。それが、理想通りの楽曲をマイペースに作れている最大の秘訣なのだという。しかし今回のバイラルヒットによって、周囲から期待されるものが増えていくことも予想されるが……。
「『カラオケないんですか?』とすごく聞かれるので、それはやらなあかんなと思っています。あとはライブをやりたくて……目標は、田村ゆかりさんも立った横浜アリーナです。なかなか具体的なライブ活動の計画はできていないんですけど、小さなハコからちょっとずつやっていきたいなと思っています」
プロフィール
一条ゆう(イチジョウユウ)
2022年にシングル「ときめき☆季節風」をリリースして活動を開始した“音楽界のスーパーアイドル”。歌唱のほか、作詞、作曲、編曲、映像、アートワーク制作に至るまですべてを1人で担っている。2026年9月に配信リリースした楽曲「多摩川で、恋…したい♡」がTikTokでバイラルヒットし、多くの著名アーティストによるダンス動画が投稿されている。

