JOYSOUND 音楽ニュース
powered by ナタリー
「JOYSOUND X1」公式サイトJOYSOUND公式キャラクター「ジョイオンプー」

音楽家がAIと楽器を作る時代|Galileo Galilei岩井郁人が生み出した“血の通った音”とは?「人間に求められるのは“執着”なんじゃないか」

岩井郁人
16分前2026年10月29日 10:04

「ミュージシャンがAIで楽器を作った」──そんなニュースを見ても、具体的なプロセスや意図をすぐにイメージできる人は少ないかもしれない。しかし今、音楽家が自らの手でAIと一緒に楽器を開発する時代が訪れている。

Galileo Galileiでギターと鍵盤を担当する岩井郁人は、Claude CodeなどのAIテクノロジーを活用してソフトウェアシンセサイザー「SATORI」を独自に開発し、リリースした。Windows対応や機能改善など、リリース後も自身の手でアップデートを続けている。

なぜメーカーと手を組む「監修」ではなく「自作」だったのか。彼が語る「人間のセンスとAIの知識で作った、血の通った音」や、人間とテクノロジーが共存するクリエイティブの在り方とは。自身の“経験”と“耳”を生かして理想の楽器を探求する、現代におけるミュージシャンのDIY精神に迫る。

取材・文 / ナカニシキュウ

「いつか自分の経験をすべて注入した究極の楽器を作りたい」

──「Galileo Galileiの岩井郁人がClaude Codeなどを用いて開発したソフトウェアシンセサイザーをリリースしました」というニュースを見たときに、僕ら素人にはだいぶ意味のわからない話だなと思いまして(参照:ガリレオ岩井郁人がAIと楽器を作ってみた、ソフトウェアシンセサイザー「SATORI」発売)。

そうですよね。

──なので、まずはこのことが持つ意味といいますか、「今はミュージシャンが自力でソフトウェアを開発できる、すごい時代になったんだよ」というお話をしていただけたらと思うのですが。

わかりました。そもそもミュージシャンって……例えばギタリストであれば理想のギターに出会う旅をずっとしていたり、作曲家やアレンジャーはいろんなシンセサイザーやソフトウェア音源を買いあさったりしていて、音楽を作るために投資をし続けるのが、ミュージシャンの生き方のひとつだと思うんですね。僕自身もこれまでにいろんなシンセサイザーを使ってきましたけど、なかなか理想の1台には出会えなかった。「いつか自分の音楽人生、自分の経験をすべて注入した究極の楽器を作りたい」というのは、実はAIでプログラミングができるようになるずっと前から思ってはいたんです。

──なるほど。それを実現できる環境が整ったから思いついたのではなく、ずっとやりたかったことなんですね。

はい。「SATORI」の開発にはJUCEというプラグイン開発用のフレームワークを使っているんですけど、実はその扱い方やコードの書き方をイチから勉強していたんです。その中で近年、AIテクノロジーが一気に進歩したことで、「こういう処理を行うプログラムのコードを書いて」と頼めば、AIがコードを書いてくれる時代がやって来た。音を決めるのは僕の耳とセンスで、それを形にするコードをAIが書く、という作り方ができるようになったんです。「これはもう、やりたかったことが実現できちゃうじゃん」と思って、本格的に取りかかった感じですね。

──例えばソフトウェアメーカーと協力して、「監修」みたいな形で理想のソフトウェアシンセサイザーを作る方法もあったかと思います。ただやはり、自力で全部できるのであれば、隅々まで完全に自分の思い通りに作れるメリットがあるわけですよね。

そうですね。いわゆるアーティストのシグネチャーモデルとかっていうのは昔からたくさんあったと思うんですけど、その先の形として、作り手本人が最後まで自分で作れるところまで来たのかなと。

──極端な話、売れるかどうかを先に考えなくても作れるやり方ですし。

ですね。僕の場合は特に、Galileo Galileiの音源やライブで自分が使うために「こういうシンセがあったらいいのにな」という発想で作り始めているので、最初から売れ筋を狙ったものではないんです。自分で使い込むうちに「これはちゃんと製品にして届けたい」と思えるものになったので、FOLKS Instrumentsとしてリリースしました。

──メーカーとの協業では、そうはいかないですもんね。「このくらいは売れるだろう」という見込みが立たないことには、そもそも企画にGOサインすら出ない。

商品にしようと思ったら、「これだけの予算をかけるから、これくらい回収しなきゃいけない」というコスト計算から仕様が決まっていくことが多いですよね。「SATORI」はそこから逆算しなくていいので、売れるかどうかより「自分が本当に欲しい音かどうか」だけで決められた。そこがこのやり方の一番大きな利点だと思います。

──先行事例として、同じようにAIを使って開発された屋敷豪太さんのドラム音源プラグイン「Groove Activator App」の存在もあります。これからはそういう人が増えてくると思っていいんでしょうか。

たぶんそうなっていくと思いますね。豪太さんとも実はやりとりさせてもらったりしているんですけど、ほかにも知り合いのクリエイターさんがプラグインを作り始めたりしていて。今後どんどんそういう流れになっていくと思います。

出発点は“理想のリバーブ”だった

──そうした経緯で開発が始まった「SATORI」ですが、そもそもはシンセサイザーではなく、リバーブを作ろうとしていたそうですね。

はい。実はそれもすでに形になっていて、実際に作曲やライブで使い始めているんですよ。そのリバーブを作っていく中で「これ、もしかしたらずっと作りたかったシンセもイケるかもな」と思い始めて。で、いざシンセの開発に取りかかってみたらそっちのほうが面白くなっちゃって、そちらに舵を切ったような形でしたね。

──そのリバーブのほうも、既存の製品ではできないことをやりたくて作り始めた?

まさにそうで、例えば僕はValhalla VintageVerbという製品やLexiconというメーカーのリバーブの音がすごく好きなんですけど……すごく細かい話になっちゃいますが、BPMとシンクロするタイミングで残響音をカットしたいケースがあって。それが楽曲のノリにつながるからなんですけど、そういう機能を備えたリバーブって、僕が探した限りでは案外少なかったんです。

──なるほど。残響音を自然に減衰させることしかできない製品がほとんどなんですね。

リバーブって本来そういうものなので。あと、作曲やアレンジをしていて「ギターのこの周波数帯だけにリバーブをかけたいんだけどな」と思ったときに、帯域別にリバーブをかけられる製品ってあんまりなくて。歪み系とかコンプ系にはたくさんあるのに、リバーブだとあまり多くはない。なので、ValhallaとかLexiconレベルの音質で、なおかつそういうかゆいところに手が届く機能性を併せ持ったリバーブを作りたいなと。

──それをAIと一緒に作ってみたらどんどん形になって、「これができるならシンセも作れるな」となっていったと。

で、もし仮に自分がプラグインのブランドを立ち上げるとしたら、その第1弾製品としてリリースするものはエフェクターよりも楽器だろう、ということで「SATORI」を最初に出すことにした感じです。

「SATORI」の根幹をなす2大コンセプト

──「SATORI」に関しては、ざっくり言うとどういうコンセプトの楽器として作り始めたんですか?

いろんなジャンルや楽曲、ミュージシャンに対応できるフラッグシップ機みたいなものを作りたかったんです。僕はもともとMinimoogやProphetのようなビンテージのシンセサイザーがすごく好きで、Galileo Galileiではそういう音を好んで使っているんですけど、作家として若いミュージシャンに楽曲提供をする際にはもっと現代的な、バリバリッとしたデジタルサウンドを求められることが多い。方向性が真逆だったりするんです。その全部に対応できるだけのソフトウェアシンセサイザーを片っ端から集めて使い分けようと思ったら、もちろんコストも手間も時間もかかるわけです。

──それぞれ使い勝手もまったく異なるでしょうしね。

その振れ幅にワンストップで対応できるシンセが1つあったらいいなと思っていたんですけど、僕の知る限りでは既存の製品にあまりそういうものはなくて。なので「SATORI」は、まずMODERNからVINTAGEまで、サウンドキャラクターをシームレスに変えられる「CHARACTER」ノブを実装したいな、という発想からスタートしました。

──そのアイデアが根幹にあるから、「CHARACTER」ノブがド真ん中にでっかく鎮座しているんですね。

はい。それがまず大きなポイントの1つで、もう1つの柱が「複数のシンセをレイヤーできる」という概念でした。僕は作曲やアレンジをする際に、まったく同じシンセのフレーズをキャラクターの違う何台ものシンセで同時に鳴らすことがあるんですよ。「この音は前にいて、この音はそのちょっと後ろにいて、さらにその後ろに左右に広がっていく音がある」みたいな感じで、LとRだけじゃなく立体的にサウンドを構築していくような考え方ですね。それにもやはりシンセが何台も必要で、何トラックにもしなくちゃいけない。それを1台でまかなえたらトラックもまとめられるし、ライブのときにもすごく役立つだろうなと。

──そのお話だけを聞くと、今の時代ならありそうな気もするのですが。

僕が欲しい形のものは、意外と見つからなかったんです。

──例えば「何十機種ものモデリングが入ってますよ」みたいな製品はたくさんあると思うんですが、実際に使うときはどれか1個しか選べないとか?

ですし、やっぱりアナログモデリングのソフトウェアシンセサイザーの多くは実機の再現を目指したものなので、アナログ感を突き詰めていく方向が多いと思うんです。「そこからいきなりデジタルに行きたい」みたいな発想って、たぶんあんまりないはず。でも、僕みたいな考え方のユーザーもきっといるよなと思っていて。

──商売的に考えても、「あのアナログシンセの音が出ますよ」のほうが売りやすいですもんね。買うほうも用途をイメージしやすいですし。

だから僕も、「SATORI」のキャッチコピーを考えるときに「ムズ!」と思って。いろんなことができるから、逆に何を売りにしたらいいのかが難しい。ピンポイントで「これができます」というもののほうが、売れるという意味ではいいんだろうなと。

──だからこそ、このやり方には意味があるわけですよね。わかりやすい売り文句より、本当に欲しい楽器を優先して形にできるという点で。

そうですね。

AIへの指示はコードではなく“音の言葉”。決め手はミュージシャンとしての経験と耳

──実際の開発の苦労話などもぜひ伺いたいです。

まず流れを話すと、最初は僕が一番よく使うProphet-5の音色を作ってみるところから始まりました。そもそもそんなことができるのか?っていうところからですね。JUCE上でそういう音の出るモジュールを作るためのコードをAIに書いてもらうんですけど、やっぱり最初にポンと出てくるものは、自分の理想とはほど遠いことが多くて。それをもとに「もうちょっとこういう音にならない?」みたいな指示を繰り返し出しながら、ちょっとずつチューニングしていく感じですね。

──僕も生成AIで絵を描いてみたことがあるので、そのお話はイメージしやすいです。だいたい一発目は思ってたのと全然違うものが返ってきますよね。それをいろんな言い方で調整してもらって、少しずつ自分のイメージに近付けていく。

近いところはありますね。直した音を毎回弾いて聴き比べて、ほかの音色が崩れていないかも確かめながら進めるので、思った通りのものにするのは案外時間がかかるんだなと思いました。ツアーやレコーディングと並行しながら、半年くらいかけて音を詰めていきました。

──Prophet-5っぽい音は無事にできたわけですよね?

できたんですよ。で、「じゃあ次はMinimoogっぽい音を作ってみよう」と思って、それもできた……といっても、Prophet-5にしてもMinimoogにしても個体差があるし、時代によっても音が違ったりするので、「自分はこの楽器のどこが好きなのか」がハッキリしていないと、どこをどうチューニングすべきなのかという方針も決まらないわけです。そこにはやっぱり主観が入るので、作った人のクセが出るところだなと思いましたね。

──そのチューニングって……ちょっとバカみたいな質問ですけど、AIに対して何をどう言えば調整できるんですか?

例えば、試しに弾いてみたときに音がすごく細く感じたとしますよね。そういうときは、最初は「音が細いので、もっと太くしてほしい」みたいな、本当に普段の言葉から始めます。そこから「ちょっと太すぎるので、もうちょっとだけ軽くして」とか「実機だともうちょっと音が歪んでると思うんだよね」「何kHzあたりの帯域が出すぎてるから1dB下げて」「こっちは1dB上げてみて」みたいな、そういうやりとりを、音を聴き比べながら何往復も続けていくイメージです。

──めちゃくちゃ地道な作業ですね……!

シンセサイザーにはオシレーターという信号を出すための回路があるんですけど、それが例えばMinimoogだと3つあって、そこから出る信号の揺れ具合に個性が出ます。「このオシレーターの揺れがそれっぽくないから、もうちょっとこういうふうに調整してほしい」とか、そういうことを本当に1個1個言っていきます。で、基本のものができたときに「アタックはこれくらい、ディケイ、サステイン、リリースはこれくらい」と細かく細かく調整していくことで、だんだんMinimoogっぽい音に近付いていく。

──その調整を、ツマミ1個1個に対しても「回したときのかかり方がイメージと違う」とか全部やっていくわけですよね。気が遠くなる(笑)。

なので本当に、ミュージシャンとしての経験と耳が一番大事になってきますね。最初にAIがポンと出してきたものを正解と思ってしまったら、それで終了じゃないですか。そこからいかに解像度高く調整を加えていくことができるかは、僕自身の経験と耳に懸かっているんです。でも、それを伝えたら伝えただけAIは具現化してくれるんですよ。そこに一番びっくりしましたね。

──なるほど……。

プラグインを1個開発しようと思ったら、プログラミングの技術はもちろん、それくらい音に対する理解も必要ですし、GUI(グラフィカルユーザーインターフェース)デザインに関する知識なども必要で。UIに関しては僕がPhotoshopで画像を作って読み込ませてるんですけど、そんなふうに、いろんな分野の専門知識や理解が求められます。今回はそのうちプログラミングの部分をAIが担ってくれたことで実現したわけですけど、おっしゃる通り気の遠くなる作業ではありました。

次なるストーリーは「SATORI」の実機を作ること

──それを聞くと、「よく半年でできたな」と思ってしまいます。これだけをやっていたならまだしも、Galileo Galileiとしてもかなり活発に動いていたわけで。

でも、逆にそれが大きかったなと思いますね。僕は「SATORI」のプロトタイプを「NAKED HERO」ツアー(2026年5月に行われた全国ツアー「Galileo Galilei Tour 2026 "NAKED HERO"」)でも使ってるし、ニューEP「Rise of The Man」のレコーディングでも使っていて。実際に現場で使ったからこそ「本当はもっとこうなってほしいんだけどな」が見えてくるんですよ。そのおかげで、仕様が机上の空論にならずに済んでいるというか。

──ユーザーの生の声を拾うところまで自分でできてしまう、と。実際に「SATORI」を現場に投入したことで、どんな効果がありましたか?

どのツマミが何をするのかを隅から隅まで自分で決めているので、ものすごく作業が速くなりましたし、今まで以上に理想の音作りが的確にできるようになりました。ソフトシンセは今ではもう、ほとんどこれしか使っていないですね。

──それだけ、本当に全部できちゃうってことなんですね。当初の目的通りといいますか。

そうです。ただ……レコーディングとかでは実機のMinimoogを使ったりするときもあるんですよ。そこは残っていくのかなと思いますね。いくら「SATORI」で限りなくそれに近い音を出せたとしても、リアルに実機を触ったときに起こるアナログマジックみたいなところまでは、まだシミュレートしきれていないので。そこにマジックがあることを信じて、ロマンを感じている自分もやっぱりいますし。

──僕ら聴き手からすると、おそらく“「SATORI」で作ったMinimoogっぽい音”と“実機のMinimoogの音”って、区別がつかないんじゃないかとも想像するんですが……。

たぶん、聴いただけで区別するのは難しいと思います。そうは思いつつ、バンドにとってはそこに至るまでのストーリーが大事だったりするというか。今回で言えば、この「SATORI」を僕が作ったということも1つのストーリーですし、それと同じくらい「アナログシンセのツマミをいじってこの音が出た」というストーリーも重要。決して「SATORI」を作ったからといって、今後すべてをこれだけでまかなえるという話でもなくて……それで言うと、次のストーリーとしては「SATORI」の実機を作りたいという気持ちがあります。

──おお、それはめっちゃいいですね。確かに、この「CHARACTER」のツマミはリアルに回してみたいですもんね。

回したいですね。ハードウェアは作り方がまったく違うので簡単ではないですけど、いつか実現したいです。

楽器はインスピレーションを与えてくれる。「SATORI」もそういう楽器であってほしい

──Galileo Galileiの新作EP「Rise of The Man」の制作で「SATORI」が使われたというお話がありましたが、具体的にどの曲のどこを聴いたら我々が「SATORI」の威力を堪能できますか?

「Oxygen199」が一番わかりやすいと思います。最初のフレーズだったり、シンセベースもそうですけど、基本的に「SATORI」の音をレイヤーしています。

──ある種、「SATORI」のデモソングとしても機能するくらい?

そこまでではないですが、「SATORI」の音がどう鳴っているかはすごくよくわかると思います。

──となると、「Oxygen199」を聴いて「この音を自分でも出してみたい」と思った人は、「SATORI」を使えばかなり近付けるわけですね。

そうなんです。これは本当に僕がライブで使うために作ったシンセサイザーなので、Galileo Galileiの過去曲で使った音色もいっぱいプリセットとして入っています。「リトライ」とか「Imaginary Friends」とかの音が、それこそ僕がライブで立ち上げてそのまま使えるように入れてある。しかも、今後もアップデートで音色を追加していきます。10月のアップデートでも6つ追加したので、楽しみにしていてほしいですね。

──Galileo Galileiのコピーバンドをやっている人たちは、音作りが飛躍的にラクになりますね。

ですね。それで言うと、僕はこの「SATORI」をシンセサイザー初心者の人に触ってほしい気持ちがすごくあって。僕がシンセサイザーを好きになったきっかけは、パソコン上でソフトウェアシンセサイザーをポチポチ触っていたことではなくて、実機のシンセサイザーをいじることが楽しくて仕方ないところからだったんですよ。その喜びをこの「SATORI」には詰め込みたくて、アナログシンセサイザーならではの触り心地というか、ツマミをいじってるだけで楽しい!みたいなシンプルな操作感にはすごくこだわりました。

──その視点はまさにミュージシャンならではですね。音だけじゃなくて、“楽器を触る喜び”を再現しようという発想は、机の上からは生まれない気がします。

「楽器が曲を連れてきてくれる」ことって、実際あるんですよね。「この楽器を買ったからこの曲ができた」みたいな、楽器にはそういうインスピレーションを与えてくれる力がある気がするんです。「SATORI」もそういう楽器であってほしいなと思いますし、いろんな意味で僕の主観が反映されまくっているソフトウェアシンセサイザーですね。

人間にはストーリーがあって、音楽生成AIは結果だけ。その違いがある限り大丈夫だと思う

──そのような数値化できない喜びって、まだAIには作り出せないものだろうなという気がします。岩井さんはこの「SATORI」をリリースする際に、「人間のセンスとAIの知識で作った、血の通った音」という言い方をされていましたが……。

世の中にはAIに対して「けしからん」みたいに言っている人もいますけど、0か100か、白か黒かで語れる話ではないと思うんです。特にアートは時代とともにあるものだと僕は思っているので、こういう大きな潮流とはちゃんと向き合っていきたいと思っています。そうなったときに、「AIはこういうふうに使えるんじゃないか」という僕なりの1つの答えとして、言葉ではなくモノとして示したのが「SATORI」です。あの一文は、そういう思いを込めた言葉ですね。

──「AIなんてダメだ」と切り捨てるのも違うし、「AIは素晴らしい」と全乗っかりするのも違う。どちらも極端すぎる態度だということですよね。

そもそもシンセサイザーが出てきたときだって「あんなものはけしからん」という人がたくさんいたと聞きますし、シーケンサーやDAWが出てきたときもそうだったと思うんです。でも、テクノロジーって人間の能力を広げてくれるものだと僕は思っていて……僕はよく「包丁みたいなもの」という言い方をするんですけど、使い方によっては人を傷付けるものでも、おいしい料理を作れるものでもある。それと同じだと思うんですよね。それをもってどこへ行きたいのかが大事で、「どこへ行くべきか」という判断まではAIに任せたくないなと思っています。

──ちなみにちょっと余談ですけど、Suno AIなどで生成される楽曲って、意外といい曲だったりすることも多いじゃないですか。

そういう曲もありますね。

──そこにはどんな思いがあります?

技術の差はだんだん縮まっていくと思うんです。“いい曲”や“うまい演奏”もAIで作れるようになってきた中で、じゃあ何が大事になってくるかと言ったら、アーティストに求められるのって“執着”になってくるんじゃないかなと。わかりやすいところでいうと、Sunoで出力された曲って、今のところは、聴くと音質でだいたいわかることが多いんです。ある帯域が飽和してズボーンって出てたりする。人が執着をもって作ったものは、そうはなりにくいと思うんです。だから「これは人の執着が介在していない音だ」というのは、聴けばわかることが多いです。今の時点では、ですけどね。

──なるほど……!

もしかしたら聴く人にとっては気にならない違いかもしれないけど、そこに執着し続ける人は、これからも作り続けていくと思うし、僕のまわりのミュージシャンもみんな執着が強いので、安心している……というと言い方が変ですけど、音楽生成AIの存在はまったく脅威には感じていないですね。なぜなら、作ることが楽しくてしょうがないから。

──そういう思いって、音に乗るものですしね。

そう思います。さっきの話と被りますけど、やっぱりそこへ至るまでのストーリーが大事なんで。音楽生成AIの出力するものって、ストーリーをすっ飛ばした結果だけのものじゃないですか。その違いがある限り、人間は大丈夫なんじゃないかなって気がしていますね。

プロフィール

岩井郁人(イワイフミト)

1990年12月24日生まれのミュージシャン、クリエイター。Galileo Galileiのメンバーとして2010年にSony Musicよりメジャーデビュー。2012年9月に同バンドを脱退したのち、2013年にロックバンド・FOLKSを結成する。同バンドが無期限活動休止に入った2018年には音楽作家およびプロデューサーとして独立し、さまざまなアーティストや企業へ楽曲を提供。2020年のコロナ禍を機に映像制作業をスタートさせ、翌2021年には映像と音楽の制作会社・FOLKS Inc.を設立した。2022年、新体制で再始動したGalileo Galileiに所属し、ギターと鍵盤を担当。以降、同バンドの一員として精力的な活動を展開しながら、ソロ曲も発表している。2026年には音楽ソフトウェアブランド・FOLKS Instrumentsを立ち上げ、第1弾のソフトウェアシンセサイザー「SATORI」をリリースした。

公演情報

Galileo Galilei Tour 2026 "Rise of The Man"

2026年11月3日(火・祝)北海道 札幌PENNY LANE24
2026年11月10日(火)宮城県 darwin
2026年11月14日(土)大阪府 なんばHatch
2026年11月15日(日)愛知県 名古屋ReNY limited
2026年11月18日(水)福岡県 DRUM Be-1
2026年11月20日(金)広島県 LIVE VANQUISH
2026年11月22日(日)東京都 Zepp Haneda(TOKYO)

関連記事

Galileo Galilei「Oxygen199」ミュージックビデオのサムネイル。

Galileo Galilei「Oxygen199」MVはサイケデリックでポップな仕上がり

1日前
Galileo Galilei

Galileo Galileiの忘年会、今年は有観客で開催

12日前
Galileo Galilei「UREI」ミュージックビデオのサムネイル。

Galileo Galilei「UREI」ミュージックビデオ公開、直前にYouTube生配信

15日前
Galileo Galilei

Galileo Galileiがサカナクション、RADWIMPS、フジファブリックなどカバー「僕らの結成した2007年の名曲たちへ愛を込めて」

24日前
Galileo Galileiの新ビジュアル。

Galileo Galilei新曲に思春期特有の焦燥感、季節は夏

27日前
岩井郁人(Galileo Galilei)

ガリレオ岩井郁人がAIと楽器を作ってみた、ソフトウェアシンセサイザー「SATORI」発売

約1か月前
Galileo Galilei

Galileo Galileiが新作EPリリース、完全新曲の6曲入り

約2か月前
Galileo Galilei

Galileo Galileiのファイターズ応援ソング「青陽潮(2026 New Mix)」リリース

3か月前
Galileo Galilei

Galileo Galileiが「NAKED HERO」ライブ映像を全編公開、メンバーとの同時試聴企画も実施

3か月前