生活の基盤である衣食住の1つを占める衣服。この連載はアーティストにファッションへのこだわりについて語ってもらうという趣旨のもの。第15回はギターウルフのセイジに登場してもらった。レザーアイテムの愛好家として知られる彼に、とある1日のコーディネートとファッション観のルーツについて聞いた
コーディネートについて
革ジャン、革パン、革ベルト。ほぼ全身ルイス(レザーズ)のコーディネートだな。サングラスもジャケットもライブ用のものとは違うけど、外出のときはほとんどこうなります。
着用アイテム(ブランド名または購入店名)
アウター:レザージャケット(ルイスレザーズ)
トップス:Tシャツ
ボトムス:レザーパンツ(ルイスレザーズ)
シューズ:ウエスタンブーツ
アクセサリー:レザーベルト(ルイスレザーズ)、サングラス
ポイント
・レザージャケットこれはルイスとギターウルフのコラボモデル(2018年発売)で、襟やポケットのデザインとか、全体的に俺の意見を取り入れてもらったもの。ルイスのオーナーが「723 MEMPHIS JACKET」と名付けてくれてね。ギターウルフが初めてアルバムを出したのはアメリカのメンフィスのレーベルだった。そして今もアメリカツアーをするときの機材を納めている倉庫があったり、メンフィスは完全に、ギターウルフにとっての基地みたいなものだね。だから“メンフィス”って名前も気に入ってるよ。
・レザーベルトルイス側からギターウルフをフィーチャーしたベルトを作ってもいいかと聞かれたので、「もちろんいいよ」と伝えたら、できあがって送られてきた。見ると「Jet Rock'n' Roll」という文字がスタッズで並んでいた。ルイスは値段も高いし自分にとって憧れのブランドだったから、アイテムを作らせてくれと言われたときは「信じられない!」という気持ちだったな。
・ウエスタンブーツ長いことウエスタンブーツを履いてるんだけど、いつも1年くらいでダメになってしまうから毎年アメリカツアーに行くたびに1足買ってるんだ。向こうには体育館みたいなでっかいウエスタンブーツショップが点在していて、とにかくたくさんの種類がある。今日履いているのもそこで買ったんだけど、見た目がゴチャゴチャしていない一番シンプルなものをいつも選ぶんだ。
ファッション観のルーツ
中学生のとき、近所の兄ちゃんに革ジャンをもらったんだ。今考えると、ボアがついたダサい革ジャンだったんだけど、そのときの自分にはカッコよく思えて、すごくうれしかったね。革ジャンを着るだけで不良になった気になれたし、「これは一発ケンカでもしなきゃいけないかな」とか思った(笑)。やっぱり男はみんな不良に憧れるものじゃない? 革ジャンとオートバイは、自分にとって不良っぽいカッコいいアイテムだったんだ。
そのあとパンクロックに影響されて革ジャンが欲しくなったんだけど、まだ自分で買えるほどのお金はなくて。18、19歳くらいのときは、新宿で買った安いビニジャンみたいなのを着てたな(笑)。今思うと目も当てられないけど、当時はカッコいいと思って着てたよ。ジョニー・サンダースとか、革ジャンを着てるパンクの人たちがすげーカッコよく思えたんだよね。それから20歳くらいにスーパージャンクという原宿のフィフティーズ専門店で働き始めて、古い革ジャンを専門で扱った。そこからはもう革ジャン着放題だったね(笑)。いろんな革ジャンを着たくて、取っ替え引っ替えだったな。
そもそもスーパージャンクで働き始めた理由は、原宿で働きたかったから。原宿は本当に最高だよ。自分は3年くらいしかいなかったけど、10年分くらいの濃さだった。昔、原宿駅前にあったテント村にスーパージャンクが店を出してて、真向かいにパンクショップのJIMSINNのテントがあったんだけど、そこでビリー(初代ベースウルフ、故人)が働いてたんだ。それでヤツと仲間になって、ギターウルフが誕生したんだよ。
だけど、まさか自分が革ジャン革パンでバンドやるとは思わなかったな(笑)。このスタイルでやろうと決めたきっかけはリンク・レイだった。もともと彼のことは大好きだったけど、ある日革ジャン革パンを着ている彼のライブ盤のジャケットを見て衝撃を受けたんだ。全身革を着てライブなんて暑くてめちゃくちゃキツいけど、彼を見て「俺たちもこれをやらなきゃ」と思った。師匠がやってて、弟子がやらないわけにはいかないなってね(笑)。
あとはロカビリーとかパンク雑誌にも影響を受けたよ。スーパージャンクにいた頃、アメリカから輸入した古着や家具の中に偶然入っていたものもあるし、仲間にもらったものとか、バイト終わりにアメリカンフィフティーズの雑貨屋に行って買ったのもある。
それとオートバイとブルース・リー、映画「狂い咲きサンダーロード」も自分にとって重要な要素。まず男だったらバイクはカワサキ。あんなシャープでカッコいい乗り物はないし、乗っていて空気を切り裂いてる瞬間が好きだな。ブルース・リーは、中学生のとき期末試験の前日にテレビで「燃えよドラゴン」を観てから憧れるようになった。彼みたいになりたくて衝動的に前髪をジャキッと切ったこともある(笑)。あと「狂い咲きサンダーロード」には本当に衝撃を受けたよ。あれは最高のバイクとロックの映画。主演の山田辰夫さんと対談したときに脚本の表紙にサインしてもらったんだ。
80年代の原宿はヘビメタ、ロカビリー、パンク、ハードコア、The Rolling Stones系、ホコ天のローラーとか、いろんな音楽が集結してて楽しかったな。日曜日になると、原宿の不良たちが集まるOH! GODという店によく飲みに行ってたけど、そこに集まるやつとは何かあると一触即発、お互いになめられたら終わりという緊張感があって刺激的だった(笑)。喧嘩したこともけっこうあったけど、原宿で起こったことは記憶の中では全部ポップなんだ。
そんな原宿から得たものが、ファッションもそうだし、今の自分の半分くらいを作ってる。原宿ほどポップなラブがあふれている街はないね。あの頃とは変わったけど、今も面白いし、原宿には来るたびに興奮するよ。
セイジ
1963年長崎県生まれ、島根県育ち。1987年原宿で結成したスリーピースロックバンド・ギターウルフのギターとボーカルを担当。1993年にアメリカ・メンフィスを拠点にするインディーズレーベル・GONER RECORDSから1stアルバム「WOLF ROCK」をリリースした。2005年にオリジナルメンバーのビリー(B)が心不全により急逝。以後活動休止期間や新メンバーの加入などを経て、楽曲制作の傍ら日本だけでなくヨーロッパ、アメリカ、カナダ、ブラジルなど海外でのライブ活動を積極的に行う。また2017年よりセイジの故郷である島根県松江市でロックフェスティバル「シマネジェットフェス・ヤマタノオロチライジング」を毎年開催している。
取材・文 / 土屋恵介、瀬下裕理 撮影 / トヤマタクロウ 撮影協力 / ルイスレザーズジャパン、原宿ジャックス