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音楽シーンを撮り続ける人々 第21回 カメラマンをサービス業と捉える小松陽祐

浦島坂田船(写真提供:小松陽祐)
4年近く前2021年02月16日 11:02

アーティストを撮り続けるフォトグラファーに、活動の軌跡や自身のターニングポイントとなった出来事について話を聞くこの連載。第21回はBUCK-TICKやPENICILLIN、After the Rain、浦島坂田船といったさまざまなアーティストを撮影している小松陽祐に、フォトグラファーの道を歩み始めた経緯やライブ写真を撮り始めたきっかけ、アーティストとの思い出などについて語ってもらった。

取材・文 / 倉嶌孝彦 プロフィール&アイテム写真撮影 / 岡本麻衣

印刷屋時代に「これ、自分でも撮れるんじゃないか」

岡山の何もない田舎に生まれて、子供の頃はテレビばっかり観てましたね。田舎すぎて、何もないから。あとラジオも聴いていたかな。当時はまだ音楽にそこまで興味を持っていなかったんだけど、一緒に住んでいた叔父さんが足の付いたステレオでThe ZombiesとかThe Animalsを聴いてた。小学生、中学生の頃はなんとも思っていなかったんだけど、高校生になってからThe Animalsの曲がすごく好きになって。街のレコード屋さんに行ってThe Animalsのカセットテープを探していて「アニマルズっていう黒人のグループの……」と店員さんに説明して取り寄せてもらったんですよ。そうしたら白人のバンドで恥ずかしい思いをしたなあ(笑)。

写真に興味を持ち始めたのはそれよりあとで、18歳ぐらいのとき。僕は一度印刷屋さんに就職したんですよ。そこで平版印刷をやっていて、ポスターとかを刷っていた。で、ポスターを刷っているといろんな方の写真を目にすることになるんだけど、「これ、自分でも撮れるんじゃないか」と思い始めるんですよ。興味を持っていろいろ調べ始めて、写真の学校に通おうと思ったんですが、親がお金を出してくれなかったから自分で稼ぐしかなくて。しばらく印刷屋で働いて、お金が貯まったところで大阪の写真学校に入りました。

ライブ撮影が怖かった

僕が入ったのがドキュメンタリー科というところで、街に出てドキュメンタリー写真を撮る専門の学部だったんです。当時だと営業写真とも呼ばれていました。実際にカメラを持ってみて、自分にすごくセンスがあると思ったわけではないんです。ただ撮影をしていると、カチッとくる部分、自分の撮りたいものと被写体がフィットする瞬間があるんですよ。それは構図だったり、表情だったり、いろいろだけどね。その感覚は当時からあまり変わっていないですね。「あ、ここだ!」みたいなのがいつもある。それは学校で教わったことではなくて、自分の中に備わっていた感覚と言ったほうが近いかな。だから写真の学校で教わったことはそんなになかったかもしれない(笑)。

音楽系の写真を撮り始めたのは小野島大さんがやっていたミニコミ誌「NEWSWAVE」が最初ですね。北岡一浩というカメラマンと一緒に表紙の撮影を手伝い始めて。そのうち「ライブも撮ってみる?」という話になり、MZA有明(1988年にオープンしたディスコ、コンサートホール、スタジオなどの複合施設)で行われたジュリアン・コープの来日公演で、初めてライブの撮影をしました。当時僕はスタジオマンでもあったので、ファッション誌の写真も撮っていたんですけど、ライブ写真ってこれまで僕が撮ってきたどの現場とも違う、異質なものだったんですよ。だから最初はライブの撮影をするのが怖かった。きちんと被写体が写っているかどうかもわからなかったし。

きっかけは「Melty Love」

仕事が転がり始めたな、と感じたのは「Melty Love」(1997年に発売されたSHAZNAのメジャーデビューシングル)からですね。柔らかく見えるんだけどシャープな写真というのが当時あまりなくて。ちょっと1950、60年代のファッション写真風のテイストが出ないか試行錯誤して、アーウィン・ブルーメンフェルドの写真をヒントにしてライティングを組んでみたんです。すごく大変だったけど、自分が思い描いている写真が撮れて、そこから次の仕事につながるようになって。T.M.Revolution「HOT LIMIT」のジャケット写真とか、あとはLUNA SEA、PENICILLIN、BUCK-TICKの写真も撮らせてもらえるようになりました。BUCK-TICKとはかなり長い付き合いで、オフィシャルのアーティスト写真やジャケット写真、アーティストブックの写真も撮影しています。
デザイナーとしっかり打ち合わせをして撮影ができることもあれば、アーティスト本人と話しながら撮影中に試行錯誤をしていくパターンもありますね。例えばcali≠gariのメンバーやOLDCODEXのYORKE.とかは、話し合いながら写真のイメージを詰めていって、最初想像していたのと全然違うものが撮れたりもします。僕は撮影でアイデアは出すけど、エゴを出すことってまずないんです。出すとすれば「これだと風邪をひいちゃうよ」みたいなものくらい(笑)。自分のエゴを出すんじゃなくて、アーティストが出してくるものをすくい取って具現化する瞬間はいつも楽しいですね。

音楽系の話ばかりしてしまいましたが、これ1本でやっているわけでもなくて、「LEON」「Popteen」のようなファッション誌や、プロレス雑誌の表紙を撮ることもあります。ファッション誌の撮影の数時間後に時計を撮ったり、車を撮っていたりもして。特にどれが本業ということもなく、自分の中ではどの仕事もフラットなんですよね。感覚的には、被写体が物であろうと人であろうと、やっていることは全部一緒なんじゃないかな。

顔を写さない工夫

長い付き合いの仕事相手が紹介してくれて、最近はAfter the Rainや浦島坂田船といった若い世代のアーティスト、いわゆる歌い手と呼ばれる方々のライブ写真や写真集を撮らせてもらっています。彼らの多くはメディアに顔出しをしていないから、ライブ写真でもバシッと顔が出ているものはNGになってしまう。最初はそれが難しくて、癖でどうしても顔を撮っちゃうんですよね。顔を写さずにどういい写真を撮るかは試行錯誤をけっこう繰り返しました。ステージの照明さんとの相性もあるんですが、逆光になっている瞬間を狙ったり、引いてアーティストのフォルムで魅せる写真を撮ったり。下を向いているからOK、とかじゃなくて、それが後ろ姿でもカッコいいフォルムを写真に残す意識は大事だと思います。こういう現場に入るようになってから、アーティスト1人ひとりを追うのではなく、ライブを全体像で考えるようになりました。具体的に言うと、照明が当たっているアーティストだけに集中するのではなく、照明が当たって床に映っている影まで見て、それをどう写真に収めるか、みたいな。今まで経験したことのない現場に入らせてもらって、ライブ写真の引き出しは増えたかもしれないですね。
僕は撮影で携わるまでこういうネットを主体とした音楽シーンのことをあまり知らなかったけど、ライブや写真集などの撮影をしながら彼らの音楽に触れて、新しい波が来てるなと感じました。彼らの歌う曲って、楽曲の方向性が統一されていないんですよね。感覚的にはヴィジュアル系に近い。いろんなパターンの曲を歌うから、世の中の時流にも合わせやすい。もしかしたらああいうシーンの音楽が一番ワールドワイドなものに近いんじゃないかなと思っています。それに若い人たちはすごく礼儀正しくてちゃんとしてますし、偉ぶらない感じがあります。自分のものに自信を持ちすぎていないというか。それはカメラマンとしての僕の心情に近いものがあるかもしれない。それと現場のスタッフも若い人が多いからか、みんな僕のことを “巨匠”と呼んでからかうんですよ(笑)。若い人たちから刺激をもらっているので、こういう現場に呼んでもらえるのはありがたいですね。

カメラマンはサービス業に近い

カメラマンになりたての頃は「仕事がなくなったら印刷屋に戻ればいいや」と思っていたけど、気が付いたらそんな歳でもなくなってきて。ありがたいことに撮影の仕事が続いているし、カメラ以外にやりたいことがないし、これしかできないんですよ、本当に(笑)。僕にとってはカメラマンってサービス業に近い仕事なんですよね。すごい写真が撮れたらもちろんうれしいけど、現場で本人に喜んでもらっているときのほうがうれしい。これはもしかしたらほかのカメラマンとは違うところかもしれませんね。

小松陽祐

岡山県出身。大阪写真専門学校を卒業後、立石敏雄に師事。スタジオ立石在職中に洋楽誌「NEWSWAVE」の撮影を担当した。現在はCDのジャケット写真、ライブ写真、雑誌の表紙写真、広告写真など幅広く撮影している。

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