根本凪(ex. 虹のコンキスタドール、でんぱ組.inc)のソロ公演「月と、真っ赤な目をした兎の夢」が、4月30日に東京・東京キネマ倶楽部で開催。根本はこの公演をもって3次元アイドルとしての活動を終了し、Vtuber・根本凪としての活動をスタートさせた。
今年1月、約8年在籍した虹コンと、2017年末より所属していたでんぱ組.incから卒業することを発表した根本。「月と、真っ赤な目をした兎の夢」には虹コンの大塚望由、鶴見萌、中村朱里、大和明桜、でんぱ組.incの相沢梨紗、電影と少年CQのルアン&ゆっきゅん、さらにナレーションで元虹コンの陶山恵実里が参加し、根本のアイドルとしてのラストステージに華を添えた。
「月と、真っ赤な目をした兎の夢」は電少のプロデューサー・長田左右吉の脚本による演劇仕立ての内容。月からやって来た“かぐや姫的根本凪”が地球の人々と別れを告げるストーリーで、根本のアイドル人生とリンクする少し不思議な物語が、虹コンとでんぱ組.incの楽曲を交えながら展開する。アイドルとして活動していた根本は、月の住人である天女に「実はあなたは月のお姫様だから、満月の夜に月へ連れ戻す」と告げられ、地球を離れることに。しかし、月へと帰る宇宙船にはアイドルの「人々を立ち上がらせる力」を利用した反重力物質が必要で、電少の2人が演じる月の使者であるウサギたちは、気力を失った根本に「月へお帰りになる前に、コンサートなどいかがでしょう」と促す。これは満月の夜が来るまでの24時間を描いた物語だ。
月の使者に連れられ、関係者への挨拶回りをすることになった根本はまず、地球での自分を育てたおばあさんに会う。物語のベースとなっている「竹取物語」でいうところの嫗だ。根本が知る姿とは違う、ゴージャスな出で立ちの嫗は「あんたがやたらお偉いさんの求婚を無視するものだから、私が代わりに話を聞いてあげてたの」と、根本の代わりに続けた交遊ですっかりセレブになっていた。根本は「私……あの……明日、月に帰るの」と恐る恐る告げるが、嫗は「今日ね、赤坂でカラオケパーティなの。ちょっと練習に付き合ってくれない?」と強引にデュエットを要求する。2人は虹コンが初のCDシングルとして2014年12月に発表した「にじいろフィロソフィー」をデュエット。思い出語りをする嫗の言葉には、嫗を演じる中村と根本の実際の思い出が混じる。物語と現実が溶け合うように話が進む中、嫗は「明日は人気YouTuberたちとゴルフ配信だったけど、休んじゃおっかな。だって見送りしないといけないでしょ? 大人として」と、コンサートへの来場を匂わせながら照れ臭そうに去って行く。
続いて根本の前に現れたのは、大和と鶴見が扮するギャル2人。「竹取物語」でいうところの公達だ。ギャルたちは「うちらの失恋、聴いてくんない?」と、虹コンの失恋ソング「大キライでした。」を根本も巻き込み歌う。2人もやはり、現実の大和と鶴見として根本と過ごした他愛のない日々を振り返り、「あんたのそういうマイペースなところ、うちら楽しかったんだからな!」と伝える。月の使者はギャルたちを残して根本を連れ去り、次は地球での育ての親である翁のもとへ。大塚が演じる翁はなぜか王様のような格好で「よくぞ来た根本よ。我は竹取の王、大塚望由なり! 近う寄れ近う寄れ、ところてんもあるぞ」と謎すぎるキャラクターで根本に近付く。情緒不安定かつシュールな発言を繰り返す翁は、世話になった人々ともうまく人間関係が築けない自分に失望する根本に「みんなそうだよ。みんなそれぞれの孤独があるんだもん。あなたは人の孤独、大切にできるから、人より考えちゃうんだよ。そなたのごとき優しき若人は、好き勝手やりたいことをやるといいのである!」と励ます。そして2人が歌おうとすると突然、「ねえ、私飽きちゃった。ずっとここでしゃべってるだけですもん。私も好き勝手やりたくなっちゃった!」と、ナレーションで物語を進めていた陶山までもがステージへ。かつて「トリガー(概念)」として一緒に活動することが多かった3人は「パラダイスな片思い」を熱唱。長年のファンを喜ばせた。
親しい人々に会った根本はコンサート開催を決意するも、自分のせいでみんなが昔より不幸になっている、自分は迷惑をかけているとネガティブ思考に陥ってしまう。「ねえ、私がいなかったらどんな世界になってたかな? みんなどうしてたかな?」と現実逃避して眠りにつくと、どこからともなく「目覚めなさい……根本よ……目覚めなさい」と根本を呼ぶ声が聞こえてくる。根本に担当カラーのミントグリーンを継承した、元でんぱ組.incの夢眠ねむだ。「ここは夢の世界。なぜなら私は夢を司る先輩ですから。ここはあなたが願った夢の世界。もしもあなたがいなかったら?のIFの世界。あなたは今、肉体を離れ、魂だけの存在になっているのです」と夢眠が説明すると、翁、嫗、ギャルたちが根本の目の前で奇妙な寸劇を繰り広げる。「ひっどい学芸会みたいな夢見てた……」と目を覚ました根本に、ウサギが「それはいい夢? ひどい夢?」と尋ねると、根本は「わかんない。でもちょっとさ、考えちゃった。言葉にすると消えちゃいそう。でもなんか、わかった。何が大切かとか」とつぶやいた。
満月が夜空に浮かぶ10時間前、コンサートを控える根本の前に、相沢が演じる天女が現れる。「……ねえ、月に帰らないって選択肢もあるのかな」と地球への未練を残す根本に、天女は「いいんじゃないですか?」と、あっけらかんとした言い方で回答。「でも、月の人はこの星に長くいちゃ生きていけないんでしょ?」と根本は不安がるが、天女は「そんなのは設定なんですから。設定なんてどうでもいいんですよ。あのウサギたちは怒るかもだけど……優しすぎるあなたはそれに応えようと人一倍がんばっちゃうから、それで疲れちゃうし。ほら、ライブの写真とか見ると、たまにあなた、目がヤバいじゃない? あれ、すごく好き。誰よりもがんばってる証拠なんだもん。今はとりあえず、自分が好きなことだけやればそれでいいんじゃないですか? 若いんだし、なんでも興味のあることをゆっくりいろいろやればいいんですよ。設定に準じたり、周りの期待に応えなくても、あなたはあなたで」と背中を押す。そして相沢はでんぱ組.incの「あした地球がこなごなになっても」を優しく歌い上げた。
そしていよいよ、コンサートの時間。根本は「歌の前に、ちょっとだけ」と物語の枠を離れ、自身の思いを語り始める。「私は自分に自信がありませんでした。自分に価値がないと思ってたし、みんなに迷惑をかけているって思ってました。けど、そんなことなかった。溜め込んじゃう私のことを『それはよく考えている証拠だ』と言ってくれる人がいました。私のこと『いつまでもそのままでいて』と言ってくれる人たちがいました。私のこと『いろんな孤独を大切にしている人』って言ってくれた人がいました。それにそれに、そんな全部をいつも応援してくれる人たちもいた。だから、私は、私を大切にします。みんなを大切にします」。そして「だから、最後にもう1曲だけ、歌わせてください。たぶん、私の最後の曲」と、根本はすべての登場人物が見守る中、でんぱ組.incの「ORANGE RIUM」を熱唱。会場内は観客が持つウルトラオレンジのサイリウムで夕焼け色に染まった。
閉幕を知らせるブザーが鳴り、根本の「人々を立ち上がらせる力」で燃料を満たした宇宙船が飛び立つ時間が近付く。根本は「小さかった私をいろんな世界に連れていってくれてありがとう。一緒にいてくれてどうもありがとう。1つだけ、決めたことがあるんだけど……」と最後の言葉を残そうとするが、そこでお別れの時間が来てしまう。根本はウサギたちに連れられ月へと旅立ち、物語は終了。しかし、「ちょっと待って!」と天女が飛び出し、ナレーションの命令に従うまま拙い落語で観客を呼び止める。そうこうしている間にステージ上にはブラウン管テレビが運び込まれ、天女の落語は途中でお開き。暗闇の中、ぽつねんと置かれたテレビにミントグリーン色をしたキャラクターが出現する。そのキャラクターは根本の声でしゃべり出し、「私が決めたこと。いろんな世界のいろんな人とこれからも会い続けたい。今までのいろんなこと、いつまでも大事にしたい。いつでもどこでも、私のこと大切にしてくれる人の近くにいたいってこと。どんな形でも」と告げた。
「根本凪の物語はこれにておしまい……ではなく、始まりだったみたい。それもきっとたぶん、めでたしめでたし」のナレーションで、根本のソロ公演「月と、真っ赤な目をした兎の夢」は終了。カーテンコールで出演者を送り出した根本は、最後に「翡翠色の指先、銀靴のステップ / フランネルのリボンはためかせ / 蝶々結びの向かう先 / 薄波色の金平糖は星を落としたみたい。/ ふわり、ゆらり。/ 夜風と戯れあうような面白おかしいターンでこの街を、星を、次元を、魅了しよう。/ 君と、君と、私で。」と一編の詩を読み上げ、ステージをあとにした。
終演後、根本はブラウン管に現れたキャラクターの姿でVtuberとして、これからは次元を超えた活動を行っていくと宣言。さっそくYouTubeやTwitter、noteなどを通じて新たな活動に取り組んでいる。
※記事初出時、セリフの一部に誤りがありました。訂正してお詫びいたします。