5月13~15日に福岡・マリンメッセ福岡 B館で音楽フェス「CIRCLE '22」が開催された。この記事では13日公演の模様をレポートする。
「CIRCLE」は、2007年より開催されている野外音楽フェス。一昨年は新型コロナウイルス感染拡大の影響により中止となり、昨年はオンラインでの開催となった。今年は例年開催されていた福岡・海の中道海浜公園 野外劇場からマリンメッセ福岡 B館へと会場を移し、同施設内のエリアを利用したCIRCLE STAGEとDJブースのKAKU-UCHI Annex、パーキングエリアに設置されたKOAGARI STAGEの3ステージ制で行われた。
朝から雨がちらつくあいにくの天気となった「CIRCLE」初日。KOAGARI STAGEのトップバッターを務める吉澤嘉代子は、サポートギターに君島大空を従えてステージに登場すると「月曜日戦争」でライブの幕を開ける。彼女の「このあとの曲が今日一番の盛り上がりになると思います(笑)。皆さん、盛り上がってまいりましょう」の一声で演奏がスタートした「洋梨」では、吉澤と君島がデュエット。歌詞の恋敵を取り合う女友達同士のやり取りを、身振り手振りを交えながら表現して観客を和ませた。吉澤はその後、井上陽水と忌野清志郎による共作曲「帰れない二人」のカバーや、「残ってる」「抱きしめたいの」といった楽曲を情感たっぷりに歌い上げ、雨の「CIRCLE」のオープニングを艶やかに彩った。
CIRCLE STAGEの一番手として登場したのはnever young beach。鈴木健人(Dr)のドラムカウントを合図に「どうでもいいけど」のイントロが始まると、フロアからはたくさんの拳が上がる。ネバヤンはそのまま「気持ちいい風が吹いたんです」「Motel」を軽やかにパフォーマンスして場内をさわやかな空気で満たした。ライブ中盤、ネバヤンは新曲を演奏すると宣言して軽快なビートが心地いい「ヘイヘイマイマイ」と、静かな立ち上がりから徐々に熱を帯びていくスローナンバー「アイアイ」の2曲をプレイ。そして安部勇磨(Vo, G)のMCを挟んだのち、「明るい未来」「夏のドキドキ」といったリズミカルなナンバーを畳みかけて観客の体を揺らした。
温かい拍手に迎えられてKOAGARI STAGEに現れたキセル+エマーソン北村は、まず石川啄木の詩にメロディを付けた「卯月の夜半」をじっくりと聴かせて観客を楽曲の世界観へと惹き込んでいく。彼らはその後、キセルが原田知世に提供した楽曲提供した「くちなしの丘」「真昼のたそがれ」や、エマーソン北村(Key)のインスト曲「どこゆくの」を演奏。息の合ったバンドアンサンブルでオーディエンスを魅了した。最後のMCでは辻村豪文(Vo, G)が6月から新作音源「寝言の時間」を携えたツアーをキセルが開催することに触れ「2人きりのツアーなんですけど、それでめっちゃケンカして解散すると思います(笑)」と冗談を交えて観客の笑いを誘ったのち、「寝言の時間」と高田渡「鮪に鰯」のカバーを届けてステージをあとにした。
今年の「CIRCLE」唯一のヒップホップグループであるスチャダラパーはCIRCLE STAGEの2組目に登場。まずは1曲目「アーバン文法」のBoseとANIの掛け合いでオーディエンスをロックすると、続く「シン・スチャダラパーのテーマ」ではフロア中の手を上げさせて一体感のあるパフォーマンスを届けた。「MORE FUN-KEY-WORD」からロボ宙が加わり3MC体制になったスチャダラは、「ライツカメラアクション」「ヨン・ザ・マイク」「GET UP AND DANCE」で息の合ったラップの応酬を展開。終盤にはBoseの「2022年5月13日、心のベスト10 第1位はSHINCOさんどんな曲なんですか!?」という振りにSHINCOが関係のない曲をかけるというコミカルなやり取りを挟みつつも、「今夜はブギー・バック」「サマージャム'95」といった代表曲を全力でパフォーマンスしてファンを喜ばせた。
TENDREはバンドメンバーに小西遼(Sax, Flu, Syn / CRCK/LCKS)、AAAMYYY(Cho, Syn / Tempalay)、松浦大樹(Dr / She Her Her Hers)、高木祥太(B / BREIMEN)というお馴染みの面々を従えてKOAGARI STAGEに登場。1曲目に小西のサックスプレイが光る「LIFE」をセレクトして場内をドラマチックなムードに染め上げると、続くファンクナンバー「PARADISE」ではビートを加速させて観客の体を揺らした。TENDREは「世の中いろんなことがあるので僕なりの思いやりの歌を歌って帰ります。友達の言葉を借りると『名前だけでも覚えて帰ってください』」と話し、「HOPE」「hanashi」の2曲をメロウに聴かせてパフォーマンスを終えた。
CIRCLE STAGEの3組目は矢野顕子(Vo, Key)と上妻宏光(Vo, 三味線)によるユニット・やのとあがつま。第3のメンバーである深澤秀行(Syn)を従えたやのとあがつまは、矢野が歌詞の一部をオリジナルの英語詞にアレンジした熊本県民謡「おてもやん」で演奏を開始すると、三味線の音色とシンセサウンドが絡み合う奄美民謡「稲すり節」でオーディエンスを圧倒した。昨年のオンラインライブが「CIRCLE」初登場となったやのとあがつま。上妻は「今回は皆さんに生の演奏を聴いていただけるとのことでとても楽しみにきました」と、「CIRCLE」の観客の前で演奏できる喜びをうれしそうに語った。その後は津軽民謡「津軽じょんがら節」やユニットのオリジナル曲「いけるかも」などを演奏し、民謡とポップスを融合させた独自の世界観を提示した。
イベントが中盤に差しかかる頃、雨脚が強まるKOAGARI STAGEに現れたのはハンバート ハンバート。佐野遊穂(Vo, Harmonica)はステージに上がると、お笑いコンビ・阿佐ヶ谷姉妹の姉が渡辺江里子ではなく渋谷区在住の30代女性になる夢を見て泣いたという謎のエピソードを語り始める。それを隣りで聞いていた佐藤良成(Vo, G, Violin)が「そうだったんだ。夢でよかったね」とひと言添えてギターを鳴らすと、何事もなかったかのように「長いこと待っていたんだ」の演奏がスタート。そのまま「おなじ話」で穏やかな歌声の掛け合いを届けてオーディエンスを魅了した。ハンバートの2人はその後もゆるいトークを交えながら「それでもともに歩いていく」「虎」といった人気曲を次々と披露。ラストの「ホンマツテントウ虫」の曲中に、バイオリンを弾く佐藤良成のカウントを合図にアニメ「サザエさん」のエンディング曲のカバーへとつなげて観客を楽しませた。
Original Loveはブルーのライティングで包まれたCIRCLE STAGEに立つと、1曲目に複雑なリズムが絡み合う「LET'S GO!」をパフォーマンス。手練れのメンバーが奏でる盤石のバンドサウンドに、田島貴男(Vo, G)のパワフルなボーカルを乗せて観客を踊らせた。田島は「おひさしぶりです! サンキュー! お元気ですか? 声は出せないけど聞こえていますよ!」と序盤からハイテンション。そのままキラーチューン「月の裏で会いましょう」「接吻」でその伸びやかな歌声を会場いっぱいに響かせた。オリラブはその後、田島がハンドマイクを手に取り情熱的にシャウトする「Love Song」や、ガレージロック調の「R&R」を爆音でプレイし、場内に深い余韻を残してステージを去った。
堀込泰行は、バンドメンバーに八橋義幸(G)、沖山優司(B)、楠均(Dr)、冨田謙(Key)、真城めぐみ(Cho)という腕利きのミュージシャンを迎えてKOAGARI STAGEに登場。キリンジ時代のナンバー「風を撃て」を披露した堀込は、KOAGARI STAGEのテントの外まであふれて雨に打たれる観客をいたわりつつ、さわやかなポップナンバー「Sunday in the park」で美しいボーカルを届けた。演奏を終えるとメンバー紹介をしながら和気あいあいとしたやり取りを展開。トークでファンをひとしきり楽しませたあとは、映画「ボクたちはみんな大人になれなかった」のエンディング曲「燃え殻」やキリンジ時代の代表曲「エイリアンズ」、蔦谷好位置プロデュースのナンバー「WHAT A BEAUTIFUL NIGHT」を丁寧に歌い上げた。
CIRCLE STAGEの初日のトリを務めたのは岡村靖幸。彼がギターを掻き鳴らして「あの娘ぼくがロングシュート決めたらどんな顔するだろう」の演奏がスタートすると、会場のボルテージが一気に上昇していく。そのままシームレスに披露された「だいすき」では、岡村がスタイリッシュなダンスを踊りながら観客を煽るなどキレキレのパフォーマンスを展開。そして「カルアミルク」で美しくも切ない歌声をじっくりと聴かせたかと思うと、ダンスナンバー「ステップUP↑」「住所」をメドレー形式で披露してオーディエンスの体を揺らした。MCではバンドメンバーの横倉和夫(B)が岡村に代わりトークを担当。横倉が「岡村さんがおっしゃっていました。この時期に会場に集まって岡村さんの声を聴いていただき、いろんなアーティストさんと時間を共有し、この時間を選択されたお客様に感謝を申し上げたいと」「本番前には『最大の情熱と努力を持って、どんな状況下でもパフォーマンスを行う』とおっしゃっていました。皆さんに届いていますか?」と観客に呼びかけると、会場からは大きな拍手が湧き起こった。岡村は最後に「愛はおしゃれじゃない」「ビバナミダ」の2曲をプレイ。圧倒的なエンタテインメントショーを届けて、「CIRCLE」初日公演の幕を下ろした。
※記事初出時、写真キャプションのアーティスト名に誤りがありました。訂正してお詫びいたします。