s**t kingz・shojiとGANMI・Sotaの「コレオグラフ研究会2021」 NiziU、TOMORROW X TOGETHER、IVE、aespa、HOSHIらのダンスに注目すべき理由
世界的なK-POPブーム、そして若年層のTikTokの流行なども相まって、曲における振り付けの重要性が増している昨今。ポップミュージックのダンスは年々ハイレベルになり、デビュー時からすでに高いスキルを持っているダンス&ボーカルグループが増えていることにも驚かされる。
音楽ナタリーでは、2021年に発表されたダンスパフォーマンスの中から振り付けが優れたもの振り返る対談を企画。ダンサーとしてもコレオグラファーとしても第一線で活躍するs**t kingzのshojiとGANMIのSotaに、それぞれが語りたい2021年のダンスをあらかじめ6つずつピックアップしてもらい、なぜそれを選んだのか解説してもらった。
取材・文 / 清本千尋 撮影 / 曽我美芽
NiziUの「Take a picture」はすごい
shoji(s**t kingz) 今回音楽ナタリーさんから2021年の振り付けについての対談企画をやりたいという話をもらったときに、「最近全然会えてなかったし、振り付けの話をするならSotaだな」と思ったんだよね。
Sota(GANMI) ありがとうございます。おひさしぶりですね。
shoji そうだね。俺、Sotaの振り付けがすごく好きで、GANMIのYouTubeも新しい動画がアップされたら速攻で観るし、TwitterもGANMIでエゴサしてるただのファンじゃん?
Sota 昔から本当にいろいろチェックしてくれてありがたいですよ。
shoji 今回は2021年に発表された振り付けの中から、優れていると思ったものについて話す会だけど、やっぱり今はダンス×音楽の話題になるとK-POPが中心になっちゃうよね。
Sota そうですね。去年は特に女性アーティストのダンスがすごかった! 2022年が始まってすでにもうすごい振り付けがたくさんあるんで、2021年度にしたら挙げるものも変わるんですけど……ひとまず今回は2021年縛りとのことで。
──お二人がそろって挙げているのがNiziUの「Take a picture」です。
Sota 去年日本でリリースされた中では確実に一番すごい振り付けだと思いますよ。海外の作品と比べても一番だと思うくらい、曲とのシンクロ率が高いというか。
shoji そうなんだよね。数字を動きで表現していくパートがあるんですけど、ここのキャッチーさは音楽がループしているからとかではなくて、曲の中に数字があることの意味を振り付けで印象付けているからなんですよね。全員が横並びで歌おうがその曲のパフォーマンスは成立するんですけど、音楽だけではわからない情報を加えたり、歌だけでは聴き流してしまうようなものを際立たせたりするのが振付師の役目。「Take a picture」のナンバーダンスは、数字のイメージをしっかり際立たせてくれていて、本当にすごい振り付けだと思います。
Sota JYPの女性グループのパフォーマンスディレクターは天才だと思います。ほかの女性グループの振り付けとは明らかに違うんですよ。キャッチーなのにダンススキルがないとできない振り付けだし、かわいいんですよね。
shoji 特にTWICEはダンスがめちゃくちゃうまいグループだからこそできる振り付けだよね。JYPの女性グループのパフォーマンスは、通しで見ると超カッコいいんですけど、一部分を切り出してみると実はダサいっていう振り付けがいっぱいあって(笑)。ダサいと思われないギリギリのところでやるからすごくキャッチーなんです。
Sota そうそうそう(笑)。
shoji TWICEの「SCIENTIST」は、アメリカの有名プロデューサーのトミー・ブラウンがプロデュースして豪華な作家陣で作った曲。韓国で好まれる“TWICEらしさ“が曲にないということで、国内であまり評価がよくなかったみたいなんですけど、ダンスの構成や魅せ方がめっちゃ面白いんですよ!
Sota 俺もこの曲を選ぼうかめちゃくちゃ悩みました。
shoji 有名プロデューサーを起用したっていうところが前面に出てしまっていたのも、韓国内ではあまり評価がよくなかったみたいなんですけど、俺はダンスプラクティスビデオを観た瞬間に大好きになっちゃって……(笑)。目新しい振りとかはないんですけど、構成がこれだけ目まぐるしく変わるのに導線が全然ごちゃついてないんです。TWICEのような大所帯のグループでこれだけ構成を変えているのに、しっかり魅せたいところを魅せられているのは本当にすごいこと。パフォーマンスディレクターもすごいし、それを涼しい顔でやっちゃうTWICEもすごい。
Sota この曲、アインシュタインとかフランケンシュタインというワードが出てくるだいぶ変わったリリックで、その1つひとつの言葉のダンスでの表し方が絶妙なんです。JYPのアーティストの振り付けって、10稿くらいまで作り直してようやくできるんじゃないかなと思うんですよ。試行錯誤の末、ものすごい完成度のものができたということがパフォーマンスからにじみ出てる。全部のカウントにそれくらいの熱量を感じるんですよね。
ダンサー主体のMVができたのは韓国のダンス文化の発展の象徴
Sota JEON SOMIは、TWICEが結成されたオーディション番組「SIXTEEN」で最後に落ちちゃった子なんですけど、このMVを観たときに「めちゃくちゃ踊るアリアナ・グランデ」みたいなダンスだなと思ったんです。本当に振り付けが印象に残りましたね。歌もダンスもクオリティがめちゃくちゃ高いし、振り付けもキャッチーでかわいいのにカッコよさも兼ね備えてる。この曲の振り付けを手がけたのはYGのダンスチーム・YGXのリーダー、リジョンさんなんですけど、リジョンさんはTWICEの振り付けもやっていて。BLACKPINKの振り付けやバックダンサーもしながら、JYPのアーティストの振り付けも手がけているすごい人。マジでYGの宝だと思います。
shoji 韓国内で事務所の壁を越えて、いろいろ活躍してるのはレアな気がするね。
Sota そうなんですよ。韓国でめちゃくちゃ流行ったダンスのサバイバル番組「STREET WOMAN FIGHTER」でも活躍していて、今まさに乗りに乗ってると思います。
shoji 「STREET WOMAN FIGHTER」と言えば、Jessiの「Cold Blooded」のMVでしょ! 番組に出ていた女性ダンサーたちをフィーチャーしたこのMVは6000万再生もされていて。アイドルではなくてダンサーたちの素晴らしいパフォーマンスが評価されて、こういう作品ができたのは、韓国のダンス文化の発展の象徴とも言えることだと思う。
Sota これは確かにそうですね。
shoji K-POPではないんですけど、ダディー・ヤンキーの「Problema」という曲もダンサーがフィーチャーされている作品なんですよね。1組のダンスクルーがまるっと出ていて。誰にも媚びてない感じがカッコよくて好き。日本や韓国のアーティストにはあまりハマらないかもしれないですけど、シンプルにダンサーとしてカッコいいなと思ったのがこのビデオでした。
女性グループに学ぶ構成の妙
──Sotaさんはご自身で振り付けをしたTOMORROW X TOGETHERの「No Rules」を挙げていますが、この曲はかなり細かくフォーメーションが変わっていきますよね。
Sota この曲の振り付け、自分のキャリアの中で3本の指に入るくらいの自信作です。最近のK-POPの振り付けは、いろんなコレオグラファーが作った振り付けを採用してツギハギで作られることが多いんですけど、この曲に関しては採用されたうちの98%が俺らの振り付けだったこともうれしくて。体の動きだけで新しさを出すのって、わりと限界があるんですよ。普通は8×4のカウントをその場で踊るであろうところを、8×1刻みでどんどん移動しながら踊ると、同じ振り付けだとしても新鮮さが生まれるんです。
shoji うんうん。
Sota 今、自分はこういう構成を細かく刻む振り付けが得意なんですけど、こういった構成のヒントを得たのはK-POPの女性グループからでした。男性は基本的にステップをたくさん入れられるから、振り付けのバリエーションが豊富なんです。その一方で女性グループは、ヒールを履くことが多いので、足を使う振り付けが少ないんですよ。そこで重要になってくるのが構成。展開はもちろん、画作りにも気合いを入れていて、そこをどれだけ面白く作れるかで勝負している。だから女性グループの振り付けから構成の面でかなり影響を受けています。
shoji 構成や画って大事だよね。曲の頭でメンバーが位置についた瞬間に「この曲が来た!」って思わせられるわけだし。グループの振り付けにおいて“形”はすごく大事な要素だから、俺もそこはすごく意識している部分。振りの頭に形を作るというのは、EXOの「Wolf」あたりからなのかなと思っていて。アメリカのダンサーのライル・ベニガが振りを付けたんだけど、メンバー全員で1つのシルエットを作る冒頭のシーンが超印象的で。ライブでメンバーがこの形になったらお客さんがワッと盛り上がることにSM Entertainmentの人が気付いて、それ以降「最初に印象が残る始まりがいい」とオファーされることもありましたね。去年の振り付けで言うならIVEの「ELEVEN」もド頭のフォーメーションが印象的。音楽的にもサビ前で1回テンポダウンする構成が斬新だった。
Sota IVEもそうだけど、この1、2年でデビューした女性グループで衝撃的だったのはやっぱりaespa。俺は「Savage」を挙げたんですけど、俺と同世代やそれより若い子に「去年一番印象的だった振り付けは?」って聞いたらきっとこれが挙がると思ったんですよね。
shoji この曲の振り付けを手がけたのはキールトゥーテンだっけ?
Sota あとベイリー・ソクもやっているみたいです。ベイリーってまだ確かまだ10代ですよね。若い(笑)。「Savage」は「この音で取ってください」というのがトラックでしっかり提示されていて、そのリズムを明確に捉えた振りだなと思います。キャッチーなんだけどソリッドさも残っていて、バランスがいいんですよね。aespaの「Next Level」もめちゃくちゃわかりやすい音ハメで、BPMが遅い曲ですけど、リズムに対して振りが正確だから物足りなさを感じさせない。
shoji わかりやすいことはもちろんいいことだけど、ときどき逃げ道がなくて窮屈になることもあるよね。ダンサーってだいたいひねくれているから、「これで取ってください」と言わんばかりのわかりやすいリズムがあると、ちょっと違う取り方を提案したくなる。でも結局 “正解のリズム”で取ってるものがシンプルに一番刺さるんだよね。
Sota わかります(笑)。
shoji aespaもIVEも新人だなんて信じられない(笑)。JYPからもNMIXXっていう新人の子たちが急に出てきたし。
Sota NMIXXの「占(TANK)」という曲の振り付けを手がけたのは、ナインっていう韓国の高校生ダンサーらしいですよ。
SEVENTEENのダンスの魅力、ディズニーのダンスへのリスペクト
shoji SEVENTEENのHOSHIくんの「Spider」もよかったですね。このパフォーマンスは構成力がすごいなと思いました。枠を使うこと自体はシンプルなアイデアだけれど、それ以上にダンスに魅せる力がある。HOSHIくん自身ダンスがうまいのはもちろんですけど、構成で惹き付けるんですよね。実は最近s**t kingzのメンバーのOguriがSEVENTEENにめちゃくちゃハマっているんですよ。パフォーマンス全体の構成の流れやダンスのそろい具合、ユニゾン感が素晴らしいって。
Sota SEVENTEENは、「BODY ROCK」や「VIBE DANCE COMPETITION」のような世界的なダンスの大会に出ても大活躍できると思います。本当にみんなダンスがうまい。
shoji そうそう。団体での魅せ方が素晴らしいグループだと思います。でもソロになったときもしっかり魅せられるんだなとこの曲のパフォーマンスを観てすごく思って。
Sota HOSHIくん、5、6年前くらいにs**t kingzが好きだってどこかで言ってた気がするんですけど……。
shoji 何かのインタビューで言ってくれていたかも。ありがたいですよね。
──Sotaさんはディズニープラスで配信中の短編アニメ「Us Again」のトレイラー映像をよかった振り付けに挙げています。意外なセレクトだなと思いました。
Sota これは何がすごいかって、踊っているのがケオネ&マリなんですよ。BTSの「FIRE」の振り付けとかをやっている人たちなんですけど、レジェンド級のダンサー夫婦がモーションキャプチャのモデルをやっているのがすごすぎるし、動きだけで誰が踊っているのかがわかることもすごい。モーションキャプチャのモデルにこの2人を採用したというのが革新的かつ、アニメーションであれだけ彼らのダンスの質感がわかる技術もすごいなと思いました。振りだけ渡してほかの人が踊ってもこのダンスの振り付けにはなるんでしょうけど、細かいニュアンスはやっぱり本人じゃないと出せない。ダンサー自身の価値があるということですよね。
shoji これからもっとデジタルな時代になっていく中で、本人が踊ったダンスがアニメーションで再現できるというのはかなり革命じゃないですか? ほかのダンサーではこうはならないはずなので、替えが利かないことの証明にもなったと思いますし。それでいて、ディズニーアニメらしいニュアンスも加えられていて絶妙なんですよね。去年公開された映画「ミラベルと魔法だらけの家」もモーションキャプチャでダンスシーンを作っているみたいで、形だけじゃないダンスを表現したいというディズニーのこだわりやダンサーへのリスペクトを感じますよね。
Sota あと、これもMVじゃないんですけど、サデック・ワフという人が振り付けをしたパリのパラリンピック引き継ぎ式の映像もよかったですね。去年観た映像の中で一番印象に残っていたんですけど、なんの映像かわからなくてTwitterで教えてもらいました(笑)。
<後編に続く>
s**t kingz
shoji、kazuki、NOPPO、Oguriの4⼈で構成されるダンスパーフォーマンスグループ。2010、2011年にアメリカ最⼤のダンスコンテスト「BODY ROCK」で優勝し、世界中から注目されるグループとなる。これまでに20カ国以上でパフォーマンスを披露し、日本国内ではオリジナルの舞台公演も実施。またAAA、BLACK PINK、BoA、EXO、E-girls、Hey!Say!JUMP、King&Prince、Kis-My-Ft2、NCT U、Sexy Zone、SHINee、SUPER JUNIOR、関ジャニ∞、木村拓哉、ジャニーズWEST、東⽅神起、三浦⼤知など、さまざまなアーティストの振り付けを担当。2022年9月から11月にかけて新作舞台「HELLO ROOMIES!!!」を東京、大阪、愛知で開催する。
GANMI
2015年に結成された11人組のダンスアーティスト。2016年にアメリカ・ロサンゼルスで開催されたダンスの世界大会「VIBE DANCE COMPETITION XXI」での日本チーム初の優勝を皮切りに、ライブ活動をスタートさせる。2019年より「CHOREO MUSIC」と呼ばれる、ダンサーが主体となって、アーティストとコラボレーションして楽曲を作り上げていく新たなスタイルを確立させ、楽曲を発表。またBTS「Butter」の振り付けをはじめ、TOMORROW X TOGETHER、NCT U、SixTONES、Da-iCE、eillなど国内外のアーティストのコレオグラフや演出も手がけている。2022年秋冬にはGANMI結成7周年記念ツアー「G PARTY GANMI 7th Anniversary Live Tour」を開催。仙台、福岡、広島、札幌、名古屋、大阪、東京の7カ所を回る。
記事初出時、本文に誤りがございました。お詫びして訂正します。
