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私と音楽 第26回 しずるKAƵMAが語るエレファントカシマシ

2年以上前2022年06月01日 10:03

各界の著名人に愛してやまないアーティストについて話を聞く本連載に、お笑いコンビ・しずるのKAƵMAが登場。大きな影響を受けてきたというエレファントカシマシとの出会いや、「宮本浩次になりたい」と本気で思っていたというかつての日々について語ってもらった。

取材・文 / 石井佑来 撮影 / NORBERTO RUBEN

きっかけは「DEAD OR ALIVE」

エレファントカシマシを好きになったのは18歳の頃ですね。当時「Viewsic」という、「MUSIC ON! TV」の前身となる音楽チャンネルがあって、毎日学校から帰ってきたらずっと観ていたんですよ。そこで「DEAD OR ALIVE」(2002年に発表されたミニアルバムの表題曲)のミュージックビデオが流れていて。もちろんエレカシのことは「今宵の月のように」で知ってはいたんですけど、それしか知らなかったから“ポップで売れてるバンド”というイメージがあって、どちらかというと少し避けていたんですよね。当時の僕は、同級生にカッコいいと思われたいがためにNUMBER GIRLやeastern youthを背伸びして聴いていたような人間だったので(笑)。でも「DEAD OR ALIVE」のMVを観て、エレカシへのイメージがガラリと変わったんです。そこから徐々に気になる存在になっていきました。

この曲、俺に対して歌ってないか?

本格的に好きになったのは高校卒業後なんですけど、そのときのことは、はっきり覚えています。当時、群馬の標高1800メートルくらいのところにあるホテルで住み込みのバイトをしていて、そのときに「DEAD OR ALIVE」の歌詞の一節をふと思い出したんです。それが「もう何時間も部屋の中にいて 移ろい易き時を ただ茫然と過ごしていた」という歌詞なんですけど、そのときの僕は、何時間も部屋の中にいて、移ろい易き時をただ茫然と過ごしていたんですよ。「まさに自分じゃん」と思って。しかも、バイトが終わってから部屋でずっとゲームをしていたんですけど、同じ曲に「仕事から帰って バカに緻密なコンピューターゲームを 俺は夜なべして冬の夜 終わらせちまった」という歌詞もあるんです。もちろんたまたまに決まってるけど、当時の僕は「この曲、俺に対して歌ってないか?」と思ったんですよね。それで、バイト期間を満了して下山してから、すぐに地元のCDショップで「DEAD OR ALIVE」を買って。「ガストロンジャー」(1999年発売のシングル)を買ったのもそのときだったかな。とにかくそこから、どんどんさかのぼって聴くようになりましたね。宮本浩次さんが出したエッセイ本「明日に向かって歩け!」も買いましたし。それ以来、エレカシのことはずっと好きですね。

エレカシの曲に覚えるシンパシー

そのバイトをしていたのが、吉本の養成所の選考に落ちた直後だったというのも大きいかもしれないです。落ち込んでいるときに、自分の状況とすごく似ていることを歌っている曲と出会ってしまったので、それで一気に心をつかまれてしまったというか。そのあとに「でたらめでもなんでもいいんだ」(「ガストロンジャー」)とか、「大した意味などないこの人生 上機嫌のインチキなら満点」(「クレッシェンド・デミネンド-陽気なる逃亡者たる君へ-」)という歌詞を聴いて、もう一度お笑いを目指すことにしたんです。「そうか、インチキでも自分が満足できる人生のほうがいいのか」と思って。だからエレカシの曲に出会ってなければ、たぶんお笑いはやってないんですよ。

エレカシは、レーベルを移籍した直後にすごくポップになったり、何かが終わって何かが始まる節目のタイミングで曲調がガラリと変わるのが面白くて。僕が出会ったのが、小林武史さんがプロデュースした「ライフ」というアルバムをリリースした直後で、「DEAD OR ALIVE」とか「俺の道」とか、ストレートなロックサウンドに回帰していく時期なんですよね。改めてそのあたりの曲を聴くと、宮本さんも何か溜まっているものがあったのかなと思うんです。当時の自分は、そういう部分に勝手にシンパシーを覚えていたのかもしれない。

「宮本浩次になりたい」と本気で思っていた

当時の僕は“好き”を超越して、「宮本浩次になりたい」と本気で思ってたんですよ。「歴史」という森鴎外について歌った曲を聴いて「高瀬舟」や「舞姫」を読んだりして。正直、意味は全然わからなかったんですけど、「これで『わからない』と思ったら、俺は宮本浩次になれない」と思って、辞書を引きながら無理やり読んでました(笑)。歌詞に出てくるという理由だけで火鉢を買おうかなと思ったり、「孤独な太陽」の「ぶらぶらと帰り道」という歌詞を聴いて、用もないのにわざわざ遠回りして帰ったり。「ハロー人生!!」を聴いてるときは歌詞の通りに、睥睨(へいげい)しながらただならぬ気配を漂わせて歩いてましたからね。誰と戦ってるわけでもないのに、「お前らに負けねえぞ」と小さい声で言ったりして。是枝裕和さんがプロデュースした「扉の向こう」というエレカシのドキュメンタリー映画に、宮本さんが吸っていた煙草をパっと置いて、万年筆で歌詞を殴り書くシーンがあるんですよ。それもネタ作りのときに真似してました。何も思い付いてないのに、勢いよくペンを手に取って、何かを書いたふりして(笑)。あとは10年くらい前に「彼女は買い物の帰り道」を聴きながらMVのロケ地に行ったりもしましたね。

宮本さんと出会ってなかったら……

エレファントカシマシというバンドや彼らの楽曲が好きなのはもちろんなんですけど、やっぱり何より宮本さんの言動に惹かれている部分があって。当時「Viewsic」で、ハービー・山口さんというカメラマンの方がいろんなアーティストに密着する「the Roots」という番組があったんですけど、そういうところで見られる4人の関係性も面白いんですよ。あと、昔やっていた「eZ a GO! GO!」という音楽番組にエレカシが出たときの映像がすごくって。観客に囲まれたステージで宮本さんが「奴隷天国」を歌ってるんですけど、めちゃくちゃ機嫌が悪いんです。「太陽の下 おぼろげなるまま 右往左往であくびして死ね」という部分を、思いっきりカメラをにらみつけて歌ったり、「何笑ってんだよ。何踊ってるんだよ。おめえだよ」と観客を罵ったり。しかも最後に「あー、やりづらい」と言ってマイクを投げ捨ててハケるんですよ。それを観て、めちゃくちゃカッコいいなと思って。そういう型にはまらない感じにはずっと憧れて続けてるし、芸事にも影響が出てると思います。宮本さんと出会ってなかったら、こんなキャラ絶対にやってないですもん。言い方は悪いですけど、宮本さんのせいでこんな芸風になっちゃったんです。

エレカシの曲はやけにさせてくれる

芸人をやってて、エレカシの曲に支えられることはたくさんありますね。しずる結成直後の、オーディションに全然受からない頃は「浮雲男」をよく聴いていて。でも別に「がんばろう」と思ったり、やる気を奮い立たせられたりはしなかったですね。「このまま終わっていくんだろうな」「どうなっても知らねーよ、バカ」という気持ちにさせてくれるというか。エレカシの曲を聴くと、いい意味でやけになれるんです。好きな曲は「あなたのやさしさをオレは何に例えよう」「友達がいるのさ」「ハナウタ~遠い昔からの物語~」「穴があったら入いりたい」とかたくさんありますけど、一番はやっぱり「DEAD OR ALIVE」ですね。一番思い入れの強い曲なので。宮本さんが最近出した「sha・la・la・la」ももちろん好きですし、結局どの時期の曲も好きなのかもしれないです。

日比谷野音は特別な舞台

「友達がいるのさ」で言うと、埼玉スーパーアリーナでのライブに行ったときに、この曲を聴きながらボロボロ泣いちゃって。そのときはスパイクというコンビの小川(暖奈)と一緒にいたんですけど、泣いてるのがバレたら恥ずかしいから、号泣しながら体は楽しそうに動かし続けていました。結局そのあとに、泣いてるってバレっちゃたんですけどね(笑)。あと、一度だけ日比谷野音のライブに行ったことがあるんですけど、それが宮本さんが突発性難聴を克服してから一発目の野音だったんですよ。そのライブでもめちゃくちゃ泣いたなあ。やっぱりエレカシにとってもファンにとっても、野音は特別な舞台なんですよね。“日比谷野外音楽堂”という会場名の響きもいいですよね。無骨な感じがエレカシに合ってる。“CLUB CITTA'”とか“DRUM LOGOS”より、なんとなくエレカシに似合う気がしません?

嫌われたところでこっちは好きでい続けられる

実は一度だけ宮本さんのモノマネをテレビでやったことがあるんですよ。「虎の門」というテレビ朝日の深夜番組で「あの人ならこんなこと言いそうだなぁ選手権」という企画があって。そのコーナーで「宮本さんが言いそうなこと」というネタを披露したら、初めてそういう対決企画で勝ち抜くことができたんです。事前にネタを20個くらい考えたんですけど、それも「このモノマネが関係者の目に止まって、本人に会えたりしないかな」という気持ちが少なからずありましたね。「本人に見つかったら怒られるかも」とも思ったんですけど、宮本さんに嫌われたところでこっちは好きでい続けられる自信があるので、別にいいかと思って。結局それからお会いしたことは一度もないんですけどね(笑)。でもどうなんだろう、俺のこと知ってたりするのかなあ……知らないか。もし知ってたらどうしよう。万が一「あのネタ面白いね」とか言われたら、そのときはたぶんめちゃくちゃはしゃぐと思います。

KAƵMA

1984年1月17日生まれ、埼玉県出身のお笑い芸人。2003年にNSC東京校で同期だった村上純としずるを結成後、「爆笑レッドシアター」を筆頭に数々の番組に出演し人気を獲得する。キングオブコントでは過去4回決勝に進出。2022年に芸名を本名の池田一真からKAƵMAへと改名し、大きな話題を呼んだ。現在はしずるとして毎年2回の単独ライブを開催しているほか、ライス、サルゴリラ、作・演出家の中村元樹とともに演劇ユニット「メトロンズ」としても活動中。

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